第47話 大切な物
「そう言う時もありますよ、私だって人は殴れませんから」
そう言いながら上機嫌に酒をメリナーデは口に運ぶ、試験終わりにカーニャ達と合流し、そのまま昨日訪れた酒場に再び足を運んでいた。
だがカーニャは予想以上に落ち込んでいる様子で食事がまったく進んでいなかった。
「ねぇ、何で貴方も髪色が赤いの?」
カーニャの隣で一緒に食事をしていたアリアがカナデを見て質問する、この国では赤い髪と言うのは珍しい様だった。
それと同時にあまり良い印象を与えないらしい。
街で色々と嫌な顔をされれば馬鹿でもわかる。
「さぁ、俺の母と同じ髪色なだけで理由なんて知らないよ」
「お母さんの名前は?」
「エリスだよ」
「ふぅん」
あまり興味の無さそうな返事、だが名前を言った所で生まれ故郷が違う故に関係性も無いはずだった。
母はエルフィリア、彼女達はルデールの生まれなのだから。
だが何故赤い髪が不吉とされて居るのか、単純に血を連想すると言うだけでは無さそうだった。
「この髪色、この国では何かあるんですか?」
「他国では然程珍しく無いんだけど、ルデールでは赤い髪は血の魔女の末裔とされてるんだ」
「血の魔女?」
アリアの母の言葉にカナデは首を傾げる。
「そう、この国が出来る前まで遡るんだけど、ここは元々魔法を得意とする者達が住んでたの」
「それは今もあまり変わらなく無いか?」
「魔法が使えるって点ではね、でも大きく一つ違うのは住んでる者は皆んな親戚みたいな感じで、何処かしら血が繋がってたの」
「全員か?」
「そう、その中でも本家とされて居た者が今の国名にも入って居るルデールヴァミリア、この国を作った人なの」
「ほえー」
食事を口に運びながら相槌を打つ、本家と分家はある程度分かるが一つの街に成る程とは規模が大き過ぎて理解が難しかった。
「そして血の魔女と呼ばれた者がルデールとは遠く離れた分家のラディアハイネスタと呼ばれる者なの」
当然、名前なんて聞いた事は無い。
「簡潔にラディアが何をしたかと言うと、街の人々、自身の家族や親戚全てを殺したの」
「成る程な」
「さまざまな理由が言い伝えられて居るけど、有力なのは二つ、閉鎖的な身内ばかりの街に嫌気がさしたか……一般人よりも濃い魔力を持つ者達を殺し、更に魔道士の高みを目指したかのどちらかと言われてるの」
どちらにしても、大量殺人を行うにはあまりにも自己中心的な理由、血の魔女が嫌われる理由も分かる。
「そしてそれを止めたのがルデール、二人の戦いは童話となって今でも語り継がれて居るの」
「血の魔女が嫌われる理由は分かったんだが、赤い髪が嫌われる理由にはならなく無いか?」
「一族の中で赤い髪はラディアだけだった、そしてその後生まれた子供も全て赤い髪、つまり赤い髪は=ラディアの血族、末裔だと言う事……だから忌み嫌われているの」
「……と言う事は?」
「お察しの通り、私はミエルハイネスタ、娘はアリアハイネスタ、あの一族の末裔なの」
ミエルの言葉にカナデは驚きで食事を運ぶ手が途中で止まった。
「でもその事実を知るのはメイガスタ様くらい、本当に末裔って事が周りにバレたらお客さんが居ない程度じゃ済まないからね」
そうミエルは笑い声を上げる、先祖が起こした大罪で末裔がこうして被害を受ける、どうしようも無い理不尽だった。
だがそれと同時に良くそれ程の大罪を犯した一族が此処まで生き延びれたものだ。
普通は赤ん坊の頃に血を絶たれて居そうな物だが……まぁ歴史に興味は無い、その辺はどうでも良かった。
「カーニャ、少し良いか?」
元気なさそうにちびちびとご飯を食べるカーニャを店の外へ呼び出す、そろそろ伝えなければならない。
カナデの後ろを歩き、不思議そうな表情をしながら着いてくる、そしてカナデは立ち止まると空を見上げた。
「今日は、雲も無くて星が綺麗だな」
「うん」
「カーニャ、あの学院どうだった?」
カナデの言葉に今日の試験を思い出す、不甲斐ない自分……だがあそこには自分と同じ年代の人が居て、強くなりたいと言う志を持った人が居る……正直アリアが居れば楽しそうとも思った。
「入りたいか?」
「うん」
カナデの言葉に頷く。
「そうか、カーニャが気に入ってくれたなら良かった……」
そう告げるカナデの表情は少し悲しげだった。
「どうしたの?」
カナデの表情にカーニャは心配そうに問い掛ける、永遠の別れでは無いのだから、そこまで悲しくなる必要もない。
「カーニャとは少し、学院を卒業するまでの間お別れになる」
「お別れ?」
「いや、お別れだと少しアレだな……まぁちょっと会えなくなるだけだ」
会えなくなる……その言葉にカーニャは一瞬涙が出そうになるがグッと堪えた。
分かって居たはず、カナデはやらなくては行けない事がある、その道は険しく、私が着いていける様な物では無い……だから、少しでも足手纏いにならない様に強くなると決めたのだから。
此処で泣いてカナデさんを引き止めても意味はない……彼が好きだからこそ、困らせたくない。
「分かっ……た」
出会った頃のカーニャからは想像も出来ない、泣きそうなのを必死に我慢する表情でそう告げた。
「これ、お守り代わりに預けるよ」
そう言いカナデはポケットから金色に輝くネームタグをカーニャに渡した。
「これは?」
「俺の大切な人がくれた物だ、必ず取りに来る、だから預かってくれるか?」
カナデの大切な物を私に預けてくれた、その嬉しさと同時に彼にも大切な人が居たという事の落胆もある……複雑な感情だった。
「試験の結果なら心配しなくて良い、メイガスタには言ってある」
「うん」
そうカーニャは俯きながら答える、彼女には悪いが俺はのんびりとし過ぎた。
彼女が修行している間、その遅れを取り戻す……あわよくば、転生者を全滅させて、彼女には平和な世界……いや、元ある世界で過ごして欲しかった。
「別に今すぐ行くわけじゃ無い、今日は皆んなでご飯を食べよう」
その言葉に頷く、そしてカナデは先に店へと入って行った。
一人店の外に残されたカーニャは預かったタグを眺める、タグにはフィリアスと刻まれて居た。
フィリアス……彼女がカナデの大切な人、だが彼と出会ってその人の話しは聞いたことない。
恐らくもう亡くなって居るのだろう。
私でもそれくらいは分かる……そんな大切な物を渡して貰った、それは少し……いや、かなり嬉しかった。
「明日にはお別れ……か」
カーニャはそう呟くとタグを大切にポケットへ仕舞い、店へと戻った。




