第64話 理不尽な強さ
順調過ぎる。
十傑の一人、ベルリアの人工魔物を倒してから更に二階層下へとカーニャ達は降りて来たが、あれ以降十傑の人間を改造した魔物は出現して居ない。
順調に越した事はないが、大体物語では順調な時ほど予測不可能な事が起こる……現にアリア達も予想して居たよりも随分と楽な任務に少し油断して来て居た。
それにまとわりつく様な不気味な気配……いつまで経っても消えなかった。
「ぼーっとしてるけど大丈夫なの?」
気が付けば前衛のアリアが隣に来て居た。
「あ、大丈夫」
果たして気配の事を再度言うべきなのか……一層の時に一度皆んなに告げて居るが、不安にさせるだけの可能性もある。
普通の魔導隊の人間なら必ず報告する事だった。
だがカーニャは長い時間を奴隷として過ごし、人と接する時間も少なければ世間一般的と言われる事も知らない……故に些細な事も報告すると言う重要な事を怠った。
それは世間知らずと言うのに加えて彼女が人一倍優しいのも理由の一つだった。
「それにしても、誰がこんな事をしてるのかしらね」
「誰が……」
心当たりはあるかも知れなかった。
カナデが追い、殺す対象として来た転生者と呼ばれる人……こんなデタラメな事が出来るのは彼らしか居なかった。
人と人を融合させる何てふざけた魔法は歴史を見ても存在しない……だが彼らはそんなデタラメを現実にする力を持って居る。
だが彼らが何者なのか、何故あんな力を持って居るのかは知らない……カナデも教えてはくれなかった。
「この階層も魔物は居ないようですし、少し休憩しませんこと?」
ルナリスの提案に前を歩いて居た前衛の二人も足を止める、順調に行っているとは言え、ずっと戦いっぱなし、疲労は皆んな溜まって居た。
「そうだな、ここら辺で一旦整理を交えて休憩すっか」
そう言い腰に巻いて居た鞄を放り投げてブレットは地面に腰を下ろす、あまり顔には出さないが着実に皆んな疲労は溜まって居る様だった。
「しかし、あの魔物……どう言う原理なんだろうな」
「魔物の体に人の体をくっ付ける……明らかに人為的な物ですわね」
誰が何の為にやって居るのか……そもそも何故こんな事が出来るのか、非人道的だった。
「ルナリス、探知の方はどう言う状況?」
「一層下の様子しか分からないけど、今までとは少し違うみたいですわよ」
「違う?」
「ええ、感知できる気配は一つだけ……ただ、ベルリアの様な特別な個体見たいですわ」
「そうなると、そいつはたぶん十傑の誰かだろうな」
長い時間姿を眩ませ、ようやく見つけたベルリアは既に改造され、無残な姿になって居た……他の十傑が生きてるなんて希望も無い。
ただ純粋な怒りがブレットの中に渦巻いて居た。
「ただ、この任務胡散臭いわね」
「それは私も思って居ましたわ」
任務が胡散臭い、二人の言葉にカーニャはその意味が理解出来ず、首を傾げた。
「胡散臭いってどう言う事だ?」
「任務があると言う事は、その情報を国に伝えた人間が居ると言う事、任務内容には魔物の討伐と調査……一応Aランクっていう高い難易度付けはされてるけど、こんな人為的な魔物だって知ってたらまず学院には回さない筈なのよ」
学院側も人為的な魔物が存在するのは知っていた筈……それはつまり、裏で糸を引いて居る人間が居るという事、下手すれば任務ランクはS、最高難易度になる可能性もあった。
「つまり、この任務を回した国か、学院か……何か隠してるって事か?」
「分からない……けど、純粋なAランク任務では無い事は確かね」
アリアの言葉に皆は沈黙する、そしてあたりは静寂に包まれた。
戦争の噂、人為的な魔物……そしてナルハミアに近しいマタラシア遺跡の位置、下手するとこれはとんでもない任務かも知れなかった。
だが不可解な点もいくつかある、魔物の見た目、何故わざわざ人間の体や頭部をくっつけて居るのか、中にはその所為で機動性が下がって居る魔物も居る……戦争の為とはあまり思えなかった。
