↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひねくれ者の最弱魔術の使い方  作者: 幻影十夢
PR
88/96

召喚前の話3

「失礼します」

煌は職員室から退室すると、すぐにローレルが歩み寄ってきた。

「どうだったのですか?」

「駄目だった。僕の話を信じてはくれなかった」

煌は幼馴染である翔の無実を証明しようと教師達と話し合ったが、誰一人もその話に耳を傾けることはなかった。いや、耳を傾けないというよりも、面倒事に関わりたくないが正しい。

既に被害者の口から犯人を告げている。その時点で犯人は決まっている。だから、教師達はこれ以上の面倒事を避けたいが為に煌の話に耳を傾けなかった。

既に学校内でも翔が三年の女子生徒を襲った。という噂が話題になっている。

誤解を解こうとしても余計に噂が悪化するだけ。

「翔は絶対にそんなことはしないのです」

「そうだね。僕もそう思う」

それでも二人は翔が犯人ではない、と頑なに信じている。

「エッチな漫画も碌に読めない超ウブな翔にそんな度胸なんてありません」

「女性の水着姿すら直視できないしね」

九条翔という人柄を良く知っている二人は翔がそんなことできないと断言できる。だが―――

「問題はどうしたら皆がそれを信じてくれるか、だ」

「う~~ん」

二人が翔が犯人ではない、と言ってもそれを信じさせる証拠や根拠が必要だ。

そもそもの問題としてどうして先輩は翔が犯人だと言ったのか?

フラれた腹いせにしては質が悪すぎるし、事前にフラれると告げておいた。なによりそんなことをする人には見えなかった。

だけど、実際に翔は表向きは自主退学され、今では自宅学習扱いとされている。

被害者である先輩に直接理由を問い詰めることができればいいのだが、住所はもちろん連絡先もわからない。流石に個人情報を一学生に教える教師もいなかった。

「このまま立ち止まっていても何も変わりません! 私は情報を集めに行ってくるのですよ! 名探偵ローレル、出陣です!」

どこからか取り出した伊達眼鏡をかけてその場から駆け出して行ったローレルに煌も携帯を取り出してとある人物へと連絡する。

「待っていてくれ、翔」

必ず無実を証明してみせる。

決意を固めて煌もその場から動き出す。





翔が自主退学とされてから約一週間後。一人の男子生徒が学校の屋上に向かって階段を上がっていた。

その手にはラブレターと思われる手紙を持って。

彼の名は横井隆矢(よこいりゅうや)。この学校の三年生でこれから会う女子生徒から告白されると思うと心が弾む。思わずスキップしながら階段を上がってしまう程。

隆矢は屋上の扉を開けて辿り着くと、そこに待っていたのは自分にラブレターを送った女子生徒ではなかった。

「こんなところまですみません、横井先輩」

そこに待っていた煌は屋上までご足労をかけた先輩に簡易に謝罪の言葉を述べる。

隆矢は自分にラブレターを送ってくれた女子生徒――ローレルだと思い込んでいた為か、驚きを隠せずにいた。

「その手紙は僕がローレルに頼んで書いてもらったものです。そうでもしないと来て貰えないでしょうから」

この学校で人気が高いローレルからラブレターと舞い上がっていた隆矢はその事実を聞かされて苛立つ。

「…………………俺に何か用かよ? 俺はもうすぐ試合が近いからこれでも忙しいんだが?」

「そう言えばレギュラーに復帰されたようですね」

「ああ、お前の幼馴染がレギュラー落ちしたからな」

嘲笑するかのように言う隆矢は続けて。

「まさかあいつがあんなことをする奴とは思わなったぞ? おかげでこっちはいい迷惑だ」

噂が広まってから空手部の印象も変わってしまった。

同じ部員というだけで後ろ指を指されるような毎日を過ごしている。

「それで? 俺に何の用だよ? 性犯罪者の幼馴染くん」

見下すように嫌味を告げる隆矢に煌は告げる。

「性犯罪者とは酷いですね。翔はもう無実であることは証明されていますよ?」

「はぁ?」

全くの予想外な発言に怪訝する隆矢に煌はポケットからレシートを取り出した。

「なんだそれ? レシート?」

「はい。これは僕達がよく立ち寄る書店のレシートです。これはあの日と同じ日付が記されています。もちろん、時間も」

「だからなんだよ?」

「わかりませんか? 監視カメラですよ?」

「!?」

「実は僕の父親は刑事でしてね。父に頼んでその書店の監視カメラを調べて貰ったんですよ。そしたら、そこにはしっかりと僕達が映っていた。その時の時刻は17時7分。そして先輩が強姦されたであろう予測時刻は17時4分。どう考えても翔が犯罪を犯すのは不可能なんですよ」

