第94話 アイドル登場
「るんるんる〜っと」
森の中に可愛らしい少女の声が響き渡る。
「ちょっと目立ち過ぎじゃ無いっすか?」
「良いのよ、なんたって私はアイドルだから!」
森の中には不釣り合いなふわふわしたピンク色を基調とするアイドル衣装を見に纏う一人の少女、ピンク色の髪と揃ってかなり目立っていた。
少女の数歩後ろを彼女とは正反対のこれと言って特徴も無い黒髪の青年が歩いていた。
「右左左さん、本当に大丈夫なんっすか?」
青年が少女の名を呼ぶと、うささは急に足を止める、そして後ろを振り返ると青年の胸ぐらを掴んだ。
「何度言えば分かるんだよ、ウサちゃんって呼べ」
「す、すんません」
青年の目を見て、瞬きせずにまるで恐喝の様にうささは告げる、あまりの気迫に青年は少し後退りしていた。
「分かれば良いのよ、分かれば」
うささが目線を外す、すると青年は汗を吹き出し、安堵した。
「けど本当に奴らは来るんっすか?」
「超絶天才美少女アイドルウサちゃんの計画を疑うの?」
長ったらしい馬鹿みたいな名称に青年は反応する事なく、首を横に振る。
青年は足を一歩踏み出そうとした時、矢が足元に突き刺さった。
「人間!これ以上先へ行く事は許さない!!」
「獣人族か」
青年は小さく呟くと一歩後ろに下がった。
「太一、だめよ」
太一、そう呼ばれた青年は舌打ちするとつまらなそうに獣人族に背を向けた。
相手の数は一人、うささはじっと獣人族を見つめると瞬きする事なく、背を向けた。
「分かった、帰る……私達道に迷ってたの」
「それならば向いている方向に真っ直ぐ歩けば外に出れる、二度と迷い込むな」
獣人族の言葉に背を向けながら手を振る。
「ウサちゃん、すんなり帰って良いんですか?」
「ええ、確認したい事は出来たし、何より……『見られてる』」
「見られてる?誰にっすか?」
「さあ?ただアイドルたるもの、感じる視線には気付くのよ」
そう言いうささはとある方向に視線を向けた。
「今……目が合ったか?」
獣人の森より50km離れた街の高台から能力で監視を続ける、こんな距離で目が合うなんてありえない……考えすぎなのだろう。
「ったく、英雄組合も赤髪も……俺を酷使し過ぎだよ」
ポケットから目薬を取り出して目に垂らす、結局異世界でも現実でも大差は無い、良いように使われる……何にも変わっていない。
だが異世界の方が人の役に立っている感はある、それだけが唯一の救いでもあった。
「赤髪は何してんだ?」
能力でカナデの周辺を視認する、どうやら一緒に居るメリーとやらと畑を歩いていた。
「随分と暇な事だ」
泥だらけのメリーとエルフの女性、獣人族の少女にカナデの四人でなにやら戯れあって居る、あいつの周りにはいつも女性が居る。
異世界物の主人公か何かなのだろうか?
正直羨ましい限りだ。
こう言う役割上、ド派手なバトルも無いし、アニメや漫画のようなヒロイン的存在との出会いもない……つまらない異世界生活だ。
「ヤニ休憩するか」
能力を切ってタバコに火を付ける、上から言われてずっとカナデの監視を続けて居るが、まあメチャクチャな奴だった。
転生者を殺すのに躊躇がない、だが完全に冷酷な人間って訳でもない……異世界人には見た所危害を加える様子もない、信念がある人間ではある。
俺が殺されて居ないのも役立つからなのだろう、正直仲良くはなれない……だが、信用はできる。
『新城、今大丈夫か?』
通信魔法でコールも無くいきなり声が聞こえる、この手段で連絡して来るのは一人、槙島さんだった。
『はい、なにかありましたか?』
『織部との連絡が途絶えた、場所はナルハミアより90km程北にある小さな廃村なんだが……行けるか?』
『能力上限は50なんで……ここから300kmは離れてますし、厳しいですね』
織部、クリミナティの調査に出て居た英雄組合のメンバーの一人、カナデが円卓に来た時にはもう既に居なかったメンバーだ。
だが織部がそう簡単にやられるとは考えられない……一人でクリミナティの危険な調査を任されると言う事はそれだけの実力者という事、実力は組合の中でもかなり上位のはずだった。
だが……連絡が途絶えるなんて事も無かった、蓮二のように連絡を面倒臭がる性格でもない、考えられる可能性は二つ。
捕まり、連絡が取れない状態か、死んだと言う。
『新城は継続してカナデを見張っててくれ、織部の方は俺と剛城で調査する』
『分かりました』
そう告げると槙島との通信が切れる、皆んなクリミナティやら別の案件で散り散り、それに加えて……屑城さんも半年近く見ていない、英雄組合もそろそろ潮時かも知れなかった。
屑城さんが英雄組合を作った時に掲げた、手を伸ばせる範囲は全て助けると言う目標……今思えばイカれた目標だった。
