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EP.1-7 揺らぎ始めた殻

こんにちは!Time Bombです。


なんとありがたいことに、

2月22日、Abyss TriggerーーSecret Xーーが文芸部門ランキングにランクインしました!


実は1月にも一度ランクインしており、

まさか今月も入れるとは思っていなかったので、本当に嬉しいです。


ここまで瑞葵たちの物語を読んでくださっている皆さん、

本当にありがとうございます。


物語はまだまだここから大きく動いていきます。

瑞葵の過去、そして仲間たちとの関係にも、少しずつ変化が見えてくるはずです。


これからも一話一話、大切に描いていきますので、

よろしければブックマークや感想などで応援していただけると、とても励みになります!


今後とも、瑞葵たちの物語をどうぞよろしくお願いします。

 今日は前日、柚木が指示した通り朝からトレーニングだった。


稔 「ほらガードして避けろ。そこで反撃だ。」


瑞葵「う!」


 瑞葵はビッグミットに向かってストレートを放った。

 しかし稔はミットごと押し返し、瑞葵は後ろへ倒れてしまった。


瑞葵「うわ!」


稔 「瑞葵、なんだその力の抜けたパンチは。こんなんじゃ当たっても相手にダメージの一つも与えられないぞ。」


瑞葵「す、すみません。」


稔 「瑞葵はどうしても攻撃が甘いな。おまけにガードも隙がある。」


瑞葵「はい…」


稔 「なあ、瑞葵。攻撃することに躊躇してるのか。」


瑞葵「…」


稔 「一度休憩を挟もう。水分を取れ。」


瑞葵「分かりました。」


 瑞葵と稔はトレーニングルームの端に寄り、小休憩を挟んだ。


稔 「なあ、瑞葵。」


瑞葵「はい」


稔 「ここに来る前の話は少し柚木から聞いている。もしかして瑞葵が攻撃を力強くできないのはトラウマがあるのか?」


瑞葵「…」


稔 「いじめられた時の記憶が蘇ってしまって…」


瑞葵「稔さんは僕がいじめられたところはどこまで知っているんですか?」


稔 「詳しくは聞いてない。ただ、いじめが原因で翼たちに心を開けないのではと聞いてる。」


瑞葵「そうですか…」


稔 「ちょっと場所を変えよう。」


 稔は空気の入れ替えも兼ねて、同階のバルコニーへ瑞葵を連れて行った。

 気温は暖かく、風も心地よい。

 バルコニーからの景色には、桜がちらほらと咲き残っていた。


稔 「なあ、瑞葵。柚木とはよく話すか?」


瑞葵「うーん…でも、よく気にかけてくれてます。」


稔 「そうか。実は俺と柚木は元々同じグループで共に過ごしてたんだ。今の翼や瑞葵たちみたいにな。」


瑞葵「え…そうだったんですか。」


稔 「おう。だから柚木とは仲も良いし、あいつは俺に遠慮なんかして来ない。毎回無理難題の依頼を頼んできやがる。」


瑞葵「そうだったんですね…」


稔 「ここだけの話、柚木のことどう思う? 別に悪いことがあっても俺は柚木に伝えようとはしない。ただ、瑞葵がどういう印象を受けてるか聞きたくてな。」


瑞葵「は、はあ…」


稔 「ちょっと聞きたくなってな。」


瑞葵「柚木さんはすごい優しい人だと思います。時々キツいことを言ってきたりしますが…。僕がよく見る夢の話も聞いてくれて、すごく感謝してます。」


稔 「そうか…。実はよ、瑞葵の指導者は柚木の指名で俺になったんだ。」


瑞葵「そうなんですか。」


稔 「あいつとは長い分、俺のこと信用してくれたんだと思う。だからよ――話せるところでいい。少し施設での暮らしを話してくれないか?」


瑞葵「え?」


稔 「無理強いはしない。だけど今の瑞葵は、過去の出来事からずっと殻に閉じこもったままだ。少しでもその殻を破れたら、瑞葵はもっと強くなれる。」


