召喚前の話1
「………………はぁ、はぁ、うぷ……………な、なんてものに乗せるのよ……………………」
「アハハ、ごめんごめん」
翔が作った車に乗って仲間達と共に軽くドライブした煌は車という未知の乗り物にルビーノ達は車酔いした。
「ば、馬車より速い…………………」
「そうだね。でも、僕達の世界だと車は日常品だからね」
「嘘でしょ…………………?」
乗って車という脅威を思い知らされたルビーノ達はこれが日常品の品物だと聞かされて目を見開く。
「まぁ僕も実際に車に乗るのは初めてだけど、思っていたより簡単に運転できてよかったよ。本当に翔は性格とは裏腹に器用だな」
性格はこれ以上にないぐらいにひねくれているもその手先は非常に器用だ。
本人がこの場にいたら「うるせぇ」と悪態を吐いているだろうが。
「………………………………そういえばあの男何者なのよ? はっきり言ってすっごく胡散臭いだけど」
ルビーノは自分の思った意見を口にすると煌は苦笑いを浮かべる。
「そう言わないであげてほしいな。彼はただ好きで好きでたまらないローレルの為に必死なんだよ。それこそ自分の命を簡単に放り投げるぐらいにね」
「はぁ? 馬鹿なの?」
「馬鹿だよ、彼は。まだ自分のことを許そうともしないどうしようもない大馬鹿だ」
馬鹿と断言する煌のその瞳は悲哀の色をしている。
その瞳には何があったのか、知らせているように見える。
「そうだね。これから共に行動することだし、彼と僕達のことについて話しておこうか」
近くにある石に腰を下ろして煌は数年前の出来事について語る。
「俺は僕達がまだ中学校に入学した時――――」
同時刻。
温泉へとやってきたローレル達は衣類の全てを脱ぎ払い、温泉を満喫している。
「うは~やっぱり温泉は極楽ですね~」
温泉でまったりと寛いでいるローレルは自分の膝上にいるハルを存分に愛でて楽しんでいる。
「んっ……………ロ、ローレル様、そ、そこは…………………だめ、です、よ…………………」
「ふふふ~ここがいいのですか~? それともここですか~?」
「コン!」
慣れた手つきでハルにセクハラというスキンシップをするローレルは既に変態親父と化している。
ローレルは異世界に転移、転生したら叶えたい夢があった。
それは獣耳美少女を命一杯愛でるという夢。それが現在進行形で叶っているローレルは自分の欲望のままでハルを愛でるのであった。
「不思議な人だね……………」
「ええ」
サクロ達から見てローレルは不思議な人だ。そこにいるだけでついこちらも笑みを作ってしまうほどとても陽気な人だ。自分達の想い人である翔もこういう彼女の魅力に惹かれたのだろうか?
「ねぇ、ローレルさん」
「はい?」
「せっかくだし、ショウのことについて教えてくれない? 私達はまだショウのことについて何も知らないから」
サクロは思い切ってローレルにそう言った。
翔は自分のことを頑なに話そうとしない。だからラヴァン達が知っている翔とそうでない翔がいる。
だからその知らない部分を同じ世界、幼馴染であるローレルから聞こうとすると、ローレルはああ、と納得したように頷いた。
「やっぱり翔は自分のことを皆さんに話さなかったのですね」
確信染みた物言い。その理由を知っているローレルは特に断る理由もない為に話すことにした。
「そうですね。あれはまだ私達が中学校に入学した時からですか―――」
ローレルは翔が変わったきっかけとなる中学時代のことについてラヴァン達に教えた。
それはまだ煌、翔、ローレルが異世界に召喚されるずっと前に事―――
小学校を卒業し、中学校に入学をした彼等はいつもと変わらず三人で行動を共にしていた。
今日も入学式を終えた帰り道。これからの中学生活について語り合っていた。
「なぁ、お前等部活どうする?」
中学から始まる部活動。何をするのか翔は率直に二人に尋ねた。
「僕は剣道部にするよ」
「剣道部って確か廃部寸前の部じゃなかったか?」
「僕が入ればまだ廃部は免れるし、せっかく小学校から鍛えた剣の腕を鈍らせたくないしね。翔は?」
「俺は空手部。俺も空手を続けるつもりだ」
煌も翔も小学校から剣道と空手をしていて部活動でもそれにしようと前から決めていた。
それに対してローレルは。
「私は帰宅部一択ですよ。部活なんてしたらアニメを見る時間が減ってしまうのです」
「お前らしいな」
「そうだね」
物心ついた頃からオタクであるローレルは変わらずアニメや漫画を優先する。それがわかっている二人はそんな変わらないローレルに肩を竦める。
「でもこれからが大変だよね。部活もだけど進路のことについて本気で考えないといけないし」
「文武両道、だな。ローレルも少しは勉強しろよ」
