第92話 ジャガイモ取れた!
「ジャガイモ取れました!」
泥だらけになりながらじゃがいもを掘り返すメリナーデ、労働に喜びを見出し楽しんでいる一方で、カナデは感じた魔力の出どころを探していた。
「住宅街の何処かだか、詳細な位置は分からんな」
似たような木造の簡易的な家が立ち並ぶ、獣人族は人間の街程発展はしてないらしい。
警備体制も人力、魔法を使っている様子もない……これじゃクリミナティの奴らなら簡単に入れる。
だが何の為に獣人族を狙うのか、それが分からない。
ガルフィードとの特訓から抜け出して来た呑気な表情をしているムタがカナデの少し後ろを歩いている、妙なのにも懐かれた。
「そういや、カーニャはなにしてんだろうな」
空を見上げる、正直彼女を此処まで心配する自分に驚きだった。
何というか、妹と言うのか、娘というべきなのか……そんな感じだった。
「まぁ、元気にやってれば良いや」
カーニャの心配もそこそこに、怪しい人間が居ないか魔力探知を行いながら捜索する、獣人族は耳や尻尾が生えている故に人間を見た目で探すのは容易だった。
問題はそいつがアホでも無い限り、こんな昼間っから外で出歩かないと言う事、流石にそう簡単には見つかる筈無かった。
「師匠、早く稽古を付けるっす」
「待てって、こっちもやる事あるんだよ」
「嫌っす!」
大人しかったと思えば、急に我が儘モードに入り戯れて来るムタを引き剥がそうとする、彼に構いながら歩いていると曲がり角で人とぶつかった。
「あ、すみません」
「あ、こちらこそ」
ぶつかった相手に謝罪をする、首元まで伸びた深い赤色の髪が視界に入った。
獣人族での赤髪は然程珍しくない、だが彼女の頭に獣人族特有の獣耳は無く、尻尾も無かった。
「赤髪……」
ぶつかった女性はカナデに聞こえるかどうかの声量で呟く、そしてカナデが立ち止まると彼女は走り出した。
「あいつが犯人か」
こんなにもあっさりとクリミナティの人間が見つかるとは拍子抜けだった。
こんな市街地に異世界人が居るはずもない、それに赤い髪を見て逃げ出したと言うことは、少なくともカナデの事を認識している証拠だった。
「とっ捕まえて……って、あれ?」
隣に居たはずのムタが居ない事に気が付いた。
一瞬クリミナティの女から視線を外す、そしてムタが居た場所を確認して再度戻すと、クリミナティの女はムタに腕を後ろで固められて捕まっていた。
「痛い痛い痛い!!」
「師匠!とっ捕まえたっす!!」
今の一瞬で良く捕まえられた物だった……だが、ムタに捕らえられたと言う事は転生者では無いのだろうか。
「良くやった、それで……お前は何者だ?」
「ひっ……」
剣を軽く頬に突き付ける、相当怯えている様子だった。
「ムタ、取り敢えず解放しても良いぞ、どうせ逃げれる訳ないしな」
もし転生者だった場合、ムタが危険になる可能性もある、いつまでもクリミナティの女に触れさせるのは危険だった。
「はいっす」
そう言うとムタは手を離す、頬に剣が当たっている事もあって女は逃げる様子は無かった。
「もう一度聞く、お前は何者だ?」
「えーっと……」
「嘘をついたとこちらが感じたら、どうなるかは分かるな?」
「ぴっ……」
突然の脅しに驚きすぎたのか、変な声を出す……此方としてはクリミナティだと、その一言が聞きたいところだった。
「あ、あの、あのあのあ……えっと……」
恐怖からなのか、口が回っていない……本当にクリミナティなのか怪しくなって来た。
「分かった、こっちから聞くから答えろ……お前はクリミナティか?」
女は少し表情を歪ませる、だが観念したのか、素直に頷いた。
「目的はなんだ?」
「わ、分からないです……」
その言葉にカナデは剣を強く喉元に突き付けた。
「本当の事を言え」
「ほ、本当に分からないんです!上から時期が来るまで待機しろって言われて、だから何をするかなんて聞かされて無いんです!」
