召喚前の話5
「それではローレル様は既に…………………」
「はい。非処女なのです」
三人の過去、翔のことを教えて貰って乱暴な形で貞操を喪失したローレルだったが当の本人は全く気にしていないように笑いながら答えた。
「大丈夫なの?」
「はい。他の人なら嫌でしたけど相手が翔だからいいのです。だから私は翔に貞操を上げ、童貞を貰いました」
形はどうであれ、相手がまだ自分が良く知っている翔だったからローレルは受け入れることができた。
「それでその後はどうされたのですか?」
エルティが話の続きを催促してローレルは話を続ける。
「ん~~~その後は煌が翔を殴ったのです。でも、翔もそれを受け入れたのできっと男同士の分かち合いだと思うのですよ」
本当はローレルに酷いことをした翔が許せなくて煌は殴ったのだが、自分以上に翔は自分の事を許していなかったのでその一発で許したのだ。
強引で乱暴ではあったけど責任は取るつもりのようだったので追言はしなかった。
「でもそれだけじゃないんだよね?」
サクロが真剣な顔でそう告げる。
「確かにそれだけのことがあれば人は変わると思う。だけどそれなら他人を憎むだけで終わるはず。なのにショウが一番許せないのは他の誰でもない自分自身の筈だよ」
サクロの言葉にラヴァン達に心当たりがある。
誰かに苛立ち、罵倒を吐いたり、殴ったりすることはあった。だけどそれ以上に翔は自分の事を酷く憎んでいるように見える時もあった。
だからきっとまだ終わりじゃないと思ってそう告げるとローレルの表情が少し曇る。
「…………………………翔は頑張って元に戻ろうと努力していたのです。ですけど」
「だけど、いくら改心しようとしてもこれまでの行いが消えるわけがなかった」
喧嘩や暴力行為を繰り返した翔。改心してどれだけ元の自分に戻ろうとしてもそれは消えることはない。
「それでも翔に手を出そうとする人はいなかった。いくら改心したとはいえその強さは嫌という程知っているからね。だから彼等は手を出した。唯一翔が心を許しているローレルに」
翔に対する復讐心とローレルの優れた容姿も合わさり、翔に恨みを持つ者達はある日、翔と煌の二人がいない隙を狙ってローレルを攫った。
「翔はすぐに異変に気づいてローレルを見つけた。運が良かったのはそいつらがすぐに発見できる場所にいたこととローレルが処女でなかったことぐらいだ」
「それって………………………」
「僕は直接見ていないからわからないけど、数人がかりで犯されていたそうだよ。だけどそれを見た翔は」
そこから先は言葉にしなかった。
だけど手を強く握りしめている煌を見て察しはつく。
「その日を境に翔は他人以上に自分を憎むようになった。僕だけに自白してくれたよ。自分が弱いからローレルを傷つけたってね」
心が強ければローレルを傷つけることはなかった。
相手に復讐心を抱くことさえできないほど強ければローレルに傷を与えることもなかった。
後悔、怒り、憎悪。
弱い自分を殺す為にがむしゃらに己を鍛え続けた。
修羅か羅刹とも見まごうような厳しさで、自分の身体を、精神をいじめ抜いた。
弱音も甘さも口にはしない。
そんなことは許されない。
同情も優しさも救いも求めていい資格などない。
傷つけたんだ。他の誰でもない自分自身がローレルの身体も心も傷付けた。
その責任を取る資格すら許さない。
長年抱いているローレルを愛するこの想いを伝えることもしてはいけない。
「彼は決して自分を許さない。救いの手すら払うだろう。その手を握る資格すらない彼はきっと自分の意思で地獄に行くことを選ぶ。本当に馬鹿だよ。勝手に思い込んで勝手に決めて僕達の気持ちなんてそっちのけんだから」
「コウ……………………」
呆れるようにため息を吐くもその背中は哀愁を漂わせている。
「だからこそ僕とローレルは決めたんだ」
「決して翔を一人にはしないと。それなのに翔は勝手に私達だけを別の場所に転移させたのですから」
ネイション王国での魔族襲来の時に二人を助ける為にこの世界の別の場所に転移した翔にご立腹。
「そうやって自分一人だけ傷ついても私も煌も嬉しくないのに………………………」
その気持ちはラヴァン達もわかる。
これまでだって翔は自分一人だけ傷つきながらも戦い抜いてきた。
その背を何度も見てきたのだから。
「だからこそ今度こそは翔を手放しません。一人にさせてあげないのです」
力強く告げるローレル。
翔のことについて聞きたかったラヴァン達だけど自分達の予想以上の残酷な過去を持っていた。
眼前にいるローレルにしても酷いめに会っているのにそれでも翔の為に笑っている。
その笑みがどれだけの覚悟と強さを持ってしているのか。ラヴァン達には想像できない。
「………………………それではローレル様もショウ様のことがお好きなのですか?」
「はい。大好きです。幼い頃からずっと私は翔のことが大好きです。だからもう手放さないのです」
肯定した。
ここに強力な恋敵の登場に自分達の恋は実らないことを知る。
だけど。
「わ、私もショウ様のことをお慕いしております! 最初の出会いはあれでしたけど…………………ま、負けません!」
「私も諦める気はないからね。きっちり私を惚れさせた責任を取って貰いたいし」
「ハルも諦めません! ご主人様と一緒にハルもご主人様がいる世界に参ります!」
「私は既にショウさんに契りを勝手ながら結んでいますので身も心もショウさんに捧げています。ですので離れる気は毛頭ありません」
それぞれの翔を慕う恋心を一番の強敵に宣戦布告する。
それに一瞬驚くもローレルは嬉しそうに笑みを浮かべる。
自分と煌以外に翔のことを大切に想い、信じてくれる人がいることが嬉しかった。
「でしたら皆で翔のお嫁さんになるのもアリですね。異世界なのですからハーレムエンドもアリです!」
名案とばかりに告げるローレル。だが。
「でも、一番の座は譲らないのですよ」
重婚は認めても自分が一番翔に愛されていることは譲らない。正妻ポジションは他の誰にも渡さない。
それから彼女達は温泉で互いの気持ちや想いを伝え合う。
「あいつら………………………」
丸聞こえの会話に翔はこれ以上にないぐらい顔を真っ赤にしながらこの場に煌がいないことに心から安堵した。もしいたら絶対にからかってくるに違いないから。
こうして温泉を満喫した翔達は街に戻るのであった。




