EP.1-6 壊れていく日常
こんにちは、Time Bombです!
いつも
「Abyss TriggerーーSecret Xーー」
を応援していただき、本当にありがとうございます!
僕にとって瑞葵たちは、今や生活の一部になっています。
しばらく進捗をお伝えできていなかったので、
今回は現在の執筆状況を少しご報告させてください。
現在、EP.2-8を作成中です!
エピソード2では、
瑞葵の“覚悟”と、少しずつ見え始める成長した姿をお見せできればと思っています。
ぜひ楽しみにしていてください!
まずは、エピソード1の完走を目標に、
これからも一歩ずつ書き進めていきます。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
瑞葵を待ち受けていたのは、想像を絶するほど過酷な施設暮らしだった。
瑞葵が入所したのは、小学生から中学生までが生活する児童養護施設。
入所して間もなく、彼は見知らぬ土地の学校へ転校することになった。
それは、瑞葵にとってあまりにも大きな心の負担だった。
――だが。
そんな瑞葵を支えてくれる、心強い存在が一人だけいた。
転校したクラスに、同じ施設で暮らしている男子がいたのだ。
名前は、長田圭介。
クラスでは目立たない、読書好きの大人しい性格。
友達も多い方ではなく、瑞葵が転校してきてからは、学校でも施設でも、二人で過ごす時間が自然と増えていった。
圭介「優生くんが来てくれて、本当に嬉しいよ」
瑞葵「僕も、圭介くんがいてくれるから、施設での暮らしも頑張れそうだよ」
圭介「僕たち、ずっと友達でいようね」
瑞葵「もちろん」
家族がいない現実に、時折、悲しみの波に飲み込まれそうになることもあった。
それでも――
圭介と一緒にいる時間だけは、瑞葵にとって確かな支えになっていた。
自分も、もう少し頑張ってみよう。
そう思えた。
――しかし。
そのささやかな日常を、容赦なくかき乱す存在がいた。
龍斗「クソ、なんだよ。親がいない俺らをバカにしてんのかよ」
真壁龍斗。
瑞葵と同い年の中学一年生。
だが体格は瑞葵より二回りほど大きく、すでに大人びた体つきをしていた。
幸い、クラスは別。
施設内でも直接関わることは、ほとんどなかった。
――この時までは。
真壁は小学生の頃からこの施設にいるらしく、中学生になってからは、思春期特有の苛立ちを施設職員にぶつけることが増えていた。
龍斗「クソ、クソ、クソ!」
職員「龍斗、やめなさい!」
龍斗「うるせえ!」
どうやら今週金曜の授業参観が原因らしい。
龍斗は壁を蹴りつけ、暴れ回っていた。
男性職員が数人がかりで抑え込もうとしている。
取巻1「ハハハ! 大人が何人いても止められないのかよ!」
取巻2「いいぞ! もっとやれよ龍斗!」
取り巻きの二人が、面白がるようにヤジを飛ばしている。
龍斗を中心とした三人組は、施設でも有名な問題児だった。
目をつけられたら終わり――
そう言われるほど、周囲の子どもたちは彼らを恐れていた。
職員たちも頭を抱えていた。
だが、龍斗を強く叱れない理由があった。
この施設には、様々な事情を抱えた子どもたちが集まっている。
虐待を受け、心に深い傷を負っている子も少なくない。
ここで強く叱責すれば、別の子どものトラウマを刺激してしまう可能性がある。
結果として、龍斗の暴走を「最低限抑える」ことしかできていなかった。
⸻
圭介「龍斗くん、授業参観とか体育祭が近づくと、いつもああなるんだ」
瑞葵「……そうなんだ」
圭介「とりあえず、離れよう。龍斗に目をつけられると、ここで暮らせなくなっちゃうよ」
施設での生活は、常に危険と隣り合わせだった。
瑞葵は圭介の言葉通り、龍斗とは極力関わらないよう、常に圭介と二人で行動するようになった。
――だが。
ついに、その均衡が崩れる日が来る。
ある日の夕方。
龍斗はまた機嫌を悪くし、壁を蹴り、物を投げ、施設中を騒がせていた。
龍斗「クソ! 気に入らねえんだよ、クソ教師が!」
職員1「龍斗、頼むからやめてくれ!」
職員2「龍斗くん、年下の子たちに当たると危ないから物を投げないで!」
龍斗「うるせえ! どうせお前らも俺のことバカにしてんだろ!」
