巡り合わせ
宿屋『月に寄る猫』。
翔とラヴァンの二人が宿を取っている宿屋で二人は互いに集めた情報を交換していた。
翔は守銭奴聖職者であるサクロと貸本屋からいくつか本を借りて調べてみたが、サクロから聞いた情報以上のことは何もわからず、ラヴァンの方も冒険は順調だったが肝心の二人の手がかりは掴めなかった。
「申し訳ございません。私がもっと上手く立ち回れたら」
「謝る必要はねぇ。そう簡単に見つかるとは思ってねえからな」
申し訳なさそうに謝るラヴァンの謝罪をどうでもよさそうに返す。
ネイション王国が魔族に襲来された話は既にこの街には広がっていた。ならこの街以外にももうその噂は広がっていると考えていいだろう。
それよりも問題は二人の行方が全くわからないということだ。
煌は勇者という貴重で珍しいクラスだ。ならそれらしい噂が立っていてもいいと踏んでいた。
ローレルも容姿は整っているし、魔法使いとしての腕前もラヴァンと同等かそれ以上のはずだ。
ハッキリ言えば二人共目立つ容姿とクラスを持っているのにそれらしい噂がない。
この街よりも相当遠くに転移させてしまったか、もしくは人目がつかないところに身を潜めているのか。
それとも………。
最悪の展開を想像してしまうもそれを強引に追い払う。
あの二人ならそう簡単に死ぬことは無い。
煌は勇者のクラス持ちで頭も切れる。そう簡単に死ぬような奴じゃない。
ローレルも天然で危なっかしいが人の悪意には敏感だ。上手く立ち回れるはずだ。
二人と離れてもう一ヶ月以上。
ここまで二人と会うことのない日を過ごすのは初めてだ。
『魔法って爽快ですよね! 私も異世界に転移して魔法をバーンってぶっ放したいです!』
『お前がバーンってぶっ放されそうだがな』
『むしろ自爆オチじゃないかな?』
『二人共酷いです!!』
地球にいた頃、そんな他愛のない話をしては笑い合っていた日が懐かしく感じる。
ローレルがアニメや漫画の話題を持ち出して、翔がからかうように悪態を吐き、煌が苦笑しながら二人の間を上手く宥めてくれた。
そんな日々が今では記憶の中だけ。思い出でしかない。
「お二方が心配ですか?」
「……………………心配する必要はねえよ、あのお人好し共のことなんて」
変わらない素っ気ない口調。だが、ラヴァンは翔のその表情はとても切なく見える。
一ヶ月レノアの家で共に過ごし、一週間共に旅をして度々見かけるその切ない表情からは深い悲しみが見えて仕方がない。
ラヴァンは正直に言えば三人の間に何があったのか聞き出したい。だが、できない。
何故なら翔はきっと口を割ることはない。
ラヴァンを、いや、あの二人以外の人間を信用していないからだ。
共に行動して薄々とわかるようになった翔の深い闇の部分は決して誰にも触れさせようとしない。
「明日は俺も冒険者ギルドで依頼を受ける。少しでも実戦経験を積んでおく」
「それでしたら私も――」
「お前はそのまま他の冒険者と組んで情報を集めろ。俺は一人で動く」
共に依頼を受けようとするラヴァンを拒絶して単独行動を取る。
それは別にラヴァンを蔑ろにしているわけではなく、最弱のクラス魔術師である翔がラヴァンと共にいれば面倒事になる可能性もあり、手分けして行動した方が効率もいいからだ。
ラヴァンもそれを理解している。
「あまり深くこの街に関わるなよ? 情報と資金が集まり次第すぐにこの街を出るからな」
まだ知らない情報を探って活動に必要な資金を手に入れたら次の街に行って同じように情報と資金を集める。それを何度でも繰り返して二人を見つけ出す。
「……………………お聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「どうしてショウ様はそこまでしてお二人を? あの時もショウ様なら逃げることもできたはずです」
「……………………………」
「私もお二人が心配です。ですが、ショウ様はそれ以上の何かがあるように思えてなりません」
ラヴァンは一歩を踏み込んでみた。
こちらを鋭い眼差しで見据えてくる翔の瞳に怯えながらも一歩踏み込んで聞き出す。
すると、翔は視線を窓の外に向けながら口を開いた。
