第88話 いざ、獣人の国へ
頭が痛い。
何が起こったのか……そもそも何をして居たのか、曖昧な記憶を思い出しながら体を起こす。
寝起きで視界がぼやけて居た。
「えーっと……カナデさんと港町に来て」
お酒飲んで……そっから覚えて居ない。
立ち上がろうと手の位置を変えようとする、すると柔らかい物の感触があった。
「何ですかこれ」
「朝から大胆だね」
全裸の女性が隣に居た。
「だ、誰ですか!?」
耳が尖って居る、彼女はエルフ……いや、種族なんてどうでも良い。
問題は全裸の彼女が隣に居ること、自分は服を着て居るが……一夜を共にした?
「朝からもう1ラウンドするのか?」
そう言い少し近づいて来る、カナデも居ないし、酒の缶も散らばりまくって居る……記憶が無いせいで彼女との関係も分からなかった。
「エラーリア、あまりメリナーデ様をからかわないで下さいよ」
「ごめんごめん、多分記憶ないだろうからついね」
そう言いエラーリアは缶を踏みながら服を取りに行く、良かった……過ちは犯して居ないようで。
貞操は守られた。
一安心して居るメリナーデの耳元で、エラーリアは服を着ながら呟いた。
「私はいつでも歓迎だからね」
「ひえっ」
エラーリアは服を着て去って行った。
「今日は元気ないですね、二日酔いですか?」
表情が引き攣って居るメリナーデにカナデが問い掛ける、今更だが何故女神なのに二日酔いになるのか少し疑問だった。
まぁ些細な疑問なのだが。
「まぁ……二日酔いですね」
「今日は長旅になるんですから、薬飲んどいて下さいよ」
「旅?行く場所がきまったんですか?」
「獣人族の国ですよ、英雄組合に返し切れない貸しを作る為の一歩ですよ」
カナデの言葉にメリナーデは何とも言えない表情をして居た。
「出発前に一服だけ良い?」
そう言いタバコのハンドサインを送る、早く出発したい所だが、数分急いだ所で別に意味は無かった。
「俺も付き合いますよ」
「お、良いね」
カナデの言葉にエラーリアは少し嬉しげにタバコを手渡した。
タバコを吸うのは何十年振りだろうか。
この世界に来てからは恐らく吸って居ない……向こうの世界では仕事のストレスを少しでも減らす為に吸って居た。
タバコに魔法で火を付ける。
何故だろうか、少しだけ鼓動が早く感じた。
タバコを口につけ、一息吸う……だが直ぐに咽せた。
「ははっ、もしかして初めて吸った?」
「……そうですね、初めてです」
この世界では。
少しクラッとする、あれだけ吸って居たタバコも……この体では受け付けないらしい。
昨日とは違い、特に言葉を交わすこともなく、波のさざめきを聴きながらタバコを吸う、そして短くなるとカナデは炎魔法で燃やし、消し炭にした。
「待たせたね、行こうか」
そう言いエラーリアは吸殻を海へ投げ捨てた。
「エラーリアさんって本当にエルフですか?」
「この耳が何よりの証拠だよ」
「どうだか……」
その言葉に疑念の視線を向ける、ここまでズボラで適当なエルフが存在するとは……いや、メリナーデが居るのだから、不思議でも無いか。
「そう言えば、獣人族の国までは何で行くんだ?」
「それに関してはもう到着してる頃ですね」
カナデの言葉に2人は首を傾げる、到着も何も出発すらしていないのに、何を言って居るのかと言う表情だった。
「少し待ってて下さい」
そう言いカナデは外に出ると影に沈んだ。
影の中は真っ暗闇だった。
だがその時間も一瞬、光が見えるとカナデは一気に浮上した。
「ここは……何処だ?」
「獣人族の国、ビルストの数キロ手前……人使いが荒いったらありゃしねぇ」
岩場に腰掛け、カナデの出現にも驚きもせずに不機嫌の新城が愚痴を垂れる、昨日のうちに彼を此処へ行くように指示したのだが、予想以上に早い到着だった。
「お前も英雄組合なんだろ、少しは協力しろ」
「少しって……まぁ良い、他にやる事はないか?」
「取り敢えず英雄組合の伝言役を頼む、何かあれば伝えてくれ」
「了解」
そう言い岩から降りると新城は何処かへ去って行く、なんだかんだ言っても彼は協力する。
転生者の中では割と使える方だった。
まだ利用する価値はある、彼を最初に殺さなくて正解だった。
「しかし……国なのか?」
人間の街のように発展した街がある訳では無い、ただ森林が広がって居るだけだった。
「取り敢えず、2人を連れて来るか」
地面に魔法陣を出現させるとエラーリアとメリナーデを召喚しようとする、だが魔法陣は光ものの、2人を召喚出来なかった。
「召喚魔法が発動しない……おかしいな」
向こうの2人に何か異変がある訳では無い……魔法が不発なのは初めてだった。
一先ず転移魔法で向こうへ戻ると2人を連れて転移する、転移魔法は問題なく発動した。
ならば何故召喚魔法は不発だったのだろうか。
発動条件も良く理解して居ないが……調べるのはまた今度でも良さそうだった。
「久し振りに来たなー、ビルスト……変わってないな」
「仲介、頼みますね」
「任せといて」
そう言いエラーリアは先頭を歩く、森の中へ入ると殺気をいくつも感じた。
「本当に大丈夫なんですか?」
「何が?」
エラーリアは気付いて居ないようだが、この殺気……歓迎はされて居ないようだ。
『この森に立ち入るな!これは最初で最後の警告だ、今すぐ森から出なければ我々は攻撃をする!』
「て言ってますけど、大丈夫そうですか?」
「心配性だなー」
やれやれと言ったポーズでエラーリアは忠告を無視して歩く、すると次の一歩を踏み出す予定の場所に矢が突き刺さった。
『エルフだろうと容赦はしない!次は当てるぞ!!』
最後の警告と言い、それを無視して進んだエラーリアへの攻撃も外した……あの正確性でミスとは考え難い。
獣人族はかなり優しい種族の様だ。
「俺はカナデ、この森を侵略しに来た訳では無い、とある事情でこの国に人間が侵入した噂がある、それを調べさせて貰いたいだけだ」
剣を地面に置き、両手を上げて説明する、この国に来た理由がやましいことでも無い限り、嘘をつく必要は無かった。
「必要であれば武器の類は全て預ける、まずは姿を見せてくれないか!」
カナデの言葉に返答は無い、だが殺気は弱まって居た。
「私はエラーリア、100年程前に一度訪れた筈だ、ガヌスに話を通せば分かる」
エラーリアの言葉でどう出るか、数人の気配が消えたのを考えるにガヌスという人物に確認を取りに行ったのだろう。
そして2メートルを超える屈強な獣人族の男が1人、姿を現した。
「この国に人間が入った痕跡は無い、引き取って貰おうか」
殺意は無いが、やはり敵意は感じる。
「いや、こちらもそうですかと下がれない、それに万が一その人間が侵入して居たら、この国の存続にも関わる」
「我らの存続?どう言うことだ」
「クリミナティと言う組織の名を聞いた事は?」
「生憎我々は我々のコミュニティで生きている、人間達の組織など知らん」
少し違和感を覚える、人間の組織とは言って居ないが……まぁ、考え過ぎかもしれない。
「簡単に言うと犯罪組織です、その一員がこの国に居る可能性があります」
「何の為に」
「それを調べる為の俺たちです」
その言葉に獣人族の男は少し表情に迷いが生まれる、もうひと推しかも知れない。
「ガルフィード様!ガヌス様の確認が取れました!!」
1人の若い獣人の青年が息を切らして駆け付ける、彼の伝言で全ては決まる。
「ガヌス様はなんと?」
「ガヌス様がこの者たちを通しても良いと!」
「まさか……いや、ガヌス様がそうおっしゃるのなら」
ガルフィード、そう呼ばれた彼はあまり納得のいって居ない表情だった。
ガヌスとエラーリアの間に何があったかは知らないが、彼女の知り合いは相当地位の高い人物らしい。
正直とんとん拍子に行き過ぎて居る感じもあるが……運が回って来たのだろう。
「不審な動きをすれば、分かるな?」
「安心して欲しい、君たちに対しては俺は無害だから」
敵意剥き出しのガルフィードに案内され、カナデ達は獣人族の国、ビルストへの入国した。




