第48話 2人の進む道
翌日、目を覚ますとカナデの姿は無かった。
枕元に一筆。
『顔を合わすと別れが寂しくなる、また会いに行く』
それだけが置かれて居た。
隣で眠って居たメリナーデも居なくなっている、まだ温もりは感じるが……カナデなら関係ない事だった。
寂しいが、悲しくは無い……彼とは必ず会える、次に会った時、がっかりさせない様に私は強くなる。
「そうだ、アリアの所に行かないと」
昨日試験だったにも関わらず、その翌日に合格発表と入寮と言うハードなスケジュールになって居た。
恐らく私はカナデの口利きで合格は確実、アリアも実技演習で勝利して居た故に大丈夫な筈だった。
洗面所の鏡で髪の毛を整える、そして口に指を当てると無理矢理口角を上げた。
「上手く笑えるかな」
私は人との距離の取り方が苦手だ、どうやって接すれば良いのか分からない、アリアもいっぱい話し掛けてくれるが私が一歩踏み込めば引かれるのでは無いかと思ってしまう。
人間関係は難しかった。
「よしっ」
この内気な性格も変える、その覚悟を決めると昨日カナデから貰ったタグを首から下げた。
光に反射して綺麗な金色に輝いて居た。
カナデから餞別として送られたお金が入った袋を小さなカバンに入れると肩から下げて部屋を出る、今日は入学の日……少しドキドキする。
「遅いわよ」
「ごめん、少し道に迷った」
「鈍臭いわね、行くわよ」
そう言いアリアは先に歩き出す、私とは違い思った事を口に出せる……少し尊敬する。
「ねぇ、昨日の人とどう言う関係なの?」
「昨日のって、カナデ?」
「別に言いたく無いなら良いんだけど、兄妹にしては似てないし、姉妹なら分かる気もするけど」
恐らくメリナーデと私の事だろう、だがカナデとの関係性に疑問を持つのも無理はない。
しかし……私が奴隷だったと言って彼女は引かないだろうか。
この世界の奴隷に対する風当たりはキツい、貧困層からすら見下されるのだから……あまり言いたくは無かった。
「カナデは……お友達かな」
「お友達ぃ?」
不可解そうな表情でアリアは振り返る、だが特に追及する事も無くまた正面を向いた。
誰しも言いたく無い事はある、アリア自身もそうなのだから。
「そう言えば、あんたはあの話し聞いても何とも思わなかったの?」
「あの話って……血の魔女の話し?」
「そうよ」
ツンとした態度でそう告げる、確かに昨日の話しは私も聞いて居た。
だが血の魔女とか正直よく分からない、それに仮にもアリアがその末裔だったとしても私は構わなかった。
「アリアはアリアだから、別に何とも思ってないよ」
その言葉に少し驚いた様子を見せる、初めて言われる言葉、彼女がこの国の出身では無いからなのだろうが、それでもアリアには衝撃的だった。
この国は髪が赤いと言うだけで差別を受ける、無論それは血の魔女の所為……小さな子でもそうなる様に教育を受ける。
血の魔女は悪だと。
実際の史実は一切不明だが、血の魔女は大勢を殺した……だからと言って何故……何もして居ない私までこんな思いをしないと行けないのかと何度も思った。
友達なんて出来た試しは無い、皆んな髪が赤いから、血の魔女の末裔だと私を疎み、遠ざけた。
大人は避けるだけだからまだ良い、だが子供は残酷だ。
血の魔女は悪と教え込まれて居る……暴力は日常茶飯事、一度殺されそうにもなった。
それ以来私は母以外は信用出来なくなって居た。
だが不思議とカーニャは初対面の頃から心を許せた、理由は分からない、赤い髪のカナデと一緒に居たからと言う単純な理由かも知れないし、そうで無いかも知れない。
だが、心を許したのは間違いでは無かった、彼女の言葉を聞いてそう確信した。
「そう、早く行かないと遅刻するわよ」
いつもと変わらないトーンでアリアは告げる、だが内心は凄く喜んでいた。
当然カーニャにその事が分かる筈も無かった。
「二人とも受かってると良いわね」
「そうだね」
アリアの言葉に同意しながら辺りを見回す、昨日カナデ達と共に歩いた道と同じ道を歩みながら学院へと向かう、今日から始まる新しい生活……カナデ達が居ないと言う寂しさもあるが、やはり楽しみも大きかった。
学院へ近づくに連れて人は多くなる、そして合格発表の紙が張り出されてある校舎の前に着くとアリアは大きくため息を吐いた。