寧ろ悪趣味にも捉えられる。
「んじゃ、どうするよ?胡散臭い任務なら此処で撤退するか?」
十傑、自身の家族の様な人々が改造されて居るかも知れない、そしてその元凶が此処に居るかも知れない……頭がおかしくなりそうなほど怒りに満ちて居るが、それでも尚、ブレットは冷静だった。
正直、このメンバーなら恐らく最下層までは行ける、だがこの元凶、大ボスとも捉えられる存在を倒せるとは思えなかった。
こんなイかれた、狂気とも取れる事をする奴に。
そしてその場に居た一人を除く全員がそれに同意しようとしたその時、たった一人、違う意見のアリアが口を開いた。
「今の私達ならこの任務、達成出来るわよ」
彼女だけはこんな所で帰るわけには行かないと思って居た。
寧ろこれはチャンスだった。
仮にこの任務の依頼主が敵国の人間で、私達に罠を張って居るとしても……この任務を成功させれば一気に魔導隊の中でも優秀な部隊として名を馳せれる、そうなれば賢者もグッと近づく。
そしてアリアの提案に否定的な人間は居なかった。
あまりにも此処までの道のりが順調過ぎた……皆んな、心の何処かでは大丈夫と思っていた。
静寂に包まれる遺跡の中で、此方に向かって誰かが歩いて来る音が突然聞こえて来た。
「まだ魔物残ってたか」
ブレットはゆっくり立ち上がると足音がする方へ向かおうとする、だが何かおかしかった。
突然、あの不気味な気配が消えた……それと同時に聞こえて来た足音、何か変だった。
「待って!」
「なんだよ」
何かおかしい、この足音……少なくとも素足では無かった。
魔物に靴を履いていた個体は居ない、その全てが例外なく裸だった。
「随分と殺してくれたな、一応作るのめんどくさいんだよあれ」
足音が近づいて来る、そして声と共に一人の男が姿を現した。
「人数は6人か?全く元取れねぇよ……」
面倒くさそうに呟きながら、何故か上半身裸の男は此方へと歩いて来る、突然現れた人にアリア達は呆然としていた。
「あんたがこの遺跡に居た魔物達の元凶か」
「魔物?あぁ、あの実験体の事か」
「何者だ?」
ブレットは話で時間を稼ぎながらアリア達をフォーメーションの位置につかせる。
「何者か……その問い掛けは少し難しいな」
「難しい?」
「俺の立ち位置は非常に曖昧だからな……」
そう言い腕を組み悩みだす、彼は一体何者なのか……だが何者であっても、敵には違い無かった。
気配無く、いつの間にか足音が聞こえる位置まで近づいて来ていた……そして魔物を作り出す技術、侮れない。
「まぁ俺の立ち位置は置いといて……お前ら、この遺跡に何をしに来たんだ」
そう言い男は睨みつける、その瞬間、息が苦しくなる様な感覚と共に、凄まじい悪寒が全員を襲った。
各々が感じ取った、彼には勝てないと。
本能的な恐怖が彼とは戦っては行けないと訴えていた。
だが、アリアただ一人は彼の強さ、危険さを理解して居ながらも剣を握っていた。
「私達はこの遺跡の魔物発生の原因を調査しに来た、そしてその原因があんたなら、倒すまでよ」
「倒す……か、笑えて来るな」
そう言い男はアリアの言葉を聞き、小馬鹿にした様な態度を取る、だが笑って居られるのも今のうちだ。
「ブレット、ルルノア!三方向から行くわよ!!」
「ああ!!」
前衛の3人がアリアの言葉と共に三方向から男に向かって攻撃を仕掛ける、対人戦に置いて何も出来ないカーニャはただ傍観者となるしか無かった。
恐らく彼は転生者だった。
あのまとわりつく様な不気味な気配も恐らく彼……私達は絶対に勝てない。
転生者の強さはカナデの隣に居た私が一番良く知って居る、あれは人間であって、人間でない。
「お前らやる気あるか?一発も当たってないぞ」
三方向からの攻撃を欠伸をしながら男は交わす、彼が攻撃をする様子は無かった。
だが此方の攻撃も当たらない……無駄に体力を消費して行くだけだった。
「ったく、俺も暇じゃねーんだわ」
そう言い男は拳を握る、そしてルルノアの腹部に拳を叩き込むと彼女は凄まじい速度で壁が砕かれるほどの威力で打ち込まれた。