「………………あの二人は俺にとって恩人だ。どうしようもないクズの俺に救いの手を差し伸ばしてくれた」
ぽつりとそう言った。
「だから俺は何があっても、何をしてでも最悪の場合あいつらだけでも元の世界に帰す。それがクズの俺でもできる唯一の自己満足の贖罪だ」
「贖罪………………」
「これ以上話すことはねぇ。もう寝ろ」
「……………………失礼します」
一礼してから部屋から出て自分の借りている部屋に戻るラヴァンを他所に翔は手を強く握りしめていた。
「……………………甘えんじゃねえよ、クズ。お前がしたことは絶対に許されないことだろうが」
自分自身に虫唾が走る彼は己に憤る。
そんなことを彼女に話したところで自分がした罪は消えることは無い。
過去を清算できるわけがないのだ。
彼は憤る感情を押し殺しながら明日に備えて眠りにつく。
翌日、彼は冒険者ギルドに訪れて依頼を受けた。
ローレルから読まされたアニメや漫画などでは冒険者にはランクやレベルというものがあってそれに合わせた依頼を受けるのが当たり前らしいが、実際は違った。
冒険者稼業はあくまで自己責任。何の依頼を受けるのかは本人の自由。
討伐、護衛、ペット探し。何を受けるのも自由。ただし何かあった際はその責任は自分で取る。
翔が受けたのは討伐の依頼。
『キャトルウルス』という四本腕も熊だ。
体格は地球の熊の倍以上、腕力も非常に強くて分厚い毛皮と脂肪で並みの武器では刃が通りにくいだけではなく見た目に反して動きも素早い厄介なモンスターだ。
力、防御力、素早さ。どれも高い能力を持っているキャトルウルスは今は翔の前で息絶えている。
「流石に息ができないのなら死ぬか………」
キャトルウルスの死因は窒息死だ。
酸素がない真空空間をキャトルウルスの顔に展開させて呼吸をさせずに窒息死させた。
魔族にこの方法が通用するかはわからないが、取りあえずは実証だけただけでもよしとする。
あと、キャトルウルスの毛皮は非常に高く売れるので解体してどうにか毛皮を持って帰りたいのだが生物の解体、それも熊の解体などしたことがない。それに血の匂いで他のモンスターがやってくるのも勘弁だ。
毛皮は素直に諦めて討伐証拠として爪や牙を持って街に戻る。
「お~い!」
「あぁ?」
不意に聞こえた声に振り返ると先日出会った守銭奴聖職者であるサクロがこちらに駆け寄ってきた。
「いやぁ昨日ぶり。こんなところで巡り合えるなんてリュマダ神に感謝だね」
「聖職者がどうしてこんなところにいやがる?」
街道があるとはいえ森の中。同業者である冒険者ならともかくとして聖職者である彼女がこんな場違いの場所にいるなんて違和感を覚える。
「お仕事。この先に小さな町があってね。そこで呪いを受けた子供を聖なる力で祓ってきた帰りなんだ」
「わざわざご苦労なこった」
意外にも仕事はきちんとこなしているのかと若干失礼なことを考えてしまう。
てっきり金にならない仕事はしない主義だと思っていた。
「つーか一人で街から出ていいのかよ?」
「ん? 心配してくれてるの? 優しいねぇ」
「するかボケ」
「大丈夫。心配しなくても教会の費用できちんと護衛を雇っているから問題ないよ」
「してねぇつってんだろ」
「はいはい」
睨むも軽く受け流してしまうサクロにそっぽを向いて歩き始める。
「ちょっと待って。せっかくだから話でもしながら一緒に帰ろうよ」
「断る。帰るなら一人で帰れ」
即答だった。その即答にサクロは苦笑い。
「君はパーティーを組んでいないの? 一人だと報酬はいいけど危ないよ?」
「一人で十分だ」
その証拠として麻袋に入っているキャトルウルスの牙を見せるとサクロは目を丸くする。
「……………………強いんだね、ショウは」
「おい、なに人の獲物を懐に入れようとしていやがる?」
「アハハ………つい」
「ぶっ飛ばすぞ、守銭奴」
さり気なく牙を懐に入れようとするサクロから牙を奪い返して麻袋に戻す。
「サクロ様――――――!!」
後方から馬車と鎧を身に着けた男達が向かってくる。サクロが言っていた雇われた護衛だろう。
「もう追いついてきた………」
鬱陶しいそうに息を吐くサクロに面倒事は避けたい翔は足早で歩く。
「あばよ」
「うん、また会おうね」
「知るか」
素っ気なく返して翔は街に戻る。




