第26話:伝説の「銀の盾」開封配信
「……きた。……ついに、きちゃったよ、瀬戸さん!」
新居に設けられた、最新鋭の配信スタジオ。その中央に鎮座する、重厚な段ボール箱。
送り主は、アメリカのYouTube本社。
中に入っているのは、チャンネル登録者数十万人を突破した者だけに贈られる、栄光の証――『銀の盾』だ。
一ヶ月前、ボロアパートの片隅で、残高数百円の通帳を眺めて震えていた私には、これが現実のものだとは到底信じられなかった。
私は震える手で箱に触れようとしたが、その指先が届く前に、スッと白い手袋をはめた手が差し込まれた。
「山咲さん、待ちなさい。……これは君のこれまでの努力の結晶です。指紋一つ、傷一つ付けてはいけません。……ほら、君もこの手袋をはめて」
瀬戸さんは、まるで国宝でも扱うかのような手つきで、私に真っ白な綿の手袋をはめさせてくれた。
彼はすでに、配信用のカメラアングルをミリ単位で調整し、照明の光が盾に最も美しく反射する位置を計算し尽くしている。
「瀬戸さん、そんなに緊張しなくても……。あ、でも、私の方が心臓止まりそうかも」
『……自信を持ちなさい。君が、あの絶望の夜から、だらしないままで、ありのままの声を届け続けて勝ち取った、最初の勲章なんですから』
瀬戸さんの声は静かだったけれど、そこには深い敬意と、そして私に対する隠しきれない誇らしさが滲んでいた。
私は、彼の言葉を胸に、配信開始のボタンを力強くクリックした。
◇
「……あ、お疲れ! 琥珀ねねです。……みんな、今日は、待ちに待ったあの日だよ!」
配信開始からわずか数分。同時視聴者数は瞬く間に五万人を超え、数字はさらに加速していく。
画面には、いつもの銀髪美少女『ねね様』が、今日は少しだけおめかしした特別な衣装で映し出されていた。
「見て、これ。……本物だよ。……みんなが、私にくれたんだよぉ……」
私は、まだ開けていない箱を抱きしめ、いつものようにコーラを……ではなく、今日は瀬戸さんに用意された少し良いシャンメリーを片手に、ボロボロと涙をこぼした。
『ねね様、おめでとう!』
『サレ妻からの下剋上、マジで感動した!』
『だらしないままでいいって言ってくれて、ありがとう!』
『スパチャでさらなる盾を贈らせてくれ!』
虹色に吹き荒れるスーパーチャットの嵐。
リスナーの一人一人が、私の再生を、自分のことのように喜んでくれている。
「……よし。それじゃあ、開けるね! ねね様、開封の儀、いきまーす!」
私は、瀬戸さんに渡されたカッターを手に、箱のテープを切り裂こうとした。
だが、ここで私の『ズボラ』と『不器用』が顔を出す。
緊張と炭酸の酔いで手元が狂い、カッターの刃が危うい角度で指先に向かった。
「ひゃっ!? あ、危な……っ」
その瞬間だった。
画面外から、スッと、驚くほど白く、節くれだった綺麗な「男の手」が伸びてきた。
その手は、私の手首を優しく、けれど確実に制すると、危なげなくカッターを取り上げ、一息に箱を開封してみせたのだ。
『……危ないと言ったでしょう。……少し、落ち着きなさい』
マイクが拾ったのは、吐息のような低い溜息と、慈しむような深い声。
一瞬だけ映り込んだ、瀬戸さんの完璧なまでに整った手のラインと、その仕草の気高さに、コメント欄が文字通り大爆発した。
『今の誰!?!?』
『手がエロすぎるんだが!?』
『瀬戸さん!? 今の瀬戸さんなの!?』
『ねね様を守る騎士の実在証明きたあああ!!』
『てぇてぇ……尊すぎて死ぬ……』
「あ、あはは……。……今の、私の『管理者様』です。……いつもこうやって、私のだらしなさをフォローしてくれてるんだよ」
私は真っ赤な顔で笑いながら、中から現れた銀色に輝く盾を取り出した。
冷たくて、重い。
磨き抜かれたその表面には、私の今の幸せそうな顔が、はっきりと映し出されていた。
◇
配信終了後。
私は、興奮冷めやらぬまま、銀の盾を抱えて瀬戸さんに飛びついた。
「瀬戸さん! 大成功ですよ! 瀬戸さんの手、全リスナーが絶賛してました! 『手だけでもう抱かれたい』ってコメントまでありましたよ!」
『………………不謹慎なコメントは無視しなさい。……だいたい、私は裏方です。あんな風に不用意に映り込むのは、マネジメント上のミスですよ』
瀬戸さんは、いつものように冷静な言葉を並べた。
けれど、その眼鏡の奥の瞳は、これまでに見たことがないほど不機嫌そうに……つまり、猛烈に「嫉妬」を孕んで揺れていた。
「えへへ、瀬戸さん、もしかして嫉妬してます? 私のリスナーに手がバレたのが嫌だったんですか?」
『……当たり前です。……君の世話を焼き、君の隣でそのだらしなさを見守るのは、私だけの特権です。……他の誰かに、私の存在を意識されるのは本意ではありません』
瀬戸さんは、私を後ろから強く抱き寄せ、私の肩にその綺麗な顎を乗せた。
耳元で囁かれる、独占欲たっぷりの言葉。
銀の盾の輝きよりも、私の心は彼の体温で満たされていく。
「瀬戸さん……。私を管理できるのは、一生、瀬戸さんだけですよ」
『……分かっているなら、いいです。……さあ、銀の盾は専用のケースに入れて、君の寝室から一番よく見える場所に飾りましょう。……君の新しい人生の、始まりを忘れないように』
だらしない私と、そんな私を世界一愛し、独占する旦那様。
銀色に輝く勲章を背景に、私たちの新生活は、誰にも邪魔できないほど甘く、確かな幸せを刻み続けていた。
第26話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに届いた「銀の盾」! ちあきの成り上がりを象徴する最高の回になりました。
そして、不意に映り込んでしまった瀬戸さんの「手」。
リスナーが絶賛する一方で、当の本人は独占欲でムカムカしているという……。
この「じれ甘」な展開にニヤリとしていただければ幸いです!
「瀬戸さんの独占欲、もっと見たい!」「ねね様の成り上がりに涙した!」と思ってくださいましたら、
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