千年
「と、言っても理不尽だろうから何故その理由に至ったのか。俺の千年間を話そう」
まるで余興をするかのように千年も先の未来からやってきた翔は語り出す。
「俺達はネイション王国の『勇者召喚』によってこの世界に召喚され、煌は勇者、ローレルは魔法使い、そして俺は最弱のクラスで有名な魔術師だった。それから一ヶ月も経たないうちに魔族が煌を狙って襲撃。俺は二人を逃がす為にこの世界のどこかに転移させ、俺は一人魔族と立ち向かい。運よく生き残ることができてラヴァンと共に二人を探す旅に出る」
そこまでは翔達が知っている通りだ。
「それから世界のあちこちを回って情報を集めては二人の行方を捜していた。旅を出て二年後に俺は煌と出会い、更にそこから一年後にローレルとも再会することができた」
翔が旅を出てからまだ一年も経っていない。つまり、あの時未来から来た翔に出会わなければ二人と再会できたのは二年以上先のことになっていた。
「三年の月日をかけて俺達は再会を果たし、共に魔王を倒すために行動する。数多くの死戦、数多の戦場、自分が死にかけることも仲間が殺されかけることもあったけど俺達は誰一人欠けることなく魔王を倒した」
だが。
「そこに奴は現れて煌を殺した。魔王を倒して勝利の余韻につかっていた一瞬の隙をついて殺した。俺達は煌が殺されたことに怒り、満身創痍の身体に鞭を打ってリュマダと戦った。だけどその結果、俺一人を残して全員がリュマダに殺された。神を名乗る簒奪者に………………………それからは本当にすぐだった。神々の大戦が始まったのは」
「勇者である煌の死がキッカケだったんだろう。十二神はリュマダを打倒しようと世界を巻き込む戦争を始めた。人間族も亜人族も魔族も関係ない。誰もが神の攻撃の前には虫けら同然のように消し飛んだ。数千、数万単位で命が消えていくその光景に俺はただ見ていることしかできなかった」
そして。
「俺は十二神の一柱が作り上げた地下空間に辛うじて生き残った者達を連れて避難した。それでも助けられたのは一万もいない。残りは地上で死に絶えた。それからは地獄だ。種族の違いや食料問題で地下空間でいがみ合い、殺し合いが発達して種族に亀裂が生じた。俺は仕方がなくただでさえ小さい空間をそれぞれの領域として分断させてそこでの生活を強要させた。だけど無意味だった。人間族も亜人族も魔族も他種族に責任を押し付け合う毎日。そんなある日、俺は生き残った種族を全員殺して今ではこの姿だ」
未来からやってきた翔は自分の胸元にある赤い宝石を見せる。
「賢者の石って御大層な名前を付けているけど実際には殺した奴等の命を魔術によってエネルギーに変換させて凝縮し、結晶化させた。俺が千年も生き永らえる理由はこれだ」
そして永遠とも言える命を手にした翔がしたことはただ一つ。強くなること。
「俺は皆の仇を取ろうと努力した。それしか俺にはできなかったからだ。魔術を極め、他のクラスの能力も底上げさせて俺は千年間ただ奴を殺す為だけに戦い続けてきた。だけど、俺はリュマダに勝つどころかただ奴を楽しませる為の道化でしかなかった」
「奴はローレルから無限動力を奪い、無限の力と無限のエネルギーを持つ正真正銘の化物。いくら足掻いても何の意味もなかった。俺じゃ絶対に勝てない。奴もそれを知っているからあえて俺を殺さなかった。本当に滑稽だよ。これ以上にないぐらい無様だ。殺したいほど憎んでいるのに、煌やローレル、皆の仇の筈なのに一矢報いも与えることができないなんてな………………………」
自虐気味に話す。
だけどそれは今を生きる翔達には想像を超えた体験談だった。
たった一人。
翔は一人で千年もの間、一人で戦い続けてきた。
希望も救いすらも与えられずにただ絶望の中でずっと抗い続けてきた。
「だからこそ俺はこの時代にやってきた。時空間転移魔術を完成させて千年前のこの時代。まだ奴が完全な状態となる前なら確実に奴を殺すことができるとそう思って。……………………だけど皮肉なことに時空間転移魔術の代償は俺の想定を上回るほどに大きかった。おかげで賢者の石の効力も一気に三割まで落ち、俺自身の力も激減。この状態では例え一矢報いることはできても殺すことは出来ない。まるで運命という歯車がリュマダを殺さない様にしているかのように」
「だけどそんなことどうでもいい。それを解決できる唯一無二の力がある。その力を奪い、力を取り戻して、いや、それ以上の力を手にしてリュマダを殺す。それがローレル、お前を殺す理由だ」
己の千年間とローレルを殺す理由について話し終えると。
「矛盾してんぞ? 少なくとも今はまだローレルは生きてる。お前が殺したら仇を取るどころじゃねえ。自分自身が仇になるじゃねえか」
「そんなことはどうでもいい。俺はリュマダを殺せればそれでいい。その為に必要な力がローレルだけだって話だ。俺はその為だけに生きている」
「………………………………お前、壊れてんのか?」
「ああ、壊れているさ。とっくの昔にな。わかるか? お前がこれから体験するであろう未来は後悔と憎悪、終わることのない絶望だ。それを知って壊れないわけないだろう?」
翔は特別な力も何もない一般人。
煌のような勇者でもなければイレギュラーであるローレルでもない。
この世界に召喚されたのも本当に偶然の偶然が重なっただけ。
「俺は勇者でもなければ英雄でもない。ましてや特別な力も才能もない。ただ他より優秀なだけの一般人。普通の許容範囲の一つの生命体。ただそれだけの存在だ。現に今もお前も壊れかけているのがその証拠だ」
流石は自分自身だけあって見抜かれている。
神霊魔術を行使した代償は確実に翔の身体を蝕んでいる。
「………………………ああ、だがそれがどうした? そんなとっくに理解していることを今更言われても俺がすることは変わらねぇ」
翔は魔法陣を展開させて未来の自分に向ける。
「お前…………………いや、ブランク。お前なんかにローレルは殺させねぇ」
「………………………………懐かしいな、昔の俺もそうだった。だからこそ変わらずの愚者だ」




