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EP.2-8 正しさの行方

皆さん、こんにちは!Time Bombです!


4月から始まったEP.2も、早いものであと少しで完結というところまで来ました。


いよいよ今回のエピソードで、任務の内容が明らかになります。


一歩踏み出すことができた瑞葵。

その中で生まれる「正義とは何か?」という問い。

それでも前を向くと決めた瑞葵の姿を、ぜひ見届けていただければと思います。


EP.2も終盤に突入しましたが、今週は仕事の都合で執筆にあまり時間を取ることができなかった週でもありました。

それでも、ここまで来たからこそ週一更新を続けていきたいという思いがあります!


なんとかEP.2を投稿し終えるまでに、EP.3を書き上げられるよう頑張ります!

 トレーニング前、柚木と晴翔、翼と瑞葵の四人は会議室に集まっていた。


 会議室の空気は、いつもより少しだけ重かった。

 蛍光灯の白い光が、机の上に広げられた資料を冷たく照らしている。

 壁際にはホワイトボード、正面にはモニター。何度もここで任務説明を受けてきたはずなのに、今日はなぜかそのどれもがいつも以上に無機質に見えた。


 瑞葵は椅子に腰を下ろしながら、無意識に自分の膝の上で指を握り締める。


 前回、自分から名乗りを上げた。

 その事実がまだ胸の奥に残っている。


 怖い。

 でも、引き返したくはない。


 そんな気持ちがない交ぜになったまま、柚木が静かに口を開いた。


柚木「それでは、今回の任務について説明するね」


 机の上の資料に視線を落としながら、柚木は淡々と続ける。


柚木「依頼内容は、山田俊之――二十一歳の捕獲よ」


 その名前だけが、会議室の空気の中に落ちた。


 捕獲。


 人探しや保護ではない。

 最初から相手を押さえることが前提の任務だ。


柚木「今回は警察上層部からの非公式依頼よ。

   山田俊之も仮名らしくて、私たちも本名は知らないわ」


翼 「人探しとはまた違うってことですよね?」


柚木「ええ。端的に言うと、山田俊之は同じ大学の同学年の女性をストーカーしているらしいの」


 瑞葵は小さく息を呑んだ。


翼 「犯行現場を押さえる、ということですか?」


柚木「そういうことね。

   でも、あくまで目的は捕獲。その後は前回と同様、自宅まで送って任務完了というわけ」


 前回と同様――という言葉に、瑞葵の胸が少しだけ引っかかる。


 自宅まで送る。

 それで終わり。

 それが、本当に解決なのか。


 考えがまとまる前に、気づけば口が動いていた。


瑞葵「あの……一つ聞いてもいいですか?」


 自分から発した声に、少しだけ喉が詰まる。

 それでも柚木はいつも通りの調子で頷いた。


柚木「ええ。どうぞ」


瑞葵「その任務を……僕らがやらなきゃいけない理由って、なんですか?」


 会議室が一瞬だけ静かになる。


 柚木は表情を変えないまま、瑞葵を見た。


柚木「どういうことかしら?」


瑞葵「いや……その……」


 何と説明すればいいのか分からない。

