第二十七話 紹介
「いやー、想像以上の強さだ、改めて君も協力関係が結べる事を嬉しく思うよ」
円卓の席に着くや否や、腕を組み告げる、自分自身もそれ程実力を見せて居ない癖して、よく言ったものだ。
「協力関係と言っても、あくまで主導権は此方が握らせて貰うぞ」
「てめぇ、そんなメチャクチャが通るとでも……」
「蓮二、良いんだ」
カナデのとんでもない言葉に蓮二がいきり立つが、槙島は冷静に宥めた。
「飽く迄も此方は協力して貰う身だからな、多少の無理でも受け入れないとな、取り敢えずメンバーだけでも紹介させてくれ」
「手短に頼む」
「なるべく善処するよ、さっきも紹介したが、このムキムキが剛城健二、純粋な肉弾戦なら英雄組合でもトップを争うレベルだ」
槙島の言葉に小さく会釈する、彼のガタイでトップじゃない事の方が驚きだが、先程の手合わせで能力が効かないのは分かった、あまり警戒はしなくても良さそうだった。
「そんで次は」
「俺は自分で言うよ」
槙島の言葉を蓮二は遮った。
「俺は相澤蓮二、見た目通り生前は不良をやってた、喧嘩に負けた例はねぇ、能力は倍々拳、殴れば殴るほど威力が上がる、一発殴れば次は二発分の威力、その次は四発分って感じでな」
そう言い指の骨を鳴らす、能力名がダサいのは置いといて、能力自体はかなり強い部類だった。
だが何発も殴られる事は恐らくない、彼もまた警戒する必要は無さそうだった。
「今いるメンバーでは彼?彼女?が最後だね」
そう言い槙島は肩に掛からないくらいまで伸びた赤い髪に仮面の人物を指差す、仲間間でも性別が判明して居ない様だった。
「名前はアルスフィア、基本喋らないんだけど意思疎通をとる時はノートブックに文字を書いてコミュニケーションを取るんだ」
『よろしく』
槙島の紹介を受けてアルスフィアがノートに文字を書く、よく漫画やアニメでこう言うキャラを見るが、こうして実際に出会うとただ面倒臭いだけの奴だった。
「アルスフィアの能力はなんだ?」
「分からん」
「分からんって、それで良いのか?」
「別に能力を明かす義務は無いからな、俺達は飽く迄も異世界の秩序、人助けの為に集まってるだけだからな」
あまりしっかりとしたルールなどは無い様子だった。
「そして最後に俺が槙島圭介、さっきも言ったが、この英雄組合のリーダーをやらせて貰ってる、能力は……まぁざっくり言うと物を軽くする、あって無い様な物だ」
槙島の言葉にカナデは一瞬、能力を詳細に聞こうか迷うが、それよりも先に確認して置きたい事を思い出した。
「他のメンバーは何をしてるんだ?」
槙島の情報では英雄組合は11人、だがこの場には5人しか居ない、円卓の空席は6席……他のメンバーの情報も欲しいところだった。
「あぁ、こっちも色々と忙しくてな、近いうちに紹介するよ」
「……そうか」
正直、情報を集めて油断がない様に警戒をしようと考えて居たが……その必要は無いとわかった。
リリアーナの力を小分けに与えられた彼らと、メリナーデの力の殆どを与えられた俺……力の差は天と地程あった。
剛城の能力が効かなかった事、そして槙島の手合わせ……全てが期待外れだった。
だが戦闘を求めてこの場に来た訳では無い、彼らが取るに足らない存在である事に越した事は無かった。
「それで、あんたら英雄組合は俺に何をして欲しいんだ」
「そっちから聞いてくれるのはありがたい、カナデにはリリアーナ教を調べて欲しいんだ」
「調べるだけで良いのか?」
「あぁ、アルスフィアにリリアーナ教の事を頼んだんだが……何せあの調子だからな」
そう言い槙島はアルスフィアに残念な視線を送る。
『なんだ?』
視線に気付いたのか、カンペに文字を素早く書き、此方に見せる、確かにあれじゃまともなコミュニケーションは取れない、視線の理由も頷ける。
「だけど、なんであれにそんな仕事を与えたんだ?」
「それは……」
槙島が答えようとする言葉を遮る様に、椅子が動く音が響き渡った。
『ここから先は私が話そう』
静まり返る場で小さく響く紙を捲る音、よく分からないが何かを説明してくれるらしかった。
『私はこの世界を救う為に送り込まれた英雄だ』
よく分からないイラスト付きでノートを自信満々に見せる、敢えて突っ込まず、一旦流した。
『故に私は小さな任務は受けない、受けるのは英雄になれる様な大きな者だけだ』
そのカンペを出すと再び椅子に座る、結局何が言いたいのか分からなかった。
「まぁ、簡単に言うと英雄願望が強くてな、手っ取り早く大勢の人から感謝されたいらしく、小さい依頼は受けないから今現状で一番の大仕事を任せてるんだよ」
自己中心的で我が儘、それを許容しているこのグループ……よく分からない集団だった。
