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第二十八話 潜入に向けて

「よくもまぁ、此処まで纏めれたものだ」



英雄組合のアジトがある建物の庭で地べたに座り、ノートを優しく捲りながらリリアーナ教の情報を頭に叩き込んで行く。


リリアーナ教、大陸各地に散らばる教徒を合わせればその総数は10万人以上、最近できた宗教とは思えない程の人数だった。


当たり前だがその殆どが異世界人、肝心の転生者の数は『不確定』の文字と共に4人と記されて居た。


汚れ仕事役が3人、そして表立って教徒達に教えを説いて居るのが1人、汚れ役が居る時点で黒い宗教団体なのは確定して居た。



「まぁ……取るに足らない奴らばかりだな」



殺そうと思えば今すぐにでも殺す事は出来る、だが今は英雄組合に協力している身、勝手な行動は避けた方が良い筈だった。


それに……1人、気になる人物が居た。


由良わたあめ、珍しい名前と可愛らしいイラストで描かれた1人の少女……彼女だけは要注意と書かれて居た。


能力系統は一切不明だが、役職に汚れ役と書かれている、イラストだけ見るとカーニャとあまり歳は変わらなそうだった。



「こんな子も……人を殺すのか」



既に数人殺している俺が言えた事じゃ無いが……この異世界は良くも悪くも、転生者を変えてしまう様だ。


だが俺の目的は片凪に復讐を果たす事……その過程で邪魔をする転生者が居るなら誰であろうと殺す、リリアーナの弱体化にも繋がるし、一石二鳥だ。



「しかし、教祖は不明か」



教祖なら一番情報があると思ったのだが……知れば知るほどきな臭い教団だった。



「そろそろ戻るか」



ゆっくり立ち上がるとアジトへと戻る、アジトの周りには街も何も無い、ただ、豊かな自然が広がっている……建物の外観も蔦や苔が生えて居て、人がいる様には見えなかった。


まぁアジトには打って付け、詳しい場所は分からないが、一度来てしまえば転移が出来る、詳しい事は知らなくても良かった。


長い廊下をノートに再度目を通しながら歩く、すると円卓の方からアルスフィア達の声が聞こえて来た。



「す、凄いです……どれだけ鍛えればこんな腹筋が?」



「ひ、暇だったので……メリーさんの胸も凄いですね」



「あ、あまり見ないで下さいよー、同性とは言え、恥ずかしいです」



楽しげに話すメリナーデとアルスフィアの声……カーニャの声は聞こえなかった。



「今戻ったぞ」



扉を開けると同時に戻った事を伝える、つまらなそうにカーニャは机に突っ伏して居た。



「大体の事は頭に入れた、それで……俺は何をすれば良いんだ?」



カーニャには悪いが、暫くはつまらない時間が続きそうだ。



『私の紹介でリリアーナ教に入信させる、私はそれなりに寄付してるから本部に直接入れて貰えると思う』



「本部、となればナルハミアか……」



だが位置付け的には元々はエルフィリア領土だった場所、忘れては行けないが、思い出したく無い故郷だった。



「具体的には俺達は何をする役目なんだ?」



『リリアーナ教とクリミナティが繋がってるのは確実、だからクリミナティについての情報を引き出すのと、リリアーナ教の解体が任務』



「リリアーナ教の解体ねぇ」



転生者の数からして殺すのは容易だが、解体となるとかなり難しい。


ノートの情報を見る限り、自身が破綻しても尚、寄付を続ける狂信者がが多く見れる……教祖の能力であればまだ良いのだが、人身掌握が上手いのであればかなり厄介だった。


それに教祖の情報は全く無い、アルスフィアがどれだけ潜入して居たのかは知らないが、彼女のコミュニケーションが取れない特徴と、ノートの情報量を見れば1ヶ月以上はゆうに超えている筈……この任務、長丁場になりそうだった。



「潜入は良いが……」



カーニャとメリナーデをどうするべきか、今回ばかりは危険すぎる、とは言え2人だけにするのも……



『2人が心配なの?』



視線を見て察したのか、アルスフィアが文字で尋ねて来た。



「流石に2人をリリアーナ教に連れてく訳には行かないからな……」



とは言え、潜入となれば会えない時間は多くなる、その分敵から狙われる可能性も高く……対処法があるにはあるが、それはメリナーデ達に苦痛を与える、それだけはしたく無かった。



