第25話:管理の深化、そして「新居」へ
「……わあぁ、広い! 床が、床がどこまでも続いてるよぉ、瀬戸さん!」
新しい部屋に足を踏み入れた瞬間、私は思わずその場にダイブした。
築四十年のボロアパート、あの湿った畳と万年床の世界はもう過去のものだ。
今、私の目の前にあるのは、陽当たりの良い広々としたリビング、最新の床暖房、そして琥珀ねねの収益と瀬戸さんの資産を合わせて借りた、都内の高級マンション。
空気清浄機も、以前の安物ではなく、瀬戸さんが厳選した最高級のものが各部屋で静かに稼働している。
「……山咲さん、はしたないですよ。新しいフローリングに顔を擦り付けるのはやめなさい」
背後で、呆れたような、けれどどこか満足げな声が響く。
振り返れば、荷解きの手を休めた瀬戸さんが、眼鏡の奥でいつもの冷静な瞳を光らせていた。
「だって、だって瀬戸さん! ここ、今日から私たちの家なんですよ!? 瀬戸さんが隣の部屋に住んでるんじゃなくて、廊下を歩けば瀬戸さんに会えるんですよ!? これ、実質的に毎日がご褒美じゃないですか!」
『……あくまで、マネジメントの徹底のためです。二十四時間体制で君の生活習慣を矯正し、配信環境を完璧に維持する。そのための拠点としてここを選んだに過ぎません。……いいですか、以前のようにゴミを溜める隙など、一分たりとも与えませんからね』
瀬戸さんは冷徹なトーンで言い放つ。
けれど、彼が私のために用意してくれた専用の配信部屋は、私の「だらしなさ」を計算し尽くした設計になっていた。
手を伸ばせば必要なものがすべて揃い、かつ片付けが苦手な私でも勝手に物が定位置に戻るような、最新の収納システム。
「瀬戸さん……。この部屋、私のこと分かりすぎじゃないですか?」
『……君を観察し、最適化するのは私のライフワークですから。……さあ、荷解きを終わらせますよ。君はそこに座って、私の指示通りに荷物を仕分けなさい。……一歩も動かなくていいです』
それは、管理という名の、究極の甘やかしだった。
◇
新居での最初の夜。
私たちは、瀬戸さんが手際よく作った(私の大好物ばかりが並んだ)夕食を終え、リラックススペースのソファに並んで座っていた。
窓の外には、都心の夜景が広がっている。
かつて絶望の中で見上げていた光が、今は私を祝福するイルミネーションに見えた。
「ケフっ……。……あー、コーラうめぇ。新居で飲むコーラは格別ですねぇ、瀬戸さん」
『……一本だけですよ、と言ったはずですが。……顔が赤い。また炭酸酔いですか』
「えへへ、正解。……ねえ、瀬戸さん。……幸せすぎて、怖いんです。……私、こんなに甘やかされて、だらしないままで、本当にいいのかなって」
炭酸のせいで少しだけ弱気になった私を、瀬戸さんは力強い、けれど羽毛のように優しい腕で引き寄せた。
『……何度も言わせないでください。だらしない君を、そのままトップへ連れて行くと決めたのは私です。……君は何も変えなくていい。……変えるのは、君を取り巻く環境だけだ。……そのために、私が隣にいるんですから』
「瀬戸さん……。……大好き。……大好きすぎて、もう離したくないですぅ……」
私は、瀬戸さんの温かい胸に顔を埋めた。
彼の清潔な香りが鼻をくすぐり、トク、トク、という落ち着いた鼓動が、私の不安を完全に溶かしていく。
『……全く、君は。……寝室まで、私が運ばないとダメなようですね』
「え!? お姫様抱っこですか!? やってください! 一生やってください!」
『………………っ、静かにしなさい! ……一回だけですからね』
顔を真っ赤にして私を抱き上げる瀬戸さん。
画面越しでは決して味わえなかった、この腕の逞しさと、彼自身の熱。
◇
一方で。
私を「無能」と切り捨て、結衣と共に逃げた健二は。
今、別の意味で「一歩も動けない」状況に陥っていた。
「……クソ。……電気が、止まった……」
結衣が借金を押し付けて消えた後の、壁の薄い格安アパート。
健二は、賞味期限の切れた安物のカップ麺を啜っていた。
職を失い、法的措置によって財産も差し押さえられ、もはや再起の目はない。
ちあきがいた頃の、あの清潔で温かな家。文句も言わずに俺を支えてくれた、あの女。
その全てを、自分の傲慢さでドブに捨てた事実に、健二は今更ながら絶望していた。
「……ちあき。……お前が、お前がそばにいてくれれば……っ」
かつて自分が「ゴミ」のように扱った存在が、実は自分を生かしていた「空気」のような価値を持っていたことに。
死ぬまで続くであろう地獄の底で、彼はようやく気づき始めていた。
◇
翌朝。
私は、瀬戸さんが淹れた芳醇なコーヒーの香りと、頬を優しく撫でる指先の感触で目を覚ました。
「……おはよう、ちあきさん。……八時ですよ。顔を洗わないと、せっかくの朝食が冷めてしまいます」
「むにゃ……。瀬戸さんのキスがないと、起きられませーん……」
『……っ! ……はいはい。……ほら、起きてください』
瀬戸さんは、真っ赤になりながらも、私の額に優しく唇を落としてくれた。
だらしない私と、そんな私を世界一幸せに管理する旦那様。
私たちの新しい物語は、これまで以上の甘さと多幸感に包まれて、今、静かに幕を開けた。
第25話をお読みいただき、ありがとうございます!
最終章の幕開けは、高級マンションでの「二十四時間密着管理生活」という名の甘々同棲でした。
瀬戸さんの「管理」が物理的にも精神的にも深化し、ちあきがひたすら愛でられる様子に、報酬感を感じていただければ幸いです!
一方、健二側は「水で戻したカップ麺」という、これ以上ないほど惨めな現状……。
幸せな二人との対比が、より「ざまぁ」の味を引き立てます。
「新居でのイチャラブ、もっと見たい!」「瀬戸さんの管理が過保護すぎて最高w」と思ってくださいましたら、
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皆様の星が、二人の新生活をさらに豪華で甘いものにします!
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