 自分の中にある違和感が、まだ言葉になりきっていなかった。


 そんな瑞葵の代わりに、翼が静かに言った。


翼 「警察が動かないのかってことか?」


瑞葵「は……はい。すみません……」


柚木「いえ。疑問に思うのが普通のことだから、謝る必要はないわ」


 柚木はそう言うと、机の上の資料を一枚めくった。


柚木「黙っていても仕方ないことだから、正直に話すと――山田俊之は警視長のご子息」


瑞葵「ご子息……?」


翼 「息子ってことだ」


 瑞葵は小さく頷く。


 だが、その情報だけで何もかもがすぐに理解できるわけではなかった。

 警視長という言葉の重さも、その“息子”という事実がどれほど大きいのかも、瑞葵にはまだ実感がない。


 そこへ晴翔が補足するように口を開いた。


晴翔「簡単に言ってしまえば、騒ぎが起きる前に息子を抑えておきたいんだろう。

   警察が動けば記録が残る。記録が残れば、いずれマスコミが嗅ぎつける」


柚木「警察が動いて事件を隠してしまえば、それは隠蔽になる。

   でも、機密扱いの私たちが動けば、それは記録として残らない」


瑞葵「……」


晴翔「上層部は“警視長の息子が捕まった”という事実自体を作りたくないんだろう」


翼 「そういうことですか」


柚木「権力者はね、正義よりも体裁を守るものよ」


 その言葉は、やけにあっさりしていた。


 柚木にとっては、もう見慣れた現実なのかもしれない。

 だが、瑞葵にとっては違った。


 胸の奥が、じわりとざわつく。


瑞葵「………」


翼 「瑞葵……?」


瑞葵「ううん……何でもない」


 咄嗟にそう答えたものの、声は少し硬かった。


 何もないわけがない。

 けれど、何をどう言えばいいのか分からない。


 そんな瑞葵を、柚木は見逃さなかった。


柚木「瑞葵くん」


 静かな声だった。


柚木「ここはあくまで話し合いの場。

   何を言おうが、それは瑞葵くんの自由よ」


 その一言に、瑞葵はゆっくり息を吸う。


 そして、重たい口をなんとか開いた。


瑞葵「僕たちの任務って……必ず正しいことをするわけではないんですもんね……」


翼 「!」


 翼が驚いたように瑞葵を見る。

 晴翔もまた、一瞬だけ視線を上げた。


 柚木だけが落ち着いたまま、短く頷いた。


柚木「ええ、そうね」


瑞葵「守らなければいけないのは被害者の女性なのに……って思って……」


 そこまで言って、瑞葵は言葉を失った。


 自分でも分かっている。

 これは綺麗事なのかもしれない。


 でも、被害者がいる。

 苦しんでいる人がいる。

 その人を守るための任務のはずなのに、話を聞けば聞くほど“守る”とは別の何かが前に出てくる。


 翼と晴翔は何も答えられなかった。


 代わりに柚木が、少しだけ言葉を選ぶようにして言った。


柚木「瑞葵くんは、今回の任務を少し勘違いしてるわね」


瑞葵「勘違い……ですか?」


柚木「これは“犯罪者の確保”じゃないわ。

   “問題を表に出さないための処理”よ」


 ――それは、答えになっていない。


 瑞葵の胸の奥で、何かが引っかかった。


瑞葵(それって……守るってことなのか……?)


