8 海の女王の祈り
ゆっくりと太陽が西の海へ沈んでいく。同時に、東の空では満月が静かに光を湛えていた。
夕陽はその黄昏とともに、すべてを消し去るようだった。僕の過去も、後悔も、胸の痛みも。
沈む太陽で茜色に染まる空と海を背に、寺院のシルエットが黒々と浮かび上がる。まるで影絵の世界に迷い込んだようだった。
観光客で賑わうはずの場所なのに、僕の周囲だけ時間が止まったようだった。静謐な時の中で祈りを捧げ、精霊の降臨を望む儀式のような幻想が広がっていく。
夕陽が海に沈みきり、西の海が闇に包まれると、東の空では満月が優しい光を放ち始めた。
その光は、夜の海をゆっくりと照らし、まるで新しい道を示すように、波の上に白い筋を描いていた。寺院からは祈りの声がゆっくりと流れてきた。その声は、時のうつろいをすべての人々の心に告げているようだった。
そうだ。昨日見た夢と同じだった。
白い花
満月
祈り
あれは夢ではなく、僕自身の心だったのかもしれない。
失ったもの――そう、彼女の存在を取り戻したかったのだ。
彼女を失ったのではない。あの時、失っていたのは、僕自身だった。
なぜ、別れを選んだのだろう。
別れる必要などなかったのに。
ただ僕が一方的に決めただけじゃないか。
彼女の気持ちも考えずに。
過去と訣別することで前に進むわけではない。
過去の自分をも抱きしめ、
そのすべてを推進力に変えてこそ、
人は前に進めるのだ。
その気づきが、満月の光のように胸の奥に静かに満ちていった。
取り返しのつかない後悔の念に胸が締めつけられた瞬間、びゅうっと風が巻き起こった。
同時に白い花びらが夜空に舞った。海風に巻き上げられたプルメリアは、満月へ続く白い道のように、夜空へ舞い上がった。月の光に照らされた花は、まるで精霊の降臨のようだった。
僕はただ、言葉もなく立ちつくしていた。その光景は、現実と夢の境界が溶けていくようで、胸の奥の何かがゆっくりとほどけていくのを感じた。祈りの声が、満月の光とともに、僕の心の奥深くに届いていく。
風が止むと、夜空には満月だけが浮かんでいた。白い花びらはもうどこにもなかった。けれど、僕の中では何かが確かに変わっていた。




