第46話 実技演習
「あんたの髪って綺麗よね」
「え?」
試験会場へ向かう道中、唐突にアリアがカーニャの髪を見て呟く。
突然の言葉に何と反応すればいいのか分からなかった。
「いきなり悪いわね」
「アリアの髪も綺麗でカッコいいと思うよ」
「ふふっ、お世辞でもありがとう」
そうアリアは手を後ろに組み言う、お世辞では無いのだが……何故彼女は赤い自分の髪に嫌悪感を抱いているのか。
試験会場の入り口で出会ったあの人が言っていた『血の魔女の末裔』が関係して居るのだろうか。
だが聞こうにも聞きづらい、デリケートな部分は流石に詮索しない方がいい事くらい私でも分かる。
特に会話がある訳でも無く、先程の試験会場から暫く歩き、コロサス程の規模は無いが、それなりに大きな闘技場へと辿り着いた。
「次の試験会場ってここ?」
「そうよ、主に演習とか模擬戦が行われる場所なの、たまに王宮魔導士の人も居るの」
「へぇー」
アリアの豆知識に関心しながら中へ入る、闘技台には既に試験を終えた受験生達が一塊になっていた。
『そろそろ揃ったかー?』
即席で用意された壇上に登り先程、試験会場で注目を集めていたアルトが拡声器を片手に確認を取る、どうやら私達が最後だった様だ。
騒がしかった実技試験会場もアルトが話し始めると静まり返った。
『めんどくさいからサクッと説明すると、実技試験の内容は受験生同士の模擬戦、まぁ負けた奴は不合格と思って挑めよ』
そう簡潔に告げ、壇上から降りようとするアルト、だが受験生の一人が疑問を投げ掛けた。
「組み合わせはどうするんですか!」
『おお、忘れてた、今日の受験生は120名、模擬戦が行えるステージは6つあるから12名ずつ適当に出てこい、誰と戦うかは全て任せる』
何とも適当な説明と試験内容に受験生達からどよめきの声が上がる、分かっては居たが……戦闘しないといけない様だった。
魔導書を読み、魔法が少し使えるとは言え……戦闘が出来るとは自分でも思えない、正直不安だった。
「本当ならアンタとやりたい所だけど、落ちて貰っちゃ困るし……どうしようかしらね」
そう言いアリアは他の受験生達を見回す、確かに知り合いとはやりたく無い、どうせならなるべく弱そうな人とやりたかった。
とは言え、知らない人に私とやりましょうと声を掛けるのは難しい……気が付けばアリアは知らない人と舞台に向かっていた。
「あわわ、早く私も……」
「貴女……アリアと一緒に居た子よね」
声のする方向を振り向くとアリアを馬鹿にした少女が立っていた。
何となく視界の端で青い髪が近づいて居るのに気が付いては居たが……取り巻きは居ない様だった。
「貴女余り物でしょ?私と模擬戦しましょうよ」
「別に良いけど」
そうカーニャが答えると少女は笑みを浮かべた。
「決定ね、アリアの知り合いだから程度は知れてるわ」
どうやら弱そうと言う理由で選ばれたらしい。
まぁ事実なのだが……彼女にだけは負けたく無かった。
「馬鹿に出来るのも今のうちだから」
「え?何か言ったかしら?」
カーニャの言葉に少女は聞き返す、だが何も答えずその場を立ち去った。
ステージが空くまでに少し時間はある、トイレでも済ましておこうと少し試験会場から離れると突然カナデが姿を表した。
「調子はどうだカーニャ?」
「あ、うん……今から模擬戦があるの」
相変わらずカッコいい、どうしても彼の前では緊張してうまく言葉が出なかった。
「模擬戦か、普通のならアドバイス出来るんだが……魔法の方は俺もダメだからなぁ」
そう言い悩ましい表情をする、悩んでる顔もかわいい。
「取り敢えず戦闘の基本は冷静である事、何があっても絶対に焦らなければ勝てる」
「焦らない……分かった」
正直めちゃくちゃ参考になるかと言われればそうでも無いが、カナデと話せただけ良かった。
「カーニャなら勝てる、頑張って来い」
その言葉と共に背中を押される、戦闘経験は皆無だが、行ける様な気がした。
「早くステージに上がってくれる?」
「わかってる」
相変わらず高圧的な態度、恐らくと言うか確実に舐められて居る。
よく創作の話しで主人公を馬鹿にするキャラがボコボコにされると言う描写がある、言わば彼女は噛ませ犬キャラ、此処でギャフンと言わせればカッコいい筈だった。
