魂縛を解く爆発
この街の冒険者総勢で正門前に出ると、そこに待ち受けていたのは無数のアンデットの大群。
遠目からでもわかるほどに肉は腐り、身体の一部は白骨化しているその姿はまさに亡者。
亡者達の手には錆びれた剣やボロボロの盾など装備らしい装備はしているも彼等の一番の強みは死なないという一点だ。
既にこの世の者ではない彼等はただ命令に従う木偶。
死ぬことも、死に恐怖することもなく、身体が欠損しようとも気にも止めずに敵を葬る。
ギルドの情報ではその数はおよそ500。
その500のアンデットの後方には一体だけ他のアンデットとは違う雰囲気を醸し出している。
「あいつが不死の王か…………」
黒衣を纏うそいつは瞳はない。真っ黒な空洞、がらんどうな眼窩が空いている。
あるべき皮もなく生え揃った歯が、骨格が剥き出しになっている。
目も耳も鼻も髪も存在していないそいつは紛れもなく人ならざる者の証。
白骨の骸骨の姿を持つそいつこそが――――――不死の王。
その存在に冒険者達は尻込み、得物を持つ手に汗が滲み出る。
冒険者もアンデットも互いに動きを止めて牽制するように睨みある。
だが、それもすぐに終わりを告げるように不死の王の一声によって開戦する。
「行け」
その一声によってアンデットの大群は武器を持って動き出す。
「行くぞぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
一人の冒険者の号令によって他の冒険者達も雄叫びと共に駆け出す。
人間と魔族の戦いが始まった。
「うおりゃ!」
「どりゃ!」
剣や槍を持つ戦士の冒険者が手に持つ得物でアンデットを攻撃し、アンデットもまた受けた傷に気にも止めずに攻撃を行う。
正門付近では魔法使いが詠唱を行い、魔法を炸裂させていく。
金属音、炸裂音、悲鳴、怒声がこの一帯に響き渡る。
それを聞いて翔は改めて実感した。これが戦争。それが命のやり取りだということを。
「ショウ様。私達も参りましょう」
「待ちやがれ」
杖を持って参戦しようとするラヴァンに制止の声を飛ばす。
「敵の戦力があれだけとは限らねえし、何か隠している可能性だってある。下手に魔力を消耗させんな」
「そうだね。それにあの不死の王を倒すためにもきついだろうけど多少は戦力を温存しておかないといけないね」
戦力差ではこちらが不利だというのは重々承知している。
だけど、不死の王を倒すためにもある程度の戦力は温存しておかなければいくらアンデットの大群を倒したところで意味がない。
幸いにもアンデットの動きは緩慢。手足を斬るか潰すかして動きを封じている。
いくら死なないアンデットでも手足がなくなれば動けなくもなる。
流れはこちらに傾いている時、不死の王が動いた。
腕を前に突き出して禍々しい魔法陣を展開させる。
すると、アンデットに異変が起きた。
何かに引き寄せられるようにアンデットは急速に一箇所に集まり、グチャグチャミチミチと気色悪い音を立てている。まるで強引にアンデットを合体させているかのようだ。
その予感は当たった。
500はいたアンデットは一体の肉の巨人となる。
高さ50メートルはあるおぞましい肉塊はもはや個々の死体の境目がわからないほどに混ざりあって目を背けたくなるほど醜悪だ。
それを見て思わず吐瀉物を地面にぶちまけてしまう者もいる。そうでなくとも誰もがその肉の巨人を見て顔を青ざめて口を押えて辛うじて耐えている。
翔もしばらくは肉は食べられない。
「う…………」
ラヴァンも吐きはしないが手で口を押えて必死に堪えている。
「おぞましいね………」
サクロはその金の瞳で肉の巨人を見据えながらぽつりとぼやく。
「……………………あれをなんとかできるか?」
「全魔力使っても足りないよ。肉体は一つになっても魂は別。複数の魂の集合体だから仮に浄化魔法を施しても効果なんてほぼない」
サクロは手で十字を切る。
いくらアンデットといえど元々は人間。その人間の肉体と魂を不死の王が我が物顔で操っているに過ぎない。
天国にも行けず地上をさ迷う自由もなく、道具のように扱われているだけの魂に安らぎを祈った。
不死の王は肉の巨人を操って巨大な肉の拳で冒険者を潰していくだけでは飽き足らずにその潰した冒険者を取り込んでいる。
「グラック!? この化物が!!」
「止せ!」
取り込まれた仲間に我を忘れて仲間の制止を無視して肉の巨人を斬りつけるもすぐさま傷口が元に戻る。
「クソ! ちくしょう!!」
何度も斬りかかるも結果は同じ。元に戻ってしまう。
そしてその冒険者も肉の巨人に捕らわれてブチブチと握り潰され、肉塊の一部となった。
「……………………おい、あれを燃やせるか?」
鋭い眼差しを肉の巨人に見据えたまま翔はラヴァンに問いかけた。
「……………………一部なら。ですが全部は」
「上出来だ。俺が補助するからお前はあの肉塊に炎をぶち込め」
「……………………はい」
ラヴァンは呼吸を整えて詠唱に入った。
「【帯びよ、炎。荒ぶる轟炎は一切合切の全てを焼き尽くし、焦土と化す】」
詠唱を終わらせてラヴァンは肉の巨人に向けて魔法を放つ。
「【ヴォルケーノ】!」
放たれた炎の魔法は真っ直ぐに肉の巨人に炸裂する。
「《術式展開・結界》」
それと同時に翔は肉の巨人を閉じ込めるように結界を展開させる。
「駄目です! 炎が!」
肉の巨人を燃やしている炎が小さくなっていくのを見てラヴァンが悲痛の声を上げると、翔は結界を調整して一部に穴を空ける。すると―――
結界の中で激しい爆発が巻き起こる。
爆発し、烈しく燃え上がる炎は肉の巨人の全身に包み込み燃やし尽くしていく。
「異世界でもバックドラフト現象は起こせるもんだな………」
密閉された空間で火災が生じ不完全燃焼によって炎の勢いは衰え、可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態の時に酸素を急速に取り込むことで熱された一酸化炭素に酸素が取り込まれて結びつき、二酸化炭素への化学反応が急激に進み爆発する現象。
翔はそれを炎の魔法と結界で応用して引き起こした。
結界内で燃え尽きていく肉の巨人。それを見てサクロは両手を握りしめて祈りを捧げている。
「彼等に安らかな眠りを」
聖職者として祈りを捧げた彼女は両手にメイスを持って不死の王を睨み付ける。
「後はお前だけだ」
翔もまた不死の王を睨み付けるも不死の王はただ悠然とその場に立ち尽くす。