 誰かを助けるためじゃない。

 問題を表に出さないための処理。


 その表現が、どうしても胸に馴染まなかった。


 違和感は静かに、でもはっきりと広がっていく。


晴翔「瑞葵……まあ、その……」


 晴翔が何か言いかける。


 だが柚木は、それ以上そこを掘り下げなかった。


柚木「任務の説明に戻るわね」


 淡々と、話は続いていく。


 山田俊之は体育学部武道学科に所属。

 身長百八十三センチ。

 父と同じく、すでに警察官への就職も決まっているらしい。


翼 「未来の警察官がストーカーですか」


晴翔「全くだな」


柚木「ストーカーになった経緯は、父親が原因らしいわ」


翼 「父親ですか?」


 柚木は資料を見ながら説明を続ける。


 山田俊之と同学年の女性は、以前は彼と付き合っていた。

 だが父親から別の女性との縁談を勧められた。

 俊之本人はそれを拒否したが、その後付き合っていた彼女から突然別れを告げられたという。


翼 「未だにお見合いとかあるんですね」


柚木「お見合いと言っても、政略結婚みたいなものよ」


翼 「政略結婚……」


柚木「警察もそれぞれ階級があるの。

   交番勤務をしている警察は巡査。ノンキャリアの人たちはまずはそこからスタートね」


翼 「警視長ってどれくらい偉いんですか?」


柚木「階級で言うと上から三番目」


翼 「かなりすごい方なんですね」


晴翔「だからこそ、事件を表に出したくないんだろうな」


翼 「お見合い相手の階級も、警視長なんですか?」


柚木「そのさらに一つ上、警視監の娘らしいわ」


晴翔「警視監は警視総監の次に階級が高い。

   もしかすると、そのお見合い相手の警視監が今回の依頼主の候補にも挙がってるかもしれないが……まあ、俺たちには関係ないことだ」


 関係ない。

 そう言われても、瑞葵の中では何ひとつ整理がつかなかった。


 正義とは何か。


 ここにいればいるほど、その輪郭は曖昧になっていく。


 悪い人を止める。

 困っている人を助ける。

 その単純な図式では済まない世界に、自分はいる。


柚木「瑞葵くん、大丈夫そう?」


 柚木が静かに声をかける。


 その声音はいつも通り冷静だった。

 けれど瑞葵には分かる。


 これは心配してくれているだけの言葉じゃない。

 この任務をやる覚悟があるのか、という確認だ。


 でも――覚悟は、決めた。


瑞葵「大丈夫です!」


 瑞葵は、震える手を膝の下に隠すようにしながら、力強く答えた。


 柚木はその返事を受け止めたように一瞬だけ瑞葵を見て、説明を続ける。


 今回の任務は、ストーカーされている女性のいる大学キャンパスに俊之を誘き寄せる。

 俊之はそこで復縁を迫ると予想される。

 女性へのトラブルをビデオで記録した後、翼と瑞葵が捕獲する――それが作戦だった。


翼 「女性がいる必要ってあるんですか?」


柚木「警視長が、まさか自分の息子がストーカーをしているとは思いたくないらしいの」


翼 「なるほど」


 そこで柚木が一瞬だけ言葉を切った。


 ほんの僅かな沈黙。

 晴翔がすぐに気づく。


晴翔「柚木さん?」


柚木「いえ……なんでもない」


 だが、それ以上は言わない。


 瑞葵はまた小さく手を上げた。


瑞葵「その……」


柚木「うん?」


瑞葵「僕らは危険を承知で、俊之さんを女性のところに誘き寄せなければいけないんですか? ……すみません」


 また謝ってしまう。


 だが晴翔がすぐに言った。


晴翔「大丈夫だ、瑞葵」


柚木「少し違うわ。

   今回は組織の情報班に俊之を誘き寄せてもらう」


瑞葵「情報班ですか?」


翼 「俺も組織の内部は全部分かってるわけじゃないけど、初任務の時に四人で反社会のボスを捕まえただろ」


瑞葵「うん」


翼 「あの時も情報班が下調べした上で、俺たちは現場に入ったんだ」


晴翔「前回の河村亜美の件もそうだよ。

   河村亜美のアカウントを調べて、誘き寄せの準備をしてくれたのも情報班だ」


柚木「まあ、そういうこと。

   二人は山田俊之の捕獲だけを意識してもらえばいいから」


翼、瑞葵「分かりました」


柚木「以上が今回の任務の内容よ。

   今回は翼くんを中心として、瑞葵くんはサポートに回って」


翼、瑞葵「分かりました」


柚木「それじゃあ二人は引き続きトレーニングに戻って。

   瑞葵くんは実技は行わず、引き続き基礎トレーニングをするよう稔にお願いしてあるから、そのつもりで」


