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第49話 色んな人との出会い

「なんか、長い様な短い様な……不思議な1日だったわね」



「そうかな?私はあっという間だったけど」



寮の部屋に荷物を運ぶアリアをベットの上に座りながら眺める、8畳程のワンルームにシングルベッドが二つ、そして勉強机が二つ壁沿いに置かれた部屋が私とアリアの住まいだった。


荷物があるアリアとは違い私に荷物は何も無い、故に暇だった。



「手伝う?」



「あと一回家に帰れば良いだけだから大丈夫よ、それより学院の探索でもしてれば?」



そう言い忙しそうに部屋を後にする、部屋で無になっているより探索の方が面倒くさいが有意義の様だ。


新入生専用の新設された綺麗な三階建ての寮を出ると100m程の中庭を抜ける、道は二つに分かれており、右が学院、左が併設された生徒専用の商店街だった。


街の中にさらに小さな街があると言う違和感、かなり気になるがあっちは後日アリアと一緒に行けば良い。



「凄い学校」



奴隷の頃からは想像も出来ない、こんな充実した設備の学院に誰が通えると思っただろうか、そもそも学校すら行けないと思っていた。


カナデには感謝しかない。


だが一つ疑問がある、学校は貴族の子供が行く場所と言うイメージがある、だがアリアの家は失礼だが裕福では無い、どうやってこの学校に通う為のお金を払っているのか……これ程の設備だ、掛かるお金は尋常では無い筈だった。


校舎に入って直ぐにある大広間、思わず見上げてしまう程の吹き抜け、天井のガラス張りからは太陽の光が差し込んでいた。



「どうじゃ、凄い学院じゃろ」



学院の内装に感動していると老人の声が聞こえる、視線を向けると凄まじい風格を漂わせる老人が立っていた。



「誰?」



「メイガスタじゃよ、カナデから聞いておらんか?」



「あ、」



「忘れておったか、まぁ気にせんでええ」



笑いながらメイガスタは杖の音を鳴らし近づいて来る。



「カーニャ、お主は何故強くなりたいんじゃ?」



まるで試されているかの様な質問、だが強さを求める理由はもう決まっている。



「す……カナデの隣に立ちたいから」



「あやつの隣か……険しい道のりになるぞ?」



「覚悟は……してるから」



カーニャの真剣な眼差しにメイガスタは静かに頷いた。



「一つ、聞きたいことがあるのだが……演習試験の時に相手を攻撃出来なかったのは本当か?」



「うん」



「今の時代には珍しいな、何か理由でも?」



理由……自分の不甲斐なさに打ちひしがれ過ぎて深くは考えてなかった。


ルナリスが放った魔法を打ち消すのは出来た、だが彼女自身に魔法を打とうとすると躊躇して発動すら出来なかった。


人に魔法を向けるのが怖い、その根本的な原因はわたあめの死を見た事にあった。


カナデと一緒に居て人の死を見る事は何度もあった……だが友達が死ぬのは初めてだった。


人を攻撃する時にわたあめが脳裏を過り、攻撃が出来なかった。



「えっと……」



この事を何で伝えれば良いのか分からなかった。



「人を傷つけるのが怖いか?」



「うん」



「そうか……」



その言葉と共にため息を吐く、人を攻撃出来ない奴にも2パターンある。


仲間が危機的状況に陥れば自然と克服するタイプと、潜在的に拒絶し、そのその根本を解決しないと克服出来ないタイプ……彼女がどちらなのかは現段階ではメイガスタでも分からない事だった。



