表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

EP.2-4 仮面の教室

皆さん、こんにちは!Time Bombです!


あと少しで、連載開始から4か月が経とうとしています!


読者の皆様、本当にありがとうございます。

新しいことを始めようとしてもなかなか動けなかったり、動けたとしても続かなかった自分が、こうして当たり前のように毎週小説を投稿していることに、改めて自分でも驚いています笑


以前もお話ししましたが、

Abyss Trigger ーーSecret Xーー は、もう僕の生活の一部です!


そして最近は、毎週日曜日の投稿の瞬間が楽しみで仕方ありません。

それもこれも、日々瑞葵たちを応援してくださっている読者の皆様のおかげです。


本当にありがとうございます。


今後も頑張っていきます!

……というより、歯を磨くのと同じくらい自然な感覚で執筆活動に取り組んでいます笑


また4月の終わりに、活動報告でも改めてお礼を言わせてください!

来週もどうぞよろしくお願いします。

 教室の外に立った瞬間、瑞葵は一度だけ小さく息を吐いた。


 廊下の向こうから聞こえてくるのは、誰かの笑い声。

 その中に、悠喜の声も混じっていた。


瑞葵(……大丈夫)


 そう自分に言い聞かせながら、瑞葵は教室の扉に手をかけた。

 一昨日の任務でできた痣はメイクで隠した。鏡で見た限りではほとんど分からない。

 それでも、誰かに見抜かれるんじゃないかという不安は消えなかった。


 ガラリ、と扉を開ける。


瑞葵 (…………)


 誰も瑞葵の方を見なかった。


 それぞれが仲の良い友達と雑談をしていて、ぱっと見はごく普通の教室に見える。

 けれど瑞葵には分かる。

 この教室の空気は、どこかおかしい。


 笑っているのに、目は笑っていない。

 声は明るいのに、その裏で常に何かを探っている。


 瑞葵は少しだけ肩の力を抜いて、自分の席へ向かった。


 ここの学校の生徒たちは、毎日をまるでテスト当日の休み時間みたいな空気の中で過ごしている。


 表面上は仲が良さそうに見える。

 けれど本当は違う。

 誰もが相手の出方を窺っていて、自分の足元を掬われないように警戒している。


 それが、この学校の日常だった。


 瑞葵たちが通う学校は、大手企業の社長や役員、大物芸能人を親に持つ子どもたちが集まる、歴史ある学校だ。

 いわば、金持ちの子どもたちのための箱庭。


 学校指定の制服の中に、高価な時計やアクセサリーを忍ばせてくる生徒もいる。

 見えない場所にブランド物の下着をつけている、なんて話も聞いたことがある。


 それもきっと、親によるステータスのアピールなのだろう。

 この学校では、身につけるものひとつにも家の力がにじみ出る。


 ――クラスで目立っているのが、必ずしも力のあるグループとは限らない。


悠喜「マジで! アハハハ!」


 瑞葵はそっと視線を向ける。


 悠喜とつるんでいる同級生たちは、いわば早くも“出世コース”から外れた落ちこぼれ組だった。

 けれど、本人たちはそのことに気づいていない。あるいは、気づかないふりをしている。


「いずれ父さんの会社は俺が継ぐしさ」

「俺が社長になったら、もっと会社大きくして海外にも支社作るわ」


 そんな中身のない目標を、やけに大きな声で話している。


 周囲からは、どこか哀れみの混じった目で見られることもある。

 けれど同時に、背負うものが少ないからこその気楽さを羨ましがる者も少なくなかった。


 期待されていないというのは、ある意味では自由だ。

 失望されることに慣れている人間は、無責任に笑える。


 ――本当に才能のある子どもは、能力を隠すのだ。


翼 「昨日は少し頭痛がひどくてさ」


 今度は翼の方へ視線を向ける。


 翼と一緒にいるのは、悠喜たちとは正反対の、親から期待の眼差しを向けられている生徒たちだ。

 男子だけでなく女子もいて、クラスの中では珍しく男女分け隔てなく仲の良いグループに見える。


 けれど、それもきっと表向きの話だ。


 クラスの中で欠席率が一番高いのは、実は翼たちのグループだった。

 皆、体調不良や家庭の事情を理由に学校を休む。

 だが本当は、親の仕事に付き合わされていることも少なくない。


 社長である親が参加するパーティー。

 海外支社の視察。

 取引先との顔合わせ。


 中学生が行くような場所じゃない。

 それでも、彼らはそこに立たされる。


 誰も本当のことを口にしない。

 口にしなくても済むように、最初から仮面をかぶっている。


 翼もまた、その一人だった。


 いつもの穏やかな顔で笑っていても、その奥に何を隠しているのか、瑞葵にはまだ分からない。

 優しくて、強くて、何でもできるように見える翼だって、本当はきっと色々なものを抱えているのだろう。


 ――警戒心が強い。それが、一番効果のある守り方なのかもしれない。


 夏月がいるのは、主に親が芸能人である生徒たちのグループだ。

 親が美男美女であるがゆえに、自然と見た目の整った子が集まる。


夏月(ま、私よりは劣ってるけどね)


