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ひねくれ者の最弱魔術の使い方  作者: 幻影十夢
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強引な休息

借りている宿の一室で腕輪(ブレスレット)に術式を書き加えている。

この街に訪れてから情報収集と資金調達を毎日欠かさず行い、それなりに資金は溜まってきた。

その一部を使って安物の腕輪(ブレスレット)を買い取って術式を書き加えて魔道具(マジックアイテム)を作っている最中。

「……………………ショウ様、しっかりと休まれておりますか?」

ラヴァンが心配そうに声をかけてきた。

この街に訪れてから翔が休んでいるところなど見たことがないラヴァンは黙々と作業している翔に思い切って尋ねた。

「飯も睡眠も取ってる。問題ねぇ」

手を休めることなくぶっきら棒にそう返した。

それだけでラヴァンは理解した。

この人は食事と睡眠以外は目的の為に費やしているのだと。

休日どころか休む時間も惜しんで少しでも何かを得ようと心身を酷使し続けている。

それでは駄目だ。

このままでは彼が倒れてしまう。

そう思ってラヴァンは作業中の翔の腕を掴む。

「休みましょう」

「あぁ? 休んでんだろう」

「それは休んだとは言いません。今日はもう何もしないでください」

「俺が何をしようが俺の―――」


「い い で す か ら 休 ん で く だ さ い!!」


気迫に迫った顔を近づけられて思わず引いてしまう。

「ショウ様があのお二人のことが好きで好きで仕方がないのは重々承知しています!!」

「なっ!? ななななに言って――――!」

「ですが、それでショウ様が無理をして倒れてしまったら元の子もありません!!」

「す、好きじゃねえよ! 変な事言うんじゃねえ!! ぶっ飛ばすぞ!?」

「好きでないのならそんなに頑張るわけないじゃないですか! いい加減に素直になってください!?」

「うるせぇ!! 十分素直だ!!」

「全然素直じゃありません!! そうやって誤魔化しても意味ないです!!」

「誤魔化してねぇよ!!」

言い争う二人はぜーはーと肩で息をする。

「……………………頑張るのはいいことです。ですが、頑張り過ぎるのはよくありません。身体も心もついていけなくなりいずれは壊れてしまいます。お願いですから今日一日ぐらいは何もしないでください」

