『八路軍軍政雑誌』発刊のことば (一九三九年一月二日)
「発刊詞」(『八路軍軍政雑誌』第一巻第一期 一九三九年一月一五日刊 一―六ページ) 〔編注〕本資料は、在延安八路軍政治部の同人が編纂した『八路軍軍政雑誌』の創刊号の冒頭にある。題名どおり発刊のことばではあるが、内容は、八路軍の軍功を讃えながらも、友軍との協同を強調し、かつ将来改善さるべき八路軍の弱点をも率直に述べている。なお、『八路軍軍政雑誌』については本巻「文献解題」参照。
抗日戦争が新たな段階に向かって発展しつつある時、八路軍の同人がこの『軍政雑誌』を出版する意義は、ほかでもなく、八路軍の抗戦の実力を高めるとともに、抗戦の友軍や抗戦人民に、八路軍の抗戦経験についての参考資料を提供するためである。
八路軍は抗戦の一年半の間に、蔣委員長と戦区司令長官の指導の下に、朱〔徳〕、彭〔徳懐〕総・副司令ならびに各部各級長官と共産党員の指導の下に、各方面の友軍と協力して英雄的な抗戦を行い、「基本的には遊撃戦、しかし有利な条件の下での運動戦にも手をゆるめない」という正しい戦略方針を遂行し、華北での遊撃戦争を堅持し発展させ、敵後方における多くの抗日根拠地をつくりあげ、敵の占領地区を縮小し、多数の敵軍を牽制し、正面の主力軍の抗戦に呼応し、西北への敵の進攻行動を遅らせ、全国の人心を奮い起たせ、「敵の後方で抗戦を堅持することはできない」といった民族敗北主義者や悲観論者の誤った観点を打破し、中国のトロツキー反動派、汪精衛親日派および国内の一部のお保守頑迷分子の恥知らずなデマを打ち破ったのである。
このほか、八路軍の一部——後方留守部隊もまた河防地区〔黄河防水地区—訳注〕を防衛してきたが、いままた敵の西北進攻に反対して戦うために、西北の友軍と協力しようと準備を整えている。
八路軍の成果は、衆目の一致して認めるところであり、トロツキー反動派、汪精衛親日派や一部の保守・頑迷分子を除けば、誰しもがこぞって認めているものである。このことは、敵側で八路軍を軽視するどころか、むしろ八路軍に対する畏怖の心理が日ましに増大しているという事実のあらわれによっても、反面から十分証明されるのである。
八路軍が祖国の防衛のために犠牲となって奮闘している忠誠心と、戦って敗れたことがないという事実とは、全国全世界のまえにはっきりと示されており、反動派、親日派および一部の保守・頑迷分子を除いては、否定しようのないものである。内外の新聞記者、観察家、旅行手になる精粗さまざまな記録がすでにたくさんあるが、偏見をもっていないすべての人びとが八路軍の経験について研究したがっているのも、もとより偶然ではないのである。共産党員を中核とする八路軍の存在とその発展は、中華民族にとって有益なことなのか、それとも無益なことなのか。もしこのような問題を提起する人があれば、われわれの回答はただ一言――「無益」であるという考えは実際にはかならずや抗戦の勝利を欲しないのであり、それは敵に直接の支援を与えるたわごとにすぎない、というだけである。
八路軍の文らの成果は、何によってもたらされたのであるうか。上級の指導の正しさ、指揮員・戦闘員の勇敢さ、人民の支持、友軍の協力、この四つが八路軍が成果をかち得た原因である。なかでも、友軍の協力ははっきりとしている。正面での主力軍の英雄的な抗戦がなければ、敵の後方において有利に遊撃戦争を展開できるわけがない。同じく敵の後方にある友軍の呼応がなければ、やはりこのように大きな成果をおさめることはできなかったのである。八路軍の将兵は、直接または間接に作戦に呼応してくれた友軍に感謝しなければならず、わけてもわれわれに対していろいろな善意の援助と心からの激励を与えてくれた友軍の将兵に感謝しなければならない。
中国の軍隊は、民族の公敵を前に、互いにかつての怨恨を忘れ、互いに助けあう親密な友人となっているが、破れは中国がけっして亡びることのない基盤となっている。「諸葛〔亮〕の出師表を読み、涙を流さないものはけっして忠なる人ではなく、李密の陳情表を読み、涙を流さないものはけっして孝なる人ではない」と昔の人は言っている。今日では、われわれは次のようにいうべきである。すなわち、中国の軍隊が旧恨を忘れ、互いに助けあい、親密に団結しているのを見たり聞いたりして、それに感動を覚えないものはけっして国を愛してはいないのである、と。ここで例の「国難を利用して金儲けをしたり、摩擦を起こして飯のたね」にしている人たちは、多少とも反省すべきであろう!