龍斗「親がいないのが、そんなに悪いのかよ!!」
――空気が、張り詰めた。
職員3「龍斗くん、何があったの?」
龍斗は、いつも以上に荒れていた。
原因は担任教師との一件だった。
龍斗と取り巻き二人は、授業放棄や器物破損を繰り返し、何度も職員室に呼び出されていた。
担任「なんでお前らは、いつも学校に迷惑ばかりかけるんだ」
龍斗「別に。授業に出たくないだけだろ」
学年主任「君たちの行動はPTAでも問題になっているんだ」
龍斗「PTA? どうせ文句つけたいだけだろ」
担任「……はぁ。もうお前らにはうんざりだよ」
担任「親がいないから、そんな苦労も分からねえだろうな」
――その一言で。
龍斗の中の何かが、完全に切れた。
龍斗「……今、なんて言った?」
殴りかかろうとした龍斗は、教師たちに取り押さえられ、暴力は未遂に終わった。
だが。
怒りの行き場を失った龍斗は――
施設で、爆発していた。
⸻
龍斗「ハァ……ハァ……クソ……」
圭介「……いた」
龍斗「あん? なんだよ。文句あんのか」
――次の瞬間。
龍斗が投げた時計が、圭介の頭に直撃した。
圭介「ひっ……! な、なんでもない……」
取巻1「だったら痛がんなよ」
取り巻きの一人が、ゆっくりと圭介に近づく。
そして――
ドンッ。
無造作に蹴り飛ばした。
圭介「っ……!」
職員たちは龍斗を抑えるのに手一杯で、取り巻きには「やめなさい」と声をかけることしかできていなかった。
取巻2「いい子ちゃんぶりやがって」
取巻1「うぜえんだよ」
圭介は反抗しない。
ただ、体を丸めて耐えている。
早く終わってくれ――
そんな願いが、全身から滲んでいた。
――その時。
瑞葵「……や、やめなよ」
取巻1「あん?」
声が震えている。
それでも瑞葵は、前に出た。
瑞葵「や、やめろよ!!」
――それが。
地獄の始まりだった。
⸻
その日は職員が間に入り、龍斗たちは引き下がった。
だが翌日から。
瑞葵への嫌がらせが始まった。
最初は、些細なものだった。
靴が隠される。
足を引っかけられる。
わざとぶつかられる。
――けれど。
それは、日に日にエスカレートしていった。
龍斗の怒りの矛先は、物ではなく――
瑞葵本人へと向き始めていた。
殴られる。
突き飛ばされる。
蹴られる。
体も、心も。
少しずつ、確実に削られていく。
⸻
そして。
瑞葵に追い打ちをかけたのは――
圭介だった。
嫌がらせが激しくなるにつれ、圭介は徐々に瑞葵と距離を置き始めた。
最初は、学校の中だけ。
やがて施設でも、目を合わせなくなった。
瑞葵が声をかけても――
気まずそうに、視線を逸らす。
そして、理由をつけて離れていく。
それでも瑞葵は、自分に言い聞かせていた。
瑞葵
瑞葵(きっと、また前みたいに――)
戻れる。
そう、信じていた。
――だが。
その希望は、ある日、完全に断ち切られた。
⸻
圭介が、施設からいなくなった。
職員に聞いても、
「出かけている」
と、曖昧に濁されるだけ。
三日。
一週間。
一ヶ月。
――戻ってこない。
そして。
中学二年になる直前。
瑞葵は、真実を知らされた。
圭介は、親戚に引き取られたのだと。
⸻
瑞葵(……そん、な……)
視界が、揺れる。
今まで必死に繋いできた希望が――
音を立てて崩れた。
気づけば。
瑞葵の頬を、大粒の涙が伝っていた。
圭介『ずっと友達でいようね』
――裏切られた。
頭では、分かっていた。
ただ。
認めたくなかっただけだ。
悔しいのか、悲しいのか――
もう、自分でも分からなかった。
⸻
だが。
地獄は、まだ終わらない。
二年のクラス替え。
瑞葵と龍斗は――
同じクラスになった。
施設だけでなく、学校でもいじめられる日々が続いた。
壊れかけの心はさらに削られ、クラスメイトからも距離を置かれ――
瑞葵は、ただ毎日続く地獄に耐えることしかできなかった。
そして、ある夜。
就寝中。
――それは、起きた。
瑞葵
瑞葵(な、なんだ……)
息が、できない。
恐る恐る目を開ける。
――目の前にいたのは。
鬼の形相で、顔を真っ赤にした龍斗だった。
両手が――
瑞葵の首を、強く締め上げている。
瑞葵(アッ……ガッ……!)