「ルルノア!!」
「よそ見してる場合か?」
ルルノアに一瞬視線を向けたブレットに狙いを定め男は1秒にも満たず彼の眼前へと移動する、そしてルルノアの時と同様に軽いパンチを繰り出した。
何とか反応して両腕でガードするが大きな鉄球でもぶつけられたかの様な衝撃と共に後方へと吹っ飛ぶ、今の一撃で両腕の骨が砕けていた。
「嘘でしょ……」
あまりにも強すぎる。
勝てる勝てないの次元じゃ無い……勝負にすらならない。
「あと4人か……」
そう言い男はルルノアの治療を始めていたレレリアに視線を向ける。
「まぁ、回復役から倒すべきだよな」
「そんな事させな……」
アリアが剣を胸の高さに構える頃には既に男はレレリアの隣まで移動していた。
「眠ってろ」
そう言い器用に首に手刀を当てるとレレリアを気絶させる、そして一瞬カーニャに視線を向けるも、無視した。
「さてと、あと三人だな」
そう言いルナリスやアリアの横を通って再び先程まで居た位置に戻る、何故か彼に殺す意思は無い。
不幸中の幸いだが、それが不気味だった。
「何故殺さないの」
「なんだ?殺して欲しかったか?」
そんな訳は無い。
「殺さないのが不思議なんだろう……まぁ、無理もないか」
「何がしたいの」
「お前らはクリミナティという組織を知ってるか?」
「犯罪者組織の名前でしょ」
何を目的として居るのか、人殺しから盗み、何でもやる犯罪者集団……二、三年前からその名をよく聞く様になった。
「まぁ俺はその一員なんだが、クリミナティにも色々あってな」
ルナリスやアリアが彼の話の隙に打開策を模索している中、カーニャだけは真剣に彼の話を聞いていた。
クリミナティ……カナデが最優先で追っている組織、その情報がこんな所で入るとは思わなかった。
「お前らが想像しているクリミナティとして名前を売り、行動している奴らは組織で言う末端、雑魚達だな」
「じゃああんたは何なのよ」
「クリミナティにも色々と部隊と言うか部署と言うべきか……まぁチーム見たいなのがあってな、俺はそこの研究チームでな、人間と魔物のハイブリッド兵士を作ろうとしてんだよ」
「ハイブリッド兵士……何の為に?」
「それは言えないな、魔法で誰かに伝えられる可能性もあるし……まぁお前達を殺さないのはその実験体になって貰うからだ」
実験体……あの魔物達の様になる、それは死と同義だった。
今の事態……メイガスタ様に深入りしない様に言われていたのに、退却しなかった私のせいだった。
彼は強すぎる……勝つのは不可能、できる事は一人でも多く逃す事だった。
「ルナリス、カーニャ……後ろの三人連れて逃げて」
「何を言ってますの!?」
「全ての責任は私が取る……死ぬのも私一人でいい」
アリアはそう告げると手首を切り裂き、大量の血を地面に垂らす。
「いきなりリスカかよ、ヤベー奴だな」
彼は血の魔法を知らない様だった。
「早く行って!!」
「行かせるかよ」
ルナリス達が動き出す前に気絶させようと男は走り出す、だがアリアを横切ろうとしたその時、赤い壁が眼前に広がり足を止めた。
「何だこれ……」
突然現れた赤い謎の壁に足を止めたがよく見ると波打っていた。
近くで観察していると壁の一部が鋭利になり男に襲い掛かる、だが彼を傷つけるには至らなかった。
「鉄くせぇ……その赤いの、血か」
「分かった所で対処法は無いわよ、使用する血が多い代わりに、血の壁は強固に、尚且つ近づくものを串刺しにするから」
少しクラクラする、いくら血液が他人よりも多いからと言っても壁にするほど使用は流石に堪える。
だがこれで暫くは時間を稼げる。
「死ぬのが怖く無いのか?」
「怖いに決まってるわよ、でも……私のせいで仲間が死ぬ方が怖い」
「主人公みたいなセリフだな……まぁ、仮に主人公だとしても、勝つのは不可能だけどな」
そう言い男は剣を構える、ルナリス達が逃げる時間……少なくとも5分は生きてみせる。




