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EP.2-10 勇気の子葉

皆さん、こんにちは!Time Bombです!


4月から始まったEP.2ですが、いよいよ今回がラストとなります!


EP.2ラストを飾るのは、山田俊之との戦闘。

ここにいたい。変わりたい。

そんな想いを抱えながら、瑞葵は大きな一歩を踏み出します。


EP.2の締めくくりとなる今回のエピソード、ぜひ最後まで見届けていただけると嬉しいです!

瑞葵(このままじゃ翼が……)


 目の前で、翼が押さえ込まれている。


 それなのに、足が動かない。


 怖い。

 苦しい。

 逃げたい。


 喉の奥が詰まって、呼吸まで浅くなる。肺に空気が入ってこない。視界の端がじわじわと暗くなっていき、耳の奥では自分の鼓動だけが嫌に大きく鳴っていた。


瑞葵 (だめだ……また……)


 頭の奥で、嫌な感覚がよみがえる。


 体が動かないまま、ただ誰かが傷ついていくのを見るしかなかった、あの頃の記憶。

 何もできなかった。

 何も言えなかった。

 怖くて、痛くて、苦しくて――ただ、その場が過ぎ去るのを待つしかなかった日々。


 目の前の光景と、過去の記憶が重なる。


みお「い、いい加減にして!」


 弱々しい声が、静まり返った廊下に響いた。


みお「正直に話すから、その子を離してあげて……!」


 みおは震える手で、床に落ちていたスタンガンを拾い上げた。

 指先は怯えできつく震えていて、武器を向けているというより、今にも取り落としそうなほど危うい。


 俊之はそんなみおを見上げた。怒りと混乱に歪んだ顔の中に、まだどこか信じたいという色が残っていた。


俊之「嘘だよな……。みおがそんなことするはずがない」


みお「もう……みっともないからやめてよ……」


 みおの声は震えていた。けれど、その言葉には覚悟があった。


みお「確かに私は……大学二年の時に、お父さんから別れてくれって話をされたことがあるの」


俊之「だよな。だから――」


みお「でも、その時は断った!」


 俊之の言葉を遮るように、みおは叫んだ。


みお「お父さんのこと悪く言いたくないけど……としくんの気持ちより、自分の都合しか考えてない人だったから」


 俊之の目が揺れる。

 みおは一度唇を噛みしめ、それから無理やり続きを吐き出した。


みお「としくんから告白された時、すごく嬉しかったんだよ。だから、としくんを絶対手放したくないって思った」


 そこまで言って、みおは言葉を止めた。


 沈黙が落ちる。


 俊之の呼吸が荒くなる。


俊之「なんだよ……言えよ」


 みおは涙を堪えるように目を閉じ、それでもはっきりと言った。


みお「……としくんの自己中に、うんざりしてたの」


俊之「………は?」


みお「自分の思い通りにならないとすぐ機嫌悪くなるし、意見が分かれた時は、いつも私が引かないとねちねち文句言ってくるし」


みお「お父さんの言いなりにならないとか言っておきながら、警視長が父親だからって、どこかであぐらかいてるよね……。現に警察だって裏ルートがあるんだって、自慢みたいに話してたし」


 俊之の目から、明確に色が消えていく。


俊之「え……じゃあ……」


みお「としくんの話を聞いてる限り、確かに昔付き合ってた女性はお父さんが裏で手を回してたのかもしれない……。でも、私は違う」


 涙がぽろりと頬を伝った。


みお「本気で嫌になったから、別れてって言ったの……」


 みおは静かに涙を流した。

 俊之は言葉を失い、廊下には重い沈黙だけが残る。


俊之「本気で……嫌になったの……?」


 その呟きは、怒りより先に傷ついた子どものように聞こえた。


俊之「嘘だよ……嘘だよな……!」


みお「未来の警察官が……自分より年下の男の子に暴力振るってるの……。誰がそんな男……素敵な人だなんて思うの……」


 その言葉が、完全に引き金になった。


俊之「はぁ……はぁ……はぁ……!」


 俊之の呼吸が壊れたように荒くなる。肩が大きく上下し、顔中の筋肉が引きつっていく。


俊之「殺す!」


翼 (やばい!)「逃げろ!」


みお「ヒッ!」


 みおは恐怖のあまり腰が抜け、その場に崩れ落ちた。

 手からスタンガンが離れ、硬い床を滑っていく。


翼 「瑞葵! 彼女を連れて――」


俊之「だまれ!」


翼 「うわっ!」


 俊之はさらに体重をかけ、翼を押し潰す。

 息が詰まるような音が、翼の喉から漏れた。


瑞葵「つばさ!」


瑞葵(怖い……怖い……)