短くなったタバコを指で弾いて飛ばす、そして剣で火種を消そうとしたその時、空中でタバコが小さく爆発した。
「なんだ!?」
「異世界だからって、ポイ捨てして良いのかな?」
自分以外に人が居ない高台で声の主を見つけるのは一瞬だった。
この場……と言うか、この世界に不釣り合いなまるでアイドルの様な服装を見に纏ったピンク髪の少女になんの特徴も無い黒髪の青年、少し前に獣人族の森で確認した二人組だった。
「なんだお前たち」
「なんだとは失礼ね、私の顔に見覚えないの?」
そう言われるが彼女は今日初めて見た、だが……獣人の森から此方を認識したと言う事は転生者なのは間違いなかった。
「生憎だが知らん」
「君、アイドルとか見なかった感じ?」
「アイドル?別に好きでは無いが、一般的な知識程度だな」
「じゃあ私の事知ってるでしょ?」
「だから知らんって」
即答する新城に、横に居た青年は思わず吹き出す、するとうささは彼を睨みつけた。
蛇に睨まれたカエルのように青年は固まる、主従関係が出来ている様だった。
「まぁ大体あんたが何者かは分かった、それで……アイドル様が俺に何の用だ」
「君、能力で私達のこと見てたでしょ?」
「能力?何のことだ」
「しらばっくれても無駄よ、私の能力に掛かれば……嘘もお見通し」
指で輪を作って望遠鏡の様に瞳で覗く、彼女の目をよく見るとピンク色だった。
カラコンかどうかはどうでも良い、だが能力は目に関連している。
「嘘だと、どう証明するんだ?」
「私の目は相手の心を見透かす、嘘があれば曇る……君の心は曇ってるのよ」
ブラフ……では無い様だ。
「あぁ、見てた……だが別にあんたらを監視してた訳じゃ無い」
片方は戦闘能力の無い力だが、男の方は分からない……そして此方の能力も割れているだろう。
それに数的不利……こいつらの目的が何かは分からないが、戦闘は避けたい。
「別に監視は疑ってないわ、私達はまだ動き出してすら居ないのに、マークされる筈が無い」
「ウサちゃんさん!!」
青年が突然大声を出す、この感じ、うささが失言をしたのだろう。
動き出していないと言う事はクリミナティとは別の組織……目的や人数を聞き出したいが、下手をすれば消される。
だがここに来て新たな勢力とは……敵でない事を祈るしか出来ない。
「君、英雄組合の人間でしょ?」
この質問……どう言う意図なのだろうか。
英雄組合をターゲットとしている敵組織なのか、ただの加入希望者か……正直後者の線は薄い。
英雄組合と名を出して大々的に活動している訳でも無い、槙島も最近は勧誘活動を辞めてクリミナティ探しに専念する様に言っている……織部の失踪と言い……嫌な考えが脳裏を過ぎる。
心臓の鼓動も早くなる、戦闘向きではない能力故に、俺は戦闘が不得意だ。
女の方は分からないが男からはカナデに似た雰囲気、強者の風格を感じる……戦闘になれば間違いなく殺される。
最悪だ。
緊急用の救援を伝える通信魔法があるにはあるが、あれは一番近いメンバーに送信される、そして今近いのはカナデ……助けに来るはずが無い。
「お前らの目的は何だ?」
少し後退りをし、尋ねる。
念の為救援は送るが……期待はして無い。
「目的は言えないけど、まぁ敵では無いよ」
そう、うささは言うが信じられない。
転生者に限らず、人間の言うことなんて嘘が8割だ。
「そうか、なら……その漏れてる殺気をどうにかしてくれないか?」
新城の言葉にうささは笑みを浮かべる、当然殺気なんて感じる能力は無い。
ブラフを掛けた、答えは笑みだった。
「君の能力は……私と同じ目に関する能力と見た」
そう言いうささはゆっくりと近づき、目を見る、至近距離に来る彼女の目は凄く綺麗なピンク色だった。
「心配しなくても別に君を殺しに来た訳じゃ無い、ちょっと情報が欲しくて」
「情報?」
「赤髪の情報、君と一緒に喋って居るのを見かけてさ」
赤髪……カナデの事だろう。
彼も人気者だ、彼の情報について聞かれるのは初めてでは無い。
皆んな彼を知りたがる……だが、無理は無い。
転生者の多くは彼に殺されて居る、転生者が唯一恐れる存在でもある……何者かなんて俺も知らない。
ただクリミナティの人間を追い、片凪と言う奴を異常なまでに恨んでいるという事しか知らない。
「何故赤髪の事が知りたいんだ?」
「教えてくれたら、教えるよ」
「そう簡単には教えられない、教えると俺の命が危ないからな」
「なら、殺しはしないけど、力尽くで……聞き出すまでだよ」
そう告げるうささ、相手は二人に対して此方は戦闘向きではない能力に加えて一人、腹を括るしか無かった。
「不運だな」