「カナデさん、私は大丈夫ですよ」



苦悶するカナデにメリナーデがそっと肩に手を乗せ、告げた。



「大丈夫?」



「はい、カーニャちゃんは側に居た方が良いと思いますが、私は恐らく邪魔になると思います……なので、あの魔法を使っても大丈夫ですよ」



「だが……」



「守られる存在が文句なんて言えませんよ、たまにお酒を入れてくれれば充分ですから」



そう笑みを浮かべる、彼女の言う魔法は空間魔法。


だがメリナーデはどちらかと言うと治癒の魔法を得意とする、神ゆえにある程度の事は出来るが空間魔法は元々創造神が得意とする魔法、だからこの世界も創造された。


メリナーデの力を持ってしても、真っ白な空間を生成するのが精一杯、そこには何も無い……故に苦痛と表現した。


彼女には助けて貰い、復讐の力を与えて貰った恩がある、一時的とは言え不自由はさせたく無い。



「大丈夫ですよ、2人は必ず護りますから」



「……わかりました、カナデさんを信じます」



少し嬉しそうな表情でメリナーデは告げると再び椅子に腰を下ろした。



『話は済んだ?』



「あぁ、潜入には2人も連れてく、数が増えても問題は無いよな?」



『問題ない、出発は今すぐ……と書きたいが、次の集会は明日、だから明日また此処に来て欲しい』



「分かった、行こうか2人とも」



アルスフィアに別れを告げると2人を連れてアジトの外へと出る、アジトの周りに広がる一面の森林、こう言う自然は故郷を思い出せて好きだった。



「外に出なかったから分かりませんでしたが、綺麗な自然ですね」



「私が居た所に似てる」



そう言い2人は辺りを見回す、開発の進んだ日本では間違いなく見られない光景、懐かしさからなのか、カーニャの瞳は輝いて居た。



「カナデさん」



「どうかしましたか?」



「私は……カナデさんに凄く感謝して居ます」



「どうしたんですか、急に」



「私は手を汚さないで、カナデさんに転生者を手に掛ける様に言ってしまいました」



「その事ですか」



俺が目覚めた頃の話し、確かに思い返してみればぶっ飛んだ頼みだが……別に気にしては居ない。


いや……気にしてないは嘘になる、今まで殺した転生者4人のうち、2人はどうしようもないクズだった、そしてもう1人は此方を、メリナーデを殺そうとして来た……だから殺した。


だがレイジだけ、心のどこかで小さな後悔があった。


振り返って見て、やっと気づく程度の後悔だが……彼の事はよく知らずに殺した、善人か悪人かも知らずに。


パッと見では転生者にも善人は居る、英雄組合を見てそれは分かった……だが本質的な所はどうか分からない。


所詮は人間、根っからの善人なんてのは存在しない。


自慢じゃ無いが、カナデ自身もこうなる前、故郷を滅ぼされる前は人を殺すなんて考えた事も無い、人を助ける為に生きる程の善人だった。


だが、今は違う……人は簡単に変わるものだった。



「メリナーデ様、別に俺は転生者を殺す事に苦しみも後悔もありませんよ」



「そうなのですか?」



勿論、全くない訳ではない……だが彼女を不安にさせる理由も無かった。



「そうですね、尤もらしい理由をつけるのなら……二度と俺の様な思いをする人を出さない為にも、転生者は殺しますよ、例え善人でも」



人は簡単に変わる、平和な日本ではなく、この異世界でなら尚更……だから善悪なんて当てにならない。



「そう……ですか、すみません、女神なのに……何が正しいのか、私にも分からなくて」



「人間の言葉で言うなら、自分の正しいと思う事を信じろ……ですかね」



落ち込むメリナーデにそれらしい言葉を掛ける、転生者を殺すか殺さないか、罪悪感があるかどうかなんて考えるだけ無駄だった。


今も、メリナーデに助けて貰った時も目的は変わらない。


片凪を殺すことだけなのだから。



「安心して下さいください、メリナーデ様とカーニャは必ず護りますから」



「無理は……しないで下さいね」

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