召喚前の話2
「へぇ~あんたあの女のことが好きだったのね」
「まあね」
話の途中でルビーノは半眼で煌を見つめながら不服そうに言うも、煌は肯定する。
「今はどうなの?」
クーファは淡々とそう尋ねる。
「今は妹として好きだね。僕自身もここまで納得できるようになるまで苦労したよ」
女としてではなく、一人の家族として親愛を寄せている。
でも、そう自分に納得させるには骨が折れた。
「それから僕達は新しい学生生活を満喫しつつ、将来に向けて努力していた」
中学生になって勉強と部活を両立させながらも三人は順調に学校に馴染んできた。
始めの頃は慣れない部活動と勉強の幅が広くなったことに困ることもあったが、互いに助け合うことでなんとか耐え抜けることができた。
始めは大変だった勉強と部活の両立だけど、一年生の中頃からはすっかり慣れて両方ともこなせれるようになった。
翔も煌も二人共努力家ということもあって勉強も部活も好成績を出し始め、成長期もあって身長も一気に伸び始めた。
成績も上位まで昇り、部活も一年生ながらエース的ポジションになり、大会ではどちらも賞を取った。
そんな二人は有り体に言えばモテた。
元々二人共容姿はいい方だったこともあり、成長期に入ったこと背も伸び、女子からは非常にモテるようになった。
それでも三人の関係は変わらない。何かある時以外は基本的三人一緒で行動している。
仲良し三人組と周囲から呼ばれるほど、三人の仲は良かった。
そんな順風満帆な中学生活を送りながら三人は二年生に進級したとある日。
「私と付き合ってください」
まだ肌寒い春。翔は一つ上の先輩に告白された。
その先輩は同じ空手部のマネージャーをしている人で、美人で、気さくで話しやすく、気遣いが上手な人だ。狙っている男子生徒はごまんといる。
そんな先輩が自分に告白してくれたことに嬉しくも翔には既に心に決めている人がいる。
「すみません、俺には他に好きな人がいるんです」
もう自分には好きな人がいるから断った。
この人の事が嫌いではない。むしろ好感さえ持っている。だけど、それでも自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。
「そう……………」
彼女はそう呟いてどこかに駆け出していった。
泣いているようにも見えた。酷いことをしたと思うもこれでいいと自分を納得させる。
「あんな美人な先輩の告白を断るなんて、本命でもいるのかい?」
「からかうな、煌」
物陰からひょっこりと姿を見せる煌に肩を射竦みながら言う。
「覗き見とはいい趣味だな」
「たまたま通りかかっただけだよ」
「どうだが」
こいつなら本当に覗き見しそうだからわからない。
「それで君はいつになったら本命の人に告白するんだい?」
「………………………………」
唐突の言葉に黙ってしまう。
あの日、入学式が終えた帰り道で煌に言われてから一年が経つも、翔はまだローレルに告白していない。
告白できるタイミングは何度もあったが、あと一歩踏み出すことができなかった。
そうこうしている内にあっという間に一年が経過して中学二年生にまでなってしまった。
因みにローレルは一年の頃から同学、先輩関係なく何度も告白されているも、全て断っているらしい。
「いい加減に一歩踏み出そうよ。いつまでも仲良し三人組のままじゃいられないだろ?」
「それはわかってるけど………………………」
簡単に言うも難しい。
その一歩を踏み出す勇気がない自分はヘタレなのはわかっているも、踏み出す覚悟もない。
もし、断られたらどうしようとつい不安が募る。
「さっきの先輩。実は前に僕のところに相談に来たんだ。君に告白する機会を作って欲しいって」
煌はそんな翔に先ほど翔に告白した先輩のことについて語る。
「一応僕は君がローレルのことが好きだから断られるって言ったんだけど、それでも言いたいって先輩は言っていたよ。そして、言った。自分の気持ちを君に、断られるのがわかっているにも」
「………………………………」
「先輩を見習って君も断られる覚悟で言ってみたらどうだい? 勇気を振り絞って」
告白するには凄い勇気がいる。
自分の気持ちを相手にぶつけるのは誰だって勇気がいるし、その一歩を踏み出すのにも勇気がいる。
断られたらどうしようと不安を募らせながらもその気持ちを声にする。
先輩は断られるのは承知で自分の気持ちを声に出した。その勇気を出すのにどれだけ頑張ったのか翔には想像もつかない。
自分を告白してくれた先輩を見習って親友にも背中を押されて翔はようやく覚悟を決めた。
「…………………今度の夏にレギュラー五人の団体戦がある」
「うん、それで?」
「先週、空手部の選抜戦でレギュラーだった二年、今は三年の先輩に勝って俺も出るようになったから、俺はその大会で優勝したらあいつに、ローレルに告白する」
この学校の空手部は毎年全国大会に出場するほどの強豪校。自分が足を引っ張らなければ優勝するのも難しくはない。ただ、告白する為のきっかけが翔は欲しかった。
「ようやく覚悟を決めたか………………………」
「ああ、お前の言う通りに先輩を見習って頑張るよ」