瑞葵「…」


稔 「強くなることは、自分を守れることに繋がる。」


瑞葵「…」


 稔は真っ直ぐ瑞葵を見た。

 山本稔は加入当初から瑞葵のトレーニング講師を引き受けてくれている。

 トレーニング中は厳しいが、休憩時間はよく瑞葵のことを気にかけていた。


 トレーニングメニューも、運動が苦手な瑞葵のため、着実にステップアップできるよう基礎体力の底上げを中心に組まれている。

 瑞葵がこの組織でやっていけるよう、最大限にサポートしてくれていた。


 瑞葵も、稔が自分を気にかけてくれていることは分かっている。

 ――それでも。


 翼たちだけでなく、稔や柚木たちにも、簡単に心を開けない理由があった。


瑞葵「あ、の…」


稔 「うん…」


瑞葵「…」


稔 「無理そうか?」


瑞葵「す、すみません。上手く言葉にできなくて…」


 自己防衛なのか、龍斗のいじめのことを話そうとすると、どうしても言葉が詰まる。


 龍斗たちから嫌がらせが始まった時、瑞葵は施設の職員に助けを求めていた。


 最初は注意してくれていた。

 だが、いじめがエスカレートするにつれて、職員の態度は少しずつ変わっていった。


 まともに取り合ってもらえなくなり、やがて――


 「自分にも非があるんじゃないか」


 そう冷たくあしらわれるようになった。


 そして最後には、突き放すように言われたのだ。


 ――これ以上、問題が表に出ると施設の運営にも支障をきたすんだ。

 ――だから優生くん…我慢をしてくれよ。


 圭介にも裏切られ、職員たちにも見放された。


 瑞葵に味方は一人もいなかった。


 誰も信じない。

 誰も頼らない。


 ――それが、自分を傷つけない唯一の方法だと思った。


稔 「悪かったな。嫌なこと思い出させて。」


瑞葵「いえ、僕が悪いんです…」


稔 「戻って練習再開すっか。」


 稔は再びトレーニングルームへ戻った。

 まだ翼たちは、それぞれマンツーマンで指導を受けている。


稔 「瑞葵、トレーニングを始める前に翼を見てくれ。」


 翼は汗をびっしょりかきながら、歯を食いしばり、ミットにパンチとキックを叩き込んでいた。


稔 「強さを勘違いするな。もし瑞葵が、相手を傷つけてしまうから本気で殴れないって言うなら――その認識は間違っている。」


瑞葵「え?」


稔 「やっぱりな。痛みを知ってる人間ほど、自分と同じことを誰かにしたくなくなる。」


瑞葵「それもありますし…何故か、あの時の記憶が蘇りそうで…」


稔 「それじゃあ、なぜ翼はあんなに必死にトレーニングしてると思う?」


瑞葵「に、任務を成功するため…ですか?」


稔 「それもあるが、一番は仲間を守るためだ。」


瑞葵「…」


稔 「直近で言うと――瑞葵、お前を守るためだな。明日、翼と二人で任務に行くんだろ。」


瑞葵「はい」


稔 「翼は悔しがってたぞ。一昨日の任務で瑞葵に怪我を負わせたこと。」


瑞葵「でもあれは僕が…」


稔 「瑞葵はまだ経験不足で、そこをカバーし切れなかったってな。悠喜と夏月の仲を取り持ててないことも、相当気にしてた。」


稔 「今回の任務もな。瑞葵が少しでもやりやすいようにって、柚木さんに頼み込んで、二人で行かせてくれって言ったんだ。」


瑞葵「…」


稔 「だから瑞葵。翼のこと、信じてやってくれよ。」


 その言葉は、瑞葵の胸に重く落ちた。


瑞葵「信じたいです…。それは…」


 瑞葵は下を向いたまま、震える拳を握りしめた。

 本音を吐き出そうとしても、言葉が喉で絡まる。


 ――出てこない。


 すると稔は、瑞葵の両肩を軽く叩き、すぐにミットを構えた。


稔 「上手く言葉にできないなら体で表せ。お前の言いたいことを、グローブにのせてこのミットにぶつけてみな。」


