白石酒店で起こった事件
翌日、僕が部活から帰っているときだった。
白石のおっちゃんの店に近づいたとき、何か甘くてツンとする臭いが鼻を突いた。
その臭いはおっちゃんの店に近づくにつれ、どんどん強くなり、やがてそれが酒の匂いだということに気付いた。
おっちゃんの店が見えてくると、店の前にたくさんのパトカーが赤色灯を回して停まっており、野次馬のような人たちが何人か集まって話しているのが見えた。
僕は、その野次馬の一人に下級生のお母さんを見つけ、何があったのか尋ねた。
そのおばさんの話によると、こういうことであった。
その日、三人の若い男が白石のおっちゃんの店に現れたそうだ。
僕は、そいつらがリョウちゃんの家に行った三人組で、その目的もリョウちゃんの家に行ったのと同じく麻雀の借金の取り立てだと思った。
それを気の強い白石のおばさんが一蹴したため、その態度に腹を立てた三人が店の中で暴れ出し、店に飾ってあった酒瓶を割ったり投げつけたり、最後には、酒瓶でおばさんの頭を割り、おばさんを血だらけにしたらしい。
その騒ぎに気付いた近所の人が警察に電話をし、警察を呼んだ。警察が駆け付けた時には、三人は逃げていなくなっていたが、ほどなく近くで逮捕されたということであった。
「ほんと、怖いよね・・・捕まったからよかったけど、あのまま逃げとったら、怖くて大変やったわ」
「白石さんも、気が強いけん・・・おとなしくしとって、後で警察に言うたらケガせんでもよかったのに・・・ようけ血が出とったけん、大丈夫か心配やわ・・・・・・」
「ケンちゃんも、早ようちに帰らんと、お母さんが心配するよ」
おばさんは、興奮気味で、立て続けに僕にそう言った。
「ありがとうございました」僕は、事情を教えてくれたおばさんにお礼を言い、早くリョウちゃんのお母さんにこのことを知らせてあげようと、自分の家ではなく、リョウちゃんの家へ向かって走った。
リョウちゃんの家に着くと、「ごめん下さい」と言いながら、玄関戸を開けた。
おばさんは、ちょうど夕飯の支度をしている最中だったようで、エプロンで手を拭きながら出てきた。
もう夕方遅くの訪問だったので、おばさんは驚いたように「あら・・・?ケンちゃん、何かご用・・・?」と聞いてきた。
「おばさん・・・あの三人、白石のおっちゃんとこで暴れて逮捕されたみたいや・・・」
僕は息をゼイゼイ言わしながら今聞いてきたことを伝えた。
「そのことをわざわざ伝えに来てくれたん・・・?」
僕が「うん」と言うと、おばさんは「ありがとう」と一言言って、さらにこう言った。
「そのことなら、リョウタが見に行って教えてくれたけん、知っとるんよ・・・お昼過ぎにパトカーや救急車のサイレンがたくさん聞こえて、それでリョウタが見に行って・・・なんでも、白石さんのお店で三人組が暴れて、白石の奥さんがケガさされて救急車で運ばれたって・・・逃げとった三人も、その後捕まったって・・・」
「白石さんとこにも借金取り立てに行く言うてたから、きっとあの三人やわ・・・」とおばさんはホッとした様子で言った。
そんなことをおばさんと話していると、奥からリョウちゃんが出てきて、「ケンちゃん、それ、もう僕がお母さんに教えたよ」と言った。
僕は「なんだ、もう知ってたんですか・・・?」と照れくさそうに笑うと、おばさんは「でも、わざわざ知らせに来てくれてありがとう・・・」と言ってくれた。
僕は、帰りながら、心配していたことが思わぬ形で解決し、少しうれしくなった。
その後、その三人が持っていた借金台帳のようなものに、リョウちゃんのお父さんの名前があったということで、リョウちゃんのお父さんとおばさんも警察に呼ばれ、事情聴取を受けたみたいであった。
リョウちゃんのお父さんは、違法賭博に参加していたということで、こっぴどくお灸をすえられたようだが、一、二回しかその麻雀店には行っておらず、しかも白石のおっちゃんに無理やり連れて行かれたということで、逮捕はされなかったそうだ。
おばさんも家に取り立てに来た時のことを聞かれたが、三人に乱暴されたことは、やはり言わず、「お父さんがいないと言うと、『また来る』と言って帰った」と説明したようだった。
いずれにしても、おばさんがあの三人組に怯えなければならないということはなくなった。