「こちらから招いて置いて悪いが、詳しい話しはアルスフィアから聞いてくれ、まだ傭兵の仕事や魔物の討伐依頼が溜まっててな」
「最後に一つ聞いて良いか?」
「なんだ?」
「なぜ人を助けるんだ?」
カナデの質問に槙島は苦笑いを浮かべた。
「そりゃ、困ってる人を助けるのが与えられた者達の役目だろ」
そう告げる槙島の言葉に剛城と蓮二が拍手を送る、だが彼の発言は嘘だった。
彼を纏う様に黒いモヤが揺れている、これは嘘をついている時に出る……真意は話せないらしい。
だが彼らの目的なんてどうでも良い、俺は片凪にさえ、復讐を果たせれば。
「それじゃ、アルスフィアと仲良くしてやってくれ!!」
その言葉を残し、槙島達は足早に円卓を後にした。
「……情報は今度ゆっくり貰うか」
正直、聞きたい事が多すぎる……そして俺は知らない事が多すぎた。
転生者に関してはほぼ何の情報も無い、それに彼らはメリナーデ、殺害対象を前に何の反応も示さなかった……姿は伝えられて居ないと言う事なのだろうか。
部屋の隅で大人しくして居る2人に視線を向ける、姿がバレて無いのであればやり易かった。
ふと、視界にちらちらと何度も赤い髪の毛が映り込んでいた。
視線を少し下げるとアルスフィアがノートを持って此方に何か訴えて居た。
「なんだよ」
『彼女達は誰だ?』
そう書かれたカンペを必死に此方へ向けて居た。
要するに紹介しろと言う事だろう。
「あー、小さい方がカーニャ、大きいのが……」
メリナーデ、そう彼女の正体を教える訳には行かない。
「大きい方がメリーだ」
カナデの言葉にアルスフィアはカーニャ達に視線を向ける、そしてゆっくり近づいて行った。
念の為、剣に手を置いて観察する、メリナーデに何の反応も見せなかったとは言え、用心するに越した事は無かった。
「わ、私アルスフィアって言います、趣味は散歩とか筋トレで……す、好きな食べ物は……」
カーニャ達に近づくと急に早口で自己紹介を始める、突然の出来事にアルスフィアを除く3人は目が点になって居た。
「お前ちゃんと喋れるのかよ」
声色的に女性だが、そんな事はどうでも良かった。
『私は女性となら問題なく話せる、男とは話したく無い』
そう視線をカーニャ達から外さずにカンペだけを此方に見せる、おかしな奴に変わりは無いが……コミュニケーションが取れるだけマシだ。
「メリー」
メリナーデを此方へ呼び寄せる、俺が情報を聞けばノートでテンポが悪くなる、だがメリナーデならスムーズに行くはずだ。
「アルスフィアから取り敢えず、リリアーナ教と片凪の情報を聞いて下さい」
「その程度ならお安い御用です、たまには私も役に立ちますよ!」
妙に張り切って居た。
彼女も偶には役に立ちたいのだろう。
「アルスフィアさん、リリアーナ教について分かってる事を教えてくれませんか?」
「り、リリアーナ教ですね……しょ、少々お待ちを」
そう言いカナデ達を残して円卓を離れる、そして数分もすると、一冊のノートブックを持って戻って来た。
「り、リリアーナ教の重要人物を此処にま、纏めてます……参考になれば」
そう言いアルスフィアはメリナーデにノートを手渡した。
手渡されたノートをゆっくり捲る、そして中身を見てメリナーデは驚いて居た。
「凄い……です、これは全部アルスフィアさんが描かれたのですか?」
「……こ、この世界に来る前からじ、自慢できる唯一の特技なので」
少し恥ずかしそうに下を向く、ノートには重要人物がイラスト付きで丁寧に1ページずつまとめられて居た。
「凄いな、この世界には写真は無い、かなり貴重な情報だ」
「っ!!?」
突然出てくるカナデに驚きの言葉を発する、そしてすぐさまノートを開くと文字を書き、此方に見せた。
『急に現れるな、常に私の視界に見える場所に居ろ』
かなり驚きからなのか、焦っている様子だった。
だが彼女からは恐怖の感情も感じる……典型的な男性恐怖症なのだろう。
「悪かったよ、このノート見ても……と言うか、借りても良いか?」
『好きにしたら良い』
視線はメリナーデ達の方に向いている、俺には一切向かない……彼女とはコミュニケーションを取るのは難しそうだった。
「あのカナデさん、私達は少しアルスフィアさんと話してもいいでしょうか?」
カナデが立ち去る素振りを見せたその時、メリナーデは少し遠慮がちに言った。
アルスフィアと話したい……何の意図があるのか、此処は仮にも敵地のど真ん中、メリナーデ達を1人にするのはかなり危険だが……
英雄組合の奴らに敵意はない、それに……襲う様な勇気も無いだろう。
「ノートに目を通したら戻って来る」
一人で情報を整理するのも悪くは無いだろう。




