三人一体の防御
魔術と呪術が衝突する。
魔法陣を展開させて魔術を起動。魔法陣から放出する炎が不死の王に迫るもそれを避けずにその身に受ける。
炎に燃える不死の王は炎をものともせずに禍々しい魔法陣を展開させて複数の漆黒の球、呪術を放つ。
「《術式展開・結界》!」
自身に結界を張って呪術を防ぐと同時に結界を解除。再び魔法陣を展開させて魔術を起動させる。
「愚かな」
だが、それをも受ける不死の王は相手の攻撃を無視して呪術を放ち続ける。
呪術が最も効果を発揮するのは生きた生物だ。
苦痛、病魔、束縛など呪いで対象の心身を苦しめるものばかり。
呪殺という呪いの力で対象を殺すという呪術も存在し、不死の王が放っている漆黒の球にはその呪殺の力が込められている。
一発でも当たれば死は免れない。そんな危機的状況に翔は立たされている。
「チッ!」
舌打ちする翔。疾走しながら回避しつつ反撃の隙を探る。
ずるいと言いたいぐらいにこちらは一発でも当たれば終わりなのに向こうは先ほどから攻撃を避ける素振りすら見せずに受け止めている。
たいして損傷も与えた様子もなく、平然と立ち尽くしている。
そんな二人の攻防を見ていた冒険者達が騒めき始める。
「おい、どうする………?」
「どうするって………どうするんだよ?」
「決まってんだろう? 俺達も加勢に行くんだよ。相手が後一人だけだぜ? 物の数で攻めれば勝てるはずだ」
「確かにそうだが………」
「それにこのままじゃ賞金が全部あいつのもんだ。一斉にかかればいくら不死の王だって………」
冒険者の男性の言葉に他の冒険者達も武器を持つ手に力を入れ始めた瞬間、足元が爆ぜる。
「動くんじゃねぇ!!」
戦っている翔から怒声が投げられる。
それに一瞬萎縮する冒険者達だがすぐにそれが苛立ちとなって言葉を飛ばす。
「ふざけんな! 賞金独り占めする気かよ!?」
「相手はたった一体だけだ! 俺達にだって戦わせて賞金分けやがれ!!」
罵声をその背に浴びながらも翔は魔法陣を展開して攻撃を行う。だが、不死の王はどの攻撃も受け止めては無傷でその場に立ち尽くしながら冒険者達の方を見据える。
「やはり人間とは愚かだ。汝等はこの者に守られているとも知らずに俗物のことばかり捉える」
不死の王の言葉に冒険者達は罵声を止め、怪訝する。
「この魔術師の攻撃を見て汝等は何も思わぬのか? 魔術師はあらゆる属性を繰り返して攻撃を行うも我には効かぬ。何故なら我にはあらゆる物理、魔法攻撃を無力化し、そこの聖職者が使う神聖魔法に対する強い抵抗力を持っている。汝等が加勢に来たところで意味はない」
不死の王には生物的死は存在していない。それ故に物理攻撃や魔法攻撃を行っても死ぬこともなければ朽ちることもない。
聖職者のように魂や呪いに直接干渉する攻撃なら通じる可能性もあるが、それに備えをしていない不死の王ではない。
呪力を己にかけることで神聖魔法に対する抵抗力を身に着けておく。
「それだけではない。汝等が参戦することで我の呪力は必ず汝等の誰かに直撃するだろう。そうなれば我はその者をアンデットへと変えて汝等を襲わせる。汝等はつい先ほどまで仲間であった友を打倒できるのか?」
その言葉にようやく冒険者達は気付いた。
ここで飛び出せば必ず誰かが死に、アンデットに変えられる。そうなればそのアンデットになった者を倒さなければならない。
赤の他人ならともかくとして共に冒険をしてきた仲間に武器を向けられない。
しかし倒さなければ自分がアンデットとなって別の誰かを襲う。最悪の場合、この場にいる全員がアンデットにされる可能性だって十分にある。
翔はそれを警戒して一人で戦っている。この街へ来て日が浅く碌に関わり合いを持っていない翔なら躊躇うことなく殺してくれるだろうから。
その真意に気付いた冒険者は口からは罵声は出ず、ただ呆然と自分達の為に一人で戦っている翔を見ている。
「汝等の中で我とまだ対等に対峙できるのは恐らくはこの魔術師のみ。魔術師が一人で我と戦うことが汝等冒険者にとって唯一無二の勝利よ」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
不死の王の周囲に複数の魔法陣を展開させてそこから攻撃魔術を起動させ、炸裂させるもやはり不死の王は健在。