「――――――――っ」

『頑張り過ぎるのはよくないですよ? 一緒にアニメを見て休憩にしましょう!』

ラヴァンの言葉を聞いて脳裏を過るローレルの言葉。

「休むことも大切なことですから………」

「……………………わかったよ」

彼女の言葉に翔は渋々首を縦に振った。

このお節介め、と内心で愚痴を溢しながら作業を中断させる。

しかし休めと言われてもどうすればいいのかわからない。いっそのこと明日の朝まで寝続けようか。

「………もし、もしお嫌でなければ私と一緒にこの街を散策しませんか? 私も今日は冒険者のお仕事はお休みですから」

「……………………わかったよ、好きにしろ」

「はい。好きにします」

ぶっきら棒な了承に笑顔で頷くラヴァンは翔と共に宿を出る。

何も目的もなく宿の外を出た翔は色褪せた街並みがいつもより晴れて見える。

「さぁ、行きましょう」

ラヴァンに手を引かれてメインストリートを歩く度に不思議に見えてしまう。

家も、屋台も、人々も、空も。昨日までとは違う。

この街はこんなにも鮮やかだったか? そう疑念を抱くほどに。

「おう! そこのお二人さん! 一本どうだい!? バトラフロッグの串焼き! 一本200ユール!」

歩いていると屋台の商人に声をかけられ、翔は断ろうとしたが。

「あ、二本頂けますか?」

「毎度!」

ラヴァンが二本買ってその内一本を翔に手渡した。

「どうぞ」

「いや、お前が買ったもんだろうが」

「私一人で二本も食べたら太ってしまうではありませんか。それに一人だけ食べるのも寂しいものです」

「……………………そこまで言うなら仕方がねえ」

渋々串焼きを一本取って食べる。

「お味はどうですか?」

「美味えよ…………」

噛み応えのある重圧な肉にソースに似たタレを塗られて肉汁と共に口の中が濃厚な味わいでいっぱいになる。噛めば噛むほどに味わいは深く、食欲が満たされていく。

そう答えるとラヴァンは笑顔のまま自分も串焼きにかぶりつく。

「美味しいですね」

「口元にソースがついてんぞ?」

そう教えると慌てて口についたソースを拭い取る。

『おい、口元にクリームついてんぞ?』

『あ、ハンカチ忘れてしまったので翔が取ってください』

『ガキか。たくっ仕方がねえ………』

『あはは、まるでお父さんとその娘だね』

『こんなでけぇガキは御免だ』

『私は翔のような優しい父親(パパ)は欲しいです』

このやり取りに三人で買い食いした時を思い出す。

そうだ。こんなところでのんびりする余裕なんてないんだ。

一秒でも早くあの二人を見つけないといけない。

「おい、俺―――」

「あ、次はあそこに行ってみましょう! 服飾店! いい服があるといいのですね!」

「おい!」

手を掴んで強引にその店に連れ込むと、翔の顔は一気に赤くなって手で顔を押さえる。

女性専用なのか、女性の服や下着しかなく中にいる客も店員も女性だらけ。

「俺は外で―――」

「私の着る服を一緒に選んで下さい」

「お前、俺を殺す気―――」

「いらっしゃいませ! お客様! 本日はどのような服をご所望で!」

「あ、旅でも動きやすい服を」

「かしこまりました! お隣にいるのは彼氏さんですか!? 羨ましいですね! では彼氏さんも彼女さんの傍で一緒に選んであげてくださいね!」

「嘘だろ………」

有無も言うことも許されずに結局ラヴァンが服を選ぶまで奇怪な眼差しを受ける羽目になった。

『……………………おい、さっさと選びやがれ。俺達さっきから変な目で見られてんだよ』

『女の子の服選びには時間がかかるものですよ? あと一時間下さい』

『待てるかコラ!』

『大丈夫。犠牲になるのは君だけじゃない』

奇しくもまた思い出す。

ローレルの服選びで煌と共に散々待たされた時のことを。

一回だけ不審者扱いで警察に声をかけられたこともあった苦い思い出だ。

異世界でも同じような目に合うことになるとは。

「俺に恨みでも………………あったな」

散々罵倒して泣かせた。恨まれて仕返しされるのも頷ける。

それからたっぷり一時間、精神をガリガリと削られながらもラヴァンの服選びを手伝わされた。




ほぼ一日、ラヴァンに引っ張れる形で様々な店に足を運んだ二人は喫茶店で腰を下ろして休んでいる。

「疲れた………」

休むはずが逆に疲労が溜まった。

「おい、俺を休ませるのが目的じゃなかったのか………………?」

「申し訳ございません。私もついはしゃいでしまいまして………」

「たくっ………」

苦笑いしながら謝るラヴァンに悪態を吐く翔だが、こんな疲労は酷く久しぶりだ。

ローレルに付き合わされて散々あちらこちらと引っ張られて気が付けば日が暮れていた。

そんな日を過ごしていた。

今日はよくあの二人と一緒にいたときのことを思い出す。

「……………………お前はどうして俺について来ようと思った?」

不意に翔はラヴァンにそう問いかけた。

「確かにお前はローレルを師事していた。心配しているのはわかる。だが、自分の身を危険に晒してまでどうして俺について来ようと思った?」

ラヴァンは選べた。

あのまま自分の師匠の家で生活することも。

新しい道を探すために旅にでることも。

何事にも縛られることなく自分の未来を選択することができたはずだ。

それなのにラヴァンは翔についてきた。その理由が知りたい。

すると―――

「貴方様の事をお慕いしております。そう申し上げましたら信じて頂けますか?」

「はぁ?」

予想外な言葉に呆気を取られた。

「お前正気か? 俺はお前に散々言って泣かした男だぞ? 態度も言動も褒められるものじゃねえ男に惚れるなんてどうかしてるぞ?」

「そうですよね。私も不思議に思います」

どうやら彼女にもその自覚はあったのか苦笑いを作る。

「それでもあの時、貴方様は私を救い、命懸けで逃がしてくれました。だからかもしれません。そういう気持を持ってしまったのは」

「ハッ、乙女心は複雑怪奇ってやつか? やっぱお前馬鹿女だ。そんな下らねえ感情一つで俺に付いてくるなんてな」

「そうですね。私もそう思います。ですが、この気持ちに嘘はつきたくありません」

鼻で笑い、嘲笑を浮かばせるもラヴァンは微笑みを崩さない。

ローレルや煌と同じように暖かい笑みだ。

「ついて来てもお前の気持ちに応えるとは限らねえだろうに」

「そうですよね。ショウ様にはローレル様のことが大大大好きのようですし」

「誰があんな妄想得意のオタク天然女が好きか!? ただの幼馴染だ! 幼馴染!! 勘違いすんじゃねえ!!」

「それなら私もまだチャンスはありますね?」

「うぐ………」

笑顔で告げる彼女の言葉に翔は言葉を詰まらせる。

眼前の女性はこんなにも図太い性格をしていたのか? それとも心境の変化か?

男である翔にはわかるわけがない。

「たくっ………勝手にしろ。このもの好きめ」

「はい。勝手にお慕いします」

悪態を吐くもそれを笑顔のままで受け応えするラヴァンはローレルに続いて二人目だ。

本当にもの好きな奴、と内心で呆れる。

喫茶店の中から店の外を眺める。そこには親子で歩く家族や友達、恋人で仲良く買い物や笑いながら何かを話している光景が見える。

今まで余裕がなくて視野が狭まっていたせいか気づかなかった。

これが日常なんだ。

争いもない平穏で平凡な日常の光景。

早く二人を見つけないと、そう思い込んでいたせいかすっかりと忘れていた。

ラヴァンがそれを思い出させてくれた。

「……………………ありがとう」

「え?」

「何でもねえ」

小声で礼を言ってそっぽを向く翔にラヴァンは笑みを浮かべた。

だが――――

ゴォォォォォン、という平穏な日常を打ち壊す大鐘楼(グランドベル)が街中に鳴り響いた。

「「っ!?」」

聞き覚えのあるその鐘の音に二人は驚愕に包まれる。

また、現れる。

この世界を破壊しようと企む者達が。

平和な日常を消し去ろうとする種族が。

この街にやってこようとしている。

―――――魔族がこの街に来る。

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