「それがいいよ。僕の為にもね………………………」
「ん? 何か言ったか?」
「いやなんにも」
これでようやく諦めがつけると内心安堵する煌。それに気付かず怪訝する翔は「まぁいいか」と特に気にせず、ローレルの告白について考える。
これまでずっと好きという気持ちを隠してきた。それを自分の口から伝えるとなると今からでも緊張が走る。
でも言う、言ってみせる。
他の誰にもローレルを取られてたまるか。
「さて、それじゃ帰ろうか。ローレルが校門で待ってるよ」
「了解」
煌と共に校門に向かう。
「君がなんてローレルに告白するのか、楽しみだ」
「……………………覗くなよ?」
楽しそうに笑う煌に注意するも無駄だろうと悟る。
この時はまだ知らなかった。
順風満帆な中学生活が崩壊することになるなんてことに―――。
次の日の放課後。
翔達はいつものように授業を終わらせて部活に行こうと動こうとした時、翔は学校から呼び出しを受けた。
至急、校長室まで来い。となんだろうと首を傾げながらも翔は同じ空手部の友人に少し遅れるとだけ伝えて言われた通り、校長室までやってきた。
「失礼します」
扉をノックして入る。中に入ると校長と教頭、それと自分のクラスの担任の教師が真剣な顔をして翔を待っていた。
何事だろう、と異様な雰囲気に当てられながら疑問を抱いた。
「九条君。急に呼び出してすまないね」
「いえ」
校長が翔に謝罪するも翔は首を横に振る。すると、教頭が口を開いた。
「九条君。君は昨日の放課後、何をしていたかな?」
「昨日の放課後ですか? えっと少し用事ができましたのでそれを終わらせてから帰りましたが?」
なんでそんな質問を? と思いながらも正直に答える。
今度は担任の教師が言う。
「九条。お前は真面目で優秀な生徒だ。だからな、正直に答えて欲しい。こっちも何かの勘違いだと思ってるから」
「えっと、なんの話ですか?」
話が見えない。翔はいったい何の話をしているのか尋ねると、校長は沈痛な表情で告げる。
「昨日の放課後、一人の女子生徒が強姦されたんだよ。その犯人が君だと言われている」
「え?」
予想だにしなかった言葉を聞いて目を見開いた。自分の耳を疑い、教頭と担任に視線を向けると二人は深刻な顔で頷いた。
「ち、違います! 俺はそんなことしていません!! 昨日の用事というのも先輩に呼び出されただけであって、その後はすぐに煌、飛弾とラウルスと一緒に帰りました! 嘘だと思うなら確認してください!」
自分は無実であることを伝える。
自分にはちゃんとアリバイがある。昨日の放課後はすぐに呼び出された場所に行って、終われば煌とローレルと一緒に帰った。自分の行動を証明する人物がいる。
だから自分はそんなことしていない。と断言するも。
「実はね、被害者はその先輩で彼女の口から犯人が君だと言っていたんだ」
「――――――っ!」
被害者が昨日自分に告白してきた人だと聞かされ、驚愕に包まれる。
何であの人が……………? と疑念を抱く。少なくとも告白に断られたからといって人を陥れるような人ではないし、煌の話では断られることを事前に告げられているはずだ。
それがどうして………………………?
困惑する翔に校長は話を続ける。
「勿論私達も君を信じたい。だが、被害者から君が犯人だと言われた以上は学校側としては何もしないわけにはいかないんだよ」
沈痛な表情を浮かべたまま校長は翔に告げる。
「学校側の判断としては君に自主退学を勧めたい」
処刑宣告かのように告げられたその言葉に翔は納得できなかった。
「待ってください! なんで先輩が俺を犯人だと言ったのかはわかりませんが、俺には昨日の行動を証明する証人がいます! それにまだ俺が犯人だという確定的な証拠もなしに退学なんてあんまりです!」
翔には自分の行動を証明してくれる証人がいて、翔が犯人だと確定する証拠もない。
いきなり退学処分を言い渡されても納得なんてできない。
「落ち着いて聞いて欲しい。自主退学はあくまで被害者側を納得させる為の表向きの処置で、実際は君の無実が証明するまでの自宅学習のようなものであって―――」
「それでもおかしいでしょ!? 俺にはちゃんと証人もいるのに処罰されるなんて!」
「しかし、その証人は君の幼馴染なんだよね?」
「………………………………そうですが?」
「仮に飛弾君が君の行動を証明したとしてもその言葉を被害者側が納得すると思うかね?」
煌とローレルとは仲良し三人組と呼ばれるほどに親しい間柄。なら、翔を庇う為に嘘の証言をしていると被害者側がそう思う筈だ。
逆に翔と関りの少ない第三者の人間なら被害者側もまだ納得したかもしれないが、親しい間柄である煌の言葉に耳を貸すとは思えない。
「君には辛い思いをさせるかもしれないが、学校側もこの件を公にはしたくはない。今は従って欲しい」
「………………………………はい」
翔は首を縦に振るしかなかった。
下手に騒ぎを大きくして二人を巻き込みたくはなかった為に応じるしかなかった。
順風満帆な中学生活は突然終わりを告げ、更には翔にとってこれは地獄の始まりに過ぎなかった。




