表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不倫されて捨てられたサレ妻、コーラで酔った勢いでVTuberデビューしたら、有能な編集者に一生甘やかされることになりました  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/19

第8話:決意の継続と、新しい幕開け

「……いった、に、さん……よん……。……じゅうまん」


 深夜のボロアパート。モニターの右端に表示された、チャンネル登録者数の数字が、ついに大台を突破した。

 一、〇〇、〇〇〇。

 Vチューバー『琥珀ねね』が、一つの大きな到達点である十万人の支持を集めた瞬間だった。


「……すごいや。本当に、十万人も見てくれてるんだ」


 一ヶ月前、健二に「お前を理解できるのは俺だけだ」と言われ、狭い世界に閉じ込められていた私。

 あの頃の私に教えてあげたい。

 あんたを否定する男の言葉なんて、この広い世界の中では、ちっぽけなノイズに過ぎなかったんだよ、って。


 私は、先日買ったばかりの最新式空気清浄機が静かに空気を浄化する音を聞きながら、大きく背伸びをした。

 部屋は相変わらず少し散らかっているけれど、以前のような「絶望の吹き溜まり」ではない。

 ここには、私の居場所がある。


「ケフっ……。……瀬戸さん、見てますか?」


 私は、ずっと繋ぎっぱなしにしていたボイスチャットに向かって、誇らしげに声をかけた。


『……ええ。見ていますよ。……おめでとうございます。銀の盾、申請の手続きは明日こちらで行っておきますね』


 スピーカーから聞こえてくる瀬戸さんの声は、いつも通り落ち着いていた。

 けれど、その響きには、自分のことのように喜んでいるような、柔らかな熱が含まれている気がした。


「瀬戸さん。私、瀬戸さんに出会えて本当によかった。……あの夜、コーラを飲んで暴走した私を、見捨てないで拾ってくれてありがとう」


『……拾ったなんて、人聞きが悪い。私はただ、君という素材のポテンシャルに賭けただけです』


「もう、照れちゃって! ……でも、私、決めたんです。健二に『無能』って言われてた私とは、今日でおさらばします。これからは、瀬戸さんの隣にいても恥ずかしくない、世界一のズボラVチューバーとして胸を張って生きていきます!」


『……はいはい。……君が胸を張るのは自由ですが、明日の配信の構成案はまだ真っ白ですよ。……浮かれている暇があるなら、素材を一本でも多く送ってください』


「はーい! 瀬戸さんのいじわる! ……でも、大好きですよ!」


 私が炭酸の勢いに任せてそう叫ぶと、瀬戸さんは一瞬だけ沈黙し、


『……仕事に戻ってください』


 とだけ言って、逃げるように通話を切った。

 切れる直前、受話器の向こうで椅子がガタンと鳴る音が聞こえた。きっとまた、顔を真っ赤にして動揺しているに違いない。

 私はその様子を想像して、一人でベッドの上を転げ回った。


 ◇


 一方、かつての私が住んでいたマンション。

 そこには、かつての「温かさ」の欠片も残っていなかった。


「……おい、結衣。このクレジットカードの明細、なんだよ。先月のエステ代だけで二十万って……」


 健二は、テーブルに広げられた請求書を指差し、声を震わせた。

 だが、不倫相手だった結衣は、高級なソファにふんぞり返り、面倒くさそうに爪を磨いている。


「健二さん、しつこい。私が綺麗でいることは、健二さんのステータスでしょ? ……あ、そういえば、来月の連休はハワイに行きたいな。友達みんな行ってるの」


「ハワイ!? ふざけるな、今の俺にそんな余裕があるわけ……っ」


「余裕がないなら、もっと稼げばいいじゃない。エリートなんでしょ? ……ちあきさんだっけ? あの無能な前妻より、私の方がずっと価値があるって言ったのは健二さんじゃない」


 結衣の言葉が、健二の胸に深く突き刺さる。

 かつて、ちあきを「無能」と見下していた頃の健二は、自分が世界の中心にいるような錯覚を抱いていた。

 だが、現実はどうだ。

 家の中は結衣の脱ぎ散らかしたブランド品で溢れ、掃除機をかける音すら聞こえない。食事は毎日デリバリー。

 自分の収入はすべて結衣の贅沢に吸い取られ、最近では消費者金融の広告を眺める時間が増えていた。


「……こんなはずじゃ、なかったのに……」


 健二は、荒れ果てたリビングで一人、頭を抱えた。

 完璧な女性を選んだはずだった。

 だらしない妻を切り捨てて、理想の人生を手に入れたはずだった。

 なのに、今の自分は、あの日もちあきが健二のために必死で整えていた「当たり前の日常」さえ、手に入れることができずにいる。


 ◇


 翌朝。私は、窓を開けて新しい空気を部屋に取り込んだ。


「よし。これからも、全力でだらだらするぞー!」


 私は、瀬戸さんから届いた「お叱りリマインド」の通知を眺めながら、幸せな溜息をついた。

 もう、後ろを振り返る必要はない。

 私の隣には、私のダメな部分さえも「価値」だと言ってくれる人がいる。


 サレ妻としての絶望は、十万人の歓声と、一人の大切なパートナーの存在によって、完全に上書きされた。

 

 山咲ちあき、二十七歳。

 不倫されて捨てられたどん底の夜から始まった私の物語は、今、最高に明るい光の中で、次なるステージへと幕を開ける。



第8話をお読みいただき、ありがとうございます!

これにて第1章「どん底からの胎動(サレ妻の決意編)」が完結いたしました。

ちあきが経済的にも精神的にも自立し、瀬戸さんとの絆を深める姿を描き切ることができました。


一方の健二側は、自業自得のドロ沼生活に片足を突っ込んでいますね。

次章からは、いよいよ二人の「直接対決」や、瀬戸さんとの「急接近」が描かれる第2章が始まります!


ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます!

もし「一章完結おめでとう!」「二章も楽しみ!」と思っていただけましたら、

ぜひ下の【評価(★★★★★)】やブックマークで、ちあきと瀬戸さんの門出を祝っていただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