守銭奴聖職者
街に訪れてから翔はメインストリートを一人で歩いている。
冒険者ギルドで身分証を作ってからこの街にしばらく滞在する為に宿を取って二手に分かれて行動している。
ラヴァンは今後の資金を集める為に冒険者として依頼を受けに行っている。
最弱のクラスで有名な魔術師と違って魔法使いは需要が高く、他の冒険者のパーティーから勧誘が来るほどだ。ラヴァンはこの街で活動している冒険者達と共に資金調達と煌とローレルの情報について探って貰っている。
そして翔は真っ直ぐに教会に向かっている。
その理由はこの世界の神であるリュマダを調べる為だ。
失われし魔法、古代魔法。それを人間に授けたリュマダ神。
城に滞在していた時にその神についても調べてみたがわからないことだらけだ。
唯一わかったのは人間に古代魔法を授けたこと、この世界の信仰の象徴とされているぐらいだけでそれ以上の情報はなかった。
教会に訪れればもしかしたら何かわかるかもしれない。もしくは古代魔法についての情報が手に入るかもしれない。
可能性は低くても調べてみる価値はある。
そう思って教会を目指している道中。
「ちょ、困るよ。離して」
「へへっ、いいじゃねえかちょっとぐらい」
「そうだぜ。気持ちよくしてやっからよ~」
これ以上にないぐらいのからまれ現場を目撃してしまった。
一人の女性に二人の男性が強引にどこかに連れて行こうとしていた。
女性の腕を掴んでいる男性達の方は姿恰好から見て恐らくはこの街の冒険者だろう。それによく見れば頬が赤い。昼間から酒を飲んでいることがわかる。
女性の方はシスターなのか修道服を着ている。ヴェールで顔はわからないが困っているのはわかる。
「……………………たく」
溜息を吐いて真っ直ぐに三人の方に向かうと男が翔の存在に気付いたのかこちらを見た。
「おい、なんか文句でもぶぐ!?」
翔は男が最後まで言葉を発する前にその顔面に拳を叩き込んだ。
「て、てめえ!? いきなりなにしやがる!?」
問答無用に相方が殴られて咄嗟に腰に携えている剣を抜くと翔はその男に鋭い眼差しを向ける。
「目障りだ。消えろ。それとも痛めてけてやろうか?」
「ひぃ!」
翔に気圧されて男は相方を担いで慌ててこの場から去って行った。
それを見てまた溜息を漏らしてその場から離れようとする。
「あ、ちょっと待って」
去ろうとする翔を慌てて止めに入るシスターはヴェールを取って素顔を見せる。
「ありがとう、助かったよ」
金髪金眼の美しい女性だ。
繊細な顔立ちは非常に整えられてゆったりとした修道服からでもわかるスタイルは容姿端麗という言葉が似あう。その金色の瞳も透いた輝きを見せる。
今更ながら先ほどの二人が声をかけたくなるにも頷ける。
「目障りだっただけだ。お前を助けたわけじゃねえ」
翔はいつものようにそう返すとシスターはクスクスと笑う。
「そうだとしても私が助かったという事実は変わらないよ。私の名前はサクロ。サクロ・クリッド。クラスは『聖職者』。この街の協会でシスターをしているよ」
「翔だ」
『聖職者』。
神の奇跡を授かるクラス。傷を癒し、病や呪いを祓い、聖なる力は魔を滅する。
眼前の女性はそのクラスを持っている。
「ショウ………だね。教会に懺悔をしたくなった時は言ってね? 助けてくれたお礼として懺悔料を半分にしてあげるから」
「金取んのかよ………」
「当り前だよ。教会だってお金がないと生活できないんだよ? 取れる時に取っておかないと」
「確かにな」
世の中綺麗ごとでは済まされない。
神を信じる教会の信者だろうとそれは同じだ。
「ちょうどいい。礼がしたいなら俺の質問に答えろ」
「いいよ。じゃ」
手を伸ばすサクロ。
