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ひねくれ者の最弱魔術の使い方  作者: 幻影十夢
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オタクを舐めるな

――――地獄を見た。

煌が殺され、仲間が殺されて愛する人も殺された。

それから始まる神々の大戦(ラグナロク)で天地が割れて、天災が、災害が訪れた。

多くの種族の命を奪う神々の大戦(ラグナロク)はまさに地獄を再現している光景だった。

――――絶望を見た。

煌が皆が残した命を守ろうと足掻いた。一人でも多くの命を救おうと助けた。

けど、その命を自らの手で絶った。

今でも頭から離れない悲鳴、命乞い、悲痛、苦痛、恐怖、絶望、凶笑が脳にこびりついて一人、暗い地下空間で身を潜めていた。

鉄の匂い、死臭、人肉が腐る臭いが充満した地下空間ではまともな空気すらない。

何度自らの手で命を絶とうと思ったのかもう数えていない。

――――それでも死ぬわけには行かなかった。

煌やローレル、皆の仇を取るまでは死ねない。リュマダを殺すまで死ぬわけには行かない。

強くならないと、リュマダを殺す為に。

そう、リュマダを殺すこそが未来から来た翔の全て。その為なら何でもする。なんだってしてみせる。

それが自分の愛する人を殺す結果になったとしても構わない。

――――努力した。

強くなる為にありとあらゆる方法を手にしてただ我武者羅に努力を積み重ねて強くなろうと頑張った。

魔術を極めて”クラスアップ”の領域にまで到達した。

全てはリュマダを殺す。ただそれだけの為に。

それなのに―――――

「この先の未来を知らないのにどうしてお前等は邪魔をする?」

視線の先にいるのは”クラスアップ”したブランクの魔術を防いだ煌と過去の自分。

神剣と魔法陣をその手に攻撃を防いだ二人。だけど―――

「がふ……………」

「翔!?」

翔は口から大量の血を吐き出し、膝をついた。

「………………………………なるほど。神霊魔術に俺の悪魔魔術の術式を書き加えてそれを能力増大(スケールアップ)で強化させて肉体の負荷を無視して防いだか。それに煌の神剣の能力、あらゆる万物を斬り裂く力も合わされば今の攻撃を防げたのにも頷ける」

だが。

「その結果、お前(おれ)の肉体はボロボロ。もう既に魔術を行使できる身体ではなくなった」

「う、うるせぇ……………」

淡々と告げるブランクに悪態を吐きながらも立ち上がるがその身は既に満身創痍、いや、五体満足でいる自体が奇跡に等しい。もっとも翔の場合は奇跡というよりも意地に近いが。

「お前達と俺とでは積み重ねてきた経験も超えてきた死戦の数も違う。当然実力も、な。まだクラスアップもしていないお前等が俺に勝てる確率はゼロだ。仮にここでお前等がクラスアップできたとしても俺には勝てない」

すっと腕を下ろすブランク。すると翔と煌の足元に魔法陣が展開されて二人の動きを拘束する。

「こ、の!?」

「こんなもん!」

拘束を解こうと足掻こうとするも魔法陣はびくともせず、ブランクはそんな二人に背を向けてローレルに近づく。

「やっと、やっとだ……………これで未来が救える……………」

「黙って見ておったがこれ以上の蛮行は妾が許さん!! 妾の友には触れさせん!!」

擬人化を解除してドラゴンとなることでブランクに縛られていた魔術を強引に破る古代竜《エンシャント・ドラゴン》カオス・ケイネス・ドラゴンはその巨大な顎を開いてブランクを食い殺そうと迫るも――

