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ひねくれ者の最弱魔術の使い方  作者: 幻影十夢
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クラスアップ

千年後の未来から時空間転移魔術によってこの時代にやってきた翔――ブランクはこの世界で神と崇められているリュマダを殺す為にローレルの心臓にある無限動力(エターナル・ギア)を手に入れようと翔達の前に現れ、それを阻止しようと翔、煌がブランクに戦いに挑む。

魔昌眼(ミーミル)を開眼させて手元に幾重もの魔法陣を展開させて神霊魔術を起動させる翔にブランクは漆黒の魔法陣、悪魔魔術を起動させてそれを容易く防ぐが――

それを見越して煌がブランクの背後に回っての一閃。斬撃がブランクに直撃した。

「無駄だ」

その刃はブランクの身体に傷一つ負わせることができなかった。

「その程度の斬撃では俺の身体に傷一つ与えることはできない。俺を倒すつもりがあるのなら神剣エヴァンゲイムを発動させたらどうだ?」

「………………………………やっぱりお見通しか。なら遠慮なく」

煌はブランクに促されて神剣の力を解放する。

「勇者である我が命ずる。我が声に応じ、その力を開放せよ」

その声に応じるように剣から神々しいまでの光が放たれる。その光の輝きは見ただけでとんでもない力が秘められていることに気づいた翔は煌に能力増大(スケールアップ)の力を与える。

「煌!」

「ああ!」

タイミングを合わせるかのようにブランクを挟む形で互いの渾身の一撃を放つ。

神霊魔術と神剣から放たれる高出量の斬撃を前にブランクはそれを上回る攻撃魔術で二人を吹き飛ばした。

「がっ!?」

「ぐっ!」

「翔! 煌!」

壁に激突する二人にローレルは悲痛な叫びをあげ、ラヴァン達は前に出る。

「ショウ様! 加勢します!」

「コウ! あたしたちも戦うわよ!」

ラヴァン達やルビーノ達は二人を助けようと武器を強く握りしめてブランクに攻撃しようとした時、ブランクと目が合った。

『!?』

その刹那。魔法が発動せず、動こうにも身体が言うことを聞かない。

「お前達の魂を魔術で拘束した。そこで大人しくしていてくれ。俺が殺す必要があるのはローレルただ一人。不必要に殺すつもりはない」

魔術によって拘束されたラヴァン達。どう足掻いても指一本も動かすことが出来ない。

そんななかでラヴァン達が叫んだ。

「ショウ様! どうして、どうしてローレル様を殺すと言うのですか!? 誰よりもローレル様のことを大切にしている貴方が!?」

「そうだよ! 大好きなんでしょ!? それに他に方法があるかもしれないし!」

「ハルもそう思います!」

「少なくとも私が愛している貴方はそんなことを言う人ではない筈です」

ラヴァンに続いてサクロ、ハル、エルティは異議を唱えるかのように叫ぶのだが…………。

「これから先の未来でお前達は死ぬ。いや、お前達だけじゃない。俺以外の全ての生物が死に絶える。それならたった一人を犠牲にリュマダを殺し、多くの人々を救えるのなら安いものだ。その犠牲がローレルだっただけの話だ。だから殺すんだよ、この手でローレルを」

彼の耳には届かなかった。

もはや彼はリュマダを殺す為なら何を犠牲にしようと構わない。妄執なまでにその事だけを考えて動いている。

「………………………………ハッ、救うとか随分とガラでもないことほざいてんな、お前(おれ)」

口角を上げて立ち上がり、憤怒に満ちた目でブランクを睨み付ける。

「勇者か英雄にでもなった気かよ? くだらねぇ。それがお前(おれ)の口から出るだけで吐き気がする。所詮お前(おれ)は何一つ守れなかった負け犬だ。惨めに地面に這いつくばるしかできなかった雑魚だ。それを今更この時代にやってきてまで無様な姿を見せてんじゃねえよ」

「………………………………本当にこの時代の俺は口が悪いな」

過去の自分の言葉を聞いて懐かし気に言うブランクだが、そんなことはどうでもいい。

今更そんなことに感傷に浸る感情など持ち合わせてはいないのだから。

でも―――

「だから俺(おまえ)は愚者なんだよ。理屈を抜いて感情を優先してその結果全てを失う羽目になる時、俺(おまえ)は後悔する。もっと強ければ、他の何かを犠牲にしていれば、その考えが永遠に頭から離れず、自分自身を苦しませる。だからこれは俺(おまえ)の為でもあるんだぞ? 俺(おまえ)はもう強くなる必要も戦う必要もない。ローレルが死んでも俺(おまえ)には俺(おまえ)を支えてくれる仲間がいる。だからここでローレルを諦めろ。そうすれば全てを失うよりかはマシの筈だ」

