第95話 セーブ&リセット
剣を構えてうささの出方を伺う、能力は目に関係する筈だが、詳細な能力はわからない。
男の方は見たところ参加する様子はない、参加しなかった所で、うささに勝てるかどうかすら怪しいが。
「そんなに構えなくても、手加減してあげるよ」
彼女は武器を持つ様子は無い。
拳で戦うタイプにも見えない……だが出方を伺って居ても埒があかない。
「こちらから行くぞ!!」
相手に飛び道具の類は無い、直線で大胆に新城は詰めて行く、うささの目を一直線に見つめる、戦闘時は相手の目線を良く見ろと屑城が言っていた。
目線から次の行動を予測出来る、だがそれを理解されると意図的に視線をずらされるから、コツは俯瞰して見る事だと……正直難しくて俺には分からない。
だから一直線に彼女の瞳に視線を向けた、だが彼女と視線が合わなかった。
何を見て居るのか……視線を追うのはそれ程難しく無い、彼女は俺の剣を見ていた。
何の為に剣を見る?
攻撃の軌道を予測するにはまだ早すぎる、彼女との距離は5mはある……攻撃するまでに数秒の時間はある。
戦闘経験が浅過ぎて理由が読めない。
「ごちゃごちゃ考えても仕方ない」
攻撃すれば全て分かる、新城は剣を振り上げて攻撃の態勢に入る、だが次の瞬間、剣は宙を待っていた。
「は?」
あまりにも一瞬の出来事、何が起こったのかすら理解出来なかった。
腕の感覚がない……ふと視線を右に向けると腕の肉片であろうものが飛び散っていた。
腕を吹っ飛ばされた……それを認識した途端にとてつもない痛みの波が押し寄せて来る、そして新城は叫び声をあげて蹲った。
「や、やばい……やり過ぎた」
完全に想定外、うささの表情はそんな感じだった。
「ほんと、勘弁して下さいよ」
太一は呆れながらに指を鳴らした。
その瞬間に時は10秒遡り、ちょうど新城が剣を取り出した場面になった。
「うささん、ここは俺にやらせて下さい」
「何で急に……まあ良いけど」
うささには突然太一がやる気を出した様にしか見えていなかった。
だが実際は新城を殺しかねない怪我を負わせない為、あんな事をすれば情報なんて聞き出せる訳がない。
「んじゃ、殺さない程度に……って」
新城は既に至近距離まで迫って居た。
視線を外した隙に接近して居たようだ……剣は太一の胸を深く貫いた。
「めちゃめちゃ殺してくるじゃん」
指を鳴らす。
そして先程と同じ立ち位置、そして同じ会話を繰り返す。
これがセーブ&リセット、任意の場所でセーブし、指パッチンを合図にリセットする。
セーブした地点は10秒経過すると自然に消える。
簡単に言えばセーブさえしておけば10秒前に戻れる能力と言う訳だった。
最初の手は読めた。
後は無力化するのみだった。
新城が不意をつき放った一撃はまるで読まれて居たかの様に躱される、そして流れる様に足払いを掛けられると地面にうつ伏せになり、手は後ろに回され拘束された。
能力を知らない人から見ればとんでも無く手練れ武術家に見えるだろう。
だが実際は一回死んでいる。
「別にあんたを殺したい訳じゃない、赤髪に関する情報が欲しいだけなんだ」
背中を膝で押されて身動きが取れない、この場に居ない男の情報を死んでも守る必要は無い……だが、カナデは何処で何を聞いて居るか分かったものじゃない、話せば信用に関わる……俺は殺されるだろう。
どの道待って居るのは死、それが今すぐなのか、後かの違いだけだった。
「何故知りたい」
「だーかーらー、それは君が言ったら……」
「うさちゃん、ここは俺に任せて下さい」
「そう?」
うささの言葉を遮ると太一は新城の上から足を退ける、だが手で押さえられてまだ身動きは取れないままだった。
「赤髪、カナデが転生者の中でなんて言われてるか知ってるか?」
「赤い死神とかか?」
「まぁそれもある、だがもっとシンプル……『最強の転生者』だ」
太一の言葉に新城は特に疑問は抱かなかった。
彼を転生者の中では一番良く観察して居る、あれ程に強い人間は恐らく存在しない。
英雄組合の人間が束になっても勝てるか怪しい、最強……その称号は彼にこそ相応しい。
「だが……彼が最強であるのとあんたらに、何の関係がある?」
「大いにあるさ、俺達の計画を進めるに当たり……最強とやらで腕試しがしたかったんだ」
「腕試し……ねぇ、俺も安く見られた物だ」
不意に聞こえる第三者の声、太一は新城から手を離すと辺りを見回した。
「誰だ!?」
確かに声は聞こえた、だが姿は見えない。
「アイドルみたいな奴と、そのファンか?また珍妙な奴らに興味を持たれたもんだ」
「救援に反応してくれるとは思わなかったよ」
ゆっくりと立ち上がり砂埃を払う新城、彼の影からゆっくりと赤い髪の男……カナデが姿を現した。
「随分と派手な登場だな……」
太一は苦笑いを浮かべる、そして一瞬だけうささに視線を向けるも、直ぐにカナデへと戻した。