瑞葵「分かりました」


 会議室の扉が開き、翼と瑞葵はその場を後にした。


 瑞葵の背中からは、まだ“怖い”という感情が滲んでいる。

 それは隠しきれていない。


 けれど同時に、前より確かに変わっていることも柚木と晴翔には分かっていた。


   *


 二人が出ていったあと、会議室には再び静けさが戻った。


 柚木と晴翔は資料の片付けを始める。

 紙を重ねる音だけが、やけに大きく聞こえる。


 やがて晴翔が口を開いた。


晴翔「一つ、聞いてもいいですか?」


柚木「ええ、構わないわ」


 晴翔は扉の方をちらりと見た。

 会議室の内外に誰もいないことを確認してから、ゆっくり口を開く。


晴翔「今回の任務、翼たちがやる必要性があるんでしょうか?」


柚木「それは、さっき話したはずよ」


晴翔「違いますよ」


 柚木の手が一度止まる。

 そして静かに晴翔へ視線を向けた。


柚木「どういうことかしら?」


晴翔「なんで、中学生の翼たちにこの任務を任されたのかと思いまして」


柚木「なるほどね……」


 柚木は特に驚いた様子も見せず、しばらく沈黙した。


晴翔「柚木さん、前に言ってくれましたよね。

   大事にしているものは何か、自分で答えを見つけろって」


柚木「ええ、そうね」


晴翔「これが今の答えです。

   俺も、柚木さんと同じです」


 その言葉に、柚木は少しだけ目を細めた。


柚木「別に私も隠しているつもりはないわ。

   ただ、どこまで話せばいいかと思って」


晴翔「……」


柚木「残念だけど、私に拒否権は基本ないの。

   私たちのチームの現状を考えると、来た任務をやるしか選択肢はない――そんなところかしら」


晴翔「僕たちのチームは、優先順位が低いということですか?」


柚木「ちゃんとした実力を上から認められていない以上、向こうも重要な任務を任せようとは思わないでしょうね」


晴翔「今は実績を積むしかない、ということですか」


柚木「ええ、そうね」


晴翔「でも……なぜ今回は、俺に直接じゃなくて翼たちにと思って……」


柚木「まあ、確かにそうね」


 柚木は一度椅子に腰を下ろした。

 そして向かいの席を顎で示す。


柚木「座って」


晴翔「……はい」


 晴翔も素直に向かいへ座る。


柚木「これは純粋な疑問として聞きたいんだけどね」


晴翔「……? はい」


柚木「晴翔くんは、この組織のことをどこまで知ってるの?」


晴翔「どこまで、とは……どういうことですか?」


 背中がじんわりと熱くなるのを感じる。

 問われている内容は単純なはずなのに、うまく息ができない。


柚木「別に深い質問はしてないわ。ただ、気になって」


晴翔「はっきり言うと……全然分かってないですよ。

   さっき警察の階級のことを話してましたけど、俺はこの組織の関係やトップが誰なのかも知らない」


柚木「前々から思っていたけど、晴翔くんは私に少し期待しているのが伝わるけどね」


晴翔「……」


柚木「私も晴翔くんと同じ。

   この組織については、全く知らない」


 晴翔は思わず顔を上げた。


 柚木は相変わらず無表情だった。

 けれど、その声音に嘘はないとなんとなく分かる。


柚木「私たちの上司は黒崎さん。

   でも、その黒崎さんがこの組織でどの階級にいるのか、私も知らない」


柚木「ましてや、私たちが組織全体から見てどの立ち位置にいるのかも把握できてないわ」


晴翔「柚木さんは……今、翼たちと同じ中学生グループがいくつあるかもご存じない感じですか?」


柚木「ええ。

   私が知っているのは、同期の一人が私と同じ保護者として監督しているチームが一つだけ」


柚木「他に何人、中学生グループが存在しているのか。

   高校生グループがいくつあるのか。

   もっと言えば、私と同じ年代が何人所属しているのか――私は知らされていない」


晴翔「柚木さんの立場では、まだそこなんですね」


柚木「私の立場は、警察の階級で言うなら警部……いや、巡査部長くらいなのかもね」


 会議室の空気は、さらに重くなった。


柚木「私の推測だけど、今回の任務のネックはストーカー被害に遭っている女性よ」


晴翔「女性……ですか」


柚木「息子の方は無理やり取り押さえればいい。

   でも、女性の方はそうはいかない」


柚木「もし彼女が警察に連絡を入れて騒ぎが大きくなれば、こちらとしては機密情報がバレる恐れがある」


晴翔「でも、今回は警察上層部による極秘依頼ですよね?

