↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/46

EP.3-EX1 知らない君への贈り物

皆さん、こんにちは!Time Bombです!


今回から2週にわたって、EP.3の特別編をお送りします!


本編とはまた少し違った、瑞葵たちのコミカルな日常を中心に描いていきます。


EP.3本編を読み終えた後だからこそ楽しめる物語になっていますので、ぜひ最後までお付き合いください!


それでは、EP.3-EXをお楽しみください!

瑞葵「夏月の誕生日?」


 ちょうど夏月がお風呂に入っているタイミングで、翼から「今度、夏月の誕生日がある」と教えてもらった。


 何気ない調子で言われた一言だったが、瑞葵にとっては聞き捨てならない話だった。


瑞葵「でも、夏月の誕生日って六月じゃなかったっけ?」


悠喜「それは照子の方だろ」


 机に向かったまま、悠喜が不機嫌そうに答える。


 嫌なことは後回しにする性格の悠喜は、相変わらず宿題を期限ぎりぎりまで引っ張っては、自由時間を漫画やアプリゲームで潰してしまう。

 今も問題集は開いているものの、明らかにやる気はなかった。


翼 「まあ、夏月の誕生日は七月一日だから覚えておいて」


瑞葵「わかった」


悠喜「それと、プレゼント忘れんなよ」


瑞葵「プレゼント?」


 その言葉に、瑞葵の声がわずかに裏返る。


 翼が苦笑しながら補足する。


翼「そうそう。柚木さんや晴翔さんの誕生日は、俺たちでお金を出し合ってプレゼントしてたんだけどさ」


翼「夏月だけは、それぞれ別で用意することになってるんだ」


瑞葵「そ、そうなの?」


翼 「まあ、時間もあんまりないからね。無理する必要はないよ。

  あんまり高いものじゃなくても、ちゃんと考えて選べば夏月は喜ぶと思うし」


瑞葵「いやあ……うーん……」


 瑞葵はそこで言葉を濁した。


 無理する必要はない、と言われても困る。


 そもそも、友達の誕生日にプレゼントを渡した経験がほとんどない。

 何を選べばいいのかも分からないし、どれくらいの値段が普通なのかも分からない。

 しかも相手は夏月だ。

 最近ようやく距離が少し縮まった気がする相手で、だからこそ適当に済ませたくなかった。


 こないだのコロシアム任務の帰り道を思い出す。


 夏月は、自分の覚悟を受け取ったと言ってくれた。

 ちゃんと仲間として認めると言ってくれた。あの言葉は、瑞葵にとって思っていた以上に大きかった。


 だからこそ、今度は自分が何か返したかった。


 せっかく訪れた“もっと仲良くなれるかもしれない機会”を、逃したくはない。


 だが同時に、その機会は瑞葵にとってあまりにも高いハードルだった。


瑞葵「あの……翼……」


翼 「ん?」


瑞葵「一緒にプレゼントを……ってのはダメかな……」


 翼は一瞬だけ目を瞬かせた。


翼 「それは、プレゼント選びを手伝うって意味?」


瑞葵「う、ううん……できれば一緒に買いに行けたらなって……」


翼 「そっか……」


 そこで翼は少し困ったように笑った。


 学校に友達のいない瑞葵にとって、こういう時に相談できる相手は翼くらいしかいない。

 だから藁にもすがる思いだった。


 だが、翼は申し訳なさそうに首を横へ振った。


翼 「悪い。夏月の誕生日だけは、どうしても個別に渡したいんだ」


翼 「プレゼント選びの相談くらいなら乗るよ。でも、何を渡すかは瑞葵自身で決めてほしい」


翼 「その方が夏月も嬉しいと思うから」


 その言い方は優しかった。

 優しかったが、はっきりとした断りでもあった。


 困っている人を放っておけない翼がここまではっきり断ることに、悠喜も少しだけ意外そうな顔をした。


 瑞葵も、これ以上は言えなかった。


 これ以上食い下がるのは、翼を困らせるだけだと分かる。


瑞葵「そっか……わかった」


