第62話 任務当日
「せっまいですわね」
「誰のせいかしらね」
それ程大きくもない、6人も座ればギチギチの馬車に揺られ、マタラシア遺跡へと向かうアリア達、一人だけ男と言う状況にいつもはチャラいブレットも少し申し訳なさそうな表情をしていた。
「しゃーねだろ、馬車が一台しか無かったんだしよ……それにハーレムで俺は悪かねぇぜ?」
前言撤回、全く悪びれる様子も無く楽しんでいるようだった。
「まじで蒸し暑いんですけど、レレちに至っては死にそうだし」
そう言いルルノアはレレリアを指差す、確かに顔色も悪く、息も荒かった。
「大丈夫かレレリア?」
「は、はひ……」
さらに呼吸が荒くなる、ブレットでは追い討ちを掛けるだけだ。
「窓開けるから外の空気でも吸いなさい」
アリアはレレリアの背中をさすりながら窓を開ける、蒸し暑かった馬車の中に新鮮な空気が入る。
「い、生き返ります……」
「それは良かったわ」
そう言いアリアは背もたれに背を預ける、任務前とは思えない……よく言えば和やか、悪く言えば緩み切った空気感だった。
「今日の任務、やるべき事は二つ……遺跡の調査と討伐」
アリアの言葉に周りは静かになる。
メイガスタに言われた……無茶はするなと、だがこのメンバーならいける。
問題はない。
「調査と討伐……まぁ何の変哲もない任務内容だな」
「ええ、基本的に前衛は私とブレット、ルルノアの3人……ただ絶対条件として、カーニャの支援を受けて戦う事」
その言葉に内情を知らないブレットのチームは皆首を傾げた。
「カーニャは魔獣とかに対して聖の属性があるから効率的に対処できる、カーニャの支援を受ければその恩恵は私たちにも来る……効率的に戦うには支援は不可欠なのよ」
「聖の属性か、こりゃまた珍しいな」
そう言いブレット達はカーニャに視線を向ける、慣れない注目にカーニャは視線を逸らした。
「前衛は私とブレット、ルルノアの3人、中衛がルナリス、そして後衛にレレリアとカーニャ……このフォーメンションで問題ないわよね?」
「一つ確認なんだが、最優先で守るべきは誰なんだ?」
ブレットの言葉にアリアは何か返答しようとするが言葉が出なかった。
前衛には仲間を守ると言う役割がある、だがその中でも優先順位がある。
そりゃ皆んなを守れれば問題はない、だがそうも行かない場合もある……そう言う時の為の取り決め……誰を優先して守るかだった。
「A級任務ならもしもの場合もあるだろ、話から聞いた感じだとやっぱカーニャちゃんかうちのレレリアのどちらかだと思うが」
「わ、私なんて恐れ多いです……」
ブレットの言葉に恐縮しながら声を上擦らせて答える、彼女には申し訳ないが私達の中では議論する余地すら無い。
「カーニャを最優先にすべきだと思う、理由は言わずもがな……聖の属性」
その言葉にブレットは少し気難しい表情を見せる、即席のチームだとこう言う場面で良く言い争いが起こる……彼らを同行させたのはやはり間違いだったのだろうか。
「まぁ、そうだな、私情なんて挟んでも仕方ねーし、お前らもそれで良いだろ?」
「異議なーし」
どうでもよさそうに答えるルルノアと何度も首を振るレレリア、一先ずは丸く収まりそうだった。
「すみません!この先は危険区域に指定されてる為馬車はここまでです!!」
運転手の言葉と共にゆっくりと馬車は速度を落とし、やがて森の前で停車した。
マタラシアの森……これを抜けた先にマタラシア遺跡がある、いよいよ始まる任務にカーニャは大きく深呼吸をした。
運転手に代金を払うアリアの声が聞こえる、木々の揺れる音、鳥の囀り……全てが鮮明に聞こえる。
任務は今までかなりの数をこなした、だが大きな任務となると……緊張感も段違いだった。
「緊張してる系?」
「わっ……えっと、ルルノア?」
突然至近距離に現れるルルノアに少し驚かされる、距離が近いからなのか、凄く良い匂いがした。
「そ、名前覚えてくれてたんだ、てかカーニャの髪の毛ちょー綺麗だね」
「そ、そうかな?」
「白髪なんて初めて見た、てか瞳もちょっと白っぽい?」
そう言いさらに顔を近づけて来る、距離感が近すぎる……彼女は何なのだろうか。
「てか肌もちもちすぎ、どんな化粧水使ってる?」
あまりにスキンシップが多すぎる。
「何も使ってない」
「まじ?それでこの肌とかチートすぎ」