「まだ入学して初日だが、友と呼べる者は居るか?」



「うん、アリアが居る」



「そうか、もしかすれば……明日には解決するかも知れんな」



「明日?」



不可解な言葉を残してメイガスタはゆっくりと何処かへ歩いて行く、明日に何かあるのだろうか。


だが解決のきっかけが掴めるのなら何でも良い、戦いたい訳では無いが攻撃出来ないなんて致命的過ぎる。


このままじゃカナデの横に立つなんて夢のまた夢……頑張らなくては。



「あら、もやしっ子じゃなくて?」



「もやし?」



吹き抜けの2階から身を乗り出してルナリスがカーニャを見つけ声を掛ける、そして直ぐ近くの階段から降りて来た。


もやしが何かよく分からないが、いい意味ではない事だけは分かる。



「あの赤ピーマンは一緒じゃ無いのかしら?」



「あか……ピーマ?」



「アリアの事よ、察し悪いわね」



そう言い少し不機嫌になる、ルナリスの周りにはあの時の取り巻き達が居なかった。



「アリアは荷物運んでる」



「引っ越し?そんなの使用人に任せれば……あらぁ、忘れてたわ、貧乏人に使用人なんて居なかったわね」



「使用人って何?」



「え、そこからなの?」



カーニャの予想外の言葉にルナリスは面食らう、カーニャの知識にはかなり偏りがあった。


魔法関連の書物はよく読んでいる故に多少詳しいが大陸の情勢や一般的な常識は無知では無いが、知らない事も多かった。


それもこれも奴隷生活が長かったから故の事。



「ま、まぁ良いわ……それより良く入学出来たわね」



本来なら不合格だが、私の場合はズルというか……特別、彼女が不思議に思うのも当然。



「一緒に居た人達は居ないの?」



「あの二人なら試験に落ちたわよ、別に親しくも無かったしどうでも良いんだけどね」



「そうなんだ」



当たり前だが全員が受かる訳ではない……そう考えるとこの学院のレベルはかなり高そうだった。



「まぁ、貴女程度の実力だとこの先地獄よ、早いところ退学するのをお勧めするわ」



手をひらひらさせながらルナリスはメイガスタとは逆の方向へと歩いていく、結局彼女は何をしに来たのだろうか。


よく分からないが、友達にでもなりたいのだろう。


ルナリスと別れて学院内を見て回る、50人はゆうに収まる教室が何個も並ぶ、明日から此処で勉強すると思うと楽しみだった。


学院内には食堂や購買、トレーニングルームに大浴場、そして果てしなく広い書庫……充実し過ぎている設備だった。


どれだけのお金が掛けられているのか、書庫に並ぶ本を眺めながらぷらぷらと歩く、今日が入学式だからなのか、学院内の人がやけに少なかった。


ただでさえ静かな図書館に一人、まるで異世界にでもいるかの様だった。



「それにしてもすごい数」



見渡す限り一面の書物、数千……数万……検討すら付かない程の量、正直一生掛けても読みきれない。


もしかすると明日から私は寮では無く此処で寝泊まりするかもしれなかった。


それ程にこの本の量に興奮している、貸し出しも可能の様だ。


二、三冊借りて寮に戻ろうと借りる本を適当に探す、だが探すにも量が多過ぎてどれを借りれば良いか分からなかった。



「いつもは魔導書ばっかだし……歴史書とか読んでみようかな」



「それでしたら、これがオススメですよ」



「え?」



突然話しかけられた事に驚く、何の気配も感じなかった、そもそも人がいる事すら知らなかった。


振り向くと眼鏡をかけた黒髪ショートの真っ白な制服に身を包んだ生徒が立っていた。



「いきなりごめんなさい、新入生の子だよね?」



「うん」



「私は2年生でこの大書庫の司書もやってるミツリアって言います、人が居なくて暇だったから声掛けちゃったけど迷惑でした?」



2年生と言うことは年上、確かこう言う時は敬語を使うのが正しい筈だった。



「迷惑じゃなかった……です」



あまり敬語と言うのが得意では無い、少し違和感があった。



「良かった、本は好きですか?」



「好きです」



敬語の基本はです、ます……大丈夫。



「私も好きなんです、此処の書庫凄いでしょう?一年掛けてもまだ十分の一すら読めてないんです」



「何冊あるんです?」



「えーっと、確か2000万冊だったと思います」



その言葉に目を見開く、何となく気付いていたが、学院の大半がこの図書館に占領されていた。


どちらかと言えば学校じゃなくて図書館がメインだった。



「凄いでしょう?大陸最大の図書館で申請すれば国外の人も入ることが出来るんですよ」



「そうなんだ……ですか」



「ふふ、そう言えば貴女名前は?」



「カーニャです」



「カーニャちゃん……」



噛み締める様に名前を復唱する。



「カーニャちゃんはどんな本が好きなんですか?」



「私は魔導書を良く読んでたです」



「魔導書が好きなんて珍しいですね、私は歴史書とかを良く読むんですよ」



「歴史書は少し気になってたです」



「本当ですか?あ、ちょうどこれをお勧めしようと思ってたんですよ」



そう言いミツリアは手に持っていた少し厚い本をカーニャに渡す、少し奇妙な本だった。


タイトルも表紙も無い、薄い緑色のシンプルな本……少し年季が入っていた。



「不思議な本ですよね?タイトルも何も無い、作者すら不明……どんな話しかは自分の目で確かめてみて下さい」



「自分の目で……」



「はい、読んで損は無いので……それではお話しありがとうございました、楽しかったです」



「あ、ありがとうです」



ミツリアはカーニャの下手な敬語に笑みを浮かべると本を抱えて整理へと戻る、少し時間を潰すにしては長過ぎたかも知れなかった。



「アリアとご飯食べる約束してたんだ」



恐らくもう荷物は運び終えている筈、カーニャは本を小脇に抱えると足早に図書館を後にし、寮へと帰って行った。

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