召喚前の話4
翔の無実を証明して無事に退学を取り消すことに成功した煌はローレルと共に翔の家に訪れるもその中は荒されていた。
目を見開く二人は驚きながらも家の中に入って行く。そして居室の扉を開けるとそこはもっとひどく荒されていた。まるでここだけ嵐でも来たかのように。
すると、ソファの上に誰かがいた。
「翔」
「………………………………ああ、二人か」
煌の声が聞こえて翔は二人に顔を向ける。だがその顔は心身共に憔悴しきった顔でよく見れば傷や痣もある。
「…………………何が、あったのですか? 泥棒」
そんな幼馴染の顔を見て思い切って尋ねるローレルに翔は可笑しそうに笑った。
「それならどれだけいいか………………………あの二人は俺を捨てやがった」
「どういうことだい? もしかして………………」
「ああ、あの二人は親子の縁を切りやがった。息子じゃない、二度と顔を見せるなと言いたい放題言ってな」
自嘲気味に笑みを見せる翔に煌もローレルもなんとも言えない顔になる。
翔の両親とはそれなりの付き合いはある。確かに厳しい人とは思っていたけどまさか親子の縁を切る程とは思いもしなかった。
「何度も違うって言ったのに…………………犯人じゃないって言ったのに全く信じてくれなかった………………挙句に言い訳するなって何度も殴られた」
後に翔は堪忍袋の緒が切れて逆に父親を殴り返した。力の限りの空手技を父親にぶつけて最後は家の外に母親共々追い出してやった。
それから家にあるもの全てに八つ当たりするかのように荒した。
翔の双眸から透明の雫がぽろぽろと落ちていく。ローレルはそんな翔を見ていられなくて傍に寄って優しく抱き寄せて何度も背中を撫でた。
「私達は翔が犯人ではないと信じていたのです」
「ああ、真犯人は見つけて警察に引き渡した。今日は君の退学が取り消しにされたことを伝えに来たんだ。もういつもの生活に戻れる…………………とは言えないけど、復学はできるよ? 今日はもうゆっくり休んで明日一緒に学校に行こう」
「………………………………ありがとう」
翔は何度も泣いた。自分の辛さを吐き出すかのように涙を流した。
二人は翔が落ち着くまでずっと傍で大切な幼馴染を支えていた。
無事に復学することができた翔は二人と一緒に学校に行き、教室に入ると奇怪の眼差しを向けられた。
「………………………………おはよう」
それでも極力前と同じようにクラスメイトに挨拶するも返事を返してきたのは数人だけ。仕方がないと思いつつ自分の机に座るもやはりクラスメイトからの視線や内緒話が翔の心を苛ませる。
それでも仕方がないと甘んじて受け入れた。時間が経てば前と同じように戻るだろうと思って。
時が解決してくれる。そう信じて。
しかしその考え、いや、人間の無自覚の悪意を甘く見ていた。
「なぁ、九条」
復学から少しして同じ空手部だった同級生が声をかけてきた。
「お前、一年生に手を出しているって噂は本当か?」
「はぁ?」
まったく心覚えがないことに怪訝する翔に同級生は続けて言う。
「いや、九条が一年生の女子の弱みを握って好き勝手しているって噂を聞いてな」
「………………俺がするわけないだろう。なんでそんな噂が流れてんだ?」
「いや、俺に聞かれても……………………。でも、俺が聞いた限りでも九条のそういう話が結構流れてるぞ?」
理解ができなかった。
どうして見の蓋もないそんな噂が流れているのか全く意味不明だった。
それからだ。翔の身に理不尽と不条理が降り注がれるのは。
「あれ? 教科書どこいった?」
机の中に入れておいたはずの教科書がなかったり。その他にも上履きや鞄まで無くなるようになった。
「痛っ」
誰かに物を投げられ、わざとらしく肩をぶつけてきたり。
「九条! よくも人の彼女に手を出しやがったな!」
身に覚えのないことで暴力を振るわれたり。日に日に周囲から翔に対する扱いが過酷になっていく。
俗にいう虐めだ。何故そうなったのかは翔自身でさえわからない。
それでも翔は耐えていた。
せっかく幼馴染の二人が復学させてくれた学校生活を壊したくはなかった。