「あんま絡み過ぎんな、お前の悪い癖だぞ」
カーニャにぐいぐいと食い付くルルノアの頭をブレットは軽く小突いた。
「暴力反対なんですけどー」
「良いから前衛組みは前行くぞ」
そう言いもう一度頭を小突く、ルルノアはブー垂れながらも渋々ついて行った。
「騒がしいですわね、あの方達」
「普段のあんたもあんま変わらないでしょ」
「まぁまぁ」
アリアとルナリスを軽く宥めながら森に足を踏み入れる、マタラシア遺跡まではまだ数キロある……だが森から複数の魔獣の気配を感じた。
「この森、かなり魔獣が居る」
「取り敢えず前衛の3人に支援魔法頼むわ」
アリアの言葉と同時にカーニャは前衛に支援魔法を施す、任務はもう始まっている。
気は抜けない、探知も怠れない……あの魔人の様な一件を起こさない為にも。
「すげぇな、力が湧いてくるみたいだぜ」
「支援魔法掛けたらそりゃ力溢れるわよ」
「そうだったな、それより魔獣の登場だぜ」
そう言いブレットは構えると茂みから四足歩行の魔獣が姿を現す、ウルフ種……今の自分達には取るに足らない魔獣だった。
「数は……5体か、一人で十分だ」
そう言いブレットはゆっくりと歩き始める、そして一瞬にして近くに居た3匹を始末した。
「いつもより軽く殴るだけで良いな、聖属性……良いじゃん」
時間にすると僅か3秒足らず、身体強化に進行方向への進む力を増加する魔法、二つの魔法を一瞬にして併用……詠唱を短縮したにも関わらず凄い練度だった。
「こっちの方も片付いてるわ」
アリアも負けじと残っていた2体をいつの間にか討伐する、何故か競い合っている様だが、二人とも調子は良さそうだった。
「前衛の脳筋達は何を考えているか分かりませんわね」
ルナリスは二人を見て呆れて告げる、確かに魔獣の討伐数で争うと言う感覚は私にも分からない。
そもそも、彼女達とは感覚が違うのだろう。
私は魔獣も一つの命……出来るなら殺したくは無い。
だが魔獣は魔に犯された獣……それから解放する為に私は殺す。
だから競い合うなんてゲームの様な事はしたく無いし、理解したくも無かった。
「着いてこないと置いてくわよカーニャ」
「あ、待って」
先を歩くアリア達に小走りでついて行く、最優先で守るとか言っていた割には平気で置いて行く事に少し驚いていた。
だがこの森には少なくとも強い魔物や魔獣は居ない、一先ずはまだ大丈夫そうだった。
「そういや、人工的な魔物って言ってたが、そうなると裏で糸引いてる人間が居るんじゃねーのか?」
「まぁ、そういう事になるわね」
「今回の任務にはそう言った情報が無かったらしいが……」
「飽く迄も任務は魔物の討伐だけだったから、ただその障害になる様なら倒すまでよ」
いつにも増してアリアは強気だった。
今回の任務は魔導隊への入隊を決めるチャンスでもある……賢者を目指す彼女には逃せないチャンス故に無理もない。
魔獣が出る事もなく、30分ほど森を遺跡に向けて進む、だがある程度進んだ所でカーニャは全員に制止をかけた。
「止まって!」
「おお、なんだよ」
滅多に出さないカーニャの大声にアリア達は驚いて足を止めた。
「どうしたのって、カーニャ……?」
アリアは後方のカーニャに視線を向ける、見た事もない……彼女は怯えた様な表情をしていた。
「この先に……とんでもないのが居る」
感じた事もない、あの魔人すらも遥かに凌駕する……吐き気すら覚える邪悪な魔力を感じた。
「とんでもねーのか、もしかして人工魔物か?」
「分からない……ただ、すごく強いという事だけしか」
あまりにも邪悪で巨大過ぎて何体居るのか、そもそもどの位置に居るのか、正確な情報は何も分からなかった。
「カーニャが言うなら万全を期すわよ」
そうアリアは仕切ると、隊列を組み直してカーニャに支援魔法を皆んなに施す様に指示を出す、身体強化、防御魔法、属性付与、考えられる支援を全て施した。
魔力の温存も考えられない……それ程に不気味な気配を感じた。
「すげぇ、力が溢れる……だがちと飛ばし過ぎじゃねーか?」
「察しなさい、この先に居るのはそれ程までに危険な魔物と言う事ですわよ」
「危険……上等じゃねぇか、ワクワクするぜ」
ワクワクする……男性と言うのはよく分からない生き物だった。
「この任務、必ず達成するわよ」