 足がすくむ。

 膝が笑う。

 立ち上がらなきゃいけないと分かっているのに、体が命令を聞いてくれない。


 けれど――


瑞葵(違うだろ……)


 瑞葵はふらつきながらも、床に手をついて立ち上がった。

 腕に力が入らない。腹の奥はまだ痛む。息を吸うたびに肋骨のあたりが軋むようだった。


俊之「おい」


瑞葵「ヒッ……」


俊之「何する気だよ」


 俊之はゆっくりと瑞葵の方を向いた。


 その眼差しは鋭く、暗く、まるで獲物を値踏みする肉食獣のようだった。

 視線が合った瞬間、全身が凍りつく。喉が鳴り、呼吸がさらに浅くなる。視界が狭くなり、目の前の男だけが異様に大きく見えた。


 まるで、お腹を空かせた蛇に睨まれたカエルのようだった。


瑞葵(ダ、ダメだ……)


 足の力が抜ける。

 立っていられない。


 瑞葵はまたゆっくりと尻餅をついた。


瑞葵(僕は……ダメなんだ……。変われてない)


俊之「フン……仲間のピンチにも助けられないクズが」


 その言葉は、しっかりと瑞葵に届いた。


 胸の奥の、一番痛いところに刺さる。


瑞葵 (………)


翼 「黙れよ!」


 静かな廊下に、翼の怒声が響いた。


 押さえ込まれ、痛みに顔を歪めながら、それでも翼は俊之を睨み返していた。


翼 「はぁ……はぁ……お前にだけは、瑞葵を侮辱されたくねえよ」


瑞葵「つ、つばさ……」


 その一言で、瑞葵の中の何かが揺れた。


 怖い。

 動けない。

 逃げたい。


 それでも、翼は自分を守ろうとしてくれている。

 今、この瞬間まで。


 ――ここにいたい。


 初めてそう感じたきっかけは、翼だった。


 悠喜と夏月とうまく溶け込めない時も、輪から逸れないようにずっと手を差し伸べてくれたのは翼だ。

 こないだの任務だって、瑞葵の意識が飛びそうな時に助けてくれたのも翼だ。


 翼は、瑞葵にとってヒーローみたいな存在だった。


瑞葵(変わるって……決めただろ)


 ベランダで翼に言った言葉。

 車の中で、自分から任務に行かせてほしいと声を上げた夜。

 稔に「迷いがあるなら止める」と言われた時のこと。


 全部、今この瞬間のためだったはずだ。


 ――だから!


瑞葵(守られるだけで、終わりたくない!)


瑞葵(今度は……俺が……翼を助ける番だ)


 瑞葵は再び立ち上がる。


俊之「なんだよ」


 俊之はもう一度、瑞葵に鋭い眼差しを向けた。


 手足が震える。

 力が入らない。

 今にも逃げ出したい。


 でも。


瑞葵(怖い……でも……!)


瑞葵「ぅうあぁぁぁぁあああああぁぁぁぁっ!!!」


 静かな廊下に、今度は瑞葵の叫びが響いた。


 喉が裂けそうなくらいの大声。

 考えを追い出すために。

 恐怖を押し返すために。

 まずは声を出せ――そう言ったのは稔だった。


 頭の中に、トレーニングの日の記憶が閃く。


   *


稔 「少し早いが明日は任務だから、これで終わりにするか。任務前に余計な疲れを溜め込みたくないしな」


瑞葵「あの……」


稔 「ん? なんだ?」


瑞葵「いや、その……」


稔 「なんだ? 言ってみろ」


瑞葵「もし……ですが……稔さんは……恐怖で体が動かなくなったこと、あるのかと……」


稔 「あるよ。たくさん」


瑞葵「え?」


稔 「才能型でここまでやってきたんじゃないさ。俺も中学生の時は体が小さくてよく苦労した」


瑞葵「そうなんですか? でも稔さんって身長も高いし……」


稔 「成長期によく食べて、たくさん寝たからな」


瑞葵「そうなんですね……」


稔 「自分で言うなとは思うが、俺はかなり努力したさ。まあ、辛かったなら――」


瑞葵「その……怖くて、どうすれば頭が空っぽになった時って、稔さんはどう対処したんですか?」


稔 「臆病風が吹いたのか?」


瑞葵「やっぱり……まだ怖いです。すごく……」


瑞葵「でも、翼に頼ってばっかりは嫌なんです。僕も強くなりたい……」


 稔は大きな手で瑞葵の頭をわしゃわしゃと掻き回した。


稔 「この短期間で随分変わったな!」


稔 「よし! それじゃあ、俺がやったことをいくつか伝授してやる」


稔 「怖さって言っても色々あるが、まずは動かなくなったら声を出せ!」


   *


稔(何も考えず、とにかく大きく! 威嚇しろ。吠えれば怯む犬もいる)


