無限動力
煌、翔、ローレル。異世界に転移してきた幼馴染三人は見事に再会を果たしてこれからのことについて話し合おうと一つの部屋に集まっている。
「まずは翔に僕専用のバイクとここにいる全員分の車を用意してもらうとして」
「おい」
初っ端から話を挫く煌に半眼で睨むも煌は「冗談だよ」と笑みを浮かべていたがあの顔はマジだった。
「まぁでも全員で行動するから用意してもらうことにはなるけど」
車は一台しか作っていない為に煌とその仲間が乗る為に必要な移動手段が必要でこの世界で車を作れるのは翔以外にいない。どの道車は作らないといけない。
「私はカオドンがいるから大丈夫なのです」
「だから妾は馬車ではない!」
ローレルに抱き着かれる古代竜ことカオドンは否定的な声を上げるも最終的には乗り物になるだろう。
「そんなことよりも先にすることがあんだろうが」
頭を掻きながら告げる。
「ブランクだ。あいつが何の目的で俺達と接触して引き合わせたのか。それを知るのが優先だ」
こうして翔達が再会することができたのも全てはブランクと名乗る黒衣の人物のおかげだが、ブランクは何が目的でそうしたのかはまだ判明できていない。
「あいつが俺達を呼んだ以上はまた俺達の前に現れるはずだ。その時にでも目的を吐かせてやる」
「乱暴なことは駄目なのですよ? 翔」
「あいつの出方次第だ」
ローレルに注意されるもそう返す。
「それじゃ、彼が現れるまでしばらくこの街で休息を取るということで―――」
「その暇はない」
聞き覚えのない第三者の声に一瞬で戦闘態勢に入る翔達の前にどこからか現れたのかブランクがそこにいた。
「お前、どこから入って来やがった?」
この部屋は翔が予め魔術で防音や防壁を展開していた。それなのにブランクは誰にも気づかれることなく部屋の中にいた。
「それは追々説明しよう。それよりもここでは場所が悪い」
パチン、と指を鳴らすと一瞬で景色が変わった。
先ほどまで宿の部屋にいたはずなのに瞬きする間もなくどこかの遺跡のような場所に変わった。
「転移か…………」
「ああ。ここは君達がいた宿から遥か南にある太古の地下遺跡。ここでならようやく落ち着いて話ができる」
翔は警戒しながらも冷汗を垂らす。
翔自身も転移の魔術は使える。だけどそれには座標の指定と設定。それから魔法陣を描く必要がある。それなのにこのブランクと名乗る者は指を鳴らしただけで別の場所に転移させた。
只者ではないことはわかっていたけど、下手をすればリュマダの使徒よりも強い可能性が高い。
「それで話というのは?」
煌が皆の代表のように尋ねる。
「神リュマダは君達の強さを見て魔族に新たな力を授け、魔族全体を強化した」
その言葉に目を見開いて驚く。
これまで戦ってきた魔族も決して弱いわけではなかった。それを種族そのものを強化されるとなると今まで以上に多くの人が死ぬことになる。
「当然魔王も以前よりも強くなっている。今の君達では勝利は難しいだろう」
「それで? もしかして君が僕達を鍛えてくれる為に僕達を集めたの?」
それならブランクが翔達を集めた理由にも納得は出来るもブランクは首を横に振った。
「いや、私が君達を鍛えたところで大した変化はない。君達は君達のやり方で強くなっていくしかない」
「なら何で俺達を集めた? 善意ってわけじゃねえだろう?」
「当然だ。私の目的はこの世界で神と崇められているリュマダを殺すことだ」
真意ある言葉から発するブランクの目的に生唾を飲み込む。
「リュマダは他者から力を奪い己の力にする能力を持っている。奴はその能力を使って一つの世界を滅ぼし、更なる力を得ようとこの世界にやってきた。だが、十二神との戦いで奴も自分の想定以上に力を消耗している。無限の力を持っていたとしても無限のエネルギーがないのではその力を十二分に発揮することはできない。だから奴は十二神を天魔とし、己を神として、自分の手足となって動く使徒を作り出した。消耗した力を回復させつつ無限のエネルギーを見つける為に」
語るブランクの言葉はどれも翔達が知らない情報ばかりだ。
だが一つ気になることがある。
「ならどうして殺しに行かないで俺達を集めた? お前も目的はリュマダを殺すことじゃなかったのか?」