「そこでお前等と別れてマネージャーを犯したかもしれねえだろう?」

「距離的に不可能です。調べましたがマネージャーである先輩の自宅と僕達の自宅はほぼ反対方面。仮に実行しようとしたとしてもその頃には先輩は自宅に到着していますし、翔が自分の家に帰ったのも僕やローレルだけではなく、翔の家族も知っています。時間的、距離的にも翔がその日に強姦をすることは不可能なんです。なら、どうして被害者である先輩は翔が犯人だと告げたのか? その答えは簡単。脅されたから。僕の推理はこうです。犯人は先輩を犯してこう言った。『このことが知られたくなかったら犯人は九条だと言え』と。脅迫写真も見せつければまともな精神状態ではない先輩はただそれに従うしかなかった」

「………………………………それで?」

「少なくとも犯人は翔に少なからずの恨みを持っている。例えば空手部の選抜戦で翔に負けた横井先輩。貴方とか、ね」

「俺が犯人だと言いてぇのか!?」

「その通りです。先輩を犯し、翔に罪を擦り付けた犯人は横井先輩、貴方です」

どこぞの高校生探偵のように指す煌に隆矢は顔を僅かに歪ませる。

「聞きましたよ? 横井先輩はマネージャーに好意を寄せていたと。それであの日、先輩が翔に告白されるところを偶然にも目撃してしまった。レギュラーの座を奪われ、好意を寄せていた相手も奪われ、貴方は超えてはいけない一線を越えてしまい、咄嗟に翔を犯人へと仕立て上げた」

動悸を語る煌に隆矢は声を荒げる。

「なら俺が犯人だという証拠を見せろよ! 証拠を!」

あくまで今、煌が話したのは煌自身の推測でしかない。隆矢を犯人と断定する証拠が必要だった。

そして煌はその証拠を指す。

「証拠は貴方の携帯です。脅迫用として撮った写真がその中にあるはずです。なくてももう一つ、指紋を調べればすぐに横井先輩が犯人だと断定することが可能です。なんせ、マネージャーである先輩の服にも横井先輩の指紋が付着しているでしょうから」

証拠を告げられて思わず顔を青ざめて後退りしてしまう隆矢に煌は近づく。

「もし、自分が犯人ではないと言い切れるのでしたら携帯を見せるか、指紋を取らせてください。父に頼んですぐに解析してもらいます。犯人でないとわかれば土下座でもなんでもしましょう」

近づいてくる煌に内心でほくそ笑む。

煌の推理通り、犯人は横井隆矢だ。マネージャーが翔に告白している場面を偶然にも目撃してしまい、気が付けばマネージャーを犯していた。そして口封じの為に写真を撮って隆矢は翔を犯人へと仕立て上げた。

まさか探偵のように犯人を捜す奴がいるのは想定外だったが、やることはあの時と変わらない。

相手は剣道の有段者だが今は素手。剣がない剣道部などただの人だ。それに翔に負けたとはいえ空手の大会で全国大会まで行った隆矢はここで煌を口封じの為にボコる。

そして煌と翔。二人と仲がいいローレルを人質にしてしまえばいい。

そうと決まったら後は簡単だ。自分の拳が届く範囲に入ったら先制攻撃。そこで一気に叩く。

気づかれない様に拳を作って何も知らずに近づいてくる煌が攻撃範囲に入った。

――――――今、と拳を振り上げようとした瞬間。

煌の回し蹴りが、右踵が、隆矢の側頭部に炸裂する。

「――――――ガッ!?」

蹴り飛ばされてようやく蹴られたことに気が付いた隆矢に煌は先程と変わらず笑みを浮かべたまま。

「剣がない剣道部相手なら余裕で勝てるとでも思いましたか? 残念ですけどこう見えて翔に付き合わされて空手は得意なんですよ? まぁ、やっぱり剣道の方が一番ですけど」

空手の練習相手をさせられて気が付いたら身についた。

煌は倒れている隆矢のポケットから携帯を取り出して中身を見てみるとそこには脅迫用と思われる先輩の犯された写真が何枚も保存されていた。

「………………………………これで横井先輩が犯人は確定ですね。さて、では僕はこれを学校に提出して警察、父に知らせてきますのでこれで失礼します」

「ま―――」

「待ちません。本当なら容赦なく叩き潰してから証拠を見つけようと思っていましたが、さっきの一撃で勘弁してあげますよ。貴方のような人には叩き潰す価値すらない」

笑みを消して鋭利な眼差しで見据える煌は告げる。

「僕の幼馴染は真面目で、努力家で、面倒見がよくて、一途で、からかいがいがある僕の大切な親友だ。その親友を傷つけた貴方を僕は一生許さない。精々一生誰かに恨まれながら生きていくことですね」

それだけを告げて煌は屋上から離れて行く。

それからすぐに学校側は翔の退学を取り消し、隆矢を警察に引き渡した。

翔の無実が証明されて二人は翔の家に訪れる。

これでいつものように三人で学校に行ける、と喜びながらインターホンを押す。

だが、返ってきたのは静寂だ。

いつもなら翔の母親が出てくるはずなのに、自宅学習扱いされている翔がいるはずなのに誰一人でてこない。

煌もローレルも互いに首を傾げる。不思議に思った二人は隠してある鍵を拝借して家の扉を開ける。

その中は荒されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。