第67話 消えた友達
アリアが消えた、その事を聞いたのは学院に帰った翌日だった。
そして彼女の母が死んだ事も……まだブレット達は目を覚まさず、突然生徒が消えた事により学院は数日間休校となっていた。
それを告げるアルトの怒りに満ちた表情は今でも鮮明に思い出す。
「アリア……」
彼女の持ち物はそのまま残されている……つい昨日まで一緒に居たのに、何処へ行ったのだろうか。
「もやしっ子、居る?」
扉をノックする音が聞こえると答えも聞かずに扉が開く、その向こうにはルナリスが立っていた。
「うん」
「少しお邪魔しますわよ」
そう言いルナリスは入り口で靴を脱ぐと何故か裸足でペタペタと足音を立てながら部屋に入る、そしてアリアのベットに腰掛けると何を話すでも無く……数分間の静寂が続いた。
「あいつ……貴女に何か一言言いまして?」
「何も」
「はぁ……本当に自己中心的ですわよね」
そう言いルナリスは呆れる、悲しいとかそう言う感情よりも呆れの方が強いようだった。
「貴女とこうして対面でゆっくり話すのも久しぶりですわね」
「うん、いつもはアリアも一緒に居たから」
「ですわね、まぁ今更特に話す事も無いのですけど」
話す事が無いのなら、何故ここに来たのかと言う疑問も過ぎるが……口にはしなかった。
「アリアは何処に行ったのかな」
「分かりませんわ、ただ……昨日の先生の表情とお母様が死んだ直後から考えると、言い想像は出来ませんわね」
アリアの母の死……話によれば他殺との事だった。
正直、なんでアリアが居なくなったのかも、アリアの母親が死んだのかも分からない……そして私がどうすれば良いのかも分からなかった。
「本来であれば探す……と言うのがチームメイトとして一般的な答えなのでしょうけど……分からない事が多過ぎますわね」
「うん……」
そもそも大前提として、アルトはアリアが去ったと告げたが……本当に己の意思で姿を消したのだろうか。
自然と彼女は自分の意思で姿を消した様に周りではなっているが……連れ去られた可能性は無いのだろうか。
分からない、連れ去るとしても誰がなんの目的で連れ去るのかも……分からない事だらけだった。
「いつか……戻ってくるよね」
カーニャの言葉にルナリスは肯定も否定もしなかった。
ただ彼女の外を見つめる綺麗な横顔が映る、流れる雲をただ視線で追っていた。
元々雑談をしない二人の間には再び沈黙が流れる、思い返してみれば彼女とはチームメイトだが、アリア程仲は良くなかった。
喋るのも任務の事や必要な事項くらい、こうして彼女が部屋に来たのも正直びっくりしていた。
「正直私、人間関係はずっと一線を引いて居たつもりでしたの」
「一線?」
「ええ、親密になりすぎない様、あくまでも知り合い程度の距離感で今まで付き合って来ましたわ」
入学当時の取り巻きとはそれなりに仲は良さそうだったが……彼女が言うのならそうなのだろう。
それに今はそれを突っ込める雰囲気でもない。
「理由は至極単純、親しくすれば別れは悲しくなる……だから、友達なんて、仲間なんて要らなかった」
そう言いながらルナリスの瞳から涙が流れ、頬を伝っていた。
正直驚いていた、まさかルナリスがこれ程までにアリアの事を仲間と思っていたとは……他人の事など気にしない性格だと思っていた。
私もアリアが姿を消したと聞いた時、悲しかった……だが、涙は出なかった。
「なんでアリアは仲間の私達に一言でも相談しなかったの……私達はその程度の関係って事だったの?」
感情が昂っているのか、ルナリスの口調は普段とは少し違っていた。
ルナリスは立ち上がって少し部屋を歩き回ると落ち着いたのか、再びベッドに腰掛けた。
「少し……取り乱しましたわ、私が今日来たのはカーニャ、貴女に確認する為ですの」
「確認?」
「私はアリアを探しますわ、何としてでも……カーニャ、貴女はどうしますの?」
「私も探す」
当然だった、彼女は友達であり仲間……例え彼女の意思で去ったとしても、連れ戻す。
何が理由であれ。
「悪いが、それはさせられないな」
カーニャが硬い決意で告げた瞬間、扉の方から声がした。
「悪いな、女子寮とか関係なく理事長の許可を得て入らせて貰ったぜ」
「それはどうでも良いですわ、それよりもさせられないと言うのはどう言う事ですの?」
ルナリスは立ち上がるとアルトにグッと近づき、睨みつける様に告げる。
女子寮にいる事がどうでも良いほどに先程の発言は聞き捨てならなかった。
