自分の辛さは
不死の王の技をラヴァンとサクロと共に見事に防いだ。
底が見えていた魔力も二人から魔力を譲渡してくれたおかげで多少は回復するも現実は変わらない。
これまでの攻防で翔は不死の王に有効的な一撃も与えられず、残された魔力も少ない。
術式の最大展開ももう出来ない。次に同じ呪殺の攻撃が来たらもう防ぐ術はない。
「《術式展開・複数式》」
両手に魔法陣を展開させてそれを重ね合わせる。
これから起動する魔術はまだ実証実験も終わらせていない成功するかどうかもわからない未確認の魔術。
計算段階でも成功率は二割強。しかしもはやこれに賭けるしか道はない。
魔力残量、状況、相手、勝率。全てを踏まえてもうこの魔術に縋るしかない。
「無駄なのだよ。汝の魔術では我には届かぬ。潔く死を受け入れて我が僕となるといい」
「ハッ、死んでも御免だ」
悪態を吐きながらも残された魔力を全て魔法陣に注ぎ込む。
「我は不死。死を恐れぬ者。汝の如何なる攻撃をもってしても我は死なぬ」
両腕を広げて高らかに告げる不死の王。
翔のどの魔術による攻撃もその身で受け止めてきた不死の王の言葉には不死という言葉に信憑性がある。
「……………………とある天然女から読まされた漫画で不死の力を持つ相手とどう戦うかつーシーンがあってな」
「何を言っている…………?」
突拍子もない言葉に首を傾げる不死の王に翔は言葉を続ける。
「不死って一言で言っても色々あってな。例えば超速再生もある意味不死だよな? どんな攻撃してもすぐに治っちまうし、時間逆行もそうだし、一定の条件下でないと死なない不死性もあったな」
地球にいた頃、オタクであるローレルに付き合わされてバトルや異世界物の漫画や小説、ゲームなど読まされて身についてしまった知識。
その物語で出てくる主人公たちはちょっとしたきっかけをヒントに逆転勝利するパターンが多い。
だが、生憎と翔は眼前の不死の王の不死性を解明するどころかそのヒントも掴めていない。
翔は自分が物語のような主人公ではない。
煌のように選ばれた勇者でもない。
そのことを重々承知していて、元一般人の現魔術師である翔には不死の王の不死性を破る術はない。
「汝に我は殺せぬ」
「ああ、むかつくことに俺はお前を殺すことはできねぇ」
自分の無力さを受け入れて肯定を取る。
言葉通り、翔に不死の王は殺せない。
己の無力さに苛立つも今はそんな我儘を言う余裕もない。
だが、それではいそうですかと死を受け入れるほど素直な性格はしていないのは翔自身が一番よく知っている。
重ね合わせた魔法陣が完全に一つの術式となって組み合わさり、翔の右手に宿る。
時間は稼げた。
後は運と己の実力によって全てが決定する。
「テンプレ的な台詞だが…………この一撃に全てを賭けてやる」
こんなベタな台詞を使うことになる今の状況とその知識を埋め込んだ幼馴染の天然女に悪態をつきながら翔は疾走する。
この魔術を起動させるには対象の至近距離でなければならない。
その為には接近あるのみ。
「汝に死を与えよう!」
禍々しい魔法陣から放たれる呪殺、漆黒の球に翔は一か八かの決死覚悟で突っ込む。
すると、翔の横から影が過る。
「なっ――――」
その影の正体に目を見開いた。
「戦っているのはてめえだけじゃねえ!!」
「俺達だって意地があんだよ!!」
この街の冒険者が翔の盾となって呪殺を防いだ。
「お前みたいなガキに守られるほど落ちぶれちゃいねぇ!!」
「あんたの盾ぐらいなら俺達にだってできる!!」
己の得物や盾で翔に振りかかる呪殺を防いでいく冒険者達。
不死の王が放つ呪殺は一撃でも受ければ死は免れない。それでも冒険者達は今までその状況化でたった一人でこの街を守りながら戦っていた翔に負けじと覚悟を決めて死地に跳び込んだ。
自分もこの街を守る為に。
翔のその一撃を不死の王に届けるように。
冒険者達は道を作った。
可能性という未来の道を。
「命知らず共が」
悪態を吐きながらもその表情に僅かに笑みを作っている翔は冒険者達が命懸けで作ってくれている道を全力で駆ける。
道を開く冒険者達。
進撃する翔。
その先に待ち受けるのは不死の王。
「無駄な足掻きなのだよ、魔術師。汝がどのような考えがあって我に接近したのかは存じぬが、汝の魔術は我には通じるのは既に理解しているはずだ」
眼前に迫ろうも不死の王から余裕の態度は消えない。むしろ、決死の覚悟を固めた翔の最後の一撃さえも受けようとしている。
「後悔しやがれ」
右手に宿る魔法陣を直接不死の王に叩き込んだ。
「……………………」
静寂が場を支配する。
一秒、また一秒と時間が経っても何も変化は起きない。
「やはり、汝は我に―――」
「成功だ」
勝てない、と口走ろうとしたその時、不死の王の間近に呪殺と似た形の漆黒の球体が宙を漂っている。
「これは…………」
それに怪訝するその時、不死の王はその球体に引き寄せられている事に気付いた。
「な、何が…………!? 何が起きて…………!?」
球体に引き寄せられて初めて動揺らしい動揺を見せる不死の王に翔は口角を上げる。
「ブラックホール…………つってもわかんねえよな。こっちの世界だと異次元空間や亜空間みたいなもんだ。これはお前が不死だろうと関係ない。全てを吸い込む」
翔が展開していた魔法陣は重力の術式が加えられていた。
重力に重力を加えて強力な重力場によって空間が歪んで時空間、ブラックホールが誕生する。
しかし成功したのは本当に幸運だった。
まだまだ粗削りもいいところ。本当に命を賭けた賭博だ。
本来なら失敗する可能性が非常に高く、本音を言えば失敗して死ぬことも覚悟していた。
それでも成功した。これで翔の勝利は揺らがない。
「ぬぐっ…………! 我が、我がこのようなことで…………!」
抗おうとするもブラックホールは容赦情けなく不死の王を吸い込もうとする。
「終われ」
不死の王はその身も魂も漆黒の球体に吸い込まれて球体も道を閉ざす様に姿を消した。
姿を消した不死の王に残ったのは決着の静けさだった。
時間が経つにつれて誰もが戦いが終わったことに理解し始め。
『――――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
次の瞬間、歓声が巻き起こった。
周囲の冒険者達が諸手を突き上げ、あるいは仲間同士で肩を組み、生き残った余韻に浸かる者もいるなかで翔は不死の王が消えた場所を見据えていた。
「……………………誰か一人でもお前の事を信じてくれる奴がいたらきっと違っていたんだろうな」
無感情な表情に僅かばかりに見える悲しい眼差し。
「だけど、お前は超えては行けねえ線を超えた。自分の辛さは自分で背負え」
それだけを告げて翔は踵を返した。




