第87話 裸族のエルフ
「いい飲みっぷりだね!デカ乳のねーちゃん!」
「貴女も、中々れふよ!」
かなり酔いの回った2人に挟まれて無になる、メリナーデは酒が弱い癖に良く飲む、だがエルフの彼女はかなり強い様だった。
「そう言えば名前がまだだった、私はエラーリア、こう見えて350年以上は生きてるぞ」
「わたひはメリナーデ、こう見えて数万年は生きてます」
「どひゃー!」
アニメの様なリアクションでエラーリアは驚きを見せる、楽しそうで何よりだった。
「ちょっと上に行くんで何かあったら大声で呼んでくださいね」
「「は〜い」」
2人は声を揃えて返事をする、カナデは灯台のてっぺんに行くと真っ暗な海を眺めた。
カーニャと別れてから2日、彼女は元気にやっているのだろうか。
娘が出来ていたら、こんな気持ちなのだろう……心配だった。
大切な人が居ると言うのは心に余裕が出来ると同時に、恐怖も生む……もしカーニャが殺されたら、どうなるか分からない。
何の気無しに、気まぐれで彼女を引き取った。
人生は何処で何があるか分からない物だった。
彼女のおかげで、恐らく俺は辛うじて自身を保っている。
復讐に飲み込まれず、なんとか。
だからこそ、彼女が居ない今が不安だった。
「何黄昏てんの」
「エラーリアさんですか……って!?」
また全裸だった。
「悪いね、服ってなんか気持ち悪くて基本裸族なんだ」
「そ、そうですか……」
なるべく彼女の方は見ない様にした。
「カナデは、色々と抱えてる様だな」
「そう見えますか?」
「見えると言うか、分かる、エルフは人の心を感じ取る事が出来るんだ、悪意とか善意とか……不安とか恐怖も」
そう言えば、そんな話しを聞いた事がある。
「大切な人を、失った?」
「まぁ、そうですね」
「そっか、350年も生きているとそんな経験ばかりさ」
そう言い何処に持っていたのか、タバコに火を付ける。
「まぁ出会ったばかりのカナデに言うのもあれだけど、早く死にたいんだよな、私」
「早く死にたい……ですか」
「そ、自殺はしたく無いけど、死にたい……誰か殺してくれるのを待ってるって感じ」
自殺は嫌だが、死にたい……不思議な人だった。
「なら、なんであの地下に?」
「まぁ、小休憩的な?」
「長い時を生きるエルフの考えは分からないですね」
そう言いカナデはポケットに手を突っ込む、今思い出せば……エルフと出会うのは2回目だった。
まだエルフィリアがあった頃、まだ平和だった頃に……エルテラと言うエルフの少女を助けた。
彼女は元気だろうか。
「エルテラって言うエルフを知ってますか?」
「エルテラ……エルテラ……だめだ、人の名前を覚えるのが苦手で、知ってても多分名前は覚えてない」
「別に良いですよ、古い記憶ですから」
そう言いエラーリアの方を見そうになるが、彼女が裸なのを思い出して視線を前に向け続ける。
こうしてのんびりと話しているが、今抱えている問題をどうにかしないと行けなかった。
獣人族の国へ向かう、それ自体は簡単な事だ。
だが問題は入国方法、エルフも獣人もドワーフも、知性があり、国を持つ種族は何処も閉鎖的で独自のコミュニティで生きている。
その中でも人間は一番嫌われている、理由は明白、自己中心的で、彼らを狩って来たからだ。
獣人族は他種族の中でも特に人間への恨みが強い筈……どうしたものか。
「何か悩みごとか?」
心を感じれる彼女はカナデの悩みを察する。
350年以上生きている彼女なら、何か策があるかも知れなかった。
良いタイミングで良い人物に出会った物だ。
「獣人族と繋がりとかあります?」
「獣人族?またなんで?」
「あー、こっちの事情で行く必要があって」
「まあ、無い事は無いよ、伊達に350年も生きてないからな」
運が此方に向いて来た。
「本当ですか?」
「うん、何人か知り合いが居るし、獣人族はエルフと仲が悪い訳でも無いからさ」
「今日会っていきなりで申し訳無いんですけど、仲介とかして貰えませんか?」
「勿論良いけど、貸しは高くつくぞ?」
「俺にできる事であれば」
今更貸しなんて痛くも痒くも無い、獣人族の国に入れるのであれば何であろうとお釣りが来る。