「うぅ………………耳が痛い話ですよ」
「「現実の話だからな(ね)」」
「ハモるの禁止です!!」
そんな他愛もない会話をする毎日。それが翔達にとっての日常だった。
「それじゃ煌、翔。また明日、起こしに来てください」
「自分で起きろよ」
「僕達は目覚ましじゃないからね?」
「はーい!」
ローレルを家まで送って翔も自分の家に帰ろうとした時―――
「あ、翔。ちょっと待って」
「どうした?」
不意に煌に呼び止められて振り返ると、煌は頷く。
「うん。翔はいつローレルに告白するの?」
「ブッ!!」
予想外のことに口から唾を飛ばしてしまった。
「お、おおおおま、なんで……………………」
「いや、だって、いつまでもこのままってわけにはいかないでしょ? 今日の入学式の時の他の男子の視線見た? きっと殆どがローレルを彼女にしようと狙ってるよ思うよ?」
「うぐ」
煌の言葉は正しい。ローレルは本当に美少女と言っていいほど容姿が整っている。
そんなローレルを彼女にしようと狙っている男子がいるのはごく当然のことだろう。
「ローレルは天然だから見ておかないと危なっかしいし、絶対誰かと一緒の方がいいと思うんだ。だから、翔がローレルの彼氏になれば変に付き纏う人も減ると思うけど?」
「いや、それはそうだけど、そうじゃねえ! なんでそこで俺なんだよ!?」
「だって翔、ローレルのこと好きでしょ? 小さい頃から。具体的には小学校に入る前から」
「ア――――ア―――――ア――――――!!」
顔を真っ赤にしてテンパる翔に愉快そうに笑みを浮かべる煌は人を陥れる悪魔だとこの時心底思った翔であった。
「そういうお前はどうなんだよ!? ローレルのことどう思ってやがる!?」
「え? 好きだよ。妹分としてだけど」
あっさりと白状したが。
「嘘つけ! 俺は覚えてるぞ! ガキの頃、ローレルをお嫁さんにするって俺と喧嘩したのを!」
そう、煌も翔と同じくローレルのことが好きのはずだ。そうでなければあんな喧嘩はしない。
「うんそうだね。じゃ素直に白状すると、君がローレルに抱く愛が僕の愛を上回っただけの話さ」
「止めろ!! なんでそんな漫画みたいな台詞をここで言うんだよ!?」
「うん、前に借りたローレルの漫画の台詞。いや~言える日が来るとは思わなかったよ。うん、面白い」
「ぶん殴るぞ、この野郎!」
おちょくられる翔は本気でこの腹黒幼馴染を殴ってやろうかと思った。
「まぁ、翔をからかうのはこのぐらいにしておいて」
「おい」
「真面目な話。本当に僕より君の方がローレルと一緒になるべきだと思う」
「なんでだよ? 別に俺達三人でも変わらねえだろう?」
「今まではね。でもこれからは違う。勉強や部活や色々と忙しくなる。今まで通り僕達三人一緒のままじゃ何の発展もしないと思う。だから、そろそろ僕達も次へ発展するべきだ」
「………………………………それがどうして、その」
「うん、君とローレルが彼氏彼女の関係になって欲しいと思っているのは本当だよ。君たち二人ならきっと上手くいくと思う」
「………………………………お前はそれでいいのかよ?」
「いいからこうして話してるんだろう? 僕は僕で相手を見つけるよ。その時はWデートでもしよう」
煌はこの時嘘をついた。
本当は煌もローレルのことが好きで、ローレルの彼氏になりたい。
でも、それはできない。その訳はさっき冗談で言った漫画の台詞だ。
小学二年生の夏休みのある日にローレルが行方不明になったことがあった。
それを知った煌は思いつくところを手当たり次第に探しにいった。だけど、見つかることができず、半分諦めていた。初めは本気で探していたが、疲労が溜まるにつれて諦め始め、適当になりつつあった。
きっと大人の人が見つけてくれる、と勝手な願望を抱きながら日が暮れる時間になり、家に帰る。
その帰り道、ローレルがいた。
翔に背負われた状態で。
その時、翔の恰好は泥と擦り傷だらけ。
自分は服に少し泥がついた程度。
その恰好がどれだけ真剣に好きな人を探していたか、その具合がわかる。
それでも翔は自分の背中ですやすやと暢気に寝ているローレルを見て笑っていた。
この時、煌は知った。
自分なんかより翔の方がずっと真剣にローレルのことが好きだと。
煌は三人の関係が変わらないといけないから言っているのではない。
変わって欲しいからそう翔に言っている。
自分でも勝手なことを言っている自覚はある。でも、こうしないと本当に諦めがつかない。
「他の人に取られる前にさっさとローレルを彼女にしてあげなよ?」
「あーはいはい。たくっ」
ぶつくさ言う彼は純粋で一途だ。それに対して自分は黒くて浅ましい。




