臨時のパーティーメンバー
鳴り響く大鐘楼。
それを聞いて一般人は慌てて避難しようと動き回る中で二人は冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドでは緊急時、今回では魔族襲来の際に一般人を守るもしくは逃げるまで時間を稼ぐ為に戦わなければならない数少ない規則がある。
冒険者ギルドからの緊急指令。二人は急いで冒険者ギルドに赴くと既に中は他の冒険者で溢れ、全員が全員緊張の色を隠せていない。
無理もない。この世界を滅ぼそうとしている魔族がこの街に向かっているんだ。緊張しない奴はいない。
すると、冒険者達が集まる前方に一人の中年男性が姿を現した。
「私の名はレバット。ギルドマスターをしている者だ」
ギルドマスターであるレバットの登場に冒険者、ギルド職員の視線はレバットに集中する。
「知っているとは思うが、現在魔族の大群がこの街に向かって来ている。その数はおよそ500。全てがアンデットからして敵は不死の王ではないかと我々は判断した」
レバットの言葉に騒めく冒険者達。
翔は静かに敵の親玉である不死の王の事を思い出す。
異世界物のアニメなどでも出てくるキャラクターで文字通り不死身が特徴だ。
この世界の不死の王は翔の魔術師に似たクラス呪術師の成れの果てだ。
呪術師は文字通り対象に呪いをかけるクラス。
人だろうと物であろうと呪いをかけるクラスで不死の王は自分自身に呪いをかけることで誕生する。
魂を肉体に定着させて肉体が傷つこうとも死ぬことは無い。
そして不死の王が得意とするのは死霊呪術という死者を蘇る呪術だが、完全に蘇るわけではなくただの王の命令に従う生きた屍となる。
そこに意思もなく、感情もなく、ただ王の命令に従うだけの亡者。
その亡者の大群が向かって来ている。
「ギルドの規則に従い君達に緊急指令を言い渡す。一般市民の避難が完了するまでアンデットの大群を足止めする事。もし、万が一に不死の王を倒した者には報酬として1000万ユールを渡そう」
ギルドマスターの言葉に金に目がない冒険者達は目の色を変えた。
我こそはと不死の王を打倒しようと考えているのだろう。
だがちょうどいい。
前回の魔族との戦闘では正直我武者羅で碌で戦ったという気持にはなれなかった。
今回は落ち着いて戦闘して経験を積んでその次に活かそう。
「あ、ラヴァンさん」
「クルーン様方………」
隣にいるラヴァンに声をかけてきた冒険者一行。顔見知りで互いに名前を知っていることからラヴァンがパーティーを組んでいる冒険者達だろう。
「よかった。貴女を探していたんです。僕達と共に行動してはくれませんか? 貴女がいてくれれば心強いのです」
「申し訳ございません。私はこちらの方と一緒に行動しますので共に行動することはできません」
丁重に謝りながら翔を見るラヴァン。その視線に合わせてクルーン達冒険者一行の視線も翔に向けられる。
「……………………なんか文句あるか?」
「あ、い、いえ! 文句なんてありません! それにラヴァンさんから貴方の話も伺っております! 正直初めは、いえ、今も信じられませんがラヴァンさんから貴方はラヴァンさんより強い魔術師だと聞いております。状況も状況ですし僕もその話を信じたいです」
「そうかよ」
それだけ答えてクルーン達から視線を外す。
意外にも彼等は噂や世間一般の評価だけで相手を見下すようなことはしなかった。
パーティーメンバーもざっと見た感じでは前衛二人と後衛一人でバランスも取れているように見える。
下手なことをしなければ問題はないだろう。それが翔から見ての彼等の評価だった。
すると不意に肩を叩かれる。
「やぁ」
「お前も来てたのか、守銭奴」
肩に手を置いたのはこの街の協会でシスターをしている聖職者のサクロがいた。
「相手がアンデットなら聖職者である私の出番だからね。運が良ければ不死の王を倒してお金を手に入れるつもりだよ」
「こんな時でも金かよ………」
「勿論命も大切にするよ。いくらお金があっての命がなかったらそれこそ意味ないからねぇ」
「同感だ」
死んだら元の子もない。その通りだ。
「あのショウ様、そちらの方はどちら様でしょうか?」
「この街のシスターをしている守銭奴聖職者だ」
「ちゃんと紹介してよ、ショウ。私の名前はサクロ。一応聖職者をしている身だよ。今回は相手がアンデットということもあって相性のいい私が教会から遣わされたんだ」
「そうでしたか。私はラヴァンと申します。クラスは魔法使いです。宜しくお願い致します」
「こちらこそよろしくね」
互いに愛想笑みを向けたまま手を交わす。
「ところでお話は変わりますが、お二人はどこでお会いに?」
「んー? どこだったかな? お金の音を聞いたら思い出すんだけどなー」
笑顔で問いかけて笑顔で受け流す二人は互いに交わしている手に力が入る。
「はぐらかさなければならない場所だったのですか?」
「どうだろう? それより手が痛いから離してくれないかな? 慰謝料請求するよ?」
「ふふ、貴女様こそ随分と力強い方で」
互いに迫力ある笑みを浮かばせながら牽制し合う二人に周囲の冒険者は気圧されて距離を取る。
その二人を見て翔が嘆息して言った。
「そいつとは何の関係もねえ。いい加減にしろ」
「それでしたらどうしてお二人共名前で呼び合っているのですか?」
「それは二人だけの秘密ってことだよ?」
「お前はさっきからそいつをからかうな」
「痛っ!!」
鬱陶しいからサクロの頭に拳骨を叩き込むとサクロは頭を押さえながら涙目で翔を見る。
「うぅ~乙女の頭に容赦なく拳骨を入れるなんて………………慰謝料請求して欲しく無かったら今回だけ私をパーティーに入れてもらうしかないね」
「それが目的ならさっさとそれを言いやがれ」
「ごめんごめん。つい、ね」
舌を出して軽薄に謝るサクロに呆れながら翔は言った。
「今回だけの条件なら別にいい。だが、足手纏いは俺は御免だ」
「安心してよ、それだけはないからね」
自信満々に言い切る少女の腰には二振りのメイスが携えられている。
「戦力になるよ、私は。なんなら証明してもいいよ」
「ハッ、上等だ。助けを期待すんじゃねえぞ?」
「必要ないから大丈夫」
獰猛な笑みを見せる翔に対してもサクロの余裕の笑みは消えていない。それだけ自分に自信がある証拠だ。
急遽聖職者であるサクロをパーティーに入れて三人は他の冒険者達と共に正門に向かう。
彼等が待ち受けるのは500のアンデットの大群。
そしてそれを率いている不死の王。
それに対して冒険者は総勢100弱。
約5倍の戦力差を前に誰もが緊張しているのがわかる。それでも戦わなければならない。
この街の為に、家族の為に、友達の為に、恋人の為に、そして自分自身の為に冒険者達はそれぞれの守るべきものの為に戦場に向かう。
いざ、決戦の場へ。




