ゴロツキ三人組
その日は、部活で、隣の学校との練習試合がある日だった。
僕は、中学校に上がってバスケットボール部に入っていた。
僕の学校のバスケットボール部は弱小で、練習も特にきつくないので入部したのだが、隣の中学校のバスケットボール部は県大会で優勝するほどの強豪校だった。
そんな強豪校と練習試合をしても勝てるはずはなかったのだが、伝統と言うことで夏休みには必ず行われていた。
その日は、例の、地区の親睦旅行の日と重なっており、リョウちゃんとリョウちゃんのお父さん、ウチの両親がいなくなる日だったので、僕は、姉を去年と同じように「優子ちゃんとこ」という彼氏のところへ追い出して、リョウちゃんの家にお泊りしようと画策していた。
だから、伝統となっている練習試合は、参加なんかしたくもない邪魔な行事でしかなく、さっさと終わらせて、一時でも早くリョウちゃんの家に行きたいと思っていた。
そんなはやる気持ちを抑えつつ、練習試合のある僕の中学校へ向かっているときだった。
通りの向こうから、こちらへ向かってくる、ゴロツキ三人組に出くわした。
その右側にいる奴はデブッチョで、左側の奴はガタイがよく、手にはズダ袋を持っていた。
真ん中の奴は、その中では一番痩せて、背も一番小さかったが、目つきは一番鋭かった。
僕は思わず、目を合わさないよう下を向き、そいつらの横を通りすぎた。
そいつらは、一瞬僕の方をチラッと見たが、特に何か手出しをするでもなく、僕の地区の方に歩いて行った。
僕は、よからぬ胸騒ぎがした。
その場所は、僕の地区にはまだ少し距離があり、そいつらがリョウちゃんの家の方に向かったという確証はなかったが、なんとなくそんな感じがして、とても不安な気持ちになった。
負けること確実のバスケの練習試合などには、もう完全に行きたくなくなっていた。
学校に向かう間ずっと練習試合をずる休みする言い訳を考え続けたが、仮病を使うにしろ、今からでは、時すでに遅く、到底無理な話であった。
そんなことをあれこれ考えている間に、学校の正門まで来ていた。
後ろから、「おう、ケンジ!・・・今日は頑張ろうな・・・」とキャプテンの藤堂さんが声をかけてきた。
これで、万事休す・・・素直に、負けるための練習試合に参加せざるを得なくなった。
朝出会った三人組のことがずっと頭から離れず、練習試合の前のウォーミングアップの時にも気が入らず、ボーとしていると、顧問の先生に「こら、ヒカル・・・何しとるんや・・・」と怒鳴られた。
踏んだり蹴ったりだった。
その後始まった練習試合も、案の定、踏んだり蹴ったりの結果だった。
先輩たちの練習試合の前に、僕たち一年生の新人戦が行われたのだが、ダブルスコア以上の点差をつけられ、ボロクソにやっつけられたのだ。
しかも、僕は、精神的動揺のせいか2、3回あったフリースローを一度も決めることができず、試合後には、またしても顧問の先生にこっぴどく叱られてしまった。
先輩たちの試合も、ダブルスコアとまではいかなかったが、それなりの点差でみじめな幕引きであった。
顧問の先生の怒りは相当なもので、先輩たちは、試合に出た者、出なかった者関係なく、横一列に並ばされ、怒りのお説教の後、一人ずつビンタをくらわされていた。
僕たち一年はそんな光景を、肩をすぼめて見ていた。
今であれば、大変な暴力教師ということで、新聞沙汰になりそうだが、当時では、特に珍しい光景ではなかった。
そんな状況であっても、やはり、僕は朝のゴロツキ三人組が気になって仕方がなく、一刻も早く解散となってその場を離れたかったが、ビンタをくらわされた先輩たちが、反省の気持ちを見せようと、その後、自主練を始めると言い出した。
『普段から、いい加減な練習をしているから弱いのであって、今さら、にわか練習をしたところで何になるんだ』と、僕は心の中で思ったが、そんなことを口に出せるはずもなく、しぶしぶ先輩たちの反省練習に付き合わされることとなった。
僕は、先輩たちの打つボールを拾いながら、何とか早く帰るすべがないかと考え続けたが、妙案が浮かぶこともなく、日直の先生が体育館を閉めに来るまで、その無意味な反省練習は続いた。
これで、やっと解放されると思ったのもつかの間、学校近くに自宅のある先輩の一人が「この後、俺の家に集まって、今後の練習のやり方をみんなで考えよう」と言い出した。
それを聞いて、僕は目まいがしそうになった。
「そんなこと、自分たちだけで勝手にやってくれ」と思った。
僕は、とても付き合ってられないと思い、同級生の陰に隠れて逃げ帰ろうとした時、キャプテンの藤堂さんが口を開いた。
「それは、俺たち三年が考える問題だから、俺たちだけでやろう。一年と二年は帰ってよし・・・」
藤堂さんは、頭がよく、普段からよく物事を考えている人だったが、この時ほど「さすが天才!・・・」と思えたことはなかった。
僕は心の中で『やった・・・藤堂先輩ありがとう・・・』と叫びながら、その心根を知られないよう
「今日は、すみませんでした・・・」と神妙な顔で先輩たちに頭を下げて、試合着のまま、朝着てきた制服を抱え、体育館を飛び出した。