 そう返してみたものの、表情までは取り繕えなかったらしい。


 自分でも分かるくらい、困った顔をしていた。


夏月「出たよー」


 タイミング悪く、夏月がお風呂から戻ってくる。


 濡れた髪を軽くタオルで押さえながら、夏月は不思議そうにこちらを見た。


夏月「何? なんか困りごと?」


 翼もそうだが、夏月も意外と勘が鋭い。


 しかも隣からは、悠喜の「余計なこと言うなよ」という圧まで感じる。


瑞葵「べ、別に……」


夏月「そう?」


悠喜「夏月、入浴剤はクールミントのにしてくれたよな?」


 ぎこちなく答えた瑞葵を怪しむ夏月だったが、そこへ悠喜が強引に会話へ割り込んだ。


夏月「あ、ごめん。

   それにしようとは思ったんだけど、今日の夕飯のお弁当が唐揚げだったから瀬戸内レモンの入浴剤にしちゃった」


 関係ない話だが、入浴の順番は特例がない限り夏月が一番と決まっている。


 その後は悠喜、翼、瑞葵の順で、その日によって変わる。

 入浴剤は柚木が買ってきたものを自由に使ってよく、基本的には夏月が好きなものを選んでいる。


 リクエストがあれば聞いてくれるものの、悠喜と夏月の好みは絶望的に噛み合わないらしく、今日のような言い争いは珍しくなかった。


悠喜「なんでだよ! 意味わかんねえよ! 俺リクエストしたよな!」


夏月「あの入浴剤なんか嫌なの。ひんやりするし」


悠喜「それがいいんだろ! 今暑いんだから!」


夏月「いや! 血行悪くなりそうだし。それだったら肌に良さそうな方がいい」


悠喜「たかが十分程度の入浴で変わるわけないだろ」


夏月「だったらその十分程度、悠喜が我慢してよ」


 二人とも、よくこんなことで言い争えるなと瑞葵は妙なところで感心した。


 任務の時はあんなに真剣なのに、普段はこんなことで本気で揉めるのか、と少し面白くもある。


 同時に、悠喜は何をプレゼントするつもりなのだろうと少しだけ気になった。


翼 「二人ともやめろよ」


翼 「悠喜も、もう入れちゃったんだから今日は我慢しろって」


悠喜「嫌だよ! ただでさえ風呂入るの面倒くさいのに……」


夏月「トレーニングでめっちゃ汗かいてたんだからちゃんと入ってよね」


悠喜「帰る前にシャワー浴びたんだからいいだろ」


夏月「匂いつくからやめて。それに女子が同室にいるの忘れないでよね」


悠喜「それだったらもう少しかわいい女子で、言うこと聞いてくれる女子がよかったな」


夏月「それだったら私は翼みたいにかっこよくて優しくて、たかが入浴剤変えただけでグダグダ言わない男子と一緒がよかったな」


悠喜「あ?」


翼 「もう、あとつかえてるんだから早く入ってくれよ」


翼 「夏月も明日は悠喜の希望したやつにしてやれよ」


夏月「はーい」


 大人っぽい雰囲気のある夏月だが、意外とお茶目な部分もある。


 こういうやり取りを見ていると、瑞葵の中で少しずつ“任務の時の夏月”と“普段の夏月”が繋がっていく気がした。


 頼りになる人。鋭い人。強がる人。


 でも、それだけじゃない。


 くだらないことで悠喜と言い合って、翼にたしなめられて、ちょっと拗ねたような声で返事をする。

 そういう姿も、ちゃんと福本夏月なのだ。


 そんな新しい発見に、瑞葵は少しだけ笑ってしまった。


ーーーーー


悠喜「はあ……」


 悠喜が嫌々お風呂へ向かっていると、


「あのさ」


 弱々しい声が後ろから聞こえた。


悠喜「あ?」


 振り返る。


 そこにいたのは瑞葵だった。


悠喜「なんだよ」


瑞葵「いやあ……その……」


悠喜「早く言えよ」


瑞葵「あのさ……プレゼントって何買うのかなって」


悠喜「自分で考えろ!」


 予想通りの答えだった。


 誕生日まで残り一週間。


 プレゼントは何にすればいいのか。


 翼たちしか交流のない瑞葵にとって、手がかりは何一つなかった。


瑞葵 (はあ……どうしよう……)


