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神々の島の白い約束  作者: 御樹本 正輝


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8/12

7 満月の夜と白い花束

食事のあと、グループの子たちから小さな包みをもらった。チョコレートだった。サリが「何ですか?」という顔をしたので、日本のヴァレンタインの習慣を説明した。女性からチョコレートを贈るのは日本だけらしい。バリでは求愛するのは男性の役割だと、サリは少し照れたように笑った。


その後、2時間ほどレギャン通りを歩き、グループの子たちと別れた。サリのバイクに乗り、タナロットへ向かう。夕方の風は湿っているのに、どこか軽やかだった。


タナロットは、海へ突き出した岩の上に建つ寺院だった。潮が満ちると島となり、引くと歩いて渡れる。僕は以前、干潮の昼間に訪れたことがある。けれど今日は違う。満月を迎える夕暮れだった。サリはプルメリアの花束を買った。白く細い花弁が、夕陽の光を受けて淡く輝いていた。


挿絵(By みてみん)


「この花には求愛の意味もあるんですよ」

「そうなんだ」

サリは花束を波の間にそっと預けた。潮が満ちているため、花はゆっくりと海へ吸い込まれていく。

「あなたの大切な人に届きますように」

願いとも祈りともつかない声で呟き、サリは目を閉じて手を合わせた。その横顔は、夕陽に照らされて透きとおるようだった。


満月の夜、潮の満ちた海にプルメリアを捧げると、海の女王が願いを叶えるとこの島ではそう語り継がれている――サリはそう教えてくれた。

「きっと、あなたが失ったものも還えるでしょう」

サリは静かにそう告げた。その声は、慰めでも励ましでもなく、どこか確信めいていた。

僕は言葉を失った。夕陽が海面に溶けていく。潮騒が、胸の奥の痛みを少しずつさらっていくようだった。


サリの横顔を見ていると、彼女自身が海の女王の化身のように思えた。

導く者――そんな言葉がふと浮かんだ。


失恋の痛みはまだ残っている。

けれど、ここに来て初めて、

「もしかしたら、まだ何か取り戻せるのかもしれない」

そんな思いが、ほんのわずかだが胸の奥に灯った。


夕陽はゆっくりと海へ沈んでいった。サリは、流れていくプルメリアをいつまでも見つめていた。その横顔が、どこかひどく寂しそうに見えた。その理由を、その時の僕は知らなかった。

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