謝りに行った日
僕は、その日寝床に入るまで、ずっと気分が晴れず、いつものようにはしゃぐ気分にはなれなかったが、その分、姉の方がテンション高めで振舞っていた。
僕のせいで家全体が暗くなるのが嫌だったのだと思う。
次の日、目が覚めても、やはり気分は晴れず憂鬱なままだった。
そして、この憂鬱な気分を晴らすには、おばさんに謝りに行くしかないと思った。
僕は、朝ご飯を食べ終わると、勇気を出してリョウちゃんの家に行くことにした。
「ちょっと、出かけてくる」そう言って玄関に行っていると、母が「もうケンカはしたらいけんよ」と言った。
やはり、母は、その時も、僕が友達とケンカをして元気がないのだと思っているようだった。僕はその母の言葉を聞いて「うん。分かっとる」と言って家を出た。
リョウちゃんの家の前まで来ると、急に先ほどまでの「謝らなければ」という気持ちがしぼみ、
「おばさんは、まだ怒っているだろう・・・?」
「やっぱり、このまま放っておいて、時が解決してくれるのを待とうか・・・?」
・・・などという、逃げの心が芽生えてきた。
そんな感じで、なかなかリョウちゃんの家の戸を開けることができず、玄関先でまごまごしていると、突然「ガラガラ」と玄関の開き戸が開いた。
おばさんが、玄関をホウキで掃いて掃除をしていたのだ。
「あら、ケンちゃん・・・来てたん?・・・」とおばさんは、昨日のことなどなかったようにいつもの口調で言った。
「今日は、リョウタおらんよ・・・あの後、おばあちゃんとこ行きたい言うて、夕べから泊りに行ったんよ・・・夕方には帰って来るわ」と普段どおりに言ってくれた。
しかし、僕は突然おばさんが出てきたことで動揺し、しばらく下を向いたまま無言で突っ立っていた。
そんな僕の様子を見て、おばさんは「どしたん?・・・リョウタおらんけど家入る?」と言ってくれた。
僕は、やっと勇気を出して昨日のことを謝った。
「おばさん、昨日はごめんなさい・・・あの事、みんなに言うちゃるって言ったけど、誰にも言いません。本当にごめんなさい・・・」
そこまで言うと、こらえていた涙が一気にあふれてきて、それ以上は何も言えなくなった。
そんな、僕の謝罪をおばさんは黙って聞いていた。
しばらく、沈黙が続いた。
その沈黙を破ったのはおばさんだった。
「分かっとる・・・おばさん、ケンちゃんがそんな約束破る子やなんて思ってないよ・・・」
「おばさんも、悪かったんよ。ケンちゃん、今、思春期で異性に興味がわいとるときやのに『一緒にお風呂入ろ』なんて言うてしもうて・・・そやのに、その後は、大人の常識で 『ダメ!』『ダメ!』ばっかり言うて・・・」
その言葉を聞いて、ふとおばさんの方に目を向けると、おばさんの瞳も潤んでいた。
「ケンちゃん、謝りに来てくれて、ありがとね・・・リョウタおらんけど、中入って・・・」
僕は、おばさんが「ありがとう」と言ってくれたことで、「やっぱり謝りに来てよかった」と、うれしくなった。
僕は、さっきまでとは一転、喜び勇んで「お邪魔します」と言うと、いつもの部屋に入って畳の上に座った。