必死に彼女は弁明する、嘘をついている様子は無い……少なくともカナデで確認出来る範囲では嘘の様子は無かった。
「上の者ってのは誰だ?あと確認だが転生者で間違い無いな?」
「はい……上の者って言うのは木中さんです」
「木中……あいつか」
嫌な記憶が蘇る、だがあいつが噛んでいると言う事は教祖が絡んでいる可能性もあった。
「木中からなんて言われた、具体的に言え」
「えっと……重要な任務を任せるとかで、とにかく獣人族の国でバレない様に潜伏しててくれとだけ……」
「潜伏……何の為にだ?」
「分からないです、ただ任務を任されたのが初めてだったんで……」
彼女は少しだけ嬉しそうにする、余程クリミナティでの立場が低いのだろう。
だが彼女の事はどうだって良い、問題はなぜ獣人族の国に彼女が送られたのか、こんな様子じゃ獣人族にもすぐバレる筈だった。
任務の重要性が低いのか……考えても分からない。
「どれくらい前から居るんだ?」
「ちょうど1ヶ月になると思います」
「その間は何を?」
「えっと、森をぶらぶらしたり、現地の方とコミュニケーションを取ったり……」
「獣人族はあんたの存在を認知してるのか?」
その言葉に頷く、人間嫌いの獣人族が良く彼女の存在を許した物だ。
確かに無害そうな見た目をしているが……まぁ、その辺の事情は後でガルフィールドにでも聞けば良いだろう。
「よく分からん……だが野放しには出来ないな」
此処ですぐ殺すのは流石に早計すぎる、クリミナティのメンバーを捕らえる事が出来るチャンスが今後来るのかも分からない、これは大チャンスだった。
「クリミナティの内情は何処まで知ってるんだ?」
「殆ど知らないです、大体指示は木中さんから来ますし」
「他のメンバーも知らないのか?」
「はい、元々一人でフラフラしてた時に木中さんから勧誘受けて入ったので」
嘘は言って居ない……一体何なのだろうか。
木中は彼女が見つかるまでを見越して、此処に配置したのか……正直めぼしい情報は全く無かった。
「まぁ……ガヌスに処遇は任せるか」
「うぅ……殺さないで」
「人を殺した経験は」
「そんな、とんでもない!?」
この反応、殺した経験はないらしい。
この世界では、特に転生者の中では珍しい……まぁ、彼女が正常で、異常なのは俺達の方なのだが。
「そうか、なら尚更クリミナティに居る理由が分からんな」
「居場所が無かったので」
「早計だったな」
「はい……」
ムタと挟み込むように彼女を中心に置き、ガヌスが居る国の中心、大樹の方向へと向かう。
その道中、彼女は何度もカナデの顔をチラチラと見ていた。
「何見てるんだ」
「あ、いや……ごめんなさい」
「別に謝罪が聞きたいんじゃない、何で見てたんだ?」
「あの、話しに聞いてた様な人じゃ無かったので少し……驚いて」
「話し?」
「はい、木中さんから、赤い髪に高身長、そして異様な程に冷たい雰囲気を感じる人間を見掛けたら逃げろと、転生者は問答無用で殺すからと言われてたので」
強ち間違っては居ない。
今は問答無用では無く、ある程度の選別はするが、殺すのには変わりなかった。
「一つ勘違いしないで欲しいが」
「はい」
「俺は転生者を殺すのに躊躇はない、お前ら……いや、俺達は人であって、人では無い……だから必要とあればお前も殺す」
その言葉に彼女は唾を飲み、黙り込んだ。
その圧は能天気なムタをもビビらせるほどだった。
彼らに同情は必要ない、中には善良な転生者も居るのだろう……だが、大多数が異世界の人を、皆んなを不幸にする。
アルテリアの様に故郷を破壊される者もの居る、リリアーナ教の被害にあった人達も……転生者は俺を含め、善とか悪とか関係無く、いない方が良かった。
「まぁ精々大人しくしておく事だ、何もしなければ俺も殺しはしないからな」
「はい……」
蚊の鳴く様な声だった。