「俺が戦うのは俺自身の為だ! そいつらは関係ねぇ!!」
吠える翔。不死の王から放たれる呪術を回避しつつ善戦するも決定打も見つからず、ただ魔力を消費していく。
「魔術師よ、汝も我と同じだ。呪術師という悲嘆され、陥れられるクラス同様に最弱のクラスで有名な魔術師も似たようなもののはずだ。その魔術をここまで昇華させるにはそれ相応の努力を積み重ねてきたのだろう。汝のその懸命な努力に我は賛美の言葉を送りたい」
「ハッ! いるかよ!」
「だからこそ残念だ。我と似た境遇の者をこの手で葬ることになるとは」
不死の王は腕を横に振るう。すると、無数と思えるほどの禍々しい魔法陣が、一帯を埋め尽くす規模で展開していった。
その一つ一つが一発でも受ければ死は免れない呪殺の力が込められている魔法陣。
それを見て啞然とする者。
死を覚悟する者。
走馬灯を見る者。
今からでも逃げようと背を向ける者。
数々の反応を示す中で不死の王は無感情な一声をかける。
「呪王行軍死球」
一斉放射される呪殺が込められた漆黒の球。無数に放たれる呪殺は回避できる隙間もないぐらい密集され、誰もが己の死を悟った。
「《術式最大展開》!!」
たった一人の男を除いて。
地面に巨大な魔法陣を展開させて翔は魔術を起動させる。
「《障壁》!!」
出現したのは巨大な円型障壁。
間髪入れず、障壁と呪殺が衝突した。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!?」
呪殺とは思えない途方もない威力で放たれる漆黒の球に沈みかける脚に力を入れて歯を強く噛み締めて障壁に力を込め続ける。
荒れ狂う嵐のように襲いかかる呪殺に耐え凌ぐ翔だが、障壁に罅が生じる。
その罅は広がって行き、障壁を打ち破らんとする。
「クソが………ッ!?」
魔力が足りない。このままでは破られる。
広がって行く罅に焦りが生まれる翔の背中にラヴァンは手を当てた。
「私の魔力を使ってください!!」
ラヴァンは己の魔力を翔に譲渡した。
失っていく魔力がラヴァンのおかげで回復していき広がっていく罅の侵攻が止まる。
「【我が神よ、大いなる神よ。卑小なる我が声に応じてくださるのなら我に聖なる力を貸し与えたまえ。神聖をここに。魔を祓う力を我が手中に顕現させよ】」
更にサクロが神聖魔法を行使して障壁に手を当てる。
「【セイクリッドデエス】!」
障壁に神聖魔法を付与させて障壁に衝突する呪殺の力を祓い、無力化していく。
「あと少し、あと少し頑張ってください!!」
「もう少し耐えてよ!」
「ハッ! 誰に言っていやがる!!」
翔が障壁を張り、ラヴァンが魔力を翔に譲渡し、サクロが神聖魔法を障壁に付与させる。
三人一体となって不死の王の攻撃を耐え凌いだ。
「はぁ…………はぁ…………」
耐え凌いで障壁を解除すると三人は肩で息をしている。
それは無理もない。先程の攻防で魔力を殆ど消耗してしまった。三人共魔力枯渇も近い。
「見事。我が技を見事に受け切った」
自分の必殺技を防いだ三人に称賛の言葉を送る不死の王。それを睨むように見据える翔の瞳からは戦意は衰えていない。
しかし現実は無情。既に翔は碌に魔術を使う魔力も残されていない。
「クソが…………」
そんな理不尽な現実に悪態を吐く翔にラヴァンとサクロは彼の手を取った。
すると、底が見えかけていた魔力が多少だが回復した。
「ショウ様…………私達の魔力をお使いください…………」
「後で賞金山分けだよ…………?」
二人は己の魔力を翔に譲渡してその場に崩れ落ちる。
「任せろ」
その二人を一瞥して翔は一言だけ告げて再び前に出る。
「我に汝の攻撃は通じぬ。魔力を多少回復したところで無意味」
ここまで翔は不死の王に有効的な攻撃どころか傷一つ負わせていない。
不死の王の言う通り、多少魔力が回復したところで状況は変わらない。
その筈なのだが――――
「……………………まだ終わりじゃねえ」
翔は諦めていなかった。その瞳の奥にはこの状況を覆すことが出来る何かがあるように見えた。
まだ試していない魔術がある。
通じるかどうかはわからない。だが、不死の王を倒すにはもうこれ以外に手段は残されていなかった翔は最後の勝負に出る。