 気づけば就寝時間になっていた。


 翼、悠喜、夏月はすでに寝息を立てている。


 けれど瑞葵だけは眠れなかった。


瑞葵 (どうしよう……)


 天井を見上げる。


 プレゼント。


 ただそれだけのことなのに、答えがまったく見つからない。


 夏月は何をもらったら嬉しいのだろう。


 高価なものじゃなくていいのは分かる。

 けれど、だからこそ難しい。

 気持ちが伝わるものを選びたいのに、その“気持ちが伝わるもの”が何なのかが分からない。


 コロシアムの任務を終えてから、夏月との距離は少しだけ縮まった気がしていた。


 夏月も自分を認めてくれた。


 仲間として受け入れてくれた。


 夏月に認めてもらえたことが、瑞葵は思っていた以上に嬉しかった。


 コロシアムの帰り道。


夏月『覚悟は受け取ったよ』


 そう言ってくれた夏月の声を、瑞葵は今でもはっきり思い出せる。


 足を引っ張るばかりだと思っていた自分を、初めて仲間として認めてくれた気がした。


 だからこそ、適当なものを選びたくなかった。


 だからこそ、ちゃんと喜んでもらえるものを渡したい。


 けれど、改めて考えてみると、自分は夏月のことをあまり知らない。


瑞葵(好きな食べ物って何だろう……)


 料理は好きそうだ。


 でも、好きな食べ物は知らない。


瑞葵(好きな色は……?)


 ピンクや黄色は似合いそうだと思う。

 メイク道具も上手く使いこなしている。

 けれど、それが“好きな色”かどうかは分からない。


瑞葵(好きなキャラクターとか、あるのかな……)


 そういう話をしているのを、あまり見たことがない。


 任務の時は頼りになる。


 勉強もできる。


 メイクも上手い。


 そういうことは知っている。


 でも、それは“福本夏月”のほんの一部でしかない気がした。


 夏月はいつも強い。


 悠喜と口喧嘩している時も、翼と話している時も、自分よりずっと前を歩いているように見える。


 けれどコロシアムの帰り道で見せた涙を、瑞葵は知っていた。


 強いと思っていた夏月にも、抱え込んでいるものがあるのだと知った。


 だから余計に、簡単に済ませたくなかった。


瑞葵(これじゃ駄目だよな……)


 せっかくの誕生日だ。


 ちゃんと喜んでほしい。


 ちゃんと「ありがとう」って言ってもらいたい、というより――


 今の自分でも、夏月のことをちゃんと考えているんだと伝えたかった。


 瑞葵は布団の中で何度も寝返りを打つ。


 眠れない。


 目を閉じても、頭の中に浮かぶのはプレゼントのことばかりだった。


 その時だった。


 真っ暗な部屋の中に、一筋の光が差した。


 光の先は、枕元に置いていたスマートフォンだった。


 通知が一件。


瑞葵(誰だ? こんな時間に……)


 画面を開く。


 表示されていたメッセージを見た瞬間、瑞葵の表情が少しだけ明るくなった。


『まだ起きてる?』


 瑞葵はすぐに返信画面を開いた。

読んでいただき、ありがとうございました!


次回の更新をもちまして、EP.3は完全終了となります!


そして、その次の更新からはいよいよEP.4がスタートします!


『Abyss Trigger ーーSecret Xーー』の物語は、まだまだ続きます!


これからも読者の皆様に「最後まで見届けたい」と思っていただける作品を目指して、瑞葵たちと一緒に物語を紡いでいきたいと思います!


次回は10月11日(日)18時頃に更新予定です!


EP.3最後の特別編も、ぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。