   *


瑞葵「うあああああぁぁぁぁああぁぁぁあああ!」


 叫びながら、瑞葵は前へ踏み出した。


 怖さは消えない。

 でも、叫んだことでほんの少しだけ頭の中に隙間ができる。

 その隙間に、トレーニングで叩き込まれた言葉が流れ込んでくる。


 翼の動き。

 相手の重心。

 隙が生まれる瞬間。


瑞葵(思い出せ……思い出せ……)


瑞葵(待つな……迷うな……出るなら最後まで出ろ……!)


 震える足に、無理やり力を込める。


瑞葵「翼!」


翼 「!」


瑞葵「たのむ!」


 翼は一瞬で理解した。


 全身の痛みを押し殺しながら、再び俊之の背後へ回り込む。

 今度は首ではなく、両腕の自由を奪うように絡みついた。


 ――動きを止めてくれ、だな!


 瑞葵は勢いづいたまま俊之の両肩を掴む。


 ほんの一瞬、世界が静かになったように感じた。


 俊之の荒い呼吸。

 翼の押さえ込む力。

 自分の足の震え。


 それでも、視線だけは逸らさない。


瑞葵 (ここだ)


 稔の言葉が、もう一度頭の中で響く。


稔(どんなに非力な奴でも頑丈にできてるところがある。そして逆に、どんな強い相手でも弱点はある)


瑞葵(迷うな!)


 瑞葵は俊之の両肩を掴んだまま跳び、重力をそのまま勢いに変えた。


瑞葵「ああああぁぁぁああああ!」


 そして――。


 俊之の鼻目掛けて、思いきり頭突きを叩き込む。


 ゴン! と鈍い音が廊下に響いた。


俊之「ゔぁああああ!」


 強烈な衝撃に俊之の体勢が崩れる。

 腕の力が一瞬抜け、確かな隙が生まれた。


翼 「瑞葵! スタンガン!」


 咄嗟に瑞葵は床に転がっていたスタンガンを翼の方へ蹴った。


翼 「ナイス!」


 翼はそれを掴み、そのまま俊之の首筋へ何発かスタンガンを押し当てる。


俊之「うわああああ!」


 体が大きく痙攣し、俊之はそのまま動かなくなった。


瑞葵「はぁ……はぁ……はぁ……!」


翼 「はぁ……はぁ……」


 二人は緊張から解放されたと同時に、その場に崩れ落ちた。

 真っ暗な廊下に、二人の荒い息遣いだけが響いている。


翼 「瑞葵……大丈夫か?」


瑞葵「う、うん……」


 そう答えながらも、瑞葵は頭を片手で押さえていた。


翼 「まだ痛むか?」


瑞葵「ちょっと……というより……かなり……」


翼 「とりあえず、あまり動くな」


葉月「二人ともお疲れ様。ありがとね」


 研究室に隠れていた葉月が、ようやく姿を見せて間に入ってくる。


葉月「みおさんも大丈夫?」


 葉月はみおにも声をかけた。

 みおは声を出せないまま、ただ小さく頷く。


葉月「ごめんね、なかなか衝撃的だったよね」


葉月「でも……証拠がないと警察も動いてくれないの。だから少し手荒だったけど、これが一番だと思って二人に協力してもらったの」


 葉月は瑞葵と翼の方を向き、「二人ともありがとね」とだけ言って、みおをその場から離れさせようとした。


みお「でも、どうしよう……としくん、気絶して……」


葉月「大丈夫だから……」


みお「でも、またストーカーされたら……今度こそ……」


葉月「そうならないために証拠を集めたんだよ」


みお「でも、としくん言ってた……お父さんが警視長だから、なんとかしてくれるとか……」


葉月「ねえ……」


みお「としくんを分かってない……。あの人は……」


 その時だった。


 瑞葵と翼の目には、葉月の手元から一瞬、白い光が走ったように見えた。

 次の瞬間、みおは葉月の方へ崩れ落ちた。


 何が起きたのか、二人にはすぐには分からなかった。


葉月「ありがとね……任務に協力してくれて」


 葉月はみおの耳元でそう呟いた。

 だが、その声は瑞葵と翼には届かなかった。


葉月「ごめんね、驚かせちゃって。想像以上に彼女、パニックになっちゃったからね」


葉月「これが一番の最善だったの」


瑞葵 (こんなの……)