『えーと、武器の使用は無し、杖は使用可で、どちらかが降参するか試験官が明らかに危険と判断した場合のみ止めに入る、ルールはこんな所だ』
アルトが簡易的な説明を終えると試合開始を告げる鐘が鳴る、その瞬間に少女は杖を取り出し詠唱を始めた。
『猛々しく燃え盛る炎の精よ、我に力を貸したまえ』
下級魔法の簡易詠唱、魔導書を読んでいた故に分かる……スピードもそれ程早く無かった。
例えるなら小学生の投球スピード、だが火球は三発放たれて居る、避けるよりも同じ威力の魔法で反撃した方が良さそうだった。
詠唱も無しに手をかざしただけで火球は放たれる、放たれた火球は丁度二人の中間地点でぶつかり合うと爆発音と共に煙が立ち込める、意外と威力はあった様だった。
「煙で姿が見えない……」
闇雲に魔法を打っても魔力切れを起こす、とは言え煙で姿が見えないのは向こうも同じ……だが戦闘経験がないカーニャはこう言う場合どう行動するのが正解なのか分からなかった。
それに無詠唱で打てるとは言え、恐らく私の元々の魔力量はそんなに多くは無い、タイミングを考えないと厳しいかも知れなかった。
「ちょっと想定外ね」
その声と共に風が煙を消しとばす、だが現れた彼女の顔は少し引き攣っていた。
「こんな無名の人間が無詠唱で魔法を使うなんて、少し貴女への評価を変えるべきかもね……名前は?」
「カーニャ」
「そう、私はアルレア・ルナリス、聞いた事はあるでしょ?」
「全然」
カーニャの言葉に鳩が豆鉄砲でも喰らったかの様な表情をしていた。
「嘘でしょ、アルレア家よ?この国有数の貴族、知らないの?」
彼女の口ぶりから察するに相当有名な貴族の様だが、生憎私はこの国どころかこの世界の事すらあまり知らない、要するに聞く相手が悪かった。
「……まぁ良いわ、要するに貴女は何があっても私に勝てないって事よ」
そう言い再び詠唱を始める、詠唱中断の為に火球を放つが彼女は走っても詠唱が乱れる事は無かった。
そして詠唱が終わると小規模な雷雲がカーニャ達のステージを覆う、そして落ちる雷がステージを少し抉った。
当たれば痛いじゃ済まなそうな威力、彼女が防御魔法を張って居るのを見る限り無差別攻撃の様だった。
当然落雷なんて目で追えるスピードでは無い、彼女が魔法を展開して数十秒、私は運良く当たっていないだけだった。
彼女に対してどんな魔法で攻めるのが有効なのか、どうすれば勝てるのか思考を巡らせる、そして彼女に魔法を向けようとするが直前で手が止まってしまった。
人に魔法を向ける……それがこんなにも怖い事とは思わなかった。
カナデは強いし私程度では無傷だと分かって攻撃したが、彼女はどうなるか分からない。
「貴女、人に魔法を向けた事がないのでしょう?」
「え?」
「無詠唱で魔法を打てるのは凄い才能だけど、人に魔法を向けれないなんて論外……優しさ、そんな物は邪魔でしか無いのよ」
その言葉と共に雷がカーニャに迫る、だが雷は当たる直前で消えるとカーニャは尻餅を付いた。
「私の父が言ってたわ、優しい奴が戦場では真っ先に死ぬってね」
そう杖を喉元に突き付けてルナリスは告げる、私は……何も出来なかった。
『それじゃあ、実技試験はこれにて終了かな、各自解散で構わないよ、結果は2日後にまたこの学校で発表するから』
「期待はずれね」
ルナリスはその言葉だけを残して取り巻きを連れて去って行く、カーニャは他の人が帰る中、一人演習場のステージの上で俯いていた。
人に魔法を向ける、それがあんなにも怖いとは……カナデの戦いは間近で見た事もある、人が死ぬ瞬間も……だからこそ最悪をイメージして攻撃をするのが怖かった。
「まぁ、実技が全てじゃ無いし……何とかなるわよ」
アリアの慰めが少し辛い、私の人に魔法が向けられないのは時間が解決してくれるのだろうか。
分からない……ただカナデの役に立ちたい、それだけなのだが、今のままではもっと足を引っ張るだけだった。
「取り敢えず……帰るわよ」
「うん」
何と励まして良いのか分からないアリアとただ現状にショックを受けるしか無いカーニャ、二人は気まずい雰囲気のまま演習場を後にした。




