第86話 港町での捜索
時間はカーニャと別れた後、約1年ほど前まで遡る。
カナデは英雄組合の蓮二と共にナルハミア領の港町に居た。
英雄組合の当面の目標はクリミナティ壊滅もそうだが、逃亡したリリアーナ教の教祖を捕える、もしくは殺す事だった。
英雄組合としては捕らえたい様だが、そんな物はカナデには関係無かった。
「赤髪、お前は何で転生者を殺すんだ?」
「それは、今必要な質問か?」
カナデのそっけない態度に蓮二は舌打ちをする、だが別に馴れ合う必要は無い。
「一つ言っておくが、俺はお前を仲間と認めねーからな」
「勝手にしてくれ」
蓮二は異常にカナデの事を敵視していた。
それが何故なのかは全くもって理由は分からない、だが嫌われている方がカナデとしてもやり易かった。
「カナデさん、カナデさん!」
メリナーデが服を引っ張りカナデを呼ぶ。
「何ですか?」
「港町と言えば美味しい魚介類とお酒じゃないですか?」
そう言い異世界特有の貝類だろうか、よく分からない生物を焼いている屋台を指差す、少しは酒から離れて欲しい物だった。
「ほどほどにして下さいよ」
そう言い小額のお金を手渡す、すると上機嫌にメリナーデは屋台へと走って行った。
「おい、任務内容は頭に入ってんのか?」
「港町に教祖が身を潜めている可能性があるんだろ、んでそれを見つける」
「あぁ、まぁ正直居ねーとは思うが、何かしら情報はある筈だ、二手で聞き込みするぞ」
蓮二の言葉を聞くとカナデは無言で彼とは別方向へと行く、クリミナティに繋がると思ってこの依頼を受けたが、正直後悔している。
なぜ英雄組合の中でも一番気が合いそうに無い蓮二と共に任務をしなければならないのか、それだけで苦痛だった。
「カナデさんも一つ食べますか?」
「いや、遠慮しときます」
露店の横に設けられた飲食スペースで貝的な何かを食べるメリナーデのお裾分けを断り、辺りを見回す、港町と言うだけあって立ち並ぶ店は殆ど魚介系の店だった。
それに昼間っから飲んでいる人間も少なくない、この時間から賑わい、活気のいい街だった。
「店主さん、この辺りで珍しい赤目に金髪の少女見たこと無いですか?」
「赤目に金髪?しらねぇな」
一応聞いてみるが、当然有力な情報は無い。
「そうですか、では何処か身を隠すのに適した場所とかってありますか?」
「身を隠すか……そうなると町外れの灯台だな、あそこは50年以上誰も近付いてないからな」
「そうなんですか?」
「あぁ、新しい灯台が出来たのが一番の理由だが、何でも夜な夜な人の声が聞こえるとか、そう言う噂があるんだよ」
「人の声ですか……それはいつくらいから噂に?」
「さぁな、少なくとも最近では無いな」
「そうですか、情報提供ありがとうございます」
教祖が居る可能性は限りなく低いが、調べる価値はありそうだった。
「メリナーデ様、そろそろ行きますよ」
「あともう一杯だけ……」
そう言いおかわりをねだる、だがカナデは心を鬼にしてそれを拒んだ。
メリナーデは分かりやすくショックを受ける、だがこれも彼女の為なのだ。
「メリナーデ様、最近太って来ましたよね」
「な、何でそれを!?」
これだけお酒を飲んでおつまみを食べてればそりゃ太る、最近じゃ歩くのもサボりがちなのだから。
出会った当時はすらっとしたスタイルだったのが少しむっちりしている、例え女神でも運動しないと太るらしい。
「お酒は暫く減らして貰いますからね」
「そんな……」
カーニャが1人で頑張っていると言うのに……彼女も見習って欲しい物だった。
お代を机に置いて店を後にする、古い灯台は街から少し離れた人気の無い場所にポツンと立っていた。
蓮二の気配は灯台とは真反対の方向にある、邪魔はされない。
「な、なんか不気味ですね」
「そうですか?」
「そうですよ、虫もいっぱい居ますし……やっぱり帰りませんか?」
「そんなヘタレで良く女神が務まりましたね」
「天界は安全ですから……」
そう言いしょんぼりする、だが怖いと言う感情は弱く、無力な者程強く感じる、今のメリナーデに恐怖を感じるなと言う方が無理だった。
「俺の役目はメリナーデ様を守ることですから、安心して下さい」
「はい……」
あまり頼りにしてる感の無い返事だが、特に気には留めなかった。
やたら波が高く、水飛沫が飛ぶ灯台までの一本道を歩く、そして触っただけで崩れ落ちそうな木の扉を開けると中へ入った。
「凄い埃っぽいな」
「うー、臭いです……」
鼻をつまみながら顔を顰める、カナデが光魔法で中を照らすと、誇りを被った木箱が散乱していた。
「まぁ、情報通り長らく使われてない様だな」
木箱の中身は特に重要では無い、螺旋状の階段を上がって見るがかなり老朽化して崩れ落ちそうだった。
「人の気配もしないな」
灯台から海を眺める、下からはメリナーデの悲痛な声が聞こえていた。
「カナデさん、早く帰りましょうよ……」
「そうですね」
これ以上探しても何も出ない、そう思い帰ろうとした時、一つの木箱が目に入った。
足を止めるカナデ、後ろを歩いていたメリナーデは鼻をぶつけた。
「痛っ、急に止まってどうしたんですか?」
「あの木箱、動かした形跡があるみたいです」
埃が溜まっていない、メリナーデが触るはずもない。
木箱を退かせると地下へ続く扉があった。
「メリナーデ様はどうしますか?」
「わ、私は……」
断ろうとするが地面を這うフナムシ達を見て考え直した。
「付いてきます」
「なら行きますよ」
地下へ続く扉を何の引っかかも無く、スムーズに開ける、やはり誰か出入りしている様だった。
「灯が……見えますね」
階段には様々な缶やゴミが置かれている、汚いが生活感がある。
そして下に着くと散乱するゴミのソファーに全裸の女性が寝転がっていた。
「ダメですカナデさん!」
そう言いメリナーデはカナデの目を隠す、その声で女性は目を覚ました。
「あー、誰?」
彼女は恥ずかしがる様子も無く、服を着る事もなく立ち上がった。
「俺はカナデ、人を探してここに来たんだが、此処には居ないみたいだ、失礼した」
メリナーデに目を塞がれながら喋る。
「変な奴だな」
「あ、貴女は早く服を着て下さい!」
「なんだよ、別に見られても減るもんじゃ無いし」
「そう言う問題じゃありません!」
珍しくメリナーデがまともだった。
そして彼女に言われるがまま、ゴミの中からワイシャツとズボンを取り出して着た。
「失礼ですけど、何でここに?」
メリナーデの目隠しから解放されて初めて気づいたが、彼女はエルフだった。
特徴的な耳に金色の髪、だがエルフ族に多いと言われるロングヘアーではなく、彼女はショートだった。
「此処にいる理由?何だったか……エルフの国から追い出されて、放浪してたらいつの間にか辿り着いた」
「此処にはどれくらい居るんですか?」
「さあ?10……いや、20年?エルフには時間の感覚は少し分からなくてね」
そう言い地面に置かれていたビールの缶を飲む、よく見ると散乱しているゴミの殆どはお酒だった。
メリナーデと気が合いそうだ。
「あー、邪魔して申し訳ない、それじゃ行きましょうメリナーデ様」
「あ、ちょっと待って、私の裸見たんだから見物料、お酒買ってきてくれる?」
「見物料って……」
「エルフの裸なんて見れるものじゃ無いでしょ?」
「別に見たくも無いけど……」
「まぁいいじゃ無いですかカナデさん」
メリナーデがニマニマしていた。
「はぁ……分かりましたよ」
「たんまり買ってきてねー」
そう言い手を振る2人を横目に階段を上がって行く、俺は一体何をしているのか。
教祖を探しに来たはずなのによく分からないエルフにパシられている、それに見たところかなり長い間あの地下に住んでいる……情報はまず手に入らないと思った方が良さそうだった。
だが、エルフの国から追放されるとは一体何をやらかしたのか、閉鎖的なエルフの国の事は分からないが、ただのエルフでは無いのは確かだった。
街で取り敢えず10缶程ビールを買うと海沿いに灯台へと戻る、するとその道中、蓮二が海を見て黄昏ているのを発見した。
「何やってんだ?」
「ん?お前か、何か発見はあったか?」
「特に」
「そうか……って、その両手のビールは何だ?」
「あー、気にすんな、それより何悩んでたんだ?」
「いや、少し任務が溜まってな……お前に頼るのは癪だが、獣人族の国に行ってくれないか?」
「獣人族の?また、何でそんなとこに」
「クリミナティの影があるかも知れねーからだよ、俺達はしらみ潰しに影があれば確認するだから任務が溜まるんだよ」
「非効率的だな」
「その点ではお前に同意する」
「……まぁ、考えとく」
「そうか、じゃあこの街に用は無いし、俺も任務が終わり次第獣人族の国に向かう」
そう言い蓮二は去って行く、クリミナティの噂はある、なのに真実は何処にも無い……彼らのボスは相当に慎重な人間の様だった。
クリミナティは犯罪を斡旋している、だがそれは何人もの仲介を通し、大元には辿り着けない。
彼らの目的も分からない……本当に苛立つ。
彼らの望むものさえ分かれば、餌でも吊るせるのだが……
「取り敢えず戻るか」
少し温くなった缶ビールを両手に、灯台までの道のりを歩いた。