 助かったはずなのに、胸の奥がざわつく。

 任務は成功した。俊之は確保した。みおも守れた――はずなのに。


 どうして、こんなに気持ち悪いんだろう。


 戸惑いを隠せない瑞葵に、翼がそっと手を重ねた。

 翼の方を見ると、無言で小さく首を横に振る。


 今は何も言うな。

 そんな合図に思えた。


翼 「この後はどうすればいいですか?」


葉月「さっきも言った通り、私の任務は彼女と彼を接触させるまで。あとはあなたたちの指令官に指示を仰いで」


 葉月は翼にスタンガンを渡した。


 さっきの白い光は、スタンガンだったのだ。

 きっと彼女に気づかれないよう、そっと翼の手元から奪っていたのだろう。


瑞葵「女性は! その女性は……どうするんですか?」


葉月「跡を汚さないのも我々の任務。彼女は私が責任を持って家まで送り返すから、そこは安心して」


 葉月は慣れた手つきでみおを背負い、「それじゃあ、二人ともこれからも頑張ってね」と軽く激励を飛ばし、その場を離れた。


 その後、翼が柚木へ任務完了の報告を入れる。

 近くで待機していた晴翔をこちらへ向かわせるという返事が返ってきた。


翼 「晴翔さんがこっち来てくれるって」


瑞葵「晴翔さん、わざわざ来てくれるの?」


翼 「というより、念のためスタンバイさせてたのかもな。俺らには内緒で。行きの車には乗ってなかったし」


 まだ少し頭がじんじんする。

 それはさっきの頭突きのせいでもあるし、葉月とのやり取りに頭が追いついていないせいでもあった。


 考えようとすると、逆に頭痛が強くなる。

 まるで脳が「今は考えるな」と信号を出しているみたいだった。


翼 「瑞葵!」


 顔を上げると、翼は任務前と変わらない、いつもの明るい表情に戻っていた。

 顔に傷は一つもない。

 けれど、服の下にはきっと今回の戦闘でできた新しい痣が増えているはずだと分かる。


 ――それでも。


翼 「今回は瑞葵のファインプレーで任務成功だな」


 翼はにこっと笑いながら、拳を瑞葵に向けた。


 その仕草を見た瞬間、胸の奥に大きなしこりがまた一つできたような気がした。


 ――でも。


瑞葵「翼のおかげだよ。翼がいたから勇気が出たんだ」


 瑞葵はそう言って、自分の拳を翼の拳に重ねた。


 硬い感触が、確かにそこにあった。


瑞葵(今は……任務の成功を喜ぼう)


 少しは変われた。

 そんな感じがした。


 けれど――任務が終わったはずなのに、胸の奥のざわつきだけは、まだ消えなかった。


翼 「瑞葵、任務お疲れ!」


瑞葵「翼もお疲れ!」

以上で、EP.2は終了となります。


読者の皆さん、EP.1に引き続き、EP.2も読んでいただき本当にありがとうございました。


以前もお話ししましたが、EP.1はずっと想像していたストーリーを文字に置き換えていく感覚だったのに対して、EP.2はほぼゼロからのスタートでした。


僕にとってEP.2は、好きなアニメの続編を見ているようなワクワク感がありました。


初めの構想では、任務の舞台は住宅街で、今回も柚木の指名で翼と瑞葵が向かう構成でした。

改めて振り返ると、EP.2はかなり方向性を変えたなと思います。


ですが、読者の皆さんが読んでいて

「なんでいきなりこうなるの?」

「このやり方は少し微妙かも」

と感じることを少しでも減らせないかと色々考えた結果、今の形に辿り着きました。

そして僕自身、EP.2は非常に満足のいく仕上がりになったと思っています。


EP.2の投稿中は残念ながらランキングに入ることはできませんでしたが、ページビューとユニークアクセスが自己記録を更新できたことは本当に嬉しかったです。


そして皆さんのおかげで、EP.3は無事に書き終えることができました。

予定通り、来週からはEP.3を投稿する予定です。


ぜひまた、新しい瑞葵たちのストーリーを楽しみに待っていただければと思います。

そして今回も、その前にEP.2完走記念の番外編を投稿できればと思っています。

そちらについては、また活動報告でお知らせできればと思います。


それでは最後に、改めまして――

瑞葵たちを応援していただいている読者の皆様、無事EP.2完走しました!

本当にありがとうございました。

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