第63話 人が創りし魔物
「歴史感じる」
歴史書はあまり読まない故にいつの時代かの遺跡かは分からないが、数千年と朽ちることは無いと言われているゴラ石を遺跡の素材に使用されている、外観だけみればまだ使用されていると言われても不思議では無いほどにキレいだった。
だが柱や壁についた傷が歴史を物語っている……
「なんか不自然じゃねーか?」
遺跡の壁や柱を調べていると不意にブレットが呟く、何か不自然な所があったのか思い返して居るとアリアが口を開いた。
「確かに不自然ね……カーニャの感じた気配が確かなら誰かいる筈、それに任務内容の魔物も」
「あ、そう言えば」
完全に忘れていた。
「そう言えばって……あんた相変わらず抜けてるわね」
「遺跡の雰囲気に呑まれて……」
「なんでも良いわよ、それよりも感じた気配は?」
「まだ感じる、ただ……」
「ただ、何よ?」
あの時感じた強烈な恐怖や吐き気はもう感じない……何故なのか、あの悍ましい気配は消えたわけでは無い、寧ろそれに近づいてるのか、私達の周りにべっとりと張り付いて居る様にも感じる。
分からない、こんな経験はした事が無かった。
「気配が大き過ぎるのかは分からないけど……私の探知は当てにならないと思う」
「なんの為の私ですのよ、探知なら任せてくださいまし」
ルナリスはそう言うとようやく役割が来た事が嬉しいのか、少し微笑み探知魔法を発動する、だがその笑みは数秒後、驚愕?恐怖?様々な感情が入り混じった表情に変わっていた。
マタラシア遺跡はかなりの広さを誇って居る、恐らく地下へ何層も続いている……探知には数百……下手をすれば数千の魔物の気配を探知した。
そして、この一層にも。
「既に囲まれて居ますわ!!」
ルナリスが叫ぶと同時に、獣の様な雄叫びが遺跡の中に鳴り響く、外の光が届かない薄暗い遺跡では姿を視認するのは難しかった。
「ルナリス!辺り照らして!!」
「分かってますわ!!」
詠唱なんてして居る時間は無い、詠唱破棄で照らせるのは精々20mが限界だった。
ルナリスの放った光魔法が周囲を照らす、そして彼女達を囲んでいた魔物の姿にその場に居た殆どが言葉を失った。
「何……これ」
人工的な魔物とは聞いていた……だがそんな存在は前例がない、故に想像も付いて居なかった。
だが、私達の周りにいるのは紛れもない人工的な魔物だった。
何故そう言い切れるのか……それは魔物の姿形にあった。
「何よこいつら……」
「酷い……ですわね」
姿形はそれぞれ、だが共通して居る部分が一つだけあった……それは人体の一部が使用されて居ると言う事。
とある個体では獣の体に人間の腕が何本もつけられて居たり、頭部がいくつもつけられた個体が居たり……もうこんなのは魔物では無い、化け物だった。
「誰がこんな事を……」
人工魔物の姿に周りが驚嘆して居る中、カーニャだけは一人違う思いを抱いて居た。
悲しみ……どんな経緯があったのかは知らないが、人間がこんな姿にされて……無念だった筈だ。
幼い子供、老人、大人の男性や女性……様々な人の人体が魔物に埋め込まれて居る、私は恐らく初めて、怒りを感じている。
後衛である筈のカーニャが魔物達に向かって歩いて行く、周りのみんなは魔物に呆気を取られて気づいては居なかった。
そして気がついたのはカーニャが遺跡を包むほどの光魔法を発動した直後だった。
「眩しっ……何この光?!」
「あったけぇ……少なくとも害のある魔法じゃねぇな」
「カーニャ……?」
光の発生源がカーニャである事にアリアは気が付いた。
とても優しく、暖かい光だった。
そしてそれに照らされた魔物達は悲鳴とも取れる雄叫びを上げながら人の部位だけを残して浄化されて行った。