「無駄だ」

パチン、と指を鳴らすと古代竜《エンシャント・ドラゴン》の足元に魔法陣が出現してそこから飛び出る数十本の鎖によって身体を拘束されてしまう。

「カオドン!?」

『ぬぐ……………この鎖、妾の力を……………』

「竜殺しの力が付与されている鎖だ。流石の古代竜《エンシャント・ドラゴン》でもその鎖を壊すことはできない」

動きを封じてその隣を歩くブランクを忌々しく睨むが本人は無視してローレルの傍までやってくる。

「翔……………」

「今はブランクだ」

見つめ合う二人。片方は哀しみが、もう片方には空虚が瞳に映る。

「私を殺すのですか?」

「ああ、お前を殺す。それがこの世界を変える唯一の力なんだ。わかってくれとは言わねえ。恨むなら恨め。憎むなら憎め」

「私が翔を恨んだりも憎んだりもしないのです」

「………………………………そう、だったな。お前はそういう奴だったな」

ブランクに映る瞳が空虚から一瞬だけ懐かしさと寂しさが映るもブランクは腕に魔法陣を展開させて振り上げる。

「痛みも苦しみも与えない。一瞬で終わらせてその身体に傷一つ残さず無限動力(エターナル・ギア)を抜き取る」

その言葉通りだろうとローレルは確信している。

何故なら翔はどんな絶望の中でも決して優しさを失わない人だからとわかっているから。

だからこそ、ローレルは笑みを浮かばせて言う。

「いい加減にしやがれなのです!!」

杖の先端を眼前にいるブランクに向けて叫ぶ。

「【エクスプロージョン】!!」

「!?」

大爆発。

至近距離の爆発の魔法に一瞬虚を突かれながらも咄嗟に防御魔術で防いだが、完全に防ぐことは出来ずに身体の所々に傷を負ってしまう。

「身体が…………!?」

「動ける!」

そしてローレルの魔法によって守られていたラヴァン達は拘束されていた身体が動けるようになり、煌も翔も拘束から逃れることが出来た。

余りにも予想外の攻撃に精神集中が途切れて魔術を解いてしまったことに苛立つもそれ以上にローレルは怒っていた。

「翔はいつもいつもそうです!! 自分勝手すぎるのですよ!! こっちの気持ちを無視して全部一人で抱え込んで悲劇のヒーローにでも酔っているのですかコノヤロー! そんな翔に殺されてなんかあげないのです!!」

ぷんすかと怒るローレルだが、その表情はラヴァン達から見たら怒っているようには見えず、けれどブランクにとってはその言葉が胸に突き刺さる。

「ショウ! 待ってて! すぐに治癒魔法をかけるから!」

サクロとハルは二人に駆け寄って治癒魔法と仙気をかけて傷と体力を回復させる。

「………………………………どうして動ける? お前には特に強めの魔術を施したはずだ」

「お馬鹿な幼馴染を止める為ならそんなもん気合でどうにかしてやるのです」

「理屈じゃないな」

「オタク舐めるなです」

べー、と舌を出す。

「だけど状況は何も変わらない。お前等が全員束になってきても俺の敵じゃない」

ブランクとの実力差は歴然。それはもうこの場にいる全員が知っている。

だが―――

「ですからオタクを舐めないで欲しいのですよ」

すると世界は変貌した。

地下空間が白く染まり上がり、色が変わった場所は物理法則そのものが再構築されていく。

「これは……………」

「魔法なのか……………?」

見たこともない魔法の規模に誰もがその表情を驚愕に染まり上がる。それはブランクも例外ではない。

「馬鹿な……………ッ! 世界規模の想像を魔法で創造したのか!? この時代のお前では出来なかったはずだ!?」

千年生きたブランクだからこそ理解できた。これは魔法であると。

しかしこれは普通の魔法使いの想像を超えた創造。誰もが世界規模を想像することもそれを創造するだけの魔力がない。唯一例外があるとすればそれは無限動力(エターナル・ギア)をその身に宿すローレルただ一人。

だけど――――

「驚いたがそれがどうした? 魔法と魔術は根本が違う。いくら世界規模の魔法を創造したところで何も変わらない」

再びローレル達を拘束させようと魔法陣を展開させて魔術を起動させるブランク。するとそこで疑念を抱いた。それはこの白く染まった世界にではない。

自分の魔術の起動速度が遅くなっているということに。

「まさか……………《解析(アナライズ)》」

疑念を抱いて己の状態を魔術によって解析すると目を見開いた。

「クラスアップを強制解除した、のか……………?」

クラスアップした自身の能力が格段に落ちている。それこそクラスアップする前、いや、それ以下にまで落ちている。

「ふふ、能力降下(ステイタス・ダウン)なのです。ゲームなら相手の弱体化(デバブ)は常識なのですよ?」

得意げに告げるローレルだがブランクはただただ驚きを隠せれない。

「あり得ない……………クラスアップした俺の能力を強制的に下げることなんて。いや、それ以前に魔法でそんなことが可能だなんて……………」

「だから何度も言わせないで欲しいのですよ」

やや呆れ気味にローレルは言う。

「オタクを舐めるなです」

べーと舌を出すローレル。すると背後から襲ってくる攻撃を防御魔術で防ぐ。

「さて」

「第二ラウンドの開始だ」

視線の先には復活した煌と翔が剣を構えて魔法陣を展開していた。



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