そんなある日の事だった。
虐めに耐え続けているある日に数人の同級生に連れられて物陰に連れて来られると一人が言った。
「お前、ラウルスと幼馴染だったよな? ちょっと家を教えてくれよ。なんならお前にもおこぼれぐらいならくれてやるぜ?」
卑下の笑みを浮かばせながら言ってくる彼等に翔の中で何かが切れかかった。
「ラウルスって結構エロい身体してんだろ? いっぺんヤッてみたかったんだよ」
その言葉で翔はキレた。
拳を握って眼前にいる同級生の顔を殴り、回し蹴りを炸裂させる。
攻撃してくるとは思っても見なかった彼等は一瞬理解が遅れた。だが、もう遅かった。
「テメエ等ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
憤怒の怒声と共に翔は彼等を半殺しにした。
これまで溜め込んでいた怒りがローレルのことで爆発して彼は翔は変わった。
これまでは優等生や模範生という言葉が似合っていた翔がそれをきっかけに暴力魔という張り札が張られた。
気に入らない奴は殴り、何か苛立つことをされたら殴り、内緒話をしている奴も殴る。
翔のことを虐めてきた人達は今では翔に恐れて近づこうともしなくなり、翔自身も近づく人は殴り飛ばしていた。
「九条。少しやり過ぎだ。折角復学できたんだからもう少し前のように」
「今さら教師面すんなよ。何もしようともしなかった野郎が偉そうに俺に指図すんな」
口調も荒くなり、教師の言うことさえも聞かなくなった。そんな教師達は翔のことに困り果てて幼馴染である二人に翔を任せた。
しかし―――
「俺は一人でいい。お前等とはもう何の関係もねぇ」
もう幼馴染の言葉ですらも翔の耳には届かなかった。
それでも二人は翔と話をしようと試みるも聞く耳すら持ってくれないどころか毎日を憂さ晴らしでもするかのように喧嘩で明け暮れている。その為か家にも碌に帰っていない。
「翔」
「またお前か…………………」
喧嘩を終えたばかりの翔に煌は声をかけるとうんざりするかのように返す。
「こんなこといつまで続けるつもりだ? 君はもう気付いているんだろう? そんな傷だらけになって喧嘩を続けても何の意味がないってことぐらい」
「………………………………」
「君が傷付いているのはわかっているつもりだ。悪いのは全て周囲の人達だということも。だからもう終わりにしないか?」
その言葉を聞いて翔は不良が使っていた木刀を煌に投げつける。
「言いたいことは俺に勝ってからいいやがれ」
翔は止まらなかった。その行為に何の意味がなくても翔は喧嘩をするのをやめない。そんな翔に煌は木刀を捨てた。
「僕は君と喧嘩しない。そんな事をする為に君に会いに来たんじゃないからね。殴りたかったら殴ればいい。何発殴られ、蹴られようとも僕は君に攻撃しない」
「………………………………ハッ、そうかよ」
言い切る煌に翔は拳を作って煌に近づく。
「手加減すると思うなよ?」
翔は煌に容赦なく拳を振るった。何度も何度も何度もその拳を煌に叩きつけようとも煌は自身の宣言通り一切の反撃をしなかった。
そんな煌に興が冷めて翔は煌を置いてその場を離れて行く。
「馬鹿が………………………」
愚痴るかのように呟くその言葉は煌には届かなかった。
翔は久方に自分の家に帰って寝ようと思って家の扉を開ける。
「あ、お帰りなさいなのです。御飯にしますか? お風呂にしますか? そ・れ・と・も・私?」
そこにはエプロン姿のローレルがそう言って出迎えてきた。
「………………………………」
無言でその横を過る翔にローレルは不服そうに頬を膨らませる。
「むぅ~、無反応とは酷いのですよ。せっかく水着エプロンにしたのに………………………」
「うるせぇ。大体人様の家に勝手に入ってくんな」
「そこは幼馴染特権です」
「知るか」
冷たくあしらうもいつものように陽気な笑みを浮かべるローレルに苛立ちが増す。
すると不意に異臭が漂ってきた。
その原因はキッチンから見ればキッチンには産業廃棄物が置かれている。
「が、頑張って作ったのです………………………」