「最強から来てくれるとは願ってもない」
「やけに最強にこだわるんだな」
「あぁ……」
太一は小さく頷く、見たところ新城に大きな怪我はない。
まあこいつが怪我をしようが関係ないが……少なくともクリミナティの人間では無さそうだ。
クリミナティの人間なら恐らく新城は無事では無い、俺の情報を聞き出すにしろ、生優しい方法ではない筈だ。
だがそうなると、こいつらは誰なのか……
「お前ら、なんで俺を探してたんだ?」
「深い理由なんてないさ、ただ最強と呼ばれる人間と手合わせ願いたい……それだけさ」
太一の言葉は真っ赤な嘘だった。
彼が意図的に付いたのかは知らない、ただ嘘が分かるカナデにとっては別の意図があると言っている様な物だった。
「そうか、なら……望み通り手合わせしてやるよ」
だが、敢えて乗っかる。
先ずは査定だ……彼らの生死を賭けた。
「手合わせ前に、一つだけ」
太一は耳元で指を鳴らしながら左手で指を立てる。
「なんだ」
「いや……やっぱり興醒めだ」
太一は突然、そう告げた。
「興醒め?急に何言ってんだ」
彼の言葉に嘘は無い……だが、戦う意志はしっかりあった、それなのにこの数秒でここまで変わるのは妙だった。
だが、カナデが幾ら頭を悩ましても答えに辿り着く事はない。
太一の中にはカナデへの圧倒的な恐怖心しか無かった。
虚勢を張り、興醒めと告げた。
だが実際は……何をしても勝てないと知ってしまったから、早くこの場から逃げたいだけだった。
「太一?」
うささは不思議そうに首を傾げる。
彼の能力を知らないのだから無理もない、周りの人間はいきなり気分が変わった変な奴としか思えない。
だが、太一は数え切れないほどの死を経験した。
あれは人間では無い。
こうして会話して居ると、勘違いをする……だが、あいつに心なんて物は無い。
耳元で指を鳴らす。
あのセーブ地点はもう不要だ。
彼と戦っても勝てない……だから無事生き延びる道を模索する。
そして、何度も死や致命的な重症を得て……辿り着いた。
「カナデ、俺の能力は条件付きで時を10秒巻き戻せる……あんたに協力したくて探してたんだ」
答えは能力の開示と敵対していないという事の証明だった。
当然、うささは目が飛び出そうなほどに驚いていた。
「何を企んでいる」
太一の言葉に嘘は無い、だからこそ警戒した。
10秒時を巻き戻せる能力……条件付きと言っていたが、時に関する能力は非常に便利だった。
「条件はなんだ」
「セーブする事、右手で音を鳴らす……指パッチンでも何でも良い、そして左で音を鳴らせばセーブ地点までリセットされる、セーブ地点は10秒経過で自動的に消えるからその度に上書きの必要があるけどな」
条件も緩い……時を巻き戻す、カナデでも出来ない事だった。
此処で殺すのは勿体ない……カナデはそう思い始めていた。
何度も何度も死んではリセットを繰り返し、辿り着いた生き残る道はカナデに尽くす事……ただそれだけだった。
「ちょ、ちょっと……状況が飲み込めないのだけど?」
勝手に話しを進めていく太一の頭を引っ叩いてなんとかうささが話しに割り込む、突然の事にもう何が何だか分からない様子だった。
「状況が飲み込めないのはこっちも同じだ、まぁ……おおよそ時間をリセットして最善の答えを模索してたんだろうな」
「ああ、何度殺されたかもう覚えてない」
「そうかよ、まあ……利用できる物はする、新城も利用できるから生かして居るしな」
「否定はしない」
利用出来る奴は生かす……目的の為なら手段を選ばない人間で助かった。
「うさちゃん、申し訳ないですが能力の説明を」
「しないと……」
うささは太一に確認を取るように首を切るジェスチャーをする、そして彼はそれに頷いた。
「……はぁ、私の能力は目に関する能力、透視とか千里眼とか、まぁ目に纏わる事は大体出来る、あとは……」
そう言いうささは木の方向に身体を向ける、そしてアイドルの様なウィンクをするとそこそこに太い木の幹が爆発音と共に砕け散った。
「私が視認した物にウィンクをすると爆発させれる、まぁ色々と条件とかもあるけど、ざっとこんな感じよ」
完全に新城の上位互換だった。
彼が可哀想になってくる。
「まぁ、能力の詳細は分かった……だが一番は何故俺に協力したいのか……だ」
「……これはリセットもせず、ぶっつけ本番の言葉だ……俺とうさちゃんはクリミナティに恨みがある、奴らを潰したい、情報もある……だから、頼む……協力させてくれ」
「……答えはまた今度にしてくれ」
カナデの表情が変わった。
そしてそれと同時に50km以上は離れている筈の獣人族達が住んで居る森の方向から特大の火柱が上がった。
「なんだよあれ」
新城の口から思わず言葉が溢れる。
「クリミナティのお出ましだ」
ド派手な開戦の合図だった。