 稔は瑞葵にグローブを投げた。

 戸惑いながらも、瑞葵はそれを受け取る。


 グローブの革の匂いが、鼻の奥に刺さった。

 手首のベルクロを締めると、逃げ道が塞がれたみたいで、胸の鼓動が一段早くなる。


 瑞葵はミットを見つめた。


 ただの練習用のはずなのに、そこだけがやけに“現実”だった。


 殴れば音が出る。

 衝撃が返ってくる。


 ――自分の中の何かまで、出てきてしまいそうで怖い。


 それでも稔は、逃がさない。

 怒鳴るわけでも、責めるわけでもなく、ただ待っている。


 その“待ち方”が、瑞葵はいちばん苦手だった。


 差し伸べられた手を掴めない自分が、丸見えになるから。


 瑞葵は唇を噛んだ。

 怖さをごまかすように、拳をぎゅっと握り直す。


 ――言葉は出ない。

 でも、拳なら。


 今だけは、嘘をつかなくて済む気がした。


稔 「……ベタなやり方かもしれねぇ。」


稔 「けどな。言葉にできねぇ感情ってのは、こういう時に出るもんだ。」


稔 「それじゃあ、なぜ翼たちは信じられない?」


稔 「言葉にせず、ミットにぶつけてみな。」


 瑞葵は一呼吸置き、思い切り右ストレートを放った。


 ――バンッ!


稔 「お、いい感じだぜ。」


瑞葵(怖いからだよ。裏切られるのが。)


 稔は続けて言う。


稔 「いじめられて、悔しくなかったのか?」


 言葉では追い詰めない代わりに、ミットを少し前に出した。


 ――来い。


 そう言われている気がした。


 瑞葵は、右、左、右――と、ぎこちない連打を打ち込む。


 音は鳴るのに、胸の奥はまるで鳴らない。

 痛みだけが、遅れて追いかけてくる。


 稔の視線が、まっすぐ刺さる。


 耐えきれず、瑞葵は一瞬だけ顔を伏せた。


 でも、伏せてもミットは逃げない。


 ――逃げないから、殴るしかない。


 悔しい?


 その言葉が頭に響いた瞬間、喉の奥がきゅっと縮んだ。


 悔しいなんて言葉で片づけたら、

 あの時の自分が、軽くなってしまう。


 軽くしていいはずがない。


 瑞葵は、もう一発、強く打ち込んだ。


 拳に乗せたのは怒りじゃない。


 ――ただ、“怖さ”だ。


 次に壊れるのが自分だと分かっているのに、

 それでも止められなかった、あの恐怖。


瑞葵(悔しいとか、そんなじゃない。)


瑞葵(傷ついたよ。いじめもだけど――圭介に裏切られたのが、特に。)


瑞葵(いつからだろう…こんな本音が出たのは。)


 いじめられてボロボロになった瑞葵の心は、いつの間にか――


 楽しい。

 嬉しい。


 そんな感情が、分からなくなっていた。


 残っているのは、


 寂しい。

 怖い。


 それだけだった。


 時々、なぜこんなに辛いのかすら分からなくなる。


 自分の心なのに、どこか他人事みたいに、何も感じなくなる瞬間もあった。


瑞葵(もう怖いんだよ…)


瑞葵(裏切られるのが…)


瑞葵(僕は、圭介がいれば――お母さんが戻ってくるまで、頑張れると思ったのに…。)


瑞葵(でも、圭介は…)


 気づけば、施設での日々がフラッシュバックしていた。


 思い出したくないのに。


 言葉にしようとすると、鍵がかかったみたいに口が動かなくなるのに。


 忘れたいのに。


 それでも、夢にまで出てくる。


瑞葵(裏切られるなら――)


瑞葵(いっそ、最初から嫌われてる方が楽なのに…)


(でも…なんで…)


瑞葵(手を差し伸べないでよ…)


 気づいた時には、涙が零れていた。


 ぼやける視界の中で、なぜか――


 龍斗の表情がよぎる。


 悲しさと、悔しさが混ざった、あの顔。


 ――もしかして。


 そう思った瞬間。


 ドンッ!!


