人間という生物
「戦う前に一ついいかな………?」
全てのアンデットを倒し、残された敵は不死の王ただ一人。
その不死の王に鋭い眼差しを向けながらサクロは問いかけた。
「不死の王といっても元は人間のはずだよね? それがどうして人をやめて魔族側についたのかその理由を教えてくれないかな?」
聖職者として聞いておかなければならない。
不死の王となる前は人間の呪術師。それが今は人間をやめて不死の王と成り果てている。
それだけではなく人間を遺体を亡者へ変え、おぞましい姿へと変えた。
人ならざる所業を行った元人間の不死の王にサクロは問いかけると、髑髏の口から愉快そうな笑い声が発せられる。
それに怪訝するサクロに不死の王は言葉を発する。
「聖職者の娘よ。我は自らの意思で人をやめ、魔族に加担している。その理由は至極簡単なものだ。それは人間という傲慢で愚かな生物と一緒になりたくはなかったからだ」
「どういうことかな………?」
「汝も鑑定石で己のクラスを示され、聖職者となったのだろう。その時汝と汝の周囲にいる者達の反応はどんなものだった? 我が思うに歓喜が多いと推測する」
「……………………それが?」
「だが、全ての人間が汝のように素晴らしいクラスにはなれぬ。我のような呪いを力にする呪術師なら以ての外だ。我はこのクラスに相応しいと鑑定石で判断された時の周囲の反応は落胆、悲嘆であった。好きでそのクラスの素質を持っているわけではないのにだ。周囲の人間は我に呪術師のクラスだという理由だけで我を陥れた」
「……………………それならそのクラスに頼らず生きることもできたはずだよ?」
サクロの言い分は最もだ。
クラスはあくまで自分の気質・能力に相応しい才能である。そのクラスを持っている人には劣るも決してなれないわけではない。
翔だって魔術師のクラスだが、魔法が使えないというわけではない。
サクロの言う通り、呪術師が嫌なら別の方法それこそクラスを頼らずに一般人として生活する手もある。
言い方を変えればクラスはその分野の専門家のようなものだ。
専門家でなくても生きていくことだってできる。
「無駄なのだよ。一度張られた張り札は決して剥がすことはできぬ。周囲の人間が執拗以上に追い詰め、悪と蔑まれ、罵られ、嘲笑う。何故か? 呪術師という人間にとって薄気味悪く、おぞましいクラスを示されたからだ。そのクラスに頼らず生きたとしても、どれだけ誠実性を示したとしても人間はそれさえも嘲笑って陥れる」
不死の王は己の壮絶な経験を語る。
「人間という生物は傲慢にも常に己の正当性に準じる。世間一般では暴力と捉えられる行為だとしてもその相手が悪と定められている者であったらそれは正しいことだと言い張る種族だ。烏滸がましいにもほどがある。だからこそ我はそんな人間と同列になりたくはない為に人をやめて不死の王となった」
「……………………それは酷い話だね。人をやめたのにも頷けるよ。だけどね、それを理由に人を好きにしていい理由にはならないよ。例えそれが遺体だったとしても貴方がした行為は人の道を大きく踏み外している」
「然り。その自覚はある」
「それなら―――」
「しかし我は止めぬ。我は魔王様の名の下に傲慢で愚かな人間を一人残さず滅ぼすのだ。これは我を陥れた人間達への報復でもあるのだ」
聖職者の言葉でも不死の王は止まらない。
人間の頃に受けた恥辱、屈辱、侮辱をそのクラスの力を持って報復する。
その権利は自分にはあるのだから。
「ハッ、確かにな」
その不死の王の言葉に翔は口角を上げながら肯定した。
「お前の言う通り人間って生物は自分勝手で碌な証拠も証言ねえくせに尾鰭のついた下らねぇ噂話の方を信じて言及する。そいつを人間以下に扱い自分のストレスを発散させる道具にする最低な生物だ」
「ショウ………?」
「下らな過ぎて吐き気がするぜ。人間つー生物は要は自分大好き自分主義者だ。陥れた奴がどれだけの苦痛を抱えられたか微塵も考えちゃいねえ」
己の自論を口にする翔に不死の王は嬉しそうに声を弾ませる。
「ほう。我の考えに同意してくれる人間がいたとは。どうだ? 同じ思考を持つ者同士で共にこの街を蹂躙せぬか? そうすれば我が魔王様に傘下に入れて貰えるように口添えしよう」
同じ考えを持つ者同士気が合うと思い魔族側に勧誘する不死の王だが―――
「勘違いしてんじゃねえ、骸骨野郎」
翔はあっさりと一蹴した。
「確かに周囲の人間がお前を陥れた。それには同情してやる。だがな、結局はお前は自分の辛さに目を背けて押し付けているだけのクズだ。何もかも他人のせいにして力を振るっているだけのどうしようもねえクズの仲間になるなど死んでも御免だ」
瞳に瞋恚の炎を宿して怒りの形相を作る。
「受け入れず、目を背けて如何に自分が不幸だといわんばかりの顔で辛さを押し付けるクズが偉そうに御大層な理由を述べてんじゃねえよ。むかつくから殺す。クズが人を殺す理由なんてそれだけで十分だ。だから――――」
翔は魔法陣を展開させて不死の王に告げる。
「俺はお前を殺す。理由は苛つくからだ」
清々しいまでに簡潔に告げる翔の宣告に不死の王も禍々しい魔法陣を展開してみせた。
「汝も傲慢で愚かな人間であったか。残念だ」
「言ってろ」
魔術師と不死の王は魔術と呪術を放つ。