「すげぇ……なんつー魔力だよ」
ただ、呆気に取られるしか無かった。
「カーニャあんた……」
どこでそんな魔法を……そう尋ねようとしたが、カーニャは近くに転がった魔物の一部となって居た人間の頭部の近くでしゃがみ込むと静かに手を合わせた。
「どうか……貴方の魂が安らかに眠る事を」
『あり……がとう』
頭部だけ……頭部だけの筈なのに、確かにそう言った。
振り返り、アリア達の反応を見るが聴こえては居ない様だった。
となれば今のは魂の声……人体一つ一つに魂が縛られて居るのだろうか。
だがそうだとすれば……残酷すぎる、いつ殺されたのかも分からないが、生まれ変わる事すら出来ず、化け物の一部としてこの世界に居続ける……悲し過ぎる。
「アリア……今回の任務は討伐でも調査でも無い」
「え?」
「この人達は誰かの手によって魂を縛られ、化け物としてこの世界に留められている……だから、解放してあげたい」
そう告げるカーニャの表情は見た事が無いほどに怒りに満ち溢れて居た。
「事情は知らないけど……どうやれば解放できるの?」
「聖の属性で魔物の命を絶つ……恐らくそれが条件だと思う」
「あんたの加護を受けてる今の私達なら、普通に戦えば解放できるのね」
「うん……ありがとう」
「何の礼よ、別にやる事は最初から変わってない、討伐が解放になっただけでしょ?」
そう言いアリアはカーニャの頭をクシャッと撫でた。
「お話も良いですけど、第二陣が来ますわよ」
ルナリスの指の先には先程の様な風貌の魔物が何十体も此方を目指して近づいて来て居た。
「そう言えばさっきの魔法、もう一回使えないの?」
「多分……無理かも」
あの時は怒りや悲しみ、色々な感情が昂って勝手に魔法を発動した……だが魔法とは元来その性質をしっかりと理解し、学ばなければ発動する事は出来ない、あれは殆ど偶然みたいな物だった。
「まぁ、そっちの方が俺は有難いぜ、あんな魔法連発されちゃ、俺達が来た意味ねーからな!」
相変わらずブレットは戦いたそうだった。
「フォーメーションは馬車で話した通り、此処からが本番よ!」
アリアの声で気合を引き締まると迫る魔物の群れに突っ込んで行く。
魔物の攻撃をルルノアが注意を引き受け止め、出来た隙をアリアとブレットで素早く仕留める、前衛から漏れた魔物はカーニャの援護魔法とルナリスによって仕留められる……完璧な連携だった。
「しかし、何の為に人体なんて付けてるんだろう」
特に能力が上がって居る様子もない、魔物の個々の能力はかなり高いが、それにもバラツキがある。
攻撃力が高い個体が居たり、防御、スピード……様々だが統率も無ければそれもあまり脅威ではない。
「分からないけど……悪趣味な事には変わり無いわね」
ますます許せない……ただの趣味で人を殺すなんて。
「ん、まだ残ってた見てーだな」
ブレットの言葉にまだ残りの魔物がいた事に気がつく、だが残りが居たと言う違和感にルナリスだけが気がついた。
探知魔法を発動して居た彼女だからこそ……探知に反応しなかった魔物に異変感じる事が出来た。
「ブレット!!その魔物何かおかしいですわ!!」
「んぁ?」
ルナリスの声に足を止めた瞬間、ブレットが踏み出す筈だった地面が抉り取られる様に消えた。
「あっぶねぇ!?」
咄嗟に距離を取る、ふと魔物の方を見ると鋭利に、尚且つ巨大化した手に瓦礫が握られて居た。
「んだよあいつ」
今までの魔物とは違い、人の形をして居る……強いて言うならば、四肢が全て手という事位だった。
『タの……む、コろしテ……クレ』
「喋るのか……って!?」