笑顔を引きつかせながら言ってくるローレルに更に苛立つ翔は飯を食べる気が失せてさっさと自分に部屋に向かうが、ローレルもついてくる。
「翔。寝る前にお風呂には入った方がいいのですよ? なんならお背中流しますよ?」
「お前は産業廃棄物でも片付けてろ」
それだけ言って部屋に入ってベッドの上に横になる。
「変わらねぇな、あいつは………………………」
他の人達と違ってローレルだけは何も変わらずに接してくる。冷たくしているにも関わらずにだ。だけど今はその陽気な笑みを見るだけで苛立ちが増すばかり。
さっさと寝よう。と思ったその時、扉が開いた。
「翔………………………」
ローレルが扉を開けて入って翔のすぐ傍までやってくる。
「何か私にできることはないのですか? 翔が元気になってくれるのならなんでもするのですよ?」
「そうか、なら出ていけ」
即決する翔。それでもローレルは部屋から出ていくことは無かった。
「お前を見ていると苛ついて仕方がねぇ。これ以上俺を苛立たせるな」
思った事をそのまま口にする翔の頭をローレルは撫でる。
「私は前のように三人で一緒に学校に行きたいのです。それに翔には喧嘩だってして欲しくありません」
「そんなの俺の勝手だろうが」
「怪我をしたら心配するのです。それに笑わなくなりました。私は笑っている翔の顔の方が好きなのです」
「そうかよ。俺は笑っているお前の顔は嫌いだ。もう見たくもない」
嫌悪感を剥き出しに言い放つ翔だけどローレルは言葉を続ける。
「笑います。笑わなくなった誰かさんの分まで笑ってやるのです」
そう言うローレルに翔はローレルの腕を掴んで引っ張り、ベッドの上に寝かせて覆い被る体勢を取る。
「なら俺と同じように二度と笑えないようにしてやるよ」
翔は強引にローレルが身に付けているエプロンと水着を引き千切るように破り捨ててローレルの胸を外気に触れさせてその胸を乱暴に掴む。
「好きなだけ泣き喚け。もう二度とそんなこともできないからな」
翔がその夜、ローレルを犯した。
感情のまま乱暴に自分の都合のいいようにローレルを強姦するもローレルは泣き叫ぶことも抵抗することもなくただされるがままに無抵抗だった。
それなのに。
「………………………………なんで、なんでまだ笑っていやがる?」
乱暴に犯され、強引に処女を奪われたにも関わらずローレルは睨みつけることも絶望に染まることもなくいつもと変わらない笑みで翔を見ていた。
「俺は、お前を犯したんだぞ?」
「はい。すっごく痛かったのです」
「なら、言うことがあるだろうが………………………」
「ん~~~次は優しくして欲しいのですよ?」
全く見当違いのことを言うローレルに翔は叫んだ。
「どうして恨み言一つ言わないんだよ!? 恨めよ! 憎めよ! 二度と顔を見たくないってぐらい言えよ! 強姦魔など、犯罪者など言えることぐらい沢山あるだろうが!? それなのにどうして何も言わない!? どうして今も笑っていられるんだよ!?」
心からの叫び声。ローレルの頬に雫が落ちる。
「だって今一番傷ついているのは翔なのです」
ローレルは笑みを見せながら翔の涙を指で拭う。
「私は馬鹿です。料理も掃除も勉強や運動だってまともにできません。翔達が助けてくれなければ私は生きていく自信がないのです」
自分の不甲斐無さを全面肯定する。しかし。
「だから笑うしかないのです。私にはそれしかできません。ですが、それぐらいなら私でもできるのです。辛いことも悲しいことも全部笑って吹き飛ばすぐらい私は笑うのです」
だから。
「翔が笑ってくれるまで私はずっと笑っています。私は翔のことが大好きなのですから」
彼女は笑った。
どこまでも陽気に温かい笑みを浮かべている。
「俺は……………………俺は…………………………………」
その笑みに当てられて涙が溢れ出る。そんな翔をローレルは抱き寄せる。
「ごめん…………………ごめん………………………」
「大丈夫、大丈夫なのですよ」
幼い子供のように泣きじゃくる翔をローレルは笑みと共に抱きしめて慰める。