   最悪、騒ぎが起きても上層部の方で……」


柚木「なかなか、そうはいかないわ」


 柚木はきっぱりと言った。


柚木「晴翔くんは、今日本に警察官が何人いるか分かる?」


晴翔「十万くらいですか?」


柚木「だいたい二十万以上ね。

   二十万人もいれば、組織に反発する人間も少なからずいる」


柚木「極力リスクは避けたいと考えているんだと思う。

   今回の任務も、大人の晴翔くんに行かせるより、翼くんたちに行かせた方がまだいいと組織は思ってるはずよ」


晴翔「……」


柚木「下手に騒ぎが起きても、中学生の翼くんなら“暴力を振るわれた被害者”になることができるから」


晴翔「俺がもし行って、騒ぎを起こしたら……」


柚木「何も知らない警察は捜査するわ。

   下手したら、警視長の息子ってことで、警察は全力で息子を守る可能性だってある」


晴翔「そうですか……」


柚木「子どもの方が使いやすいのよ」


 その言葉は、晴翔の胸に重く落ちた。


 納得はできない。

 だが、理屈としては理解できてしまう。


 ただでさえ危険な任務だ。

 しかも今回は、体格に恵まれた大学生が相手。

 いくら鍛えているといっても、中学生と大学生では圧倒的な差がある。


 それを分かった上で、組織は中学生を行かせる。


 立場上、仕方ないのかもしれない。

 だが柚木もまた、それを黙認している。


 そのことに違和感を覚える一方で、もし自分が柚木と同じ立場になったら、同じように何も言えなくなるのではないか――そんな想像までしてしまう。


 何もできない自分を、どう処理すればいいのか分からなかった。


柚木「晴翔くん」


 晴翔の顔を見て、柚木も何かを察したのだろう。


柚木「アドバイスを一つ」


晴翔「……はい」


柚木「晴翔くんは、この組織に来た理由と、ここで生きていくと決めた時の気持ちを覚えてる?」


晴翔「まあ……はい」


柚木「その気持ちを忘れないこと。

   それが今後、翼くんたちと接する時に大きな力になるから」


晴翔「……」


柚木「きっと分かるよ」


 柚木はまた資料の片付けに戻る。


柚木「私は晴翔くんの過去を知らない。

   だけど、ここに来る子たちと、今ここにいる大人は――みんなきっと大きな傷を抱えて生きてる」


晴翔「……」


柚木「だから私は信じてる。

   子どもたちを利用してるんじゃない。

   居場所を守るため、そして組織の必要性を証明するために任務が与えられているんだと」


晴翔「だと……いいんですけどね……」


柚木「もし、本当に大人たちが自分たちの私利私欲のために子どもたちを利用しているなら――」


 柚木は、いつものクールな表情のまま晴翔を見つめた。


柚木「晴翔くんがそれを変えなさい」


 晴翔は一瞬、言葉を失った。


 戸惑いはあった。

 けれど、答えは一つしかないようにも思えた。


 ただ、柚木はその答えを聞くことなく資料をまとめ終える。


柚木「明日の夜は、晴翔くんも予定を空けておいてね」


 そう言い残して、柚木は会議室を後にした。


晴翔「………」


 静まり返った会議室の中で、晴翔はしばらく動けなかった。


 柚木は組織のやり方に対して、確かに割り切っている。

 だがその中でも、彼女なりのやり方で翼たちに接しているのだと、少しだけ分かった気がした。


   *


 その頃、瑞葵は再びトレーニング室に戻っていた。


稔 「言ったはずだ。迷いがあるなら、俺は止めると」


 稔の声が、低く響く。


 瑞葵は体を震わせながらも、まっすぐ前を向いた。


瑞葵「覚悟の上です」


 怖くないわけじゃない。

 迷いが消えたわけでもない。

 正義が何なのかだって、まだ分からない。


 それでも、自分で選んだ。


 その事実だけは、もう揺らがない。


 稔はそんな瑞葵を見て、ほんの少しだけ嬉しそうに目を細めた。


稔 「よし。任務前、最後のトレーニング行くぞ」


 明日の夜。


 覚悟はできている――そう何度も自分に言い聞かせる。


 正義が何かは、まだ分からない。

 それでも、逃げるつもりはなかった。


 ただ、胸の奥のざわつきだけは、最後まで消えなかった。

次回予告

夜の大学キャンパスで始まった捕獲任務。

だが、現れた山田俊之は想像以上に強く、翼と瑞葵を容赦なく追い詰めていく。


崩れていく連携。

動けない体。

そして目の前で、翼が押さえ込まれる――。


このままじゃ翼が……

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