息が、入らない。
恐怖で、声も出ない。
必死に足をばたつかせ、龍斗の顔を叩こうとする。
だが。
――届かない。
体格差は、圧倒的だった。
視界が、暗くなっていく。
周囲の子どもたちは、気づいている。
それでも――
誰も、動かない。
龍斗を、恐れている。
意識が、遠のく。
その最後に見えたのは――
泣きそうな顔で歯を食いしばる、龍斗の表情だった。
龍斗「……クソ……なんで、いつも俺ばかり……」
瑞葵(……もう、どうなってもいい……)
体の力が、すうっと抜けていった。
――そして。
意識が、闇に沈みかけた、その時。
瑞葵?
瑞葵……
翼 「瑞葵!!」
瑞葵「――うわっ!」
大きな声に、瑞葵の体が跳ねた。
荒く息を吸い込む。
喉の奥に、まだ締めつけられていたような苦しさが残っていた。
翼 「だ、大丈夫か?」
瑞葵「……え?」
翼 「すごいうなされてたから起こしたんだが……」
瑞葵「あ……」
瑞葵(……夢か)
久しぶりに見た。
あの――地獄のような施設での記憶。
胸の奥が、じくりと痛む。
瑞葵(僕には……安息な時はないのか)
翼 「瑞葵?」
瑞葵「あ、ああ……ごめん。大丈夫……」
そう答えた瞬間。
――ヒュッ。
何かが目の前に飛んできた。
瑞葵「ヒッ!」
反射的に体を丸める。
恐る恐る目を開けると、足元に転がっていたのは――
ペットボトルの水だった。
悠喜「……キャッチしろよな」
不機嫌そうに言い残し、悠喜は寝室から出ていく。
入れ違いに、足音が近づいてきた。
どうやら夏月が呼んできたらしい。
柚木と晴翔も、心配そうな表情で部屋をのぞく。
悠喜(廊下から)
「別に、いつものやつだから心配いらねえっすよ」
柚木「瑞葵くん、大丈夫?」
瑞葵「はい、大丈夫です。悠喜の言う通り、少し目覚めが悪かっただけなので」
夏月「……心配して損した」
晴翔「まあまあ。とりあえず無事ならいいじゃん」
柚木「瑞葵くん、落ち着いたら朝食の用意できてるから来てね」
瑞葵「……分かりました」
柚木たちはリビングへ戻っていく。
部屋には、翼と瑞葵だけが残った。
⸻
瑞葵「翼……ごめん。もう大丈夫だから」
翼 「ああ」
二人で並んで布団を畳む。
静かな時間が流れたあと、翼がぽつりと口を開いた。
翼 「……今日は、別の夢を見たのか?」
――鋭い。
瑞葵は一瞬だけ目を見開いた。
瑞葵「……今日は、施設の時の夢を、ちょっと」
曖昧に濁して答える。
翼はそれ以上は踏み込まなかった。
⸻
瑞葵「……ごめん。毎回心配させちゃって」
瑞葵「悠喜や夏月とかにも、呆れられてるし……」
翼 「……とか言いながら」
翼 「瑞葵の異変に一番最初に気づいたの、悠喜なんだぜ」
瑞葵「……え?」
翼 「意外だろ。でも本当だ」
翼 「夏月もすぐ状況察して、柚木さんたち呼びに行ってたしな」
瑞葵「……そう、なんだ」
胸の奥が、少しだけざわついた。
悠喜と夏月には、よく思われていない。
――そう、思っていた。
でも。
龍斗のように、傷つけてくるわけじゃない。
何かあれば、こうして気づいてくれる。
瑞葵(……ここから逃げたい気持ちは、変わらないけど)
瑞葵(……施設にいた頃よりは――)
ほんの少しだけ。
ましなのかもしれない。
⸻
翼 「瑞葵」
瑞葵「……ん?」
翼 「朝飯、食いに行こうぜ」
翼は、いつもの調子でそう言った。
その何気ない一言に、瑞葵はわずかに目を細める。
瑞葵「……うん」
小さくうなずき、立ち上がった。
まだ胸の奥には、消えない痛みが残っている。
それでも――
瑞葵は、前を向いて歩き出した。
次回予告
トラウマに縛られ、
「信じること」から逃げ続けてきた瑞葵。
だが――
稔の言葉、そして翼の想いが、
閉ざされた心をわずかに揺らし始める。
そして下される新たな任務。
対象は、家出少女――河村亜美。
これはただの保護任務か、
それとも新たな試練の始まりか。