「じゃあ決まり、出発はいつにする?」
「今日……と言いたいとこですけど」
下から聞こえて来るメリナーデのいびきに言葉を止める、カナデの心境を察したエラーリアはおかしそうに笑った。
「そういえばメリナーデって何者なんだ?」
「何者……ですか」
「あれ程心を、感情を読めない相手は初めて出会った」
「感情を読めない?」
「そう、表面上じゃよく笑って、泣いて、感情豊かだが、エルフ特有の感覚共有とか、心の動きとか……それが一切ないから気になってさ」
恐らくそれが見えないのはメリナーデが女神だから、とは言え馬鹿正直に女神と言う訳にも行かない。
何処で誰が聞いて居るかも分からないのだから。
「メリナーデ様はただの酒好きですよ」
「そっか」
カナデの言葉にエラーリアは特に追及する事も無く、納得した。
嘘と分かりきって居るにも関わらず。
恐らくエルフとして長い年月を生きたからこそ、その辺の線引きはきちんとして居るのだろう。
「カナデさ〜ん、何処ですか〜」
下からメリナーデの泣き声が聞こえる、今日の酔い方は泣き上戸らしい。
「そう言えば、カナデの旅の目的はなんなの?」
「旅の目的は復讐ですよ」
「成る程、大切な人を奪った奴への?」
「ええ、エルフィリア、聞いた事ありますよね」
その言葉にエラーリアは察した。
「あの国に生き残りが居たんだ」
「多分俺だけですよ」
「殆ど此処から動いてないけど、その事件だけは噂が凄かったからね……一夜で無くなったんだろ?」
「国が一夜で無くなるなんて信じられないですよね」
「具体的に何があったんだ?ドラゴンが攻めて来たとか?」
国が一夜で無くなるとすればドラゴンの軍勢が攻めて来るとか、それぐらいしか考えられない。
だがエルフィリアと言う大国を潰すにはそれでも弱い。
「1人の男ですよ、名は片凪圭介……こいつが全て壊したんです」
「1人の男……それは、冗談じゃなさそうだ」
あまりにも現実的ではない言葉、だがカナデに嘘偽りは無い……笑うしか無かった。
「でも、1人の人間が国を滅ぼすなんて現実的じゃないよね」
「そうですね……普通に考えれば、でも普通では無い事が起こった」
「普通じゃない事?」
「転生者の出現です」
「転生者?」
エラーリアは当然の反応を見せた。
転生者なんてこの世界の人間からしたら聞き馴染みはない、彼らの存在は異世界の人々からすればただの強い人達程度だ。
「簡単に言えば元々この世界の住人じゃない者達です、神の使者……と言う表現でも良いです」
彼らはリリアーナに力を与えられ、転生して来た、神の使いと言っても間違いは無い。
「そんな人間がなんでエルフィリアを?」
「さぁ、人の心は読めませんから」
滅した理由など、今更どうでも良かった。
「俺の目的は転生者をこの世界から消す事です」
「この世界から……消す」
エラーリアは現実味の無い話しばかりに少し困惑しながら復唱する。
「元々はこの世界に居なかった者達……居てもこの世界のバランスを崩すだけですから」
「部外者の私が何を言った所で、どうでも良いと思うけど……」
「なんですか」
「あまり、背負い込み過ぎは良くないぞ」
エラーリアはカナデを心から心配していた、長く生きていれば当然復讐に身を落とす者を知る機会もある、そしてその人物達は復讐を成し遂げたかどうかに関わらず、幸せには当然なる事は無かった。
「そうですね」
一瞬同意にも取れる返事をするが、勿論思ってなど居ない。
背負わずには居られない、あの国が消えたのは自分の責任でもあるのだから。
そして彼らを殺せるのもカナデしか居ない、自分が背負わずして誰が背負うのか。
この世界で最強とも呼ばれるメイガスタでさえ、転生者を1人倒すので精一杯の筈……それ程までに彼らとの力量差がある。
俺が、やらなくては行けないのだ。
「メリナーデ様がうるさいので、見てきますね」
「うん」
カナデは下へ降りて行く、此処まで……人に恐怖を感じたのは初めてだった。
彼の転生者への恨みは尋常では無い、何故あそこまで強く……禍々しくなってしまったのか、理解出来なかった。
「世界は広い……って訳か」
吸い終わった吸殻を、指で弾き、海へ投げ落とした。