どうしようもない愚かな自分にはそう言わなければ伝わらない。

いや、伝わったところでその答えは変わらないだろう。

「勝手に決めつけてんじゃねえよ。未来で何を経験してきたかは知らねえけど、俺の未来を勝手に決めつけんな」

ブランクにとって過去の自分がそう言うことは予測できていた。

ここまで愚者を極めようとする過去の自分が愚か過ぎてもはや哀れみすら覚える。

「………………………………ねぇ、翔。ローレルを殺すことが本当に君の望みなのかい?」

「当然だ」

煌の問いに即答する。しかし煌は理解した。

「やっぱりそうか………………………。翔、君は嘘をついている」

「嘘? 俺が? ローレルを殺して無限動力(エターナル・ギア)を手に入れてリュマダを殺す。俺はその為だけにわざわざこの時代にやってきた。今更嘘をつく理由がどこにある?」

「あるよ。だって君はいつだって自分を殺してでも誰かの為に傷つくお人好しなんだから」

「………………………………」

「初めから不思議に思ってた。本当にローレルを殺して力を奪うだけならわざわざ僕達を再会させる必要もそれを説明する理由もない筈なのに君はそうした」

「それはただの慈悲だ。何も知らず、幼馴染と再会も果たせず殺すのは気が引けただけの話だ」

「それは本当だろうね。けど嘘でもある。それならどうして僕達を殺さない? さっきの一撃だって、その前だって今の君なら僕達を容易く殺せたはずだ。それだけの実力差があることぐらい気付いている。それなのに僕達を殺さないのは君の心はまだ壊れていない証拠だ。自分で勝手に納得して自分だけ傷ついてそれでも誰かの為に戦う心底のお人好し。それが僕の親友だ」

「………………………………何が言いたい?」

「いい加減に素直になりなよ、親友。千年経とうとも君のひねくれた思考はお見通しだよ」

笑みを浮かばせながら煌は断言する。

「君にローレルは殺せない。何故ならそれは君が一番許せれないことだからだ」

これまで二人が一緒にいるところを傍で見続けてきた煌だから断言できる。

例え千年経とうとも翔がローレルに抱く愛は決して忘れない。誰よりも大切にし、誰よりも愛している人を手にかけることなどできない。

「どれだけ苦痛に強いられ、絶望して全てを失い、多くの人を殺してその手を汚したとしてもそれだけはできない。それだけ君にとってローレルは特別な存在だからだ」

「………………………………そんなの昔の話だ」

「そうかい? なら訊くけど、それならどうして君はそんな表情(かお)をしている?」

ブランクのその顔は目的を前にしているというのに全く笑みを見せていない。それどころか今にも死にそうなほどに辛い表情をしている。

「千年……………………僕には想像もできないことだけど、それでも君は死を選ばなかった。逃げることもできた筈なのに君は抗う道を選んだ。それも全ては自分の為じゃない。僕達やローレル、他の誰かの為に君はその道を進むことを選んだ。その先に何もないとわかっていても君はその道を選んでここにいる。失って、傷ついて、すり減って、心と身体をボロボロにしても君は自分ではない誰かの未来を守る為に時空間転移魔術を使った。それなら君の行動にも納得ができる。それなのにさっきからローレルを殺すなどなんだのって千年経っても君のツンデレは治っていないとはね……………………」

苦笑する煌の言葉に誰もがブランクを見据える。

千年経っても翔は翔なのだと思わせる。だが―――

「黙れ………………………」

無表情だったブランクの表情が怒りで歪む。

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッッ!!」

激情するブランクは数千もの魔法陣を一斉に展開させる。

「お前に何が分かる!? 俺は地獄を見た! 絶望を見た! この先の未来を何一つ知らないお前が俺の事を語ってんじゃねえ!!」

「うわぁ、マジ切れさせちゃったな……………………」

冗談抜きで頬を引きつかせる煌。だが、その隣には親友である翔が立つ。

「ありゃ、ぶっ飛ばすまで止まらねえぞ」

「ああ、良く知ってる」

ここから先が本番。緊迫するなかでブランクが口を開く。

「本当は使うまでもなかったが、お前等を塵一つ残さず消滅させてやる」

数千の魔法陣は一つに重なり合って縮小してブランクの手の平の上に納まる。

「クラスは本人の気質・能力に相応しい才能を示す。だが、それを極め、昇華させた時、クラスは次元を一段階上げることができる」

その魔法陣を右り潰すとブランクの恰好が変化する。

漆黒に包まれる魔術装束に漆黒のローブを羽織るブランク。

「”クラスアップ”。俺はこの状態をそう呼んでいる」

そして腕を軽く横に振るうだけでこの地下遺跡全体を埋めつくすほどの魔法陣を展開させる。

「消えろ」

振り下ろされる腕と共に全ての魔法陣は二人に向けられて放たれる。


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