「合格してると思うけど、こうして見るのは緊張するわね」
「大丈夫だよ」
「だと良いけど」
そう言いながらアリアは人混みを掻き分けて自分の名前を探す、だが探すのに時間は掛からなかった。
合格者の名前はあいうえお順、アリアの名前は最初の方に記されてあった。
「まぁ……分かってたけど嬉しいものね」
嬉しいが感情を露わに喜ぶ事はなかった。
「私の名前は……」
カ行を探すが名前が無かった。
一度アリアの方を見る、だが彼女は不思議そうに首を傾げるだけだった。
メイガスタに言ってくれている筈なのだが、やはり昨日負けたのが大きかったのか……何度もカ行を探すがやはり名前はない……不合格なのだろうか。
「あれ、あんたの名前じゃない?」
そう言いアリアが指を指す、その方向はカ行から遠く離れた最後の方だった。
「え?」
指の方へ視線を向ける、ラ行に混じってカーニャの名前が記されて居た。
何故そんな所にと言う疑問もあるが、合格して居た事への安堵の方が大きかった。
二人は人混みから離れると顔を見合わせる、そして少し嬉しさで笑みが溢れた。
「あらあら、合格程度で喜んでるのかしら?」
青い髪を揺らしルナリスが近づいて来る、取り巻きは居なくなっていた。
「アリアはともかく、もやしまで合格出来るなんて、今年の試験基準はどうなってるのかしら?」
「も、もやし?」
「あら、知らないのかしら?まぁ良いわ、それより合格程度で喜んで居たら、この先が思いやられるわね」
「何を言いに来たの?」
「精々頑張りなさいって言う私からの激励よ」
そう言いながらルナリスは去って行く、その後ろ姿をアリアは睨み付けていた。
結局何を言いに来たのかイマイチ分からなかったが、彼女も当然受かっている様だった。
「ねぇ、ルナリスって何でアリアに当たりがキツいの?」
「知らないわよ、ただ今に始まった事じゃないし、別に気にしてないわよ」
不思議な関係性もあるものだった。
「それより今から説明会とか入寮とか、ハードな1日になるわよ」
アリアは少し面倒くさそうに告げる、だが二人とも内心はワクワクしていた。
期待を胸に校舎へと向かう二人、だが翌日に想像とは大きくかけ離れた事が起こる事を二人はまだ知らない。
カーニャが学院の説明を受けている一方、カナデはとある小さな街を訪れていた。
「な、何だよお前!急に来て何を……」
「黙れ、俺はクリミナティについて知っている事は無いかを聞いているんだ」
「し、知らねぇよ!転生者が皆んな何処かに属してる訳じゃねぇんだ!」
彼の言葉に嘘はない。
「そうか……お前に一つ教えて置いてやる、この世界に主人公なんて居ない、俺もお前もな」
「何を……」
彼の言葉は最後まで話される事は無かった。
深く暗い闇の中へと落ちて行く、そして彼は影の中へと消えて行った。
「収穫無しか」
カーニャと朝に別れてから2時間、やはり護るものがメリナーデだけだと動き易かった。
どれだけ小さな出来事でも良い、転生者は己の力を誇示したいがあまり何かしらの事件を起こす、さっきの奴もその一人だった。
表向きは街を守っていた様だが、その代償に多額の傭兵代と女性の性的奉仕を要求していた、まぁ良くあるパターンだった。
こう言うやつは居場所を特定し易いが、情報も持っていない、リリアーナの弱体に多少は繋がっているが、砂丘の砂を拾い上げる様なものだった。
「くそっ……あいつに聞くか」
最近はコンタクトを取っていなかったが、新城……あいつは英雄組合と俺を繋ぐ連絡役、何かしらの情報を持っているかも知れなかった。
ただ、彼にあの魔法をバラすのは気が引ける……だが、まぁ良いだろう。
カナデは影に沈むと遠く離れた新城の背後に姿を表した。
あまりにも突然の出現に新城は驚きで尻餅をつく、何が起こったか理解して居ない様だった。
「え、転移魔法……じゃないよな?」
「あぁ、それよりクリミナティか教祖について情報入ってないか?」
「そ、それなら丁度協力の依頼があってな、今回共に行動してもらうのは蓮二なんだが……聞くか?」
蓮二、あのチンピラ……あまり共に行動したいタイプでは無いが、そうは言ってられない。
「あぁ、聞かしてもらおうか」
クリミナティに、あの男に近づくのなら、俺は何でもする。