それでは翔達を集めた理由にはならない。
けど―――
「それができれば苦労はしない。今の私では奴を殺すことは出来ない。―――だが、それを可能にする力を君が持っている」
ブランクが指す人物。それはローレルだった。
「私、なのですか……………………? 私はただのオタクで魔法使いですよ?」
「ふざけたこと言ってんじゃねえ」
「悪いがふざけてはいない。至極本気だ。ローレル・ラウルス。君は魔法を使って疲れたことはあるか?」
「いえ………………………」
「それが君がイレギュラーと呼ばれる力だ」
イレギュラー。それはリュマダの使徒が言っていたことと全く同じ。
「正確には君の心臓にある力。これが君に無限の力を常に供給している。私はこれを『無限動力』と呼んでいる」
「それって私はどんなに魔法を使っても魔力切れにならないということなのですか?」
「その通りだ。そしてそれは私がどうしても欲しい力でもある」
刹那、翔が魔術を発動させてブランクに先制攻撃をするもブランクは無傷だ。
「それはつまり、ローレルを殺して奪うってことか?」
殺意を交えた問い。だが、ブランクは平然と頷いた。
「それは殺してからでないと奪えないからね」
「………………………………そうかよ。ならお前は」
「僕達の敵だ」
ローレルを守る為に翔と煌は動いた。
魔術を発動させて肉体強化と同時に複数の魔術攻撃を仕掛ける翔に剣を鞘から解き放ち突貫する煌。しかし、ブランクは指を鳴らして翔の魔術を霧散させて指先で煌の剣を受け止めた。
「お前等はそいつを守れ!」
翔は尋常じゃない強さを持っているブランクにラヴァン達を差し向けたら殺されることを悟り防御に回させる。
「出し惜しみは無しだ!!」
魔昌眼を開眼させて白亜の塔で使徒との戦いで得た神霊魔術を起動させる。己の分を超えた力の行使は人間である翔には負担が大きい為に控えるつもりでいたけどそんなことを言っていられる相手ではない。
「どけ! 煌!」
神霊魔術の魔法陣を展開させて放つその一撃は使徒を一撃で消し飛ばした。その一撃を躊躇うことなくブランクに向けて放つ。しかし。
ブランクは漆黒の魔法陣を展開させてその一撃を防いだ。
「んな!?」
驚愕する翔。使徒でさえ消し飛ばした神霊魔術を防いだこともそうだけどブランクが出したその漆黒の魔法陣にも驚きを隠せれない。
「悪魔魔術。神霊言語とは別に悪魔の言葉を術式に書き加えた魔術だ」
聞き覚えのない魔術。いや、そもそも神霊魔術は翔自身が神霊言語を用いて使った魔術だ。なら悪魔式の言語もあってもおかしくはない。だけどそれはついこの前完成したばかりの魔術だ。
それ以前にこの世界の魔術師は最弱のクラスと呼ばれている程に弱い。異世界人である翔以外にここまで魔術を磨いている人物がいるとは思えなかった。
「まさかお前………………………」
そう思えなかったからこそ翔は気付いてしまった。
この世界で翔以外に魔術に長けた魔術師はいない。それなら目の前にいるブランクは何者なのか?
翔以外に魔術師のクラスを持つ者で翔の知らない魔術を行使する者。
「気付いたようだな…………………そう、私のクラスは魔術師。この世界では最弱と呼ばれているクラスだ」
ブランクは己が嵌めている仮面を手に取る。
「この世界に召喚され、最弱のクラスの魔術師になり、仲間と共に数多くの冒険を積み重ねて数多の魔族を葬ってきた。『勇者召喚』の儀式に召喚されてしまった元・一般人」
仮面を取って素顔を露にするブランクの素顔に誰もが言葉を失った。
「翔………………なのですか?」
「ああ、久しぶりだな。ローレル」
仮面の下に隠されていたのは正体は九条翔その人だった。
「え、だって、翔はここに………………………?」
同じ人物が二人いる。それに困惑するローレルに可笑しそうに笑みを見せて言う。
「俺は今から千年後の未来から時空間転移魔術を使ってこの世界にやってきた九条翔だ。未来人って奴だ」
そこにいるのは見間違えるわけがない大切な幼馴染である九条翔。
未来からやってきた翔は狂笑を貼り付けて魔術をローレルに向けて起動させる。
「リュマダを殺す為に死んでくれ」