「アリアに関しては色々と分かっていてな、まず彼女は自分の意思でこの国を去った」
「なんで分かるんですの?」
「タナトス……奴はそう名乗ってたよ、相変わらずな」
「タナトス?相変わらず?」
アルトの言葉はその人物を知っているかの様だった。
タナトス、聞いた事もない名を。
「タナトスから連絡があった、アリアは力を求めて『我々』の仲間になったと……条件は不明だが、恐らく碌なことでは無いだろうな」
「我々って誰?力って……」
呆気に取られているカーニャとは正反対に、ルナリスは纏まらない頭でとにかく聞きたい事を言葉にする。
「落ち着け、理由は俺にも分からん……ただ、奴らの中には力を授ける、そんな事ができる奴もいる、恐らく母親の死が関係してるんだろう」
「復讐……」
静かだったカーニャがボソッと呟く、その言葉にアルトは頷いた。
「復讐だろうな、アリアは強い、それは皆んな認めている、だが自分だけがそれを認められずに居た」
確かにアリアは自身の強さにコンプレックスの様なものを感じている様子があった。
「タナトスはそう言う人間に力を与えるとたぶらかす……俺も街全体を警戒してたんだがな……昨日は不在だった」
正直、分からない事だらけだった事が急に色々と判明して二人とも困惑していた。
「ち、力を与えるって何のためですの?」
「分からん、ただ……リリアーナ教に手を付けていた事と言い、奴らは兵隊を作っている」
「兵隊?なんの為ですの?」
「兵隊の使い道は一つ、戦争だ……目的はこの国なのか、別にあるのかは分からん……ただ、アリアが連れて行かれたのは俺の落ち度だ」
「なんですの……それ」
ルナリスはキャパをオーバーしたのか、小さく呟いてベッドに座り込む、さっきまで混乱していたカーニャは一周回って冷静になっていた。
ルナリスが色々と質問をする中で起こったことを整理していた。
タナトス、恐らく彼も転生者なのだろう。
そしてクリミナティの一員でもある……その事情を知るアルトもまた、転生者の筈だった。
だが何かあって彼はそこを離れてこの国に来た……今回の一件にそれが関係しているかは分からないが、一つだけ確かなのは、アリアが自分で望んで……この国を去ったと言う事だった。
何故こんなに冷静なのか分からない……ただ、アリアは戻ってこない。
復讐は人を変える、カナデも普段は優しいのに……転生者の事になると冷たい、冷酷な人間になる。
復讐なんてするだけ無駄だと言いたい……だが彼らにとってそれは一番口にしては行けない。
だがアリアを諦めたくも無かった。
「アリアは……どうすれば戻って来ますか」
「アリアはもど……」
言いかけた言葉をアルトは飲み込む、カーニャの無知とも取れる言葉……だがその表情は全てを理解した上で、連れ戻す、そんな表情だった。
「そうだな……正直難しい相談だ、自分の意思で去った人間を連れ戻すのはかなり難しい……復讐を果たしても、果たしたからこそ、全てが歪む可能性もある」
「でも連れ戻せる可能性もあるんですよね」
「0では無い……と信じたい、ただ……その可能性があるのはカーニャとルナリス、アリアの友達であり仲間の二人だけだ」
「私達だけ……」
「あぁ、ただ……戦闘は避けられないと思う、復讐を果たしているにしろ、アリアは簡単な気持ちでこの国を出たわけじゃない、連れ戻すなら力づく……それには相当な実力も必要になってくる」
アリアと戦う……人に魔法も向けられない私が。
「俺が二人を鍛える、アリアが去ったのはタナトスを止められなかった俺の責任でもあるしな……カーニャの対人への件も全力で解決する」
そう告げるとアルトは長かった髪の毛を掻き上げて真剣な表情で二人に告げる、彼も彼なりに覚悟を決めた様だった。
「ふぅ……まだ混乱してますが、要するに、アリアを力づくで負かせて、連れ戻せば言い訳ですわね」
「まぁざっくりとし過ぎだが、そんな所だ」
「そうと決まりましたら、早速修行をつけて頂きますわよ」
先程までキャパオーバーで混乱していたルナリスがやる気を出し、一番に部屋を出て行く。
「まだ色々と仕事残ってんだが……まぁ、後回しで良いか」
アルトは苦笑いでそう告げるとのそのそと扉の方へと向かって行く、だがカーニャは直ぐに動き出すでもなく、アリアの机に視線を向けていた。
「どうした、行かないのか?」
「今行く」
アルトの言葉にそう告げると、アルトが出て行く後に続いて部屋を後にした。