八路軍には欠点があるだろうか、ないだろうか。あるだけで無く、しかも多い。
まず最初に、技術的装備の上で敵におよばないし、一部の友軍にもおよばない。これは八路軍の基本的な欠点であり、中国の軍隊の一般的な欠点でもある。したがって、敵のうちかつために、どのようにして技術的装備を強化していくかが、抗戦の新たな段階における八路軍の重大な任務となっている。
第二に、八路軍は遊撃戦と運動戦長じていることで有名ではあるが、一部の幹部は抗日の戦略と戦術に対する理解と応用がなお不十分であり、一般幹部わけても新たに抜擢された幹部は、近代的な新式軍隊の管理と指揮について、いまだに初歩的な研究すら欠けている。若干の労農出身の幹部は、彼らの教育水準を必要とされる程度にまで高める問題をまだ解決していない。これらの問題の解決が、当面における八路軍の第二の問題となっている。
第三に、民族統一戦線の強化と拡大は、抗戦建国の勝利を達成する上での全般的な方針となっている。八路軍の幹部は、この方面で非常に大きな成果をおさめているが、しかし一部の幹部、とりわけ新しい幹部の統一戦線に対する理解がまだ不十分であり、友党・友軍と協力してともに工作し、社会の各階層の関係を調整し、それを抗戦に役立たせることが、一部の地方ではまだうまくいくっていない。したがって、統一戦線についての教育を強めることが重要な任務となっている。
第四に、敵・傀儡軍を味方にかちとる工作は、ずっとまえからすでに八路軍の政治工作の三つの主要な方向の一つとなっており、またいくたの成果をあげてきたが、戦士や幹部に対して全般的に日本文・日本語について教育を施すとともに、いろいろな方法を研究して敵軍の兵士や下級将校に対して反侵略統一戦線の宣伝をうまくすすめていくことについては、非常に不十分である。傀儡モンゴル軍を味方にかちとる工作の成果には比較的大きいものがあったが、しかしなおもう一歩すすめる必要がある。ここでは、敵・傀儡軍の全部の状況についての資料を収集し研究することがきわめて重要なことである。しかし、この面での成果は、まだ必要とされる水準にまで達していない。
第五に、長期にわたる抗戦のなかでもっとも困難な問題の一つは、財政・経済の問題であろう。これは全国の抗戦にとっても難問題であり、八路軍にとっても難問題である。われわれはこれを高度の認識にまで破っていかなければならない。この問題はすでに八路軍の一部の注意をひき起こしてはいるが、しかしまだ普遍的な注意をひき起こしてはいない。それぞれの抗日根拠地において、これまですでに実施したように、正しい地方財政経済政策を実行するよう注意するばかりでなく、さらに作戦に妨げとならないことを条件に、軍隊自体が生産に加わる問題を提起し、かつこれを実行するにはどうすればよいだろうか。比較的強固な根拠地では戦闘部隊が作戦を担当し、後方機関の人員が出産を担当する。
戦闘条件によって許される状況の下では、戦闘部隊もまた機会を利用し、兵士大衆を動員して、衣服を作ったり、靴や靴下・手袋を作ったりする工作をすすめ、強固な根拠地では、野菜作り、養豚、柴刈りを非戦闘部隊を動員してやることができる。合作社の開設などはなおさらすすめていくべきである。このようにしていけば、軍隊の生活を改善し、給養の不足を補うとともに、また他方では、かならずさらに軍隊の士気を奮いたたせ、軍隊の戦闘力を増強しうるであろう。
以上述べたところの、技術的装備の増強、戦略戦術の研鑽、統一戦線政策の正しい運用、敵・傀儡軍獲得工作の広範な展開、軍隊自体の生産運動への参加などは、新たな段階において、八路軍がより一層注意すべき重要な問題であり、その他の工作のなかに存在している欠点も、文章の重要な問題を解決する面での進歩にともなって克服されていくことであろう。 成果を発揚し、欠点を是正していくことは、八路軍全将兵の任務であり、軍政雑誌の任務でもある。抗戦は長期におよぶべき義務的なものである。八路軍の成果を発揚し、八路軍の欠点を是正していくことは、まず何よりも八路軍の抗戦力を高めるうえで切実に必要とされており、同時に八路軍の経験をもって抗戦の人民と抗戦の友軍に貢献する意味からいっても、必要なことである。『八路軍軍政雑誌』は、この目的のために努力すべきである。
民国二十八年一月二日
(中川一郎訳)




