第91話 お仕事体験
更新忘れてました
10話くらいカクヨムの方が早く進んでいるので良かったら
「ほろ酔い気分で気持ちが良いですねー」
「酒弱いのに良く飲むな」
ビールを煽りながら上機嫌にカウンター席に座っていたメリナーデは足をパタパタとさせる、カナデと彼女の関係性を聞いていなかったが、恋人同士と言う訳では無さそうだった。
だが血縁関係にも見えない……会話の内容と敬称から考えてカナデより上の立場と言う印象だった。
服装は無駄に胸が強調されているが貴族や王族の身につける程高級な物でも無さそうだった。
彼女は何者なのか、此処まで感情が読めない人間は初めて会った……数百年生きて初めての事にエラーリアの好奇心は強く掻き立てられていた。
だが此処は質問をせずにメリナーデに合わせてお酒を飲む、質問を多くする者は警戒される。
相手の何かを聞き出そうとしているのでは無いかと身構えられ、本心を聞き出せなくなる……まぁ長年生きているとそう言うのはわかる様になる。
「此処の酒も美味しいけど、やっぱエルフの里のお酒が恋しいな」
「エルフの里にもお酒があるんですか?」
「勿論、エルフとドワーフ、この2種族は酒豪が多いんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、酒豪が多い種族は酒の質も重視する……その中でもエルフの作るお酒は最高なんだ」
エラーリアの説明をメリナーデは食い入る様に聞く、時代も変わった物だった。
「時代も変わったもんだよ、ドワーフとは元々険悪だったけど、どの種族も自身のコミュニティだけで生きる様になったし」
昔みたいに各国を回ってお酒を飲む……なんて事も出来なくなった。
「あまり……この世界には詳しくありませんが、争いは生きてる者の定めなのかも知れませんね」
「定め……ね」
私にはよく分からない。
何故争うのか、何の為に戦争をするのか。
「皆んな仲良く、酒でも飲めば良いのにさ」
そう言いメリナーデのグラスに軽く自身のグラスを当てる。
「自分達が生きやすい為に、人間に限らず、生き物は自己を守る為なら、他者を簡単に切り捨てれますからね」
「まぁ、自分が大切なのは否定出来ないね」
能天気な酒馬鹿かと思えば妙に達観した考えを持っている……思考と言うか、感情の読めない性質と言い、ますます謎が深まる。
メリナーデの話しを引き出そうと自分から色々と話したが、まどろっこしかった。
「なぁ、メリナーデは何者なんだ?」
「私ですか?」
エラーリアの質問に相変わらずニコニコしながら首を傾げる。
何と言うのだろうか、この不気味さ。
見た目はかなりの美人で人柄も良い……だが、感情が読めないせいか、言い表せない不安を感じていた。
「私はただの愚かな者達の1人ですよ」
「皮肉が効いてて良いな」
メリナーデの言葉に笑う、そろそろ酔って来たかも知れない。
カウンターにはメリナーデのと合わせて20以上のグラスが置かれている、この程度で酔うとは私も酒が弱くなったものだ。
「マスター、勘定お願いするよ」
「随分と飲んだな、あんたら」
ずっとカウンターで腕を組みながらこちらを見ていた少しガタイの良い女店主がグラスを数える、今思えばこの店、値段が貼られて居なかった。
少し嫌な予感がする、今思えば朝という事もあるが……人が自分達以外に居なかった。
グラスの縁をぺろぺろ舐めているメリナーデの服を引っ張る、法外な値段を要求される可能性があった。
「ちょっと、今お金どれくらいある?」
「お金ならこれぐらいです!」
そう言い酔っ払いながら勢いよく机に銀貨が少し混じっているが大量の金貨をぶちまかす、予想以上の大金に店主も少し引いて居た。
だが、これだけあれば足りない心配はなかった。
「悪いな、この店の支払いは金じゃ無いんだ」
そう言いカウンターの向こうに散らばった金貨を拾い上げると机に置く、支払いがお金では無い店など聞いた事が無かった。
なら仕入れはどうして居るのか、そもそも何で生計を立てて居るのか……疑問は止まらない。
2人して鳩が豆鉄砲を食ったような表情をして居ると店主はエプロンを外すと腕を捲りカウンターから出て此方へ来る。
腕には生々しい傷が無数に残って居た。
「あれ、もしかしてヤバイですか?今」
かなり体格の良い女店主が腕を捲り近づいて来た事によってメリナーデの酔いが一気に冷める、身の危険を感じていた。
「あんたら働いた事はあるか?」
店主の言葉に顔を見合わせる、当然メリナーデはある訳無かった。
「私は……無いです」
「そっちのエルフは?」
「私も……ないな」