「質問一つにつき一万ユール」
「おい」
「これでもまけてるんだよ? 払えないのなら教えられないな~」
「チッ、守銭奴が」
翔は乱暴気味に一万ユールをサクロに渡す。
「毎度。それじゃ質問ってなにかな? 嘘偽りなく答えるよ? 助けてくれた君になら私のスリーサイズだって教えてあげる。あ、それとも処――」
「この世界の神であるリュマダもしくは古代魔法について教えろ」
最後まで言わせずに言葉を遮るように質問を投げ飛ばす。
「また変わった質問だね………ん~古代魔法の方はよく知らないけどリュマダ神についてならある程度は教えられるよ。あの神様はね、神聖視されているけど実のところ何もわからない神様なんだよ」
「なんだそりゃ?」
「謎に包まれているんだよ。大昔に人間に魔法という力を与えたみたいだけどそれ以外は本当にわからないんだ。でも、私達人間にとってはその与えてくれた魔法の力で今もこうして生活できているから救世神、慈悲の神、魔法の神様など様々な呼び方はあるけど神聖視されているのは確かだね」
「要は何もわからねえってことか」
「そうとも言うね」
ペロリと舌をだしてお茶目に笑うサクロに苛立つもよくよく思えばそうだ。
神様など所詮は人間の心の拠り所。象徴のようなものだ。
そこに人間があれこれと色々付け加えただけの話だ。その中身は空っぽだったとしても不思議ではない。
空振りか、と諦めようと一考した時。
「あ、古代魔法について一つ思い出したよ」
「なんだ?」
「一万ユール」
「クソ女………ッ!」
金にがめつい守銭奴聖職者に金を渡した。
「古代魔法は魔法使いの魔法とは違ってどちらかで言うと亜人族の固有魔法に近いようなんだ。わかりやすく言えば人間族でも使える固有魔法かな? でも、その能力は比較にならない程に脅威だって教主様に教わったことがあるよ」
「……………………それはどこで手に入る?」
「流石にそれは私もわからないよ」
「使えねえ」
「酷い言いようだね………」
二万ユール払って結局わかったのはリュマダ神は謎に包まれ、古代魔法は人間も扱えるということだけでリュマダ神の謎も古代魔法の在処もわからない。
無駄骨だ。
「……………………何の為に君がそれを知りたがっているのかは知らないけど、あまり詮索しない方が身のためだよ? 特に私以外の協会関係者は根っからの信者でそれこそリュマダ神に疑念を抱くようなら即追放。悪ければ死刑。それはこの街の住民も君も当てはまるからね」
「狂信者ってやつか」
信仰する神を絶対とする信者には何を言っても無駄だろう。何故なら自分達にとってその神は疑うこともしない絶対の象徴。それを崩そうとする方が間違っていると言い切る輩だ。
そちらの方が目の前の守銭奴聖職者より面倒だ。
「つーか、お前はいいのかよ? 聖職者だろうが」
「ん? 別に。クラスでたまたま聖職者だったから成り行きでシスターをやっているだけだしね」
「適当だな」
「まぁ、寄付を称してお金が簡単に手に入るからこのクラスでよかったと思ってるよ」
指で輪っかを作りながら笑顔でそんなことを言うサクロにもはや呆れるしかない。
「まぁいい。もうお前には要はねぇ」
聞き出せる情報は聞いた以上はもうサクロに聞くこともない。これ以上は時間の無駄と判断して去ろうとする。
「もう行くの? 折角知り合ったんだからお茶ぐらい付き合うよ? 君の奢りで」
「するか。俺は忙しいんだよ」
一蹴して離れていく翔にサクロはぽりぽりと頬を掻く。
「それなら仕方ないね。またね、ショウ」
手を振るうサクロに翔は手を上げて応えた。
そこで二人は別れた。
翔はサクロから得た情報以外にも他に何かあるかどうか調べに。
サクロは自分の職場である教会に戻る。