光魔法が届かなかった薄暗い場所から光の届く範囲に魔物が足を踏み入れる、そして見えて来た頭部にブレットは驚きを隠せずに居た。
いや、ブレットだけでは無い、その場に居たカーニャ以外の人間は驚きを隠せずに居た。
細い体に似合わない太い首にスキンヘッドの頭、間違いなかった。
「魔帝十傑の……ベルリアさん」
かつて、二年ほど前までルデールには賢者の他に魔帝十傑と呼ばれる魔法の強さに秀でた10人の魔道士が居た。
それぞれが賢者になれる程の素質を持ち、強い者ほど十傑の数字が小さかった。
だが彼らは二年前、突然姿を消した。
何も言わず、突然に。
そしてベルリアは十傑の八の数字を持つ者だった。
「十傑が何でこんなところに……」
「それよりも、十傑程の実力者が何故死んでいるのか……そちらの方が不思議ですわ」
十傑失踪、それは公には知らされて居ない。
故にルナリス達には国を裏切ったとしか聞かされて居ない。
何故戦死じゃ無いのか……それは彼らが戦死するにはあまりにも強く、説得力が無かったからだった。
「んな事はどうでも良い、身体は他人の見たいだが、気を引き締めねーとやべーぞ」
ブレットがそう告げた瞬間に頬をベルリアの手が掠る、空を切った手が放つ風圧にブレットはアリア達の居る10m後方まで吹き飛ばされた。
「すげぇパワーだ」
「多少の知能も残ってる様だし……少し厄介ね」
「あの手、私の耐久力があっても多分耐えられないかも、まじ萎え」
手だけの攻撃なら骨折してでも受け止められるが、鋭利な手とあっては受け止めても細切れにされる……中ボスの出現だった。
「とにかく三方向から攻めて……」
「いや、俺にやらせてくれ」
作戦を伝えようとするアリアの言葉を遮り、ブレットが一歩前に出る、いつもはふざけて居る彼だが……ただならぬ覚悟を感じた。
「勝算はあるんでしょうね」
「勿論」
引き止めるだけ無駄だった。
ブレットは拳にカーニャから受けた聖の属性を宿し足を一歩ずつ踏み込む。
「そんな姿にされて……すぐ解放してあげるっすよ」
「コろしテ……くレ」
「言われずとも」
あんな貧相な体に取り付けられて……可哀そうに。
ブレットは1秒と満たずにベルリアとの距離を詰める、伸縮自在の手だけの四肢は確かに脅威だ。
どんな改造を施されたのかは知らない……だがそれでも弱い。
「必ずあんたの仇は討つ」
ブレットの頬を涙が伝った。
涙のその訳……それは十傑が彼の師に当たるからだった。
レンデア家はルデール国でもかなりの権力を持つ貴族、その当主であるレンデア・ガトスが次期当主になるであろう長男のブレットに十傑を指南役として無理矢理付けたのだった。
それが3歳の頃になる。
それからブレットは十傑のメンバーと共に成長した、そして彼らは家族と言っても過言では無いほどに親しく、掛け替えの無い存在となって居た。
「ベルリアさん……あんたに言われた通り、体術の訓練……怠ってないぜ」
ベルリアの攻撃を全て掻い潜り、ブレットの拳は身体を貫いた。
「こんなクソったれな事をした奴が誰かは知らねーが……本物はもっとつえーよ」
本物のベルリア……俺なんか比にならないほどに。
『強くなったな……ブレ坊』
突然聞こえて来たベルリアの声にブレットは驚きながらも辺りを見回す、そして天に昇る白い煙が視界に入った。
「ベルリアさん……?」
白い煙は天井を貫通してやがて見えなくなる……どうやら無事に成仏した様だった。
だがひと段落では無い、ベルリアがああなって居たと言う事は……考えたくも無いが、他の十傑も死んで、改造されて居る可能性は高い。
「必ず……元凶はぶち殺す」
ブレットは静かな決意を胸に、拳を握りしめた。