少しの間を置いてエラーリアが告げる、すると店主は背中を向けた。
「なら今回の代金は今日一日手伝いだ、飲み食いした分働けよ」
その言葉に2人して顔を見合わせる、するとエプロンが顔面に飛んで来た。
「それ付けな、取り敢えずは洗い物と店内清掃からだ」
「はい……」
労働、神様であるメリナーデはそんな物とは無縁だった。
エラーリアが洗った皿を拭こうとタオル片手に皿を持つ、だが謎の力が働いたように皿は手から離れると盛大な音を立てて割れた。
「気を付けろよ」
店主も働いた事が無いと分かっている故に優しかった。
最初は。
「ああ!?」
また皿が飛んで行く。
洗った皿よりも割れた皿の方が多かった。
「頼む、もう皿を触らないでくれ」
店主は怒るでもなく、心からの懇願だった。
メリナーデは皿の代わりにモップを渡される、店内清掃をやれと言う事だった。
「あの人間はどうやって今まで生きてきたんだ?」
「さぁ?私もあったばっかりだし、よく分からないけど、駄目人間なのは明白だな」
カウンター越しにバタバタしながら掃除をするメリナーデを2人は眺める、何もしなくても良い……余程良い環境で育って来たのだろう。
「お掃除出来ました!!」
自信満々な表情でメリナーデは言う、だが彼女の後ろには寧ろ悪化した水浸しの床が広がっていた。
「一つ聞くが、何を持って完了したと?」
「えっと、床を拭きました」
「それから?」
「それから?」
店主の言葉を不思議そうに復唱する、見兼ねたエラーリアが乾いたモップを渡した。
「乾拭き、それだとびちゃびちゃだろ?」
その言葉にハッとした表情をする、濡れたままではいけないという事は、流石のメリナーデでも分かる様だった。
店主とエラーリアは顔を見合わせる、少し大人びた雰囲気なのだが、放って置いたら危ない子供の様だった。
「そう言えばマスターの名前は?」
「アンだ、エルフと人間、珍しい組み合わせだが何しにこの国へ?」
アンはそう告げるとカウンターの席に腰掛ける、何をしに来たと聞かれたところで、エラーリア自身もイマイチ分かって居なかった。
「カナデって人間がクリミナティって言う犯罪組織の人間を捕まえる為に来たんだと、メリナーデは旅のお供?って感じなのかな」
「その感じだと、2人とは出会ったばかり?」
アンは鼻を触りながら尋ねる。
「そう、港町で一休みしてたんだけど、獣人族の国への入国を手伝ってくれって言われてさ」
「よく入国が許可されたね、エルフと言えど、他種族はあまり入国させないんだけど」
「まあツテがあって、伊達に長生きしてないから」
「そういや、エルフは長寿の種族だったね」
他愛も無い会話をしながらエラーリアは洗い物を続ける、家事をするのは何百年振りだろうか。
こうしているとエルフの国を思い出す。
しみじみと物思いに耽っているとメリナーデの自信ありげにエラーリアを呼ぶ声が聞こえた。
その声にアンとエラーリアはカウンターの向こう側を見る、先程の水浸しだった床は綺麗に輝く……と言うほどでは無いにしろ、綺麗になっていた。
「まぁ、さっきのを考えると上出来だな」
「このくらいは出来て当然ですから!」
謎にドヤ顔で告げる、隠しているつもりなのだろうが、嬉しい感情がエラーリアには伝わっていた。
「そっちはどうだい?」
アンの視線はエラーリアに映される、ちょうど最後の一枚を戸棚にしまった瞬間だった。
「終わったみたいだね、なら次行くよ」
「え、次?」
てっきりエラーリアは自身達が飲食した食器を片付ければそれで良いかと思っていた、それゆえの反応なのだが、メリナーデは何故かやる気に満ち溢れていた。
「行きましょう、エラーリアさん」
「なんで急に目覚めてんの」
「労働の喜びというものを見出した見たいです」
「うざ」
「酷いです?!」
メリナーデとエラーリアの会話にアンは笑みをこぼした。
「あんたら仲良いな、人間とエルフ……皆んながあんたらみたいな関係だと良いんだけどな」
「そうだな」
アンの言葉に、エラーリアは微笑んで答えた。
人間とエルフ、獣人やドワーフ……それぞれが手を取り合い生きる未来……それが来ればどれだけ良い事か。
「アンさん、早く次の現場へ行きましょう!」
「ったく、次ヘマしたら叩き潰すよ」
メリナーデの言葉にアンは微笑みながら店を出る、エラーリアはその後を歩いた。
「心配しただけ損だったな」
「何がっす?」
ガルフィードとの鍛錬から抜け出し、無理矢理引っ付いて来たムタを引き剥がしながら影で見守っていたカナデは呟く。
「こっちの話だ」
メリナーデが楽しそうで良かった。