 そんなことを本気で思っていそうな顔で、夏月はどこか余裕のある笑みを浮かべていた。


 けれど、彼女たちにも彼女たちなりの苦労がある。


 マスコミの目。

 SNSでの噂。

 親の評判。


 自分たちが何か問題を起こせば、叩かれるのは親の方だ。

 そしてその親のおかげで、今の生活が成り立っている。


 だから幼い頃から叩き込まれている。

 余計なことをするな。

 変な噂を立てられるな。

 お前たちの振る舞いひとつで、この生活は簡単に壊れるのだと。


 どのグループにも事情がある。

 どの笑顔にも裏がある。


 ――そして。


 瑞葵は一人、翼から借りた小説を机の上に開いていた。


 誰とも話さず、本を読んでいるだけ。

 ある意味では、瑞葵の立場が一番楽なのかもしれない。


 誰からも期待されていない。

 誰とも深く関わっていない。

 だからこそ、失うものも少ない。


 だがそれは同時に、誰の輪にも入れていないということでもあった。


 この学校は、元々こんな場所ではなかったらしい。


 活気のある生徒たちで賑わっていて、廊下では自然と笑い声が飛び交っていたという。

 クラスの仲も良く、普通の中学生らしい日常がそこにはあった。


 けれど、彼らはまだ中学生だ。

 幼いからこそ、残酷にもなれる。

 そして翼たちが入学する前、この学校では親まで巻き込む大きな事件が起きた。


 クラスでいじめが起こったのだ。


 主犯格は親が芸能人。

 その取り巻きもまた、大手企業の社長の子どもたち。

 いじめられていた生徒の親は、偶然にも取り巻きの会社の株主だった。


 しかし、その事実を学校も、いじめっ子たちも知らなかった。


 いじめはどんどんエスカレートした。

 学校側は多額の寄付をしている加害者側の親に遠慮し、ろくに動かなかった。


 そして、自分の息子がいじめを受けていると知った親は激怒した。


 学校へ対応を求める。

 だが学校は動かない。

 ついにその親は、取り巻きの会社の株をすべて売り払った。


 さらに、その金でマスコミに情報を流した。


 その結果、主犯格の親はイメージダウンによって仕事が激減。

 取り巻きたちもまた、家の社会的地位を大きく失った。


 それだけじゃない。


 軽い気持ちで会社の機密情報を友達に話してしまった生徒。

 親の不倫を相談して裏切られた生徒。

 そんな事件も重なって、この学校では「余計なことを話さない」ことが徹底的に教え込まれるようになった。


 親にとっても、子どもたちにとっても、言葉は武器にも凶器にもなる。


 その結果、この学校に入ってくる生徒は皆、必要以上に口数が少なくなった。

 瑞葵が感じているこの息苦しさは、そうやって積み重なってきたものなのだ。


 瑞葵は中学二年の時、組織への加入と同時にこの学校へ転校してきた。


 もちろん、その理由を知る者はいない。

 だからこそ、何かのスパイではないかと疑う生徒もいた。


 瑞葵に声をかける者はほとんどいなかった。

 その噂はあっという間に広がり、中学三年になった今でも、瑞葵を警戒して近寄らない者は多い。


 授業が始まると、周りの生徒たちは一斉に静かになった。


 皆、真面目に授業を受けているように見える。


 ……ただ一人を除いて。


 瑞葵がちらりと横を見ると、悠喜がシャープペンシルを持ったまま眠っていた。

 教師から見れば、一生懸命ノートを取っている優等生の姿に見えるだろう。


 けれど瑞葵は、今朝あれだけ豪快にいびきをかいて寝ていた姿を知っている。

 そのギャップが少しだけおかしくて、思わず口元が緩みそうになった。


 翼と夏月を見ると、二人は真面目に授業を受けている。

 ノートもきちんと取っていて、どこから見ても模範的な生徒だ。


 休み時間になると、またそれぞれの仮面が戻る。


 悠喜はいつも通りのテンションで同級生と話している。

 夏月は今朝のような刺々しさは一切なく、どこかお淑やかな雰囲気で周囲の女子と会話していた。


 そして翼は――

 翼はいつも通りだった。


 成績上位者たちに囲まれながら、自然な笑顔で会話をしている。

 その中にすっと溶け込んでいて、そこが自分の居場所だと当然のように見せていた。


 そんな翼を見て、瑞葵はふと思ってしまう。


瑞葵(遠いな……)


 一昨日の任務があって、昨日も一緒にいて、今日だって二人で登校した。

 少し距離が縮まったような気がしていた。


 けれど、こうして学校の中での翼を見ると、やっぱり違う世界の人間なのだと思い知らされる。


 瑞葵は悠喜、夏月、翼を見渡した。


 三人はトレーニング中は仲が良い。

 同じ任務に向かう仲間でもある。

 それなのに、この学校ではまるで赤の他人を演じている。


 そして、その演技はあまりにも自然だった。


 彼らはもう慣れているのだ。

 中学生という仮面をかぶることに。

 自分を隠して生きることに。


 ――僕も……その仮面をかぶれるのだろうか。


 その思いが胸の奥で重く沈む。


 瑞葵は席を立ち、トイレへ向かった。


 鏡の前に立つ。


 そこには、傷ひとつない顔をした自分が映っていた。

 つい数日前までの瑞葵なら、その顔を見て安心していたかもしれない。


 けれど今は違う。


 傷が見えないことに安心する自分と、傷を隠していることにどこかざわつく自分がいる。


瑞葵(僕も……みんなみたいに……)


 そう思った、その時だった。


 瑞葵は気づかなかった。


 今日は化粧で痣や傷を隠していたこと。

 そして、自分でも気づかないうちに、すでに仮面をかぶり始めていたことを。

次回予告

優しさは、武器にもなる。

そして時に、致命傷にもなる。


一昨日の任務で残った傷と迷いを抱えたまま、瑞葵は稔との訓練に立つ。

そこで突きつけられるのは、“ここで生きる”よりも重い現実だった。

仲間と共にいるということ。


その意味を、瑞葵はまだ知らない――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