 稔のミットを盾にしたボディアタックが決まり、瑞葵はそのまま吹き飛ばされた。


瑞葵「ガッ!」


 壁に背中を強打し、「ハァ、ハァ」と荒い息を吐きながら、瑞葵はその場に崩れ落ちた。

 肺がうまく動かない。胸が焼けるように苦しい。


 体に力が入らず、指先がわずかに震えている。


 瑞葵の様子に、さすがに無理をさせすぎたと察した稔は、すぐにスポーツドリンクのボトルを差し出した。


 だが――


 瑞葵は自分で受け取ることができない。


 指が、動かない。


稔 「……悪いな」


 稔は一瞬だけ眉を寄せ、ボトルの口を開けると、瑞葵の口元へ持っていった。


稔 「少し飲め」


 半ば無理やり流し込まれたスポーツドリンクが、喉の奥に落ちる。


瑞葵「ゔっ……!」


 次の瞬間、むせた。


 気管に入ったらしく、口に含んだ液体を咳き込みながら吐き出してしまう。


稔 「悪い、大丈夫か?」


 瑞葵は言葉を返せないまま、何度も咳き込んだ。


 それでも、なんとか大丈夫だと伝えようとして、小さく頷く。


 呼吸が落ち着くまで、少し時間がかかった。


 やがて、肩の上下動がゆっくりになったのを見て、稔はミットを下ろした。


 ――今日はここまでだな。


 瑞葵の体力は、明らかに限界を超えている。


 これ以上続ければ、明日の任務に響く。


 稔は短く息を吐いた。


稔 「落ち着いたか?」


瑞葵「……はい」


 声はまだ少しかすれている。


 それでも、さっきよりは呼吸が整っていた。


稔 「今日はこれだけ言わせてくれ」


瑞葵「?」


 瑞葵が顔を上げる。


 稔は、いつもの軽い調子を少しだけ引っ込めて、真っ直ぐに瑞葵を見た。


稔 「どんなに相手が手を差し伸べても、結局は自分がその手を掴まないと、何も変わらない。」


 静かな声だった。


 怒鳴りでも、説教でもない。


 ただ事実を置くような声音。


稔 「だから、瑞葵のペースでいい。」


稔 「信じることが怖くても――」


 そこで、稔はほんの一瞬だけ視線を落とした。


 そして、低く続ける。


稔 「……けどな。」


稔 「本当に手を伸ばしてくる相手ってのは、そう何度も現れねぇ。」


 わずかな間。


稔 「――見逃すなよ。」


 その一言は、静かなのに妙に重かった。


 瑞葵の胸の奥に、鈍く沈む。


瑞葵「……信じたくなる、時……」


稔 「ああ。」


 稔はいつもの調子に少し戻して、肩を軽く回した。


稔 「ここにいれば、きっと来るさ。」


稔 「その時は、瑞葵も勇気を持ってその手を掴みな。」


 そして、ミットを肩に担ぐ。


稔 「――今日は終わりにするか。」


瑞葵「……はい」


稔 「お疲れさん」


瑞葵「ありがとうございました」


 トレーニングを終え、瑞葵はふらつく足取りで更衣室へ向かった。


 まだ翼はトレーニング中らしく、シャワー室には誰もいない。


 瑞葵は、五つ並んだシャワーのうち、出口から一番奥のブースに入った。


 蛇口をひねる。


 ザーッ――と、水音が空間に広がった。


瑞葵(信じたくなる時が来るか……)


 稔の言葉が、なぜか頭から離れない。


 湯を頭からかぶる。


 なのに――


 なぜか、少し息苦しい。


 胸の奥が、まだざわついている。


 けれど。


 その息苦しさが、逆に心を落ち着かせている気もした。


 湯は肌を叩いているのに、芯だけが冷えている。


 胸の奥に溜まったものが、まだ出きっていない――そんな感覚が残っていた。


 鼻から息を吸うと、湿った湯気が喉に絡む。

 呼吸が、少しだけ重い。


 瑞葵はわざと深く息を吐いた。


 鏡は湯気で白く曇っている。


 その向こうに映る自分の輪郭は、ぼやけていた。


 “優生”だった頃の自分と、

 “瑞葵”になった今の自分。


 どちらも重なって、うまく分かれない。


瑞葵(……信じたい、って言ったのに)


 口にした言葉の重さが、遅れて胸に落ちてくる。


 信じたい――


 そう思った。


 でも。


瑞葵(……怖い)


 その感情を自覚してしまったこと自体が、何より怖かった。


 前髪から滴る水を手で払い、瑞葵は小さく息を吐く。


瑞葵(知らなかった……)


瑞葵(僕、こんなに……)


瑞葵(裏切られるの、怖かったんだ……)


 稔との訓練で、胸の奥に溜め込んでいた何かが、ほんの少しだけ外に漏れた気がする。


 今まで。


 施設のことは、考えないようにしてきた。


 言葉にしようとすると、喉が閉まる。


 思い出そうとすると、頭が拒否する。


 ――なのに今日は。


 少しだけ、自分に正直になれてしまった。


瑞葵(……もう少し、僕が強くなれたら)


瑞葵(翼たちのことも……信じられる、のかな)


 シャワーの音の向こうで、扉の開く気配がした。


翼 「瑞葵もトレーニング終わったのか?」


 はっとして顔を上げる。


瑞葵「……翼」


翼 「お疲れ」


瑞葵「うん……翼も、お疲れ」


 翼は自然な動きで、瑞葵の隣のシャワーを使い始めた。


 水音が一つ、増える。


翼 「そういえば柚木さんから伝言」


翼 「トレーニング終わったら、明日の任務の内容について話すから、昨日使った会議室に来てだって」


瑞葵「うん、分かった」


 何気なく返事をしながら――


 瑞葵の視線が、ほんの一瞬だけ横に流れた。


瑞葵(……翼の腹筋、すごいな)


 濡れた肌の上で、筋肉の線がはっきり浮き出ている。


 自分とは、やっぱり違う。


翼 「……ん?」


 視線に気づいたのか、翼が少しだけ首を傾げた。


翼 「どうした」


瑞葵「あ、いや……」


 ごまかそうとした瞬間。


 翼の口元が、にやっと意地悪く歪む。


翼 「なんだ」


翼 「俺の筋肉に見惚れてた?」


瑞葵「あ、うん……」


瑞葵「僕も、翼みたいにもっと筋肉つければ強くなるかなって……」


翼 「触ってみるか? 腹筋」


瑞葵「え? じゃあ……うん」


 おそるおそる伸ばした指先が、翼の腹筋に触れた。


瑞葵「……っ、すご」


 思わず声が漏れる。


 想像以上に、硬い。


翼 「だろ?」


瑞葵「僕のより、全然硬い……」


翼 「瑞葵はな」


翼 「もうちょい“芯”作った方がいい」


瑞葵「……稔さんにも言われた」


 翼は小さく笑って――


 今度は逆に、瑞葵の腹筋を指先で軽く突いた。


翼 「でも」


翼 「前より、全然いいぞ」


瑞葵「……え?」


翼 「ちゃんと鍛えてる体だ」


 その一言が。


 思った以上に、胸の奥へ落ちた。


瑞葵……あ


 さっきまで少し苦しかった呼吸が、ほんの少しだけ楽になる。


 理由は分からない。


 でも――


 嫌じゃなかった。


 少しだけ、呼吸が楽になった気がした。

次回予告


新たな任務の対象は、

西横に集う少女・河村亜美。


だがその依頼に、瑞葵は拭えない違和感を覚えていた。


――これは、本当に彼女のための任務なのか。


迷いを抱えたまま、

翼と瑞葵は夜の街へ向かう。


物語は、静かに次の局面へ――

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