表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/129

第68話 記憶

なんでお母さんは死んだの。


人はいつしか死ぬ……そんなのは分かりきっている、お母さんだっていつかは死んだ。


だが、私が隣に居て……お母さんとの思い出を話しながらゆっくりと息を引き取る、その筈だった。



「着いた……と言いましても、アリアは一度この遺跡には来てるんでしたっけ?」



任務でちょっと前に訪れた遺跡、そこにアリアはタナトスの案内の元、再び訪れていた。


頭の中ではずっと母の事を考えている。


出る筈のない答えを探して、母は何故殺された、死んだのかと。



「阿毘白さーん、今帰りましたよっと」



遺跡を深層へと降りて行くと一つの扉にたどり着く、そしてタナトスはそう言いながら扉を開けると中には任務の時に戦った人造の魔物がカプセルに入れられ、夥しい程並べられていた。


遺跡には似つかわしくない、近未来的な研究室の様な空間が広がっていた。



「どうです?驚きました??って……」



反応を楽しみにタナトスは振り返るがアリアはなんの反応も見せなかった。


ただ虚に地面を見つめ、ボソボソと何か呟いている、心ここに在らずと言った状態だった。



「たな……えっとタナトスだったか、そいつってこの前来た奴らの一人じゃ無かったか?」



「そうですよ、素質はバッチリ問題なしです」



二人は何かを話している、だがアリアにとってはどうでも良かった。


彼らが何者でも、悪でも善でも良い、国も、全て……私は力を得て、復讐するだけ。



「早く力を頂戴」



アリアはそう告げると二人は笑みをこぼした。


その笑みにどんな意味があったのか、不気味だが今のアリアにはどうでも良かった。



「そうですね、力を与えるのは早いに越した事は無いです、ただ少々……苦痛が伴いますよ」



「なんでも良い」



苦痛が伴うからなんだって言うのか、今の私には些細な事……母の感じた痛み、苦しみに比べれば。



「頼もしいですね、ちょっと力を与える詳細は秘密事項なので目隠ししますよ」



そう言いタナトスはポケットから布を取り出すとアリアの目を覆う様に隙間のない様縛る、視界から光が消えた。


何も見えない……真っ暗だ。



「じゃあ少し待ってて」



そう言いタナトスと阿毘白は何処かへとアリアを残して行く、誰の声も聞こえず、光も無い……ただカプセルを動かせる機械の音だけが聞こえて居た。


私は何処へ向かって居るのか、ふとカーニャ達の顔が浮かぶ。


あの日々は……私にとって凄く楽しい日々だった。


もう戻る事もない、私は仲間では無く復讐を選んだ。


足音が近づいてくる。



「力の受け入れは苦痛を伴う……ただ、君なら出来る」



優しい声が聞こえた。


女性にも男性にも聞こえる中性的な声……その人物はアリアの後ろでしゃがむと頭に手を置いた。



「力が欲しい?」



私は復讐の為の力が欲しい。


誰にも負けない、強い力が。


強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い力が。



「目を覚ませば……君は耐え難い苦痛に襲われる……そしてそれを乗り越えれば、力は君のものだ」



その言葉と共に、急激な睡魔がアリアを襲う……そして意識が深い闇の中へと落ちて行った。



『アリア、朝だよ』



母の声がする……暗闇がいっぱいの光に照らされる。



『ご飯作ったから食べな』



そう母は告げる、だがそれは今の私では無く、小さい頃の私にだった。


これは記憶……第三者の目線だが確かに私の記憶だった。



『まだ眠いよ……』



『もう、お寝坊さんにはこうしちゃうぞ!』



そう言い母は幼い私の脇をくすぐる、笑い声をあげる二人……幸せな光景だった。


感覚なんてない筈なのに、私は涙を流して居る様な気がした。



『ママのご飯まずい!』



『えー?ちゃんと作れたと思ったんだけどな……』



『お外でご飯食べたい!』



『ま、ママにもう一度チャンスを!』



そう告げ、苦い表情をする私に母は困りながら告げる、そういえば……母は昔は料理が苦手だった。


この頃は理解して居なかった。


母は、食材の調達すら難しい状況だった。


それは金銭的と言うよりも、売ってくれる人間が居ないからだった。


10数年前はまだ赤い髪への差別が強く、外食なんて論外……まともに外すら出歩けない状況だった。


だから母は旅の商人から食材を買ったり、アリアの為にあらゆる手を使って食材を確保しては慣れない料理をして居た。


今ではメイガスタさんや母自身の功績で昔ほどの差別は無くなったが……苦しかったはずだった。


ルナリスの母、友達を私の高熱のせいで死なせてしまい、気軽に頼れる人間も居らず……ずっと一人で私を育ててくれた。


色んな苦しみを、差別を一人でずっと受け止めて居た。



『ねぇ、お母さんは辛くないの?』



差別が続き、赤い髪を切ろうとしたあの日の自分が、泣きながらハサミを片手に立つ母に問い掛ける。



『お母さんも昔は苦しかった……でも、今は赤い髪で罵られても、殴られても痛くも苦しくもない……だって、アリア、貴女が居るから』



母は自分に、今の自分の方を向いてそう告げた様な気がした。


そうだった、母は私が居るから、私は母が居るからどんな苦しい事も乗り越える事が出来た。


そうだ、あの時も……あの時も、全部お母さんが居たから乗り越える事が出来た。


だが、そのママももう居ない。


なら私はどうやってこれから辛い事を乗り越えれば良い。


どうやって……何を目的に生きれば良い。


私はずっとお母さんの幸せを願って生きてきた、ずっとお母さんの為に。


だが母は死んだ、突然私の前から、この世界から居なくなった、


なんで、どうして……


私は……わたしは、わたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしは


どうすれば良い?


混沌とする思考の中、突然辺りが光に包まれる、そして場面はかなり飛んだ。



『アリアの髪、綺麗でカッコいいと思う』



カーニャの言葉……そんな事を言ってくれたのは彼女と母だけだった。


私の髪がかっこいい?綺麗?そんなのはこの国の人間は言わない。


それが忌まわしい歴史の産物だから。


だけどカーニャは何も知らなかった、そして母は全てを知っても尚、誇りに思って居た。


理由は違えど、それは本心だった。


そして私は嬉しかった。


そうだ、あの時から私の生きる意味は母だけでは無くなっていた。


思い出した、生きる意味を。



『うーん、厄介な事は思い出さなくて良いんだよ』



耳が痛くなる様な声が響き渡る、そして辺りは真っ暗闇に包まれた。



『アリア、君は復讐をすれば良い母の』



頭が痛い。



『君に大切な人は一人だけ、母親だ……カーニャなんて人間は君の中に存在しない』



「カーニャは存在しない……」



『そうだ、そんな人間は居ない』



何度も何度も声が響く。


そしてアリアは目を覚ました。


意識を失って居た時の記憶は無い、ただ……酷く良い気分だった。



「目を……覚ましたかな」


そう言い頭に感触を覚える、そして次の瞬間、言葉で表す事も出来ないほどの苦痛がアリアを襲った。



「メリークリスマス、贈り物だ」



その言葉を最後に、アリアはあまりの激痛